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第二部 エリザと記憶
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ストローザーが床に倒れている。
そちらへ切っ先を向けたまま、ダンテがジョサイアを威嚇して言う。
「あんたは動くな。ハーフとグールには興味がない。オレの標的は純血種だけだ」
「最初からストローザーを?」
その場から動くことなく問いかけるジョサイアに、ダンテは首を振り、
「いや、こいつがいたのはたまたまだ。先代の死因を聞いて、この屋敷にヴァンパイアがいると思って来たのだが、あやうく空振りに終わるところだった」
「それは不運だったな」
「? そうか? 結果的に幸運だったと思うが――」
ダンテの言葉がそこで止まった。
ジョサイアのほうに注意を向けていた彼に、瞬時に近づく影があった。
倒れていたストローザーだ。
「なに? 動けるのかッ!」
「迂闊だな」
仮面を捨てたストローザーが、ダンテの背後をとる。
そのまま首筋に――
噛みついた。
「ッ⁉︎」
ダンテは弾かれたように距離をとった。
が、もう手遅れだということは彼自身がいちばんわかっているのだろう。
首の噛まれた箇所を手で押さえ、怒りと悔しさの入り混じった声を出す。
「仮面が効かなかったのはなぜだ……」
ストローザーは余裕の表情で、乱れた白髪を指先で整える。
「その仮面は陽の光を浴びてこそ効果を発揮する。土に埋まっていたのだろう? ただのカビ臭いだけの代物だったぞ」
「くっ……」
「首筋が痒くなってくる頃合いだ。つらいか? どれ、私が診てやらんこともないが」
「ふざけるな!」
ダンテは吐き捨てると、剣を投げ捨てて窓に体当たりし、屋敷の外へと逃げて行った。
「……どうするつもりかしら」
ジョサイアに守られるように下がっていたディオンヌが、ぽつりと言う。
ストローザーが口の端で笑い、
「おそらくもう戻ってくることはないだろう」
「そう? 気づいたら復讐に来るんじゃなくって?」
「いや、やつはヴァンパイアハンターの中でも純血種しか狙わないこだわりの強いタイプのようだったからな。首筋をかじられたからとて、ただの人間に報復するのはプライドが許さないはずだ」
ただの人間――
そう語る彼の後ろで、ぷっと吹き出すエレノアの声が聞こえた。
「ストローザー、あなたの若白髪がこんなときに役立つなんてね」
「役立ってなどないさ。そもそも私がヴァンパイアに間違われなければダンテは早々にここを立ち去っていたことだろう」
「あ、そっか。じゃあほんと、あなたが男の首を舐めただけのしょうもない騒動だったのね」
「やめたまえ」
心底いやそうに口を拭っている。
ふたりの打ち解けた様子を見て、あたしは心が温かくなる思いだった。
(妹のことを彼に任せてよかった)
世界各地を巡っていたストローザーは、この屋敷を訪れるまえはヴァンパイアの里に滞在していたそうだ。
あらゆることを実地で観察する研究熱心な彼は、みずからを『観察者』と称している。
歴史に詳しいだけでなく、あたしがこの世界にもたらした「現代」の医学・薬学にも通じている。
不治の病とされていたヴァンパイアの「眷属化」を抗生物質で抑えることに成功し――
抑うつ状態となっていたエレノアを、すこしずつ陽に当てることでセロトニンを増やして救ってくれた。
その髪の色は、苦労と思うことなく背負ってきた数々の出来事の積み重ねなのかもしれない。
彼はヴァンパイアではなく、生粋の人間だ。
見た目よりずっと若い、26歳のすてきな男性である。
そちらへ切っ先を向けたまま、ダンテがジョサイアを威嚇して言う。
「あんたは動くな。ハーフとグールには興味がない。オレの標的は純血種だけだ」
「最初からストローザーを?」
その場から動くことなく問いかけるジョサイアに、ダンテは首を振り、
「いや、こいつがいたのはたまたまだ。先代の死因を聞いて、この屋敷にヴァンパイアがいると思って来たのだが、あやうく空振りに終わるところだった」
「それは不運だったな」
「? そうか? 結果的に幸運だったと思うが――」
ダンテの言葉がそこで止まった。
ジョサイアのほうに注意を向けていた彼に、瞬時に近づく影があった。
倒れていたストローザーだ。
「なに? 動けるのかッ!」
「迂闊だな」
仮面を捨てたストローザーが、ダンテの背後をとる。
そのまま首筋に――
噛みついた。
「ッ⁉︎」
ダンテは弾かれたように距離をとった。
が、もう手遅れだということは彼自身がいちばんわかっているのだろう。
首の噛まれた箇所を手で押さえ、怒りと悔しさの入り混じった声を出す。
「仮面が効かなかったのはなぜだ……」
ストローザーは余裕の表情で、乱れた白髪を指先で整える。
「その仮面は陽の光を浴びてこそ効果を発揮する。土に埋まっていたのだろう? ただのカビ臭いだけの代物だったぞ」
「くっ……」
「首筋が痒くなってくる頃合いだ。つらいか? どれ、私が診てやらんこともないが」
「ふざけるな!」
ダンテは吐き捨てると、剣を投げ捨てて窓に体当たりし、屋敷の外へと逃げて行った。
「……どうするつもりかしら」
ジョサイアに守られるように下がっていたディオンヌが、ぽつりと言う。
ストローザーが口の端で笑い、
「おそらくもう戻ってくることはないだろう」
「そう? 気づいたら復讐に来るんじゃなくって?」
「いや、やつはヴァンパイアハンターの中でも純血種しか狙わないこだわりの強いタイプのようだったからな。首筋をかじられたからとて、ただの人間に報復するのはプライドが許さないはずだ」
ただの人間――
そう語る彼の後ろで、ぷっと吹き出すエレノアの声が聞こえた。
「ストローザー、あなたの若白髪がこんなときに役立つなんてね」
「役立ってなどないさ。そもそも私がヴァンパイアに間違われなければダンテは早々にここを立ち去っていたことだろう」
「あ、そっか。じゃあほんと、あなたが男の首を舐めただけのしょうもない騒動だったのね」
「やめたまえ」
心底いやそうに口を拭っている。
ふたりの打ち解けた様子を見て、あたしは心が温かくなる思いだった。
(妹のことを彼に任せてよかった)
世界各地を巡っていたストローザーは、この屋敷を訪れるまえはヴァンパイアの里に滞在していたそうだ。
あらゆることを実地で観察する研究熱心な彼は、みずからを『観察者』と称している。
歴史に詳しいだけでなく、あたしがこの世界にもたらした「現代」の医学・薬学にも通じている。
不治の病とされていたヴァンパイアの「眷属化」を抗生物質で抑えることに成功し――
抑うつ状態となっていたエレノアを、すこしずつ陽に当てることでセロトニンを増やして救ってくれた。
その髪の色は、苦労と思うことなく背負ってきた数々の出来事の積み重ねなのかもしれない。
彼はヴァンパイアではなく、生粋の人間だ。
見た目よりずっと若い、26歳のすてきな男性である。
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