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第二部 エリザと記憶
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翌日の午後。
あたしは一階の大広間に下りてくるよう、ダンを通じて告げられた。
読んでいた本を閉じて広間の扉をくぐると――
前方には、ディオンヌとジョサイア。
その横にストローザー。
使用人は、ダンも含めて8人で全員なのだろうか。
ここを訪れたときに会った丸っこいおばさん使用人もいる。
(みんな同じ部屋に集めちゃっていいわけ?)
伝染病に罹っているエレノアの姿が見えないのは仕方がないとしても、ダンやあたしという、感染の疑いがある者までみんなと同席させていることが驚きだ。
あれから3日が経過して、疑いは晴れたと判断されたのかもしれないけど……。
ジョサイアがみんなの顔を見渡して言う。
「今日はみなに報告があって、こうして集まってもらった」
とても神妙な顔をしている。
まるで犯罪を告白するような、そんな決意を感じさせる表情だと思った。
彼はすぐ横にいるディオンヌを見た。
安心させるような優しい顔で彼女がうなずくと、彼はストローザーに向き直り、
「……エレノアをここへ」
心臓がドクンと鳴った。
妹の名が出てきたことに驚かされたのもそうだが、何より、この深刻な雰囲気の中で再会することに違和感があった。
(エレノアに何かあったの?)
心の中に不安が広がる。
命に別状はないということだったので、これまで余計な想像はしないようにしていた。
扉から一旦出たストローザーが、何かを押しながら戻ってきた。
(車椅子だ!)
車輪のついた椅子に、うつむいた女性が座っている。
大人びたことを差し引いてもずいぶん面変わりしているが、あれはエレノアだ。
顔色が真っ白で、腕には包帯を巻いている。
病気じゃなくて……怪我?
「エレノア! お姉ちゃんだよ!」
あたしが呼びかけると、エレノアはびくっとして顔を上げた。
怯えるようにこちらを見た。
まるで怒られるのを怖がる子どものように。
彼女のすぐ後ろで車椅子の背を支えているストローザーを見ると、彼はあたしを見て、「心配するな」とばかりに小さくうなずいた。
ジョサイアは険しい表情でエレノアを見やり、言葉を続ける。
「みなには黙っていたが、彼女はあの日からずっとこの屋敷にいた。ある感染症に罹り、それにともなって皮膚を大きく損傷した。精神的な落ち込みも大きかったので、ストローザーにケアしてもらっていたのだ。その感染症の宿主は、先代ジョーデン侯爵。父は――」
「純血のヴァンパイアだった」
絞り出すような彼の告白を聞いたあたしは、衝撃とともにある種の興奮を覚えていた。
(ヴァンパイア! ここがファンタジー世界なのは文献で知ってたけど、本物がこんな近くにいたなんて!)
あたしは、この世界に転生してきた7年まえから大切に着ている、すみれ色のジャージの袖口をぎゅっと握り締めた。
あたしは一階の大広間に下りてくるよう、ダンを通じて告げられた。
読んでいた本を閉じて広間の扉をくぐると――
前方には、ディオンヌとジョサイア。
その横にストローザー。
使用人は、ダンも含めて8人で全員なのだろうか。
ここを訪れたときに会った丸っこいおばさん使用人もいる。
(みんな同じ部屋に集めちゃっていいわけ?)
伝染病に罹っているエレノアの姿が見えないのは仕方がないとしても、ダンやあたしという、感染の疑いがある者までみんなと同席させていることが驚きだ。
あれから3日が経過して、疑いは晴れたと判断されたのかもしれないけど……。
ジョサイアがみんなの顔を見渡して言う。
「今日はみなに報告があって、こうして集まってもらった」
とても神妙な顔をしている。
まるで犯罪を告白するような、そんな決意を感じさせる表情だと思った。
彼はすぐ横にいるディオンヌを見た。
安心させるような優しい顔で彼女がうなずくと、彼はストローザーに向き直り、
「……エレノアをここへ」
心臓がドクンと鳴った。
妹の名が出てきたことに驚かされたのもそうだが、何より、この深刻な雰囲気の中で再会することに違和感があった。
(エレノアに何かあったの?)
心の中に不安が広がる。
命に別状はないということだったので、これまで余計な想像はしないようにしていた。
扉から一旦出たストローザーが、何かを押しながら戻ってきた。
(車椅子だ!)
車輪のついた椅子に、うつむいた女性が座っている。
大人びたことを差し引いてもずいぶん面変わりしているが、あれはエレノアだ。
顔色が真っ白で、腕には包帯を巻いている。
病気じゃなくて……怪我?
「エレノア! お姉ちゃんだよ!」
あたしが呼びかけると、エレノアはびくっとして顔を上げた。
怯えるようにこちらを見た。
まるで怒られるのを怖がる子どものように。
彼女のすぐ後ろで車椅子の背を支えているストローザーを見ると、彼はあたしを見て、「心配するな」とばかりに小さくうなずいた。
ジョサイアは険しい表情でエレノアを見やり、言葉を続ける。
「みなには黙っていたが、彼女はあの日からずっとこの屋敷にいた。ある感染症に罹り、それにともなって皮膚を大きく損傷した。精神的な落ち込みも大きかったので、ストローザーにケアしてもらっていたのだ。その感染症の宿主は、先代ジョーデン侯爵。父は――」
「純血のヴァンパイアだった」
絞り出すような彼の告白を聞いたあたしは、衝撃とともにある種の興奮を覚えていた。
(ヴァンパイア! ここがファンタジー世界なのは文献で知ってたけど、本物がこんな近くにいたなんて!)
あたしは、この世界に転生してきた7年まえから大切に着ている、すみれ色のジャージの袖口をぎゅっと握り締めた。
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