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アルファポリスって最高……
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「あ、消えてる。アカ消えてるじゃん! ざまぁ!」
わたしはスマホを手にソファに寝そべり、快哉を叫びました。
同棲中の婚約者が、テーブルにコーヒーを運んでくれながら苦笑します。
「また下品な笑い方してる。いいことあった?」
「べつに~。いいことではないわ。ただ、小説が全然読まれなくなって焦って宣伝しまくってた人が、ツイッターのアカウント消して逃亡しただけ」
「ああ、素人が小説載せるサイトの話か」
彼はあまり小説を読まないこともあり、ネットの小説投稿サイトの事情をまるで知りません。
「素人だけじゃなくてプロもいるわ。投稿作がアクセスを集めたら編集者の目に留まってプロになることだってあるし。アクセス数で報酬も貰えるから、あなたが考えてるよりもっとずっとお金の動くところなの」
「へえ、ただの暇つぶしかと思ってたよ」
「まあわたしにとっては暇つぶしだけどね」
わたしは読み専、読むだけのユーザーです。
小説を投稿したりはしていません。
だって、わたしにとってここは、人の堕ちるところをウォッチする場所だから。
「あ、この人、ついに飽きられたみたいね」
目をつけていた人がランキングから姿を消していることに気づきました。
検索から作品を探し、近況のところを見ると、「仕事が忙しい」的なことを書いています。
「こんなの言い訳よ。感想欄でろくでもない返信ばっかりするから、固定読者まで離れたんでしょうに」
展開のご都合主義に苦言を呈する読者に対し、「嫌なら他へどうぞ」という内容の返信を何度もしているユーザーでした。
そんなこと言われずとも、ユーザーは他の作品も並行して読んでいます。
なのに苦言を呈されたというのは、何かしら光るものがあって読んだにもかかわらず期待はずれだった、ということに他なりません。
本人は冷静に返しているつもりなのかもしれませんが、耳を傾ければ、何か他に返す言葉があるはずです。
それに、感想欄は他の読者にも見えているのです。
わたしはこういう人ですよ、というのが端的に示される場所で、横柄な態度をとるのは子どもすぎるでしょう。
それがわからない人だと思ったので、わたしはウォッチしていました。
予想どおりの転落。
ざまぁ、です。
「へえ、この人、もう闇落ちしたのか。あっけなかったわね」
今度は、作品とはべつに創作日記も公開しているユーザーを見てわたしはつぶやきました。
この人は「ウェブ小説で生計を立てたい!」と熱く語るタイプのユーザーでした。
いろいろな長編をハイペースで執筆し、ようやくヒット作に恵まれたのは三ヶ月まえだったでしょうか。
わたしの見立てではタイトルとプロローグがとてもキャッチーで、そのとき求められていた作品でした。
この手の投稿サイトの特徴として、人気作にアクセスが集中するというものがあります。
暇つぶしで小説を読むにしても、「探す」という行為に時間を割きたくない人はたくさんいるのです。
なので、単純にランキングの上澄みだけすくうようにお気に入り登録して、じっくり読む。
そういった読者は多いらしく、ランキング最上位だけ飛び抜けてアクセスが多くなります。
そのユーザーの作品も彼らの目に留まることができ、完結まで安定して上位にいつづけました。
創作日記でも大喜びで、アクセスに応じた日々の稼ぎを嬉々として語っていたものです。
わたしは成功者に対してべつに何とも思いませんが、このユーザーは「来る」と直感しました。
案の定、来ました。
ヒット作のあとは、ヒットの幻影を追い求める日々でした。
ろくに書けもしないジャンルの単語を並べたタイトルで書いてみたり、かと思えば、自分のヒット作の真似をしてみたり。
もがけばもがくほど、堕ちていくだけです。
そしてついに、創作を放棄しました。
他人の作品にケチをつけ、読者を小馬鹿にし、自分の作品が読まれなくなった原因を責任転嫁。
もはやこのユーザーがランキングの上位に戻ることはないでしょう。
ざまぁ、です。
「この人は……ちゃんと沈黙してるわね。よしよし」
わたしは、ウォッチしているツイッターアカウントを見てうなずきました。
この人は過去に投稿サイトで人気となり、書籍化まで実現したユーザーです。
小説家と呼んだほうがいいのかもしれません。
ただ、もう投稿サイトにアカウントは存在しません。
運営から削除措置をとられたからです。
この人は、規約に反する行為を行なって人気作を捏造していました。
互助グループと呼ばれるものです。
複数のユーザーでグループを作り、お互いの作品をお気に入り登録しあっていました。
この行為だけだと、「仲良しグループで読みあっていただけ」という言い訳も立ちそうなものですが、こういった行為に手を染めるユーザーというのは、最初から坂道を転がり落ちているようなもの。
しだいにエスカレートした結果、三桁を超えるアカウントをそれぞれが作成し、グループメンバーの作品につくお気に入りは、ほとんどが自作自演となりました。
さすがに運営の感知するところとなり、大規模な調査、一斉削除が行われたというわけです。
しかし、書籍化はもう止まれないところまで進行していました。
どういった話し合いが持たれたのかわたしに知る方法はありませんが、長く続くはずだった作品の1巻のみが発売され、その後は何も出る気配がありません。
おそらくもう出ないのだろうと思います。
わたしがウォッチしているのは、そのユーザーのツイッターアカウントです。
一応は作家デビューしてしまったため、不名誉にまみれていても名を捨てることが惜しいのでしょう。
みずから恥を晒しつづけているようなものですが、そのままネット上で活動しているようです。
もちろん新たな書籍化の話は聞こえてきません。
ざまぁ、です。
「ほんと、小説のなかの『ざまぁ』より何倍も何倍も愉快だわ。なんでみんな気づかないのかしら」
「みんな、リアルのほうで忙しいんじゃない?」
「え?」
わたしは、寝そべってソファを占拠したまま、立ってコーヒーを飲んでいる婚約者を見ました。
「リアルって、小説じゃないから投稿サイトで起こっていることだって『リアル』なんだけど」
「ぼくからすると、スマホの中のことはみんなリアルじゃないよ」
「古いってば」
鼻で笑い飛ばし、再びスマホに目を落とそうとしました。
でも彼が続けて言います。
「古いのかもしれないけど、ぼくに見えてるリアルは、性格の悪い女性がこの家にいるってことだけ」
「……わたしのこと? 喧嘩売ってんの?」
「そう聞こえるならそうなんだろうね」
彼はゆっくりとテーブルにコーヒーを置き、
「婚約破棄しよう。ぼくは人の努力を嘲笑うような人間が好きじゃない」
「あっはは」
わたしは笑ってしまいました。
これが、『婚約破棄』『ざまぁ』というやつです。
リアルっていったい何?
小説の中が架空なのは、誰か人が作ったから?
小説を書いているユーザーの創作日記は、人が作ったものだから架空?
ツイッターアカウントでの発言も、人が作ったものだから架空?
ネットにあるものはみんな人が作ったものだから、リアルなんかじゃない?
何が嘘で何が本当かなんて、誰にもわかりません。
……でも、ひとつだけたしかなことがあります。
『ざまぁ』と思う気持ちが生まれるのは、生きている人の心の中だけ。
わたしは婚約破棄されました。
自業自得です。
性格の悪さを隠そうともしなければ、愛想を尽かされて当然でした。
さてーー
いかがでしたか?
わたしはスマホを手にソファに寝そべり、快哉を叫びました。
同棲中の婚約者が、テーブルにコーヒーを運んでくれながら苦笑します。
「また下品な笑い方してる。いいことあった?」
「べつに~。いいことではないわ。ただ、小説が全然読まれなくなって焦って宣伝しまくってた人が、ツイッターのアカウント消して逃亡しただけ」
「ああ、素人が小説載せるサイトの話か」
彼はあまり小説を読まないこともあり、ネットの小説投稿サイトの事情をまるで知りません。
「素人だけじゃなくてプロもいるわ。投稿作がアクセスを集めたら編集者の目に留まってプロになることだってあるし。アクセス数で報酬も貰えるから、あなたが考えてるよりもっとずっとお金の動くところなの」
「へえ、ただの暇つぶしかと思ってたよ」
「まあわたしにとっては暇つぶしだけどね」
わたしは読み専、読むだけのユーザーです。
小説を投稿したりはしていません。
だって、わたしにとってここは、人の堕ちるところをウォッチする場所だから。
「あ、この人、ついに飽きられたみたいね」
目をつけていた人がランキングから姿を消していることに気づきました。
検索から作品を探し、近況のところを見ると、「仕事が忙しい」的なことを書いています。
「こんなの言い訳よ。感想欄でろくでもない返信ばっかりするから、固定読者まで離れたんでしょうに」
展開のご都合主義に苦言を呈する読者に対し、「嫌なら他へどうぞ」という内容の返信を何度もしているユーザーでした。
そんなこと言われずとも、ユーザーは他の作品も並行して読んでいます。
なのに苦言を呈されたというのは、何かしら光るものがあって読んだにもかかわらず期待はずれだった、ということに他なりません。
本人は冷静に返しているつもりなのかもしれませんが、耳を傾ければ、何か他に返す言葉があるはずです。
それに、感想欄は他の読者にも見えているのです。
わたしはこういう人ですよ、というのが端的に示される場所で、横柄な態度をとるのは子どもすぎるでしょう。
それがわからない人だと思ったので、わたしはウォッチしていました。
予想どおりの転落。
ざまぁ、です。
「へえ、この人、もう闇落ちしたのか。あっけなかったわね」
今度は、作品とはべつに創作日記も公開しているユーザーを見てわたしはつぶやきました。
この人は「ウェブ小説で生計を立てたい!」と熱く語るタイプのユーザーでした。
いろいろな長編をハイペースで執筆し、ようやくヒット作に恵まれたのは三ヶ月まえだったでしょうか。
わたしの見立てではタイトルとプロローグがとてもキャッチーで、そのとき求められていた作品でした。
この手の投稿サイトの特徴として、人気作にアクセスが集中するというものがあります。
暇つぶしで小説を読むにしても、「探す」という行為に時間を割きたくない人はたくさんいるのです。
なので、単純にランキングの上澄みだけすくうようにお気に入り登録して、じっくり読む。
そういった読者は多いらしく、ランキング最上位だけ飛び抜けてアクセスが多くなります。
そのユーザーの作品も彼らの目に留まることができ、完結まで安定して上位にいつづけました。
創作日記でも大喜びで、アクセスに応じた日々の稼ぎを嬉々として語っていたものです。
わたしは成功者に対してべつに何とも思いませんが、このユーザーは「来る」と直感しました。
案の定、来ました。
ヒット作のあとは、ヒットの幻影を追い求める日々でした。
ろくに書けもしないジャンルの単語を並べたタイトルで書いてみたり、かと思えば、自分のヒット作の真似をしてみたり。
もがけばもがくほど、堕ちていくだけです。
そしてついに、創作を放棄しました。
他人の作品にケチをつけ、読者を小馬鹿にし、自分の作品が読まれなくなった原因を責任転嫁。
もはやこのユーザーがランキングの上位に戻ることはないでしょう。
ざまぁ、です。
「この人は……ちゃんと沈黙してるわね。よしよし」
わたしは、ウォッチしているツイッターアカウントを見てうなずきました。
この人は過去に投稿サイトで人気となり、書籍化まで実現したユーザーです。
小説家と呼んだほうがいいのかもしれません。
ただ、もう投稿サイトにアカウントは存在しません。
運営から削除措置をとられたからです。
この人は、規約に反する行為を行なって人気作を捏造していました。
互助グループと呼ばれるものです。
複数のユーザーでグループを作り、お互いの作品をお気に入り登録しあっていました。
この行為だけだと、「仲良しグループで読みあっていただけ」という言い訳も立ちそうなものですが、こういった行為に手を染めるユーザーというのは、最初から坂道を転がり落ちているようなもの。
しだいにエスカレートした結果、三桁を超えるアカウントをそれぞれが作成し、グループメンバーの作品につくお気に入りは、ほとんどが自作自演となりました。
さすがに運営の感知するところとなり、大規模な調査、一斉削除が行われたというわけです。
しかし、書籍化はもう止まれないところまで進行していました。
どういった話し合いが持たれたのかわたしに知る方法はありませんが、長く続くはずだった作品の1巻のみが発売され、その後は何も出る気配がありません。
おそらくもう出ないのだろうと思います。
わたしがウォッチしているのは、そのユーザーのツイッターアカウントです。
一応は作家デビューしてしまったため、不名誉にまみれていても名を捨てることが惜しいのでしょう。
みずから恥を晒しつづけているようなものですが、そのままネット上で活動しているようです。
もちろん新たな書籍化の話は聞こえてきません。
ざまぁ、です。
「ほんと、小説のなかの『ざまぁ』より何倍も何倍も愉快だわ。なんでみんな気づかないのかしら」
「みんな、リアルのほうで忙しいんじゃない?」
「え?」
わたしは、寝そべってソファを占拠したまま、立ってコーヒーを飲んでいる婚約者を見ました。
「リアルって、小説じゃないから投稿サイトで起こっていることだって『リアル』なんだけど」
「ぼくからすると、スマホの中のことはみんなリアルじゃないよ」
「古いってば」
鼻で笑い飛ばし、再びスマホに目を落とそうとしました。
でも彼が続けて言います。
「古いのかもしれないけど、ぼくに見えてるリアルは、性格の悪い女性がこの家にいるってことだけ」
「……わたしのこと? 喧嘩売ってんの?」
「そう聞こえるならそうなんだろうね」
彼はゆっくりとテーブルにコーヒーを置き、
「婚約破棄しよう。ぼくは人の努力を嘲笑うような人間が好きじゃない」
「あっはは」
わたしは笑ってしまいました。
これが、『婚約破棄』『ざまぁ』というやつです。
リアルっていったい何?
小説の中が架空なのは、誰か人が作ったから?
小説を書いているユーザーの創作日記は、人が作ったものだから架空?
ツイッターアカウントでの発言も、人が作ったものだから架空?
ネットにあるものはみんな人が作ったものだから、リアルなんかじゃない?
何が嘘で何が本当かなんて、誰にもわかりません。
……でも、ひとつだけたしかなことがあります。
『ざまぁ』と思う気持ちが生まれるのは、生きている人の心の中だけ。
わたしは婚約破棄されました。
自業自得です。
性格の悪さを隠そうともしなければ、愛想を尽かされて当然でした。
さてーー
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