パーティーを追放された落ちこぼれ死霊術士だけど、五百年前に死んだ最強の女勇者(18)に憑依されて最強になった件

九葉ユーキ

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第二章

第39話 死霊術士、美少女二人を自室に連れ込む

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「……自分から言っておいて何だが、本当にここで良かったのか?」

「別に? 話し合うだけじゃない。座れれば良いでしょ」

「クラウスさんのお部屋に入るのは、この前起こしに来たとき以来ですね」

 ナディアさんの薬屋を出た後、俺たち三人はギルドの三階にある一室に来た。
 ずばり、ここは俺が宿として借りている部屋である。
 俺が寝泊まりしているこの部屋にうら若き乙女が二人もいるという事実は、何だかちょっぴり刺激的である。ただ話し合うだけだけど。

 あまり人に聞かれたくない話なので一階の酒場はいかがなものかということになり、消去法で俺の部屋になったというわけだ。

 リリスとゼフィは何を思ったか――いや何も思っていないからなのか、部屋に入るなり俺のベッドに並んで腰掛けた。枕とかシーツとか臭ってないだろうか。
 俺は二人の前で床に座った。

「さて、まずは現状を整理しようか」

 早速俺が話の口火を切ると、ゼフィが天井を見ながら言った。

「未だにオデットの行方がわからないとなると……やっぱり考えられる可能性は一つよね」

 先ほどギルドの職員にオデットのことを訊いてみたのだが、やはり連絡がついていないようだった。オデットは普段無断で仕事を休むことなどないらしく、職員たちは揃って首を傾げていた。

「ナディアさんとオデットは一緒にいる――だろ?」

「ええ。あたしはその可能性が高いと思うわ」

 ゼフィは頷いた。

「えっと……つまりどういうことですか?」

 首を傾げるリリス。

「オデットはギルドの職員だ。つまり、今回の緊急クエストの内容を事前に知っていた可能性が高いんだ。俺たち冒険者よりも前にな」

「あ、確かに」

「あのクエストの内容を知ったオデットは、恐らくナディアさんに知らせに行ったんだ。狙われるぞ、と」

「オデットとナディアさんは仲が良かったからね。まぁ、端からはいつも喧嘩してるようにしか見えなかったけど……」

「なるほど……。オデットさんがクエストのことを伝えたから、お店にはナディアさんがいなかったんですね」

「多分な」

 オデットは職務を放棄し、友人を救う道を選んだのだ。

「でも……そうだとしたら、わたし、少し悲しいです」

 そう言って、リリスは表情に蔭を落とした。
 俺とゼフィが心境を測りかねてリリスの顔を見つめると、彼女は少し躊躇う様子を見せてから口を開いた。

「だって、オデットさんはわたしたちに何の相談もしてくれなかったことになるんですよ? ナディアさんと二人きりでギルドを敵に回す決断をするのって、きっと辛かったと思うんです。それなのに、相談の一つもしてくれないなんて悲しいじゃないですか。オデットさんはわたしたちのことを友達だって言ってくれたのに……。友達って、頼ったり頼られるものじゃないですか?」

 まるでこの場にいないオデットに訴えかけるように、リリスは涙ぐみながら言った。

「……そうね、リリスの言うとおりだわ。オデットの奴、あたしのことを人見知り呼ばわりするくせに、相談もできないなんて人のこと言えないじゃない」

「オデットにも何か話せない事情があったのかもしれないな……」

 湿っぽくなってしまった俺たちは、結局良い案が浮かぶこともなく、この日は解散することになった。


 ◇◇◇◇◇


 翌朝、俺はドアをノックされる音で目が覚めた。

「クラウス、いる?」

「ん……ゼフィか、ちょっと待ってくれ――」

 ベッドから起き上がり、ドアを開けた。

「どうした? そんなに慌てて」

「例のクエストに動きがあったわよ……」

「え?」

「とにかく、こっちに来て」

 ゼフィに促され、俺はサイドテーブルからネックレスを取り首にかけ、壁にかけてあるコートをひっ掴んでそれを羽織りながら階段を下りた。

 一階ホールは冒険者たちでざわついている。

「冒険者狩りだってよ……」

「緊急クエストを受けた奴らが何者かに負傷させられたらしいぜ……」

「言わんこっちゃねぇ。だから俺ぁ言ったんだ、旨いクエストなんてあるわけねぇってな」

「考えてみりゃ当たり前だよな……。S級クエストがそう甘いわけがねぇ」

 冒険者たちの陰鬱な空気がホール全体に充満しているようだった。

「こっちよ」

 ゼフィに腕を引かれ、俺は掲示板の前に立った。
 冒険者各位へ、と書かれた紙が目に留まる。

 その紙の内容が冒険者たちを鬱屈とさせているのは明らかだった。

 概略はこうだ。
 昨日の深夜、例のクエストを受注していた冒険者の男三人組が何者かによって街中で刺され、重傷を負ったという。
 三人組の内訳はB級冒険者が二人、A級冒険者が一人。街で聞き込みをしていたところ、突然襲われたようだ。
 犯人は単独で三人組を倒したと見られ、大変危険な人物であるらしい。
 よって、腕に自信のない者はクエストから手を引くように。A級冒険者以上の者は可能な限り当該クエストを受注すべし――とある。

 そして昨日の募集書には『売国奴ナディア・フォルナンド』という大きな文字と、ナディアさんの薬屋の場所を示す地図が追記されていた。似顔絵も、現在の長い髪の状態に描き変えられている。
 昨日の内にギルドへ情報提供があったのだろう。いくら客の入っていない薬屋の主人とはいえ、いつまでも名前と住所がバレないわけがないからな。

「クラウス、どう思う?」

「どうって?」

「この紙に書いてある、三人組を襲った犯人よ」

 緊急クエストを受注し、街で聞き込みをしていた三人組の冒険者を襲った犯人。

「わからない――が、普通に考えれば、クエストを妨害したい人間だろうな」

「そうなるわよね、やっぱり……」

「あるいは、クエストの手柄を独り占めしたい他の冒険者の仕業って線もないわけじゃないか。襲われた三人組がナディアさんの居場所をかなり良いところまで嗅ぎつけていたとか」

「それは無いわ。今朝、三人組が治療院で目を覚ましたらしいんだけどね。ギルドの職員が彼らに話を聞いたところ、彼らはナディアさんに関する有益な情報は全く得られていなかったみたいなの」

「だとすると、犯人の目的が尚更不明だな。クエストに参加している者を無差別に襲っているのか……?」

 ううむ、わからないことが多すぎる。
 あまり考えたくないが、もし犯人がクエストを妨害したい側――ナディアさん側の人間だとして、クエストの参加者を一人一人始末して徹底抗戦で行くというのはあまりに現実味がない。
 どこかに潜み、どうにかして町から出る方法を考える方が現実的だろう。
 あるいは、これもあまり考えたくないことだが……ナディアさんが本当に魔族と繋がっているとして、魔族の仲間による強力な援護が期待できるのだろうか……。

 俺たちが考えあぐねていると、ギルドの扉が勢いよく開かれて冒険者らしき男が慌てた様子で入ってきた。

「た、大変だ! また冒険者狩りだ! 例のクエストを受けている奴らが襲われたみたいだ!」

「何だと!?」

「またか……」

「俺、やっぱりこのクエストやめておこうかな……」

 どうやら新たな犠牲者が出てしまったようだ。
 昨日は浮かれていた冒険者たちもすっかり意気消沈してしまい、諦めムードが漂っている。

「そういえば、リリスはどうしてる?」

「リリスなら、朝早くから外を散歩してるわ。オデットとナディアさんが見つかるかもしれないからってね」

「そうなのか……さすがリリスだな」

「あ、噂をすればね」

 扉が開き、リリスが入ってきた。
 彼女は俺たちの存在に気がつくと、こちらに歩み寄った。

「クラウスさん、おはようございます」

「おはよう。どうだった?」

 リリスは首を横に振った。
 手がかりは得られなかったのだろう。

「そうか……」

「うーん、何か一つでも手がかりは無いのかしら……」

「あの、クラウスさん、ゼフィさん。提案があるんですけど」

 頭を抱える俺たちに向かって、改まった様子でリリスが言った。

「提案?」

「あの、さっきまた冒険者の人が襲われたみたいなんです。ナディアさんたちのことを調べていた人らしいです」

「そうみたいだな」

「いっそ、わたしたちも襲われてみませんか?」

「「え?」」

 俺とゼフィはリリスの言っていることの意味がわからず、呆けた声を出した。

「わたしたちもクエストを受注して、夜に聞き込みでもするんです。これ見よがしに。そしたら現れるんじゃないでしょうか? 犯人さん」

「つまり、その犯人を返り討ちにすれば、ナディアさんやオデットに繋がる可能性があると……?」

 リリスは頷いた。

「確かに、このままじっとしているよりは良いかもしれないわね」

 相手はA級冒険者一人とB級冒険者二人を同時に相手して勝利するような奴だし、並みの冒険者なら成立しない作戦ではある。
 だが、リリスは違う。
 リリスなら、犯人を死なない程度に返り討ちにして、情報を吐き出させることができるだろう。

 作戦は今夜決行することになった。

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