パーティーを追放された落ちこぼれ死霊術士だけど、五百年前に死んだ最強の女勇者(18)に憑依されて最強になった件

九葉ユーキ

文字の大きさ
40 / 57
第二章

第40話 死霊術士、美少女二人と暗黒街に入る

しおりを挟む
 日が暮れ、ギルドの酒場で食事を取った俺たちは夜更けの町を歩いていた。
 昼間の内に例のクエストを受注してある。
 結局、多数の冒険者が関わっているのにもかかわらず、クエストは何の進展も無いまま二日目の夜を迎えてしまった。

 俺たちが歩いている商業通りは昼間とは打って変わって閑散としている。
 酒場やレストランの灯りがぽつぽつと漏れていて、酔っ払いが千鳥足で歩いているくらいしか人気が感じられない。

「そういえばエレナはどうしてるんだ?」

 リリス、ゼフィ、そして俺の三人で通りを並んで歩きながら、俺は言った。

「エレナ? アパートにいると思うわよ」

「エレナは今回のクエストについて何か言ってたか?」

「いや、あの子はクエストの存在すら知らないと思うわ」

「え?」

「あたし、あの子にクエストのことは一切話してないのよ。あの子もここ最近は部屋に籠もってるし、知らないと思うわ」

「どうして話してないんだ?」

「だって、三日前、あの子色々あったでしょ? 実の父親に殺されかけて、その父親は王都に連行されて……。良い子だからそんな素振りは全然見せないけど、あれでもまだ辛いはずなのよ」

「……そうですよね。あんなことがあったら、まだ気持ちの整理が必要だと思います」

「うん。だから、今のエレナには心配をかけさせたくないのよ。部屋で静かに薬の勉強でもさせてあげたいの」

 ゼフィとエレナは二人だけのパーティーだ。
 まだ十五歳と十六歳という若さでA級冒険者になった二人は俺が想像するよりもずっと固い絆で結ばれているのだろう。

「そうだな。今は一人でそっとしておいてあげた方が良いかもな」

 人見知りのゼフィが、クエストを受けるでもないのに最近よく一人でギルドに来ていたのは、きっと寂しかったからなのかもしれない。

「だから、あたしも二人に感謝しているわ。正直エレナがいないとすることなくてね……」

「ははは、それは俺たちも同じだよ。ゼフィがいると助かるさ」

 ゼフィは物知りで頭も切れる。この町のことも詳しいから、まだサラマンドに来たばかりの俺たちにとって頼りになる存在だ。

「人数は多い方が楽しいですしね!」

「クラウス、リリス……ふふっ」

 照れくさそうに微笑むゼフィを見て、俺とリリスは顔を見合わせて笑った。

「お、ゼフィが笑ったぞ」

「珍しいですね。いつもツンツンしてるのに」

「うっ、うるさいわね! あんたたちまでオデットみたいにからかわないでよ、もうっ!」

「あははは」

「わ-、ゼフィさんが怒ったー」

 これから危険な作戦に臨もうとしているとは思えないほど、静かな商業通りを俺たちは和気藹々と歩いていた。


 ◇◇◇◇◇


 商業通りを北に抜け、更に人通りの少ない裏路地の方へと進む。

「この通りが、例の?」

「ええ、町の住人からは暗黒街と呼ばれているわ。盗賊や暗殺者がうろつく危険なエリアよ。脱法魔法石やら殺しの依頼やら何でもありの、普通の人ならまず近づかない場所ね」

「情報屋さんもいるんですよね?」

「そうね。今朝襲われた冒険者もここで一人で情報を集めていたらやられたらしいわ」

 看板の掛かっていない怪しげな店や見るからに営業許可を得ていなさそうな露店が並び、ボロを纏ってブツブツと独り言を呟く老人が徘徊している。けっこう冷えるというのに、薄着の上に毛皮のガウンだけを羽織っている女性なども建物を出入りしている。

 うーん、いかにもな場所だな。

 こんな時間でも露店はいくつか営業しているし、建物の灯りがそこかしこから漏れ出している。
 表の通りとは対照的に、この時間だからこそ活動的になるエリアなのだろう。
 王都にもスラム街や暗黒街は存在したが、辺境のこの町にもこんな場所が存在したとはな。

「あちこちに立ってる、黒い帽子を被っているのが情報屋よ。手分けして……て、手当たり次第声をかけてみましょう……」

「ゼフィ、大丈夫か?」

 明らかにゼフィの様子がおかしい。
 声が震えている。

「だ、だだだ大丈夫よ、心配しないで」

「お前、ここに来るの初めてなんじゃないか?」

「そ、そうだけど……」

 まぁ無理もないことだ。こんな場所、本来は十五歳の少女が足を踏み入れるようなところではないからな。

「ゼフィさん、無理しないで良いんですよ? ギルドで待っててくれても……」

「あ、あたしだってこれでもA級冒険者なのよ。その辺のチンピラなんか怖くないわ。……それに、オデットのことも心配なのよ。ギルドでじっとしているなんて嫌だわ」

 毅然たる態度でゼフィは言った。

「リリスだって、あたしと三つしか変わらないじゃない。子供扱いしないでよね」

「そうですね……ふふ、ごめんなさいゼフィさん」

 やれやれ。背伸びしたいお年頃といったところか。
 だが、ゼフィもオデットのことを心配しているというのが痛いほど伝わってきた。

「だが、犯人はA級一人とB級二人を同時に相手できるほどの腕前だ。実力はS級冒険者クラスだと思って差し支えないだろう。手分けして聞き込みをすると言っても、ゼフィを一人にすることはできないぞ」

「どうする? 三人で固まって聞き込みをするのはここじゃ目立つし効率が悪いわ」

「そうだな、俺とゼフィが二人組で……リリスには一人で聞き込みをしてもらって良いか?」

 ジョーキットには辛うじて勝てたとはいえ、やはりS級クラスが相手なら今の俺でも心許ない。
 ゼフィと二人組でちょうど良いくらいだろう。

「はい、お任せください!」

「リリス、一人で大丈夫なの?」

「リリスは今はA級だけど、実質S級以上の強さだ。問題ないよ」

 少なくともこの町にリリスに勝てる相手がいるとは思えない。

「犯人に遭遇したときの為に、合図を決めておきませんか?」

「そうね……ファイアを上空に向かって撃つというのはどう? リリスも魔法使えたわよね?」

「使えますよ。それで良いと思います」

「ああ、それで行こう」

 作戦の流れは決まった。

 そのへんにいる情報屋に聞き込みをし、犯人をおびき出す。
 犯人を発見し次第上空に魔法で合図を出し、合図を確認したらその場所に集まり、三人で犯人を倒す。
 倒した犯人に話を聞き、ナディアさんやオデットに関する情報を持っていないか聞き出す。

「何か疑問点はないか?」

「大丈夫よ」

「問題ありません」

「各々、決して無理をしないことだ。ヤバそうならすぐに声や魔法で助けを呼んで、可能であれば逃げること」

 ゼフィとリリスは頷いた。

「よし――では、作戦開始だ」
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

世界最強の賢者、勇者パーティーを追放される~いまさら帰ってこいと言われてももう遅い俺は拾ってくれた最強のお姫様と幸せに過ごす~

aoi
ファンタジー
「なぁ、マギそろそろこのパーティーを抜けてくれないか?」 勇者パーティーに勤めて数年、いきなりパーティーを戦闘ができずに女に守られてばかりだからと追放された賢者マギ。王都で新しい仕事を探すにも勇者パーティーが邪魔をして見つからない。そんな時、とある国のお姫様がマギに声をかけてきて......? お姫様の為に全力を尽くす賢者マギが無双する!?

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

【鑑定不能】と捨てられた俺、実は《概念創造》スキルで万物創成!辺境で最強領主に成り上がる。

夏見ナイ
ファンタジー
伯爵家の三男リアムは【鑑定不能】スキル故に「無能」と追放され、辺境に捨てられた。だが、彼が覚醒させたのは神すら解析不能なユニークスキル《概念創造》! 認識した「概念」を現実に創造できる規格外の力で、リアムは快適な拠点、豊かな食料、忠実なゴーレムを生み出す。傷ついたエルフの少女ルナを救い、彼女と共に未開の地を開拓。やがて獣人ミリア、元貴族令嬢セレスなど訳ありの仲間が集い、小さな村は驚異的に発展していく。一方、リアムを捨てた王国や実家は衰退し、彼の力を奪おうと画策するが…? 無能と蔑まれた少年が最強スキルで理想郷を築き、自分を陥れた者たちに鉄槌を下す、爽快成り上がりファンタジー!

防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました

かにくくり
ファンタジー
 魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。  しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。  しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。  勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。  そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。  相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。 ※小説家になろうにも掲載しています。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

処理中です...