34 / 41
第二部 エリザと記憶
09
しおりを挟む
静かな夜ふけ――
あたしは、シーツを被って彼に背を向けていた。
間違いなく、耳まで真っ赤になっている。
恥ずかしい。
出会って間もない男性とこんなことになるなんて……。
「どうした?」
「あの、あの……あたしどうだった? その、経験がなかったから……あなたには物足りなかったんじゃないかって」
「そんなこと気にするのか」
恥ずかしくて名前も呼べなくなっているあたしを、彼は背中から抱きしめた。
その腕からは、しっかりと感情が伝わってくる。
幼いころ、よく頭痛で泣いていたあたしを抱きしめてくれた父。
そのことを思い出す、優しく温かい腕だった。
「物足りないって。まったく、どう思われてるんだか」
「だって、あなたいくつ?」
「……26だ」
「嘘っ⁉︎」
びっくりしてシーツを跳ね飛ばし、彼を見た。
すこし傷ついた顔をしている。
嘘や冗談ではないと思った。
「ごめんなさい、あたし――」
「いいよ、よく誤解される。26だと困るか?」
「ううん、逆。あたしのことなんて恋愛対象にならないと思ってたから」
そう言ったあたしの頬に手を添えると、彼は唇にそっとキスをした。
頭を抱き寄せて、愛おしそうに撫でてくれる。
きっと、初めてだったと告げたあたしを、大切に扱ってくれているのだろう。
ああ、好き……。
自分でもわかっているが、あたしは間違いなくファザコンだ。
かつて父から受けた愛情を、ずっとずっと追い求めている。
彼のことも、ひと目見たときに「やばい、パパそっくり」と思った。
距離感に困るけど、それでも、一緒に過ごせるだけで嬉しいと思った。
もちろん恋愛とは違う、ただのコンプレックスだとわかってはいたのだけれど。
話すうちに、我慢できなくなってしまった。
きっかけは父と重ねていたことだったかもしれないが、今はもう、彼そのものを好きになっている。
(彼氏とか、無縁だと思ってたんだけどな……)
彼の髪に触れる。
恋人になってくれるだろうか。
先にこうなってしまったことが、とても不安になってきた。
こういうとき、どう言えばいいのだろう。
もっと恋愛小説を読めばよかったと後悔した。
「ねえ……あたしが王宮に戻ったらどうする?」
「手紙を書くよ」
それってラブレターってこと?
付き合うってことでいいのかな?
本当に、経験がなさすぎてわからない。
自分では王国一の物知りのつもりだったのに、こんなことひとつわからないなんて。
恥ずかしい。
恥ずかしい……。
両手で顔を覆うあたしを、彼がじっと見ていることに気づいた。
思わず、胸がノーガードになっていた。
「ちょ、ちょっと、見すぎだよ! 大きくないから見ないで」
「美しいと思って、目を奪われていた」
「観察やめて――」
ああもう、これ恋人かもしれない。
イチャラブってやつでしょ。
あたしは、シーツを被って彼に背を向けていた。
間違いなく、耳まで真っ赤になっている。
恥ずかしい。
出会って間もない男性とこんなことになるなんて……。
「どうした?」
「あの、あの……あたしどうだった? その、経験がなかったから……あなたには物足りなかったんじゃないかって」
「そんなこと気にするのか」
恥ずかしくて名前も呼べなくなっているあたしを、彼は背中から抱きしめた。
その腕からは、しっかりと感情が伝わってくる。
幼いころ、よく頭痛で泣いていたあたしを抱きしめてくれた父。
そのことを思い出す、優しく温かい腕だった。
「物足りないって。まったく、どう思われてるんだか」
「だって、あなたいくつ?」
「……26だ」
「嘘っ⁉︎」
びっくりしてシーツを跳ね飛ばし、彼を見た。
すこし傷ついた顔をしている。
嘘や冗談ではないと思った。
「ごめんなさい、あたし――」
「いいよ、よく誤解される。26だと困るか?」
「ううん、逆。あたしのことなんて恋愛対象にならないと思ってたから」
そう言ったあたしの頬に手を添えると、彼は唇にそっとキスをした。
頭を抱き寄せて、愛おしそうに撫でてくれる。
きっと、初めてだったと告げたあたしを、大切に扱ってくれているのだろう。
ああ、好き……。
自分でもわかっているが、あたしは間違いなくファザコンだ。
かつて父から受けた愛情を、ずっとずっと追い求めている。
彼のことも、ひと目見たときに「やばい、パパそっくり」と思った。
距離感に困るけど、それでも、一緒に過ごせるだけで嬉しいと思った。
もちろん恋愛とは違う、ただのコンプレックスだとわかってはいたのだけれど。
話すうちに、我慢できなくなってしまった。
きっかけは父と重ねていたことだったかもしれないが、今はもう、彼そのものを好きになっている。
(彼氏とか、無縁だと思ってたんだけどな……)
彼の髪に触れる。
恋人になってくれるだろうか。
先にこうなってしまったことが、とても不安になってきた。
こういうとき、どう言えばいいのだろう。
もっと恋愛小説を読めばよかったと後悔した。
「ねえ……あたしが王宮に戻ったらどうする?」
「手紙を書くよ」
それってラブレターってこと?
付き合うってことでいいのかな?
本当に、経験がなさすぎてわからない。
自分では王国一の物知りのつもりだったのに、こんなことひとつわからないなんて。
恥ずかしい。
恥ずかしい……。
両手で顔を覆うあたしを、彼がじっと見ていることに気づいた。
思わず、胸がノーガードになっていた。
「ちょ、ちょっと、見すぎだよ! 大きくないから見ないで」
「美しいと思って、目を奪われていた」
「観察やめて――」
ああもう、これ恋人かもしれない。
イチャラブってやつでしょ。
0
あなたにおすすめの小説
完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました
らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。
そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。
しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような…
完結決定済み
断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた
兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
婚約破棄?ああ、どうぞお構いなく。
パリパリかぷちーの
恋愛
公爵令嬢アミュレットは、その完璧な美貌とは裏腹に、何事にも感情を揺らさず「はぁ、左様ですか」で済ませてしまう『塩対応』の令嬢。
ある夜会で、婚約者であるエリアス王子から一方的に婚約破棄を突きつけられるも、彼女は全く動じず、むしろ「面倒な義務からの解放」と清々していた。
婚約破棄された令嬢、気づけば王族総出で奪い合われています
ゆっこ
恋愛
「――よって、リリアーナ・セレスト嬢との婚約は破棄する!」
王城の大広間に王太子アレクシスの声が響いた瞬間、私は静かにスカートをつまみ上げて一礼した。
「かしこまりました、殿下。どうか末永くお幸せに」
本心ではない。けれど、こう言うしかなかった。
王太子は私を見下ろし、勝ち誇ったように笑った。
「お前のような地味で役に立たない女より、フローラの方が相応しい。彼女は聖女として覚醒したのだ!」
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
病弱を演じる妹に婚約者を奪われましたが、大嫌いだったので大助かりです
克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」「ノベルバ」に同時投稿しています。
『病弱を演じて私から全てを奪う妹よ、全て奪った後で梯子を外してあげます』
メイトランド公爵家の長女キャメロンはずっと不当な扱いを受け続けていた。天性の悪女である妹のブリトニーが病弱を演じて、両親や周りの者を味方につけて、姉キャメロンが受けるはずのモノを全て奪っていた。それはメイトランド公爵家のなかだけでなく、社交界でも同じような状況だった。生まれて直ぐにキャメロンはオーガスト第一王子と婚約していたが、ブリトニーがオーガスト第一王子を誘惑してキャメロンとの婚約を破棄させようとしたいた。だがキャメロンはその機会を捉えて復讐を断行した。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる