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第二部 エリザと記憶
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「本当なら今ごろ実家のベッドだったんだけどなあ」
あたしはジョーデン屋敷の一室で、ふかふかのベッドに横たわって天井を眺めていた。
二階だが、エレノアが隔離されているのとはべつの部屋だ。
「あの男の子、ダンだっけ? いや、若く見えるだけかも知れないけど。なんなのもう……筋肉のくせに心配性ってキャラ崩壊レベルの大問題じゃない?」
まあ、父もそうだが、筋肉男に悪いやつはいないのかもしれない。
いかにもインドア派で抵抗力が弱そうなあたしを、ダンは心配してくれたのだとは思うし。
ぶつかったのだってあたしの不注意だ。
でも、この状況、何かがおかしい。
エレノアの様子を見にきたのに、会うことすら叶わないまま、あたしまで帰れなくなってしまった。
近づいた者を離さない、まるで人喰い屋敷みたいな風情すらある。
「ディオンヌはとても感じがよくて、好きなんだけどな~」
と、そこで扉がノックされた。
返事をすると、黒衣の男、ストローザーが食事を持って入ってきた。
「……夕食だ」
「あ、ありがとうございます」
一応、館内の他の住人たちとはなるべく接触せずに過ごすことになっている。
感染していないという確証が持てないからだ。
もともとエレノアの世話をしているストローザーであれば問題ないということで、あたしの身の回りのことは彼が担当することになったらしい。
正直なところ、すごく緊張する……。
この部屋で過ごすことになってから、彼が入ってくるのはこれが初めてではない。
最初に世話役として、ディオンヌと一緒に軽く挨拶に来てくれたのだ。
怖がらせないためにという配慮だったのだろう。
腰よりも長い白髪と、痩せこけた頬。
どこに売っているのか白衣の黒バージョンのようなものを羽織っている彼は、控えめに言って、異質すぎる。
一見して「うわ……」と思ってしまった。
(あたし自身のためにも、なるべく近寄らないようにしないと)
恐怖……ではないのだけれど、触るとやけどする予感がひしひしと感じられた。
彼がサイドテーブルにトレイを置くのを黙って見ていたあたしは、それでも何か言わなきゃと迷ったあげく、
「あの、すてきな長髪ですね」
「伸びるに任せているだけだ」
「そ、そこがいいと思います!」
何を言っているのだろう、あたしは。
この蛇のような三白眼をした男と部屋にふたりきりというのが、耐えられなかったのだ。
そわそわと腰を浮かすあたしを、ストローザーがぎろりと見た。
(か、勘弁してよ……)
本能的な反応、というのはまさにこれだろう。
身体の芯が痺れたようになった。
そんなあたしの内面を知ってか知らずか、
「きみは宮廷書記官らしいな?」
「ひゃっ、ひゃいっ」
「興味があるので、一緒に食事をとらせてもらってもよいだろうか」
死んだ……。
グッバイ、あたしのこれまでの人生。
人付き合いは少なかったけど、宮廷で書物と向き合って過ごす時間は、かけがいのないものだった。
大切にしてきたものが、がらりと崩れゆく。
「も、もちろんです」
うまく、笑えていればいいのだけれど。
あたしはジョーデン屋敷の一室で、ふかふかのベッドに横たわって天井を眺めていた。
二階だが、エレノアが隔離されているのとはべつの部屋だ。
「あの男の子、ダンだっけ? いや、若く見えるだけかも知れないけど。なんなのもう……筋肉のくせに心配性ってキャラ崩壊レベルの大問題じゃない?」
まあ、父もそうだが、筋肉男に悪いやつはいないのかもしれない。
いかにもインドア派で抵抗力が弱そうなあたしを、ダンは心配してくれたのだとは思うし。
ぶつかったのだってあたしの不注意だ。
でも、この状況、何かがおかしい。
エレノアの様子を見にきたのに、会うことすら叶わないまま、あたしまで帰れなくなってしまった。
近づいた者を離さない、まるで人喰い屋敷みたいな風情すらある。
「ディオンヌはとても感じがよくて、好きなんだけどな~」
と、そこで扉がノックされた。
返事をすると、黒衣の男、ストローザーが食事を持って入ってきた。
「……夕食だ」
「あ、ありがとうございます」
一応、館内の他の住人たちとはなるべく接触せずに過ごすことになっている。
感染していないという確証が持てないからだ。
もともとエレノアの世話をしているストローザーであれば問題ないということで、あたしの身の回りのことは彼が担当することになったらしい。
正直なところ、すごく緊張する……。
この部屋で過ごすことになってから、彼が入ってくるのはこれが初めてではない。
最初に世話役として、ディオンヌと一緒に軽く挨拶に来てくれたのだ。
怖がらせないためにという配慮だったのだろう。
腰よりも長い白髪と、痩せこけた頬。
どこに売っているのか白衣の黒バージョンのようなものを羽織っている彼は、控えめに言って、異質すぎる。
一見して「うわ……」と思ってしまった。
(あたし自身のためにも、なるべく近寄らないようにしないと)
恐怖……ではないのだけれど、触るとやけどする予感がひしひしと感じられた。
彼がサイドテーブルにトレイを置くのを黙って見ていたあたしは、それでも何か言わなきゃと迷ったあげく、
「あの、すてきな長髪ですね」
「伸びるに任せているだけだ」
「そ、そこがいいと思います!」
何を言っているのだろう、あたしは。
この蛇のような三白眼をした男と部屋にふたりきりというのが、耐えられなかったのだ。
そわそわと腰を浮かすあたしを、ストローザーがぎろりと見た。
(か、勘弁してよ……)
本能的な反応、というのはまさにこれだろう。
身体の芯が痺れたようになった。
そんなあたしの内面を知ってか知らずか、
「きみは宮廷書記官らしいな?」
「ひゃっ、ひゃいっ」
「興味があるので、一緒に食事をとらせてもらってもよいだろうか」
死んだ……。
グッバイ、あたしのこれまでの人生。
人付き合いは少なかったけど、宮廷で書物と向き合って過ごす時間は、かけがいのないものだった。
大切にしてきたものが、がらりと崩れゆく。
「も、もちろんです」
うまく、笑えていればいいのだけれど。
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