令嬢だったディオンヌは溜め息をついて幼なじみの侯爵を見つめる

monaca

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第二部 エリザと記憶

10(ディオンヌ視点)

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「夜はちゃんと寝ないとダメよ?」
「ああ、すまない奥方」

 わたしは小声でダンを叱りました。
 こんな夜ふけに、エリザの部屋の前で彼を見かけたのです。

「奥方も、眠れなくて散歩か?」
「わたしはもともとあんまり寝ないのよ。今も考えごとをしていて、ちょっとストローザーに相談しようと思って二階にきたの」
「……あいつは忙しそうだった」
「そう? じゃあ、またにするわ。あなたも地下の使用人室でちゃんと寝ておきなさいね」

 ダンを見送り、わたしも一階の寝室に戻ることにしました。
 階段を下りながら、今見たことについて考えます。

 ダンとエリザ――
 意外な取り合わせにも思いましたが、男女はわからないものです。

(ううん、扉の前にいただけかもしれないじゃない)

 頭の中で打ち消します。
 エリザはお客様だし、あまりこういう詮索はすべきではありません。

(ダンが失礼を働いたかも……?)

 いえいえ、それこそお節介。
 童顔に見えて、彼はもう立派な男性です。
 たしか26と言っていたと思います。

 一度、作業中に服を汚した彼の着替えを目撃したことがありますが、細いのに、じつに鍛えられた身体をしていました。
 趣味や道楽ではない、本当に必要があって鍛えられた肉体です。
 おそらく傭兵のようなことをしていたのではないでしょうか。
 言葉づかいもぶっきらぼうで、とても今まで下働きの経験があるとは思えません。

 エリザはエリザで、個性的な女性です。
 王宮での流行というあの服装もそうですが、何より、物の考え方がとても自由。
 すこし会話をしただけで知見が大きく広がったように感じました。
 頭が良くて好奇心の強い彼女には、世界が輝いて見えているのかもしれません。

(わたしたちは、見ている世界が狭すぎて――暗すぎたんだわ)

 里のことを考えました。
 それから、お父様のことを考えて、先代ジョーデン侯爵のことを考えました。

 ヴァンパイアと人間。
 争いと迫害の歴史。

 集落を作って閉じこもることも、人間の国を乗っ取ろうとすることも、根は同じではないでしょうか。
 互いを水と油のように考えているから、そんなやり方しか思いつかないのです。

 ちぐはぐな性格の男女が認めあうことができるように、種族だって垣根をなくせるはず。
 水と油のように見えていたものが、本当は色の違う水どうしで、きれいな色に混じることができるかもしれません。

(お父様の夢を挫いたわたしには、べつのやり方を見つける責任があるの)

 里を敵に回すわけにはいかない――
 そのためにも、ストローザーと話し合う必要がありました。
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