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05 苦戦
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アリアネは、村外れに建つ一軒家に向かっていた。
トロールはそこに住んでいるのだという。
「トロールが人間のように家を建てて住むという話は聞いたことがないが……たしかにあれは家だな。
どういうことだ?」
強い違和感をおぼえながら到着したアリアネは、扉を蹴破ろうとして、思い直してノックした。
討伐するモンスターにノックで何のお伺いを立てるというのか、自分でも分からない。
相手の都合が悪そうだったら出直すとでも?
「……どちら様でしょうか?」
意外なことに、女性の声だ。
トロールの性別は聞かなかったが、こんなに流暢に人語を話すトロールはいない。
人間の女性が扉の向こうにいる。
「村の者たちから依頼されて、トロール退治にきた。
あなたはトロールに捕らわれているのか?」
「退治ですって!?
そんなことがあるわけがありません!
帰ってください!」
村長から正式に依頼されたことを説明するが、女性はまるで納得してくれない。
帰れ帰れの一点張りだ。
(この手の女は面倒だな。
やっぱり蹴破って一気に片付ければよかった)
話を聞いてもらえないので、家の中にトロールがいるのかすら分からない。
いったい、どういう状況なのだろう。
「とにかくいったん開けて――」
「ドケ!
オレガ ヤル!」
扉の向こうで女の叫び声がしたかと思うと、次の瞬間、アリアネは宙を舞った。
木製の扉が内側から強い力で殴られ、外れた扉と一緒に吹っ飛ばされたのだ。
「くっ、出たか化け物ッ!」
空中で姿勢を整え、剣を抜きながら着地する。
ぽっかり空いた入り口をにらみつけると、そこには人間の服を着た、巨大なモンスターがいた。
トロールだ。
「ニンゲン オンナ カカッテコイ。
キノウノ オトコ ヨワスギテ タイクツ」
「なんだと……!」
昨日の男とは、エディサマルのことだろう。
アリアネは師匠を侮辱されたことに内心怒りをおぼえながらも、目は冷静に相手を分析していた。
(やや大型の男トロール。
サイズのわりに筋肉量が多いようにみえる。
平均より強力な個体ではありそうだが、突然変異といえるほど突出しているとは思えない)
エディサマルが負ける要素がどこにも見当たらない。
知能が異様に高いわけでもなさそうだ。
手にしている棍棒も、ごく普通の見た目。
そもそも棍棒に業物も何もあったものではないだろう。
「殺した人間の服を着ているのか?
この化け物め!
私が村の人たちの無念を晴らしてやる」
「コォォォイ! オンナァァ!」
地鳴りのような声とともに、巨大な棍棒が迫ってくる。
だが遅い。
飛んでくる矢を掴めるアリアネには巨体の一撃はあまりに遅く、地面が轟音をあげてえぐれた時には、その腕を踏み台にして首筋に斬りかかっていた。
「これで終わりだ」
首をはねる時は、半端に傷つけると無駄に苦しませるので、力をこめて一気に振り抜くのが鉄則。
トロールの首の太さも考慮して、精いっぱい踏み込んだ。
が、
「やめてッ!
この人を殺さないで!」
「なに!?」
突然、女がトロールをかばって踊り出た。
アリアネは女の首をはねる寸前でどうにか剣を止めると、曲芸師のように一回転し、トロールの額に両足を突いて身体の勢いを殺そうとした。
「ジャマバカリ スルナ!」
「うわっ」
トロールは左手でアリアネの両足首を掴み、人間棍棒のごとく彼女を振り回して自分をかばった女を殴った。
悲鳴をあげて女が倒れる。
遠心力にめまいを覚えながらも、アリアネはトロールの腕に一太刀あびせてどうにか距離をとった。
「なるほど、エディサマルほどの猛者が敗れた理由が分かった。
この2対1は、戦いづらい」
いっそ気絶していてほしいという願いもむなしく、倒れた女は頭から流れる血を気にしつつも立ち上がった。
凶悪な形相でアリアネに叫ぶ。
「なんで放っといてくれないんだよ!
あたしはこの人と静かに暮らしたいだけなんだ」
「暮らす?
何を言ってるんだ、そこにいるのはトロールだぞ?
すぐに食われておしまいだ」
言いながら、再度斬りつける隙を窺う。
さすがにトロールも警戒しているようで、首をかばうように身を低くして棍棒を振ってくる。
女がまた飛び出してくるかと思うと、無闇に剣を振るわけにもいかず、防戦一方になってしまう。
「頼むから下がっててくれ。
トロールを退治しないといけないんだ」
「退治なんてさせるもんか――」
棍棒が地面を叩く音に重ねて、女の金切り声が響きわたった。
「あたしたちは愛し合ってるんだよ!」
トロールはそこに住んでいるのだという。
「トロールが人間のように家を建てて住むという話は聞いたことがないが……たしかにあれは家だな。
どういうことだ?」
強い違和感をおぼえながら到着したアリアネは、扉を蹴破ろうとして、思い直してノックした。
討伐するモンスターにノックで何のお伺いを立てるというのか、自分でも分からない。
相手の都合が悪そうだったら出直すとでも?
「……どちら様でしょうか?」
意外なことに、女性の声だ。
トロールの性別は聞かなかったが、こんなに流暢に人語を話すトロールはいない。
人間の女性が扉の向こうにいる。
「村の者たちから依頼されて、トロール退治にきた。
あなたはトロールに捕らわれているのか?」
「退治ですって!?
そんなことがあるわけがありません!
帰ってください!」
村長から正式に依頼されたことを説明するが、女性はまるで納得してくれない。
帰れ帰れの一点張りだ。
(この手の女は面倒だな。
やっぱり蹴破って一気に片付ければよかった)
話を聞いてもらえないので、家の中にトロールがいるのかすら分からない。
いったい、どういう状況なのだろう。
「とにかくいったん開けて――」
「ドケ!
オレガ ヤル!」
扉の向こうで女の叫び声がしたかと思うと、次の瞬間、アリアネは宙を舞った。
木製の扉が内側から強い力で殴られ、外れた扉と一緒に吹っ飛ばされたのだ。
「くっ、出たか化け物ッ!」
空中で姿勢を整え、剣を抜きながら着地する。
ぽっかり空いた入り口をにらみつけると、そこには人間の服を着た、巨大なモンスターがいた。
トロールだ。
「ニンゲン オンナ カカッテコイ。
キノウノ オトコ ヨワスギテ タイクツ」
「なんだと……!」
昨日の男とは、エディサマルのことだろう。
アリアネは師匠を侮辱されたことに内心怒りをおぼえながらも、目は冷静に相手を分析していた。
(やや大型の男トロール。
サイズのわりに筋肉量が多いようにみえる。
平均より強力な個体ではありそうだが、突然変異といえるほど突出しているとは思えない)
エディサマルが負ける要素がどこにも見当たらない。
知能が異様に高いわけでもなさそうだ。
手にしている棍棒も、ごく普通の見た目。
そもそも棍棒に業物も何もあったものではないだろう。
「殺した人間の服を着ているのか?
この化け物め!
私が村の人たちの無念を晴らしてやる」
「コォォォイ! オンナァァ!」
地鳴りのような声とともに、巨大な棍棒が迫ってくる。
だが遅い。
飛んでくる矢を掴めるアリアネには巨体の一撃はあまりに遅く、地面が轟音をあげてえぐれた時には、その腕を踏み台にして首筋に斬りかかっていた。
「これで終わりだ」
首をはねる時は、半端に傷つけると無駄に苦しませるので、力をこめて一気に振り抜くのが鉄則。
トロールの首の太さも考慮して、精いっぱい踏み込んだ。
が、
「やめてッ!
この人を殺さないで!」
「なに!?」
突然、女がトロールをかばって踊り出た。
アリアネは女の首をはねる寸前でどうにか剣を止めると、曲芸師のように一回転し、トロールの額に両足を突いて身体の勢いを殺そうとした。
「ジャマバカリ スルナ!」
「うわっ」
トロールは左手でアリアネの両足首を掴み、人間棍棒のごとく彼女を振り回して自分をかばった女を殴った。
悲鳴をあげて女が倒れる。
遠心力にめまいを覚えながらも、アリアネはトロールの腕に一太刀あびせてどうにか距離をとった。
「なるほど、エディサマルほどの猛者が敗れた理由が分かった。
この2対1は、戦いづらい」
いっそ気絶していてほしいという願いもむなしく、倒れた女は頭から流れる血を気にしつつも立ち上がった。
凶悪な形相でアリアネに叫ぶ。
「なんで放っといてくれないんだよ!
あたしはこの人と静かに暮らしたいだけなんだ」
「暮らす?
何を言ってるんだ、そこにいるのはトロールだぞ?
すぐに食われておしまいだ」
言いながら、再度斬りつける隙を窺う。
さすがにトロールも警戒しているようで、首をかばうように身を低くして棍棒を振ってくる。
女がまた飛び出してくるかと思うと、無闇に剣を振るわけにもいかず、防戦一方になってしまう。
「頼むから下がっててくれ。
トロールを退治しないといけないんだ」
「退治なんてさせるもんか――」
棍棒が地面を叩く音に重ねて、女の金切り声が響きわたった。
「あたしたちは愛し合ってるんだよ!」
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