パーティーを追放された落ちこぼれ死霊術士だけど、五百年前に死んだ最強の女勇者(18)に憑依されて最強になった件

九葉ユーキ

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第二章

第42話 死霊術士と美少女魔術師、刺客を追跡する

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 黒装束の仮面の男はナイフを持った両腕をだらんと下げ、こちらに身体の正面を向けた。
 ざっと見たところ、かなり上背のある男だ。俺より一回り背が高いくらいか。だが体格はどちらかというとほっそりしており、ひょろりとしている。

 すぐに向かってくるかと思いきや、男はこちらを観察しているのか、距離を取ったまま動かない。
 向こうは一人、俺たちは二人だからな。そう易々と突っ込んではこれないか。

「リリスに合図を出すわ!」

「ああ、頼む」

「ファイア!」

 ゼフィがファイアの魔法を発動すると、火の球が上空に打ち上げられた。

「どうするの、クラウス?」

 ゼフィが小声で言った。

 仮面の男はじっとこちらを静観している。
 仮面で表情が見えないのが不気味だ。

「リリスが来るまで俺たちで時間稼ぎだ」

 俺はコートの内ポケットからナイフを取り出し、鞘を外した。
 今日の昼間にギルドの二階の武器屋で購入したものだ。
 武器屋の主人によると、これは普通のナイフとしてはもちろん、魔力伝導率の高い素材で作られているので魔法を使う際の媒体としても役に立つらしい。
 店には長剣などもあったのだが、初めて武器として本格的に刃物を扱うならナイフがおすすめだとリリスに言われて選んだのだ。
 以前使っていたしょぼいナイフとは重量感も質感も大違いだ。宝石のように光る青い刃と、無骨な黒い柄が美しい。

「見たところ、奴はナイフ使いだ。距離を取って魔法で戦おう。ゼフィは俺の後ろから魔法で援護してくれ」

 ゼフィは生粋の魔術師だ。彼女が接近戦ができない以上、俺が前に出て戦うしかない。
 しかし俺も身体能力はかなり強化されているとはいえ、剣やナイフの扱いに関してはほとんど素人同然なので極力近づきたくはないんだけどな。
 リリスに憑依されていたときの感覚を思い出せば、ある程度の扱いはできるとは思うけど。

「わかったわ――って、あいつ……逃げていくわよ!?」

「くっ! 追うぞ!」

 仮面の男は踵を返したかと思うと、何と反対側へ走り出したのだ。
 どういうことだ。
 情報屋を使い、クエスト参加者である俺たちを炙り出して始末する為に現れたのではないのか?

 いずれにせよ、ここで奴を逃がしてしまうわけにはいかない。

 俺たちは慌てて男を追いかけた。

 しかし仮面の男の脚力は凄まじく、徐々に距離が離されてゆく。
 このままだとまずい。

「ゼフィ、あいつの足を凍らせられるか!?」

 炎系の魔法と回復魔法はリリスが使っていたので、感覚を共有していた俺も使えるのだが、冷気魔法に関しては魔力を練る感覚さえわからないのだ。
 しかも下手に街中で炎魔法を撃ってしまえば、火事になってしまう恐れがある。
 ここはゼフィに任せるしかない。

「――やってみるッ!」

 そう言って、隣を走るゼフィは手に持った杖を仮面の男へ向けた。

「アイス!」

 杖先から発せられた冷気が仮面の男の左脚部に届くと、男の左足は凍りつき、その場で転倒した。

「よし、うまいぞゼフィ!」

「と、当然でしょ? あたしはA級冒険者よ!」

 これなら追いつける――そう思って気を緩めた俺たちの目に飛び込んできたのはとんでもない光景だった。

「え、嘘……?」

 何と仮面の男は手に持ったナイフで凍った左足を切り落としたのだ。
 そして切断面を地面につけて立ち上がると――再びそのまま走り出した。

「あれは……まさか、再生しているのか!?」

 目を凝らすと、切断面から新しい足が生えてきているのがわかった。
 切断面は血を撒き散らしながらぐちゃりと痛々しい音を立てていたのに、いつの間にか綺麗に足が生え替わり、ぺたぺたという足音に変わっている。
 これで確定した。奴は人間ではない。
 すると、やはり奴がナディアさんと結託しているという魔物なのだろうか。

「このままじゃ逃げられるわ……ブリザード!」

 ゼフィの杖から猛烈な吹雪が飛び出し、仮面の男を目がけて吹き荒れた。

 だが仮面の男は一瞬だけこちらを振り返ると両手のナイフを振り回し、吹雪をかき消してしまった。

「何が起きたんだ!?」

「ナイフに熱気を纏わせたんだわ……あいつ、魔法も使えるのよ……」

「何だと……」

 あの身のこなしに加えて魔法まで操れるのか。

「クソッ……サンダー! サンダー!」

 ゼフィは仮面の男目がけて何度も稲妻を落とした。
 ところが男はそれらをことごとくかわし、なお俺たちとの距離を離してゆく。

「ど、どうして当たらないのよ!?」

「ゼフィ、落ち着け。闇雲に魔法を撃っても消耗するだけだ!」

 ただでさえ全力疾走しつつ魔法を撃っているのだ。
 ゼフィの息は乱れ、走る速度も徐々に落ちてきている。

「じゃあ、どうするのよ!? あいつをここで逃がすわけにはいかないわ! このままじゃ距離を離される! リリスもまだ来ないみたいだし――」

「大丈夫だ。俺に手がある」

 パニックになっているゼフィを落ち着かせるように、俺はできるだけ平静な声で言った。

「……え?」

「これだけ走ったんだ。そろそろ暗黒街を出るはずだよな?」

「そ、そうだけど、それがどうしたのよ?」

 確かに、俺は地図で見た。
 暗黒街を西に抜けた先、そこにあるのは――

「――見えてきた」

 霊園だ。
 広大なユリルドローム邸の敷地の傍らに、ひっそりと広がるサラマンド霊園。

 両脇の建物がフッと途切れ、俺たちは暗黒街を抜けると同時に霊園に足を踏み入れた。

 俺は仮面の男を視界に入れたまま、足を止めた。
 俺が止まったことに気がついたゼフィも、俺の方を振り返って立ち止まった。

「クラウス、何してるの? 逃げられるわ!」

 俺は目を閉じ、魔力を練り――死霊術士の術の一つ、探知を発動させた。

「はぁ、はぁ……俺はお前ほど若くないんだ。二十代も半ばになるとな、途端に体力が落ちるんだよ……こんなに走ってられるか……」

「はぁ!?」

 脳内イメージに、次々と明かりが灯ってゆく。
 霊魂が自分たちの存在を示すように、ポツポツと青白い明かりを発しながら、その居場所を俺に伝える。
 ここは霊園だ。当然と言えば当然だが、彷徨える霊魂はたくさんいるようだ。

 よし、これだけの霊がいるなら問題ない。

 そして、ここの墓の形状。
 上部が三角形になるように削られた墓石……これは、土葬をする墓地の特徴だ。

 やれやれ、こんなことはあまりやりたくはないが、奴に逃げられるわけにもいかない……やるしかないか。

 深呼吸し、俺は意を決して――

「迷いし霊魂よ。未だ死界への道を知らぬ霊魂よ。我が汝に道を示さん。霊魂よ、我に追従せよ」

 使役の術を発動した。

「く、クラウス……何を言って……ッ!? え!? こ、これは……!?」

 ボコッ、ボコッ、という鈍い音が辺りからしきりに聞こえてくる。
 音とともに、墓石を倒して地中から這い出てきたのは――骸骨や、腐って朽ちた死体だ。

 かつて死霊術士が当たり前のように存在した頃、あれらはスケルトンやゾンビと呼ばれたらしい。

 カチカチと乾いた音を立て、人形のように不格好に歩くスケルトン。
 不気味な声を発しながら、グチャグチャと身体を軋ませて蠢くゾンビ。

 視界に入るだけでも、ざっと百体ほどのスケルトンとゾンビが姿を現した。

「な、何よ、これ……な、何が起きてるの……?」

 俺が呼び出した悍ましい死霊軍団を、顔を真っ青にして見つめるゼフィ。
 なるほど、五百年前に死霊術士が滅ぼされた理由もわかる気がした。

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