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第二部 エリザと記憶
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「どういうこと? あの子、結婚したんじゃないの?」
ペンダーグラスの屋敷に帰省したあたしは、着くなり仰天させられることになった。
エレノアはジョーデン侯爵の息子と婚約したが、代替わりして侯爵となった彼と結婚したのは、エレノアではないべつの女性らしい。
侯爵の屋敷に住んでいると言われていたものだから、すっかりあの子は結婚したものと思い込んでいた。
「ええと、つまり……ごめん、もっかい順番に説明して」
あたしに説明する母も、実際のところかなり混乱していた。
もう10ヶ月ほどエレノアと会えていないらしい。
要領を得ない話をまとめると、こうだ。
まず、エレノアが「もうすぐお金持ちになれる」と語っていた。
その数日後、ジョーデン侯爵が亡くなったという伝令がきた。
それを聞いたエレノアが急いでジョーデン屋敷に向かった。
当分戻らないという書き付けと支度金が、うちに届いた。
そして――
発表された結婚相手は、ディオンヌというべつの令嬢だった。
「ディオンヌって、あのブランドン大公爵の娘じゃない?」
あたしにとって、ブランドン家はとてもタイムリーな話題だ。
ついこのあいだ、この国の歴史の1ページとして書き記したばかりなのだから。
書いた内容も、もちろん覚えている。
「馬車の事故で大公爵夫妻が亡くなって、ひとり娘は大公爵ゆかりの土地に保護された――というのが、国に報告された内容だったわ」
事故の場所や時刻もわかるけど、それは今はどうでもいい。
問題は、歴史の表舞台から姿を消したディオンヌという令嬢に、エレノアがポジションを奪われているということ。
あたしは、婚姻に関する報告書に目を通していなかったことを悔やんだ。
ジョーデン侯爵夫人として報告された名前がエレノアじゃないのを見れば、さすがにもっと早く異常事態に気づけたことだろう。
担当業務ではなかったとはいえ、身内に関することくらいひと目見ておけばよかった。
(どんだけ結婚に興味ないのよ、あたし……)
おめでたい内容より、事故や争いごとの報告を読むほうが好きな性分なのだ。
小説なんかでも、『復讐』とか『決闘』の文字が帯にあると、心が躍ったものだった。
「お母さんは、エレノアがどうしてると思うわけ?」
「いや、その、あの子からの書き付けには『幸せだから心配しないで』とあったから……」
「それ本当にエレノアの字だった?」
思わず詰問する感じになってしまった。
母は、「うーん」とひと声うなると、急に不安になったのかしょんぼりと肩を落とした。
「お母さん、ごめん。あたしちょっと焦っちゃって」
「私もバカだったよ。結婚相手じゃないのは驚いたけど、あの子が落ち着ける場所を見つけてくれたと思ったら、ほっとしてね……」
「わかるよ。それすごいわかる」
エレノアはずっと、居心地が悪そうにしていた。
いちばん上のお姉はマイペースだから、追い詰めていたのはきっとあたし。
両親への恩返しだとか人生に遊ぶ暇はないとか、すごく言っちゃったから。
かつての自分への自戒も込めてだったけど。
エレノアは、両親に見てほしくて必死だった。
自分には何もないから、せめて玉の輿……とよく言っていた。
送られてきた支度金はたぶん、相当な金額だったのだろう。
両親もそれを見て、納得せざるを得なかったに違いない。
「あたし、ジョーデン侯爵のところに行ってくる。あの子が下働きしてるとは思えないから、まあ、お妾さんとか愛人とかそのあたりじゃない? 本当に幸せそうなら、いっぱい褒めてくるよ」
「悪いね……。お前はほんとに親孝行な娘だよ」
「それは三姉妹みんな。わかってあげてね。……あ、行く前にお父さんにも挨拶しておきたいな。山小屋のほう?」
うなずく母を軽くハグして、あたしはうちの敷地内の森にある山小屋に向かうことにした。
ペンダーグラスの屋敷に帰省したあたしは、着くなり仰天させられることになった。
エレノアはジョーデン侯爵の息子と婚約したが、代替わりして侯爵となった彼と結婚したのは、エレノアではないべつの女性らしい。
侯爵の屋敷に住んでいると言われていたものだから、すっかりあの子は結婚したものと思い込んでいた。
「ええと、つまり……ごめん、もっかい順番に説明して」
あたしに説明する母も、実際のところかなり混乱していた。
もう10ヶ月ほどエレノアと会えていないらしい。
要領を得ない話をまとめると、こうだ。
まず、エレノアが「もうすぐお金持ちになれる」と語っていた。
その数日後、ジョーデン侯爵が亡くなったという伝令がきた。
それを聞いたエレノアが急いでジョーデン屋敷に向かった。
当分戻らないという書き付けと支度金が、うちに届いた。
そして――
発表された結婚相手は、ディオンヌというべつの令嬢だった。
「ディオンヌって、あのブランドン大公爵の娘じゃない?」
あたしにとって、ブランドン家はとてもタイムリーな話題だ。
ついこのあいだ、この国の歴史の1ページとして書き記したばかりなのだから。
書いた内容も、もちろん覚えている。
「馬車の事故で大公爵夫妻が亡くなって、ひとり娘は大公爵ゆかりの土地に保護された――というのが、国に報告された内容だったわ」
事故の場所や時刻もわかるけど、それは今はどうでもいい。
問題は、歴史の表舞台から姿を消したディオンヌという令嬢に、エレノアがポジションを奪われているということ。
あたしは、婚姻に関する報告書に目を通していなかったことを悔やんだ。
ジョーデン侯爵夫人として報告された名前がエレノアじゃないのを見れば、さすがにもっと早く異常事態に気づけたことだろう。
担当業務ではなかったとはいえ、身内に関することくらいひと目見ておけばよかった。
(どんだけ結婚に興味ないのよ、あたし……)
おめでたい内容より、事故や争いごとの報告を読むほうが好きな性分なのだ。
小説なんかでも、『復讐』とか『決闘』の文字が帯にあると、心が躍ったものだった。
「お母さんは、エレノアがどうしてると思うわけ?」
「いや、その、あの子からの書き付けには『幸せだから心配しないで』とあったから……」
「それ本当にエレノアの字だった?」
思わず詰問する感じになってしまった。
母は、「うーん」とひと声うなると、急に不安になったのかしょんぼりと肩を落とした。
「お母さん、ごめん。あたしちょっと焦っちゃって」
「私もバカだったよ。結婚相手じゃないのは驚いたけど、あの子が落ち着ける場所を見つけてくれたと思ったら、ほっとしてね……」
「わかるよ。それすごいわかる」
エレノアはずっと、居心地が悪そうにしていた。
いちばん上のお姉はマイペースだから、追い詰めていたのはきっとあたし。
両親への恩返しだとか人生に遊ぶ暇はないとか、すごく言っちゃったから。
かつての自分への自戒も込めてだったけど。
エレノアは、両親に見てほしくて必死だった。
自分には何もないから、せめて玉の輿……とよく言っていた。
送られてきた支度金はたぶん、相当な金額だったのだろう。
両親もそれを見て、納得せざるを得なかったに違いない。
「あたし、ジョーデン侯爵のところに行ってくる。あの子が下働きしてるとは思えないから、まあ、お妾さんとか愛人とかそのあたりじゃない? 本当に幸せそうなら、いっぱい褒めてくるよ」
「悪いね……。お前はほんとに親孝行な娘だよ」
「それは三姉妹みんな。わかってあげてね。……あ、行く前にお父さんにも挨拶しておきたいな。山小屋のほう?」
うなずく母を軽くハグして、あたしはうちの敷地内の森にある山小屋に向かうことにした。
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