令嬢だったディオンヌは溜め息をついて幼なじみの侯爵を見つめる

monaca

文字の大きさ
27 / 41
第二部 エリザと記憶

02

しおりを挟む
 ペンダーグラスの屋敷から10分ほど歩いた森の中。
 まるで木こりが住んでいるような、ちょっとしたログハウスがある。

「2年ぶりだけど何も変わらないわね。台風とか来たと思うんだけど、ほんとこれ、しっかりできてる」

 狩り好きの父が自分で建てた小屋だ。

 父は、貴族の家に生まれた男のくせに、まるで山の男のように筋骨隆々。
 狩りをして木を切って大工をして。
 完全にパワータイプの戦士って感じの自慢の父だ。

 戦士といっても、もちろん本当にいくさがあるわけじゃない。
 ここは国境から離れているし、小競り合いのようなことすら聞いたことがない。
 身体を鍛えるのも弓や剣の腕を磨くのも、全部、完全に趣味でやっているんだから、これもひとつの道楽者の姿なのだろう。

 そんな父は、エレノアの不在に対して、母とはまるで異なる見解を持っていた。
 小屋を訪れたあたしに匂いのキツいホット山羊ミルクを出すやいなや、

「あれはたぶん死んでいる」
「ちょ、ちょっとお父さん!」

 あたしは焦った。
 たしかに脳裏をよぎらないこともない考えだけど、そんな、まさか……ねえ?

 でも父は、冗談なんて言う人ではない。
 いたってまじめな顔で語ってくれた。

「もう先代になるのか。ジョーデン侯爵と俺は領地が近いこともあり、それなりに顔見知りだった。あっちに敵意がなかったからあえて警戒しなかったのだが、会うたび俺は、『どうしてこんな化け物が貴族のふりをしているのだろう』とふしぎに思ったものだ」
「待って待って、それノー根拠じゃない。たんなる決めつけだから」
「根拠? そんなの――」

 ぐっと力こぶを作る。
 岩のように硬そうな上腕二頭筋がパンパンに膨らむ。

「筋肉の勘ってやつに決まってるだろう」
「説明になってない……。お父さん、しばらく会わないうちに脳筋っぷりが悪化してない?」
「脳筋か。そういやエリザに昔教わったな。『高度に発達した筋肉は脳と見分けがつかない』だったか。そのとおりだ」

 教えてないし……。
 ていうか、なんか他の格言混じってる。

 うーん。
 でも、とにかく父は、直感的にジョーデン侯爵を化け物と見ていたわけだ。

 化け物――

「漠然と言うけど、たとえばどんな化け物? 人に化けるスライムとか?」
「スライムは水でできた虫みたいなものだろう。もっと人間の脅威になるやつだ。たとえば人食いワーウルフとか」
「そんなところにエレノアを嫁がせたわけ?」

 父はログハウスの窓から遠くを見て、

「敵意がなかったから大丈夫だと思ったんだけどな。帰ってこないところを見ると、きっとエレノアのやつが悪さをして怒らせたんだろう」
「それ、お母さんには言った?」
「いや。母さんは筋肉を信じてないから」

 あたしも信じているわけではないのだけれど。
 長年鍛えまくって、それこそ化け物じみた体格になっている父がそう言うなら、ノー根拠と斬り捨てるのは忍びないと思った。

 これからジョーデン屋敷に行くけど、すこし警戒しておこう。

「お父さん、忠告ありがと。これから行って、エレノアの顔見てくる」
「……これを持っていけ」

 巨大なナタを渡そうとしてくる父に、「お気持ちだけ」と伝えてあたしは出発した。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

「お前みたいな卑しい闇属性の魔女など側室でもごめんだ」と言われましたが、私も殿下に嫁ぐ気はありません!

野生のイエネコ
恋愛
闇の精霊の加護を受けている私は、闇属性を差別する国で迫害されていた。いつか私を受け入れてくれる人を探そうと夢に見ていたデビュタントの舞踏会で、闇属性を差別する王太子に罵倒されて心が折れてしまう。  私が国を出奔すると、闇精霊の森という場所に住まう、不思議な男性と出会った。なぜかその男性が私の事情を聞くと、国に与えられた闇精霊の加護が消滅して、国は大混乱に。  そんな中、闇精霊の森での生活は穏やかに進んでいく。

さようなら、たったひとつの

あんど もあ
ファンタジー
メアリは、10年間婚約したディーゴから婚約解消される。 大人しく身を引いたメアリだが、ディーゴは翌日から寝込んでしまい…。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

落ちこぼれで婚約破棄されて周りから醜いと言われる令嬢は学園で王子に溺愛される

つちのこうや
恋愛
貴族の中で身分が低く、落ちこぼれで婚約破棄されて周りから醜いと言われる令嬢の私。 そんな私の趣味は裁縫だった。そんな私が、ある日、宮殿の中の学園でぬいぐるみを拾った。 どうやら、近くの国から留学に来ているイケメン王子のもののようだけど…

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

【完結】政略婚約された令嬢ですが、記録と魔法で頑張って、現世と違って人生好転させます

なみゆき
ファンタジー
典子、アラフィフ独身女性。 結婚も恋愛も経験せず、気づけば父の介護と職場の理不尽に追われる日々。 兄姉からは、都合よく扱われ、父からは暴言を浴びせられ、職場では責任を押しつけられる。 人生のほとんどを“搾取される側”として生きてきた。 過労で倒れた彼女が目を覚ますと、そこは異世界。 7歳の伯爵令嬢セレナとして転生していた。 前世の記憶を持つ彼女は、今度こそ“誰かの犠牲”ではなく、“誰かの支え”として生きることを決意する。 魔法と貴族社会が息づくこの世界で、セレナは前世の知識を活かし、友人達と交流を深める。 そこに割り込む怪しい聖女ー語彙力もなく、ワンパターンの行動なのに攻略対象ぽい人たちは次々と籠絡されていく。 これはシナリオなのかバグなのか? その原因を突き止めるため、全ての証拠を記録し始めた。 【☆応援やブクマありがとうございます☆大変励みになりますm(_ _)m】

私は愛する人と結婚できなくなったのに、あなたが結婚できると思うの?

あんど もあ
ファンタジー
妹の画策で、第一王子との婚約を解消することになったレイア。 理由は姉への嫌がらせだとしても、妹は王子の結婚を妨害したのだ。 レイアは妹への処罰を伝える。 「あなたも婚約解消しなさい」

処理中です...