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第二部 エリザと記憶
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ペンダーグラスの屋敷から10分ほど歩いた森の中。
まるで木こりが住んでいるような、ちょっとしたログハウスがある。
「2年ぶりだけど何も変わらないわね。台風とか来たと思うんだけど、ほんとこれ、しっかりできてる」
狩り好きの父が自分で建てた小屋だ。
父は、貴族の家に生まれた男のくせに、まるで山の男のように筋骨隆々。
狩りをして木を切って大工をして。
完全にパワータイプの戦士って感じの自慢の父だ。
戦士といっても、もちろん本当にいくさがあるわけじゃない。
ここは国境から離れているし、小競り合いのようなことすら聞いたことがない。
身体を鍛えるのも弓や剣の腕を磨くのも、全部、完全に趣味でやっているんだから、これもひとつの道楽者の姿なのだろう。
そんな父は、エレノアの不在に対して、母とはまるで異なる見解を持っていた。
小屋を訪れたあたしに匂いのキツいホット山羊ミルクを出すやいなや、
「あれはたぶん死んでいる」
「ちょ、ちょっとお父さん!」
あたしは焦った。
たしかに脳裏をよぎらないこともない考えだけど、そんな、まさか……ねえ?
でも父は、冗談なんて言う人ではない。
いたってまじめな顔で語ってくれた。
「もう先代になるのか。ジョーデン侯爵と俺は領地が近いこともあり、それなりに顔見知りだった。あっちに敵意がなかったからあえて警戒しなかったのだが、会うたび俺は、『どうしてこんな化け物が貴族のふりをしているのだろう』とふしぎに思ったものだ」
「待って待って、それノー根拠じゃない。たんなる決めつけだから」
「根拠? そんなの――」
ぐっと力こぶを作る。
岩のように硬そうな上腕二頭筋がパンパンに膨らむ。
「筋肉の勘ってやつに決まってるだろう」
「説明になってない……。お父さん、しばらく会わないうちに脳筋っぷりが悪化してない?」
「脳筋か。そういやエリザに昔教わったな。『高度に発達した筋肉は脳と見分けがつかない』だったか。そのとおりだ」
教えてないし……。
ていうか、なんか他の格言混じってる。
うーん。
でも、とにかく父は、直感的にジョーデン侯爵を化け物と見ていたわけだ。
化け物――
「漠然と言うけど、たとえばどんな化け物? 人に化けるスライムとか?」
「スライムは水でできた虫みたいなものだろう。もっと人間の脅威になるやつだ。たとえば人食いワーウルフとか」
「そんなところにエレノアを嫁がせたわけ?」
父はログハウスの窓から遠くを見て、
「敵意がなかったから大丈夫だと思ったんだけどな。帰ってこないところを見ると、きっとエレノアのやつが悪さをして怒らせたんだろう」
「それ、お母さんには言った?」
「いや。母さんは筋肉を信じてないから」
あたしも信じているわけではないのだけれど。
長年鍛えまくって、それこそ化け物じみた体格になっている父がそう言うなら、ノー根拠と斬り捨てるのは忍びないと思った。
これからジョーデン屋敷に行くけど、すこし警戒しておこう。
「お父さん、忠告ありがと。これから行って、エレノアの顔見てくる」
「……これを持っていけ」
巨大なナタを渡そうとしてくる父に、「お気持ちだけ」と伝えてあたしは出発した。
まるで木こりが住んでいるような、ちょっとしたログハウスがある。
「2年ぶりだけど何も変わらないわね。台風とか来たと思うんだけど、ほんとこれ、しっかりできてる」
狩り好きの父が自分で建てた小屋だ。
父は、貴族の家に生まれた男のくせに、まるで山の男のように筋骨隆々。
狩りをして木を切って大工をして。
完全にパワータイプの戦士って感じの自慢の父だ。
戦士といっても、もちろん本当にいくさがあるわけじゃない。
ここは国境から離れているし、小競り合いのようなことすら聞いたことがない。
身体を鍛えるのも弓や剣の腕を磨くのも、全部、完全に趣味でやっているんだから、これもひとつの道楽者の姿なのだろう。
そんな父は、エレノアの不在に対して、母とはまるで異なる見解を持っていた。
小屋を訪れたあたしに匂いのキツいホット山羊ミルクを出すやいなや、
「あれはたぶん死んでいる」
「ちょ、ちょっとお父さん!」
あたしは焦った。
たしかに脳裏をよぎらないこともない考えだけど、そんな、まさか……ねえ?
でも父は、冗談なんて言う人ではない。
いたってまじめな顔で語ってくれた。
「もう先代になるのか。ジョーデン侯爵と俺は領地が近いこともあり、それなりに顔見知りだった。あっちに敵意がなかったからあえて警戒しなかったのだが、会うたび俺は、『どうしてこんな化け物が貴族のふりをしているのだろう』とふしぎに思ったものだ」
「待って待って、それノー根拠じゃない。たんなる決めつけだから」
「根拠? そんなの――」
ぐっと力こぶを作る。
岩のように硬そうな上腕二頭筋がパンパンに膨らむ。
「筋肉の勘ってやつに決まってるだろう」
「説明になってない……。お父さん、しばらく会わないうちに脳筋っぷりが悪化してない?」
「脳筋か。そういやエリザに昔教わったな。『高度に発達した筋肉は脳と見分けがつかない』だったか。そのとおりだ」
教えてないし……。
ていうか、なんか他の格言混じってる。
うーん。
でも、とにかく父は、直感的にジョーデン侯爵を化け物と見ていたわけだ。
化け物――
「漠然と言うけど、たとえばどんな化け物? 人に化けるスライムとか?」
「スライムは水でできた虫みたいなものだろう。もっと人間の脅威になるやつだ。たとえば人食いワーウルフとか」
「そんなところにエレノアを嫁がせたわけ?」
父はログハウスの窓から遠くを見て、
「敵意がなかったから大丈夫だと思ったんだけどな。帰ってこないところを見ると、きっとエレノアのやつが悪さをして怒らせたんだろう」
「それ、お母さんには言った?」
「いや。母さんは筋肉を信じてないから」
あたしも信じているわけではないのだけれど。
長年鍛えまくって、それこそ化け物じみた体格になっている父がそう言うなら、ノー根拠と斬り捨てるのは忍びないと思った。
これからジョーデン屋敷に行くけど、すこし警戒しておこう。
「お父さん、忠告ありがと。これから行って、エレノアの顔見てくる」
「……これを持っていけ」
巨大なナタを渡そうとしてくる父に、「お気持ちだけ」と伝えてあたしは出発した。
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