令嬢だったディオンヌは溜め息をついて幼なじみの侯爵を見つめる

monaca

文字の大きさ
19 / 41
第一部 ディオンヌと仮面

17(ジョサイア視点)

しおりを挟む
 ぼくは、広間を闊歩するエレノアを見ながら、横にいる主治医に耳打ちした。

「父上のことを問われたら曖昧な返答をしてくれ」
「はい」

 すぐにエレノアはぼくらの前に来た。

 思いどおりに事が運んでいると考えているのだろう。
 自信たっぷりな表情で主治医に向かい、

「ジョーデン侯爵の死因を教えて? アタシは嫡男の婚約者だから聞く権利があるわ」
「長患いの末の衰弱と見ておりますが――」
「ああ、調べていないのね」

 鼻で笑う彼女を見て、ぼくは、うまく誘導できたと確信した。

 エレノアは、自分がディオンヌに渡した毒薬が本当の死因だと考えている。
 なので、貴族である彼女の家に届いた「全身の血を失う病」という情報は最初から信じていないだろう。

 貴族が諸侯に対して死因を偽ることは、珍しいことではない。
 高貴なる者がただ弱って死んだというのは不名誉という考え方があり、何かしら特別な最期を用意するのが伝統として存在する。
 戦時中であれば名誉の戦死ということになるし、平時であっても、宗教上の何か啓示的な意味をもった死を宣言することが多い。

 全身の血を失うことに宗教上の意味があるかは知らないが、彼女は表向きの情報と考えたわけだ。

 主治医に対して聞く権利があるとわざわざ言ったのは、本当の死因を教えろという意味だ。
 ここで伝令と同じ話をすれば、自分が信用されていない部外者だと察していたかもしれない。

 ところが主治医は、曖昧に答えた。
 これにより彼女は、「本当の死因がはっきりしていない」と思ったことだろう。

 真実を暴いてみせるのは自分だと言わんばかりの喜びを隠しきれない表情で、薬包を主治医に手渡した。

「これと同じものが血液に含まれているはずよ。ね、ジョサイアも、調べたほうがいいと思わない?」
「……説明はしてもらえるんだよな?」
「ええ、もちろん」

 彼女に説明する機会など二度と訪れないと思いながら、ぼくは訊いた。
 父上は生きているのだから死因を調べるのは難しいだろう。

 エレノアには、探偵役ではなく、その元気を活かした大切な役目を与えよう。

「それから、そこの使用人を拘束することもおすすめしておくわ」

 ディオンヌが縛られて連行されるひと幕があったが、これはとくに問題はない。
 もともと、ブランドンをおびき寄せるために隔離する必要があった。

 金髪を銀髪に染めてあるのも、計画の一環だ。
 他の使用人には「金色に染めていたが色が抜けてきた」と説明するようディオンヌに言ってある。
 貴族が美しい金髪を求めて髪を染めるのは一般的なことだからだ。

 エレノアの金髪だって、黒髪を染めたものだろう。
 色がきれいに乗らずに、どちらかといえば茶色のように見える。
 つくづく紛いもの――いや、あまり悪く言うのはよそう。

 彼女はこれから父上に献上されるのだから。

「エレノア。父上の部屋はこちらだ」
「ありがとうジョサイア。アタシの言葉に従ってくれて」

 こらえきれなかったぼくの笑顔が、みんなの目に不謹慎な男として映らなかったことを願う。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

「お前みたいな卑しい闇属性の魔女など側室でもごめんだ」と言われましたが、私も殿下に嫁ぐ気はありません!

野生のイエネコ
恋愛
闇の精霊の加護を受けている私は、闇属性を差別する国で迫害されていた。いつか私を受け入れてくれる人を探そうと夢に見ていたデビュタントの舞踏会で、闇属性を差別する王太子に罵倒されて心が折れてしまう。  私が国を出奔すると、闇精霊の森という場所に住まう、不思議な男性と出会った。なぜかその男性が私の事情を聞くと、国に与えられた闇精霊の加護が消滅して、国は大混乱に。  そんな中、闇精霊の森での生活は穏やかに進んでいく。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

さようなら、たったひとつの

あんど もあ
ファンタジー
メアリは、10年間婚約したディーゴから婚約解消される。 大人しく身を引いたメアリだが、ディーゴは翌日から寝込んでしまい…。

【完】出来損ない令嬢は、双子の娘を持つ公爵様と契約結婚する~いつの間にか公爵様と7歳のかわいい双子たちに、めいっぱい溺愛されていました~

夏芽空
恋愛
子爵令嬢のエレナは、常に優秀な妹と比較され家族からひどい扱いを受けてきた。 しかし彼女は7歳の双子の娘を持つ公爵――ジオルトと契約結婚したことで、最低な家族の元を離れることができた。 しかも、条件は最高。公の場で妻を演じる以外は自由に過ごしていい上に、さらには給料までも出してくてれるという。 夢のような生活を手に入れた――と、思ったのもつかの間。 いきなり事件が発生してしまう。 結婚したその翌日に、双子の姉が令嬢教育の教育係をやめさせてしまった。 しかもジオルトは仕事で出かけていて、帰ってくるのはなんと一週間後だ。 (こうなったら、私がなんとかするしかないわ!) 腹をくくったエレナは、おもいきった行動を起こす。 それがきっかけとなり、ちょっと癖のある美少女双子義娘と、彼女たちよりもさらに癖の強いジオルトとの距離が縮まっていくのだった――。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

十年間虐げられたお針子令嬢、冷徹侯爵に狂おしいほど愛される。

er
恋愛
十年前に両親を亡くしたセレスティーナは、後見人の叔父に財産を奪われ、物置部屋で使用人同然の扱いを受けていた。義妹ミレイユのために毎日ドレスを縫わされる日々——でも彼女には『星霜の記憶』という、物の過去と未来を視る特別な力があった。隠されていた舞踏会の招待状を見つけて決死の潜入を果たすと、冷徹で美しいヴィルフォール侯爵と運命の再会! 義妹のドレスが破れて大恥、叔父も悪事を暴かれて追放されるはめに。失われた伝説の刺繍技術を復活させたセレスティーナは宮廷筆頭職人に抜擢され、「ずっと君を探していた」と侯爵に溺愛される——

私は愛する人と結婚できなくなったのに、あなたが結婚できると思うの?

あんど もあ
ファンタジー
妹の画策で、第一王子との婚約を解消することになったレイア。 理由は姉への嫌がらせだとしても、妹は王子の結婚を妨害したのだ。 レイアは妹への処罰を伝える。 「あなたも婚約解消しなさい」

処理中です...