令嬢だったディオンヌは溜め息をついて幼なじみの侯爵を見つめる

monaca

文字の大きさ
28 / 41
第二部 エリザと記憶

03

しおりを挟む
「はい。エレノア様のお姉様ですね。わかりました、少々お待ちください」

 ジョーデン侯爵の屋敷を訪れると、感じのいいおばさんの使用人が取り次いでくれた。
 体型と人柄の両方で『丸み』を表現しているような丸っこい印象の人だった。

 門前払いの可能性も考慮していたあたしは、この時点でちょっと安堵。
 使用人から「エレノア様」と呼ばれているなら、待遇は悪くなさそうだ。

(いくらなんでも殺されてるってことはないでしょ。あの筋肉ったら)

 でも――


「エレノアは具合が悪くて伏せっている。申し訳ないが面会は遠慮してほしい」


 ……え?
 奥から出てきた金髪碧眼のイケメンが、にべもなく言い放った。

 白を基調とした清澄で立派な身なりをして、胸には十字架のアミュレットをつけている。
 この男がジョサイア・ジョーデンだろう。
 去年、父の急死にともないあとを継いだ、あたらしいジョーデン侯爵だ。

「具合が悪いってそんな。それなら余計に会わないわけいかないんですけど」

 じろりと、全身を見られた。

 あ、そういえばあたし、着の身着のままだ。
 人に会わない事務仕事をしているせいで、いろいろと無頓着になっていて。
 両親も慣れっこだから、まるで意識していなかった。

 着ている上着だって、もうこれ、何年着ているやら。
 って、すごい見てる。
 いかんいかん。

「……あはは。王宮で働いているんです。今これ、ブームになってて」
「ブーム? なるほど、宮廷勤めですか。失礼いたしました。ここでは何ですから、応接室のほうへお入りください」
「あ、はい。ありがとうございます」

 侯爵が敬語になった。
 宮廷勤めというステータスが、こんなにも効果的だとは意外や意外。
 有力貴族から見れば王の近くにいるってだけで丁重に扱うべき対象になるのかもしれない。

 給料のよさと、書物がいっぱい読めることだけで選んだ職業だったのに……。

(あたしってもしかして成功者の部類?)

 すこし浮かれながら応接室に通された。
 若干待たされ、そこで出された高そうな紅茶を楽しんでいると、


「エレノアのお姉さんですって? 遠いところを、ようこそお越しくださいました」


 まるでお人形。
 そんな形容は今このときのためにあると思った。
 燃えるような紅い目をした美しい金髪の女性が、優雅にあたしの向かいの席に座った。

(これがブランドン家の忘れ形見――)

 ディオンヌ・ジョーデン。
 あたらしいジョーデン侯爵の結婚相手だ。

 華美になりすぎないけど華やかさの感じられる、とても上品な、桜色のドレスを着ている。
 おしゃれのことはまるでわからないあたしだけど、美しさに、一瞬で心を持っていかれた。

「はは……。正装していなくて、すみません」
「いいえ、すてきよ?」

 恥ずかしい……!

 生まれて初めて、おしゃれじゃない自分を恥ずかしく思った。
 美しさはときに暴力だ。

 作家が100人いれば、100人全員が彼女をヒロインに選ぶだろう。

「なんかもう、すみません……」

 繰り返し謝るあたしを見て、ディオンヌはくすっと少女のように笑った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

「お前みたいな卑しい闇属性の魔女など側室でもごめんだ」と言われましたが、私も殿下に嫁ぐ気はありません!

野生のイエネコ
恋愛
闇の精霊の加護を受けている私は、闇属性を差別する国で迫害されていた。いつか私を受け入れてくれる人を探そうと夢に見ていたデビュタントの舞踏会で、闇属性を差別する王太子に罵倒されて心が折れてしまう。  私が国を出奔すると、闇精霊の森という場所に住まう、不思議な男性と出会った。なぜかその男性が私の事情を聞くと、国に与えられた闇精霊の加護が消滅して、国は大混乱に。  そんな中、闇精霊の森での生活は穏やかに進んでいく。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

さようなら、たったひとつの

あんど もあ
ファンタジー
メアリは、10年間婚約したディーゴから婚約解消される。 大人しく身を引いたメアリだが、ディーゴは翌日から寝込んでしまい…。

【完】出来損ない令嬢は、双子の娘を持つ公爵様と契約結婚する~いつの間にか公爵様と7歳のかわいい双子たちに、めいっぱい溺愛されていました~

夏芽空
恋愛
子爵令嬢のエレナは、常に優秀な妹と比較され家族からひどい扱いを受けてきた。 しかし彼女は7歳の双子の娘を持つ公爵――ジオルトと契約結婚したことで、最低な家族の元を離れることができた。 しかも、条件は最高。公の場で妻を演じる以外は自由に過ごしていい上に、さらには給料までも出してくてれるという。 夢のような生活を手に入れた――と、思ったのもつかの間。 いきなり事件が発生してしまう。 結婚したその翌日に、双子の姉が令嬢教育の教育係をやめさせてしまった。 しかもジオルトは仕事で出かけていて、帰ってくるのはなんと一週間後だ。 (こうなったら、私がなんとかするしかないわ!) 腹をくくったエレナは、おもいきった行動を起こす。 それがきっかけとなり、ちょっと癖のある美少女双子義娘と、彼女たちよりもさらに癖の強いジオルトとの距離が縮まっていくのだった――。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

十年間虐げられたお針子令嬢、冷徹侯爵に狂おしいほど愛される。

er
恋愛
十年前に両親を亡くしたセレスティーナは、後見人の叔父に財産を奪われ、物置部屋で使用人同然の扱いを受けていた。義妹ミレイユのために毎日ドレスを縫わされる日々——でも彼女には『星霜の記憶』という、物の過去と未来を視る特別な力があった。隠されていた舞踏会の招待状を見つけて決死の潜入を果たすと、冷徹で美しいヴィルフォール侯爵と運命の再会! 義妹のドレスが破れて大恥、叔父も悪事を暴かれて追放されるはめに。失われた伝説の刺繍技術を復活させたセレスティーナは宮廷筆頭職人に抜擢され、「ずっと君を探していた」と侯爵に溺愛される——

私は愛する人と結婚できなくなったのに、あなたが結婚できると思うの?

あんど もあ
ファンタジー
妹の画策で、第一王子との婚約を解消することになったレイア。 理由は姉への嫌がらせだとしても、妹は王子の結婚を妨害したのだ。 レイアは妹への処罰を伝える。 「あなたも婚約解消しなさい」

処理中です...