パーティーを追放された落ちこぼれ死霊術士だけど、五百年前に死んだ最強の女勇者(18)に憑依されて最強になった件

九葉ユーキ

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第二章

第43話 死霊術士、死霊軍団を従える

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 辺りにはスケルトンとゾンビが右往左往する悪夢のような景色が広がっている。

「ま、まさか……こいつら、魔物……!?」

「いや、ゼフィ。彼らは味方だ」

 身構えるゼフィを手で制する。

「味方って……一体何が起きてるのよ? あんたが何かしたの?」

「ああ。俺たちの脚で追いつけないのなら、彼らに捕まえてもらう」

 とは言ったものの、やはりゼフィは理解が追いつかないのか、疑問符を浮かべた表情で俺を見た。
 悪いなゼフィ。今は説明している暇が無いんだ。

 俺は目を閉じ、霊魂たちの視界へ接続した。

 ……居た。

 霊園のちょうど中心部……大きな慰霊碑のあたりに、仮面の男が立っているのが見えた。
 どうやら周囲に現れたスケルトンとゾンビの群れに驚いて足を止めているようだ。

「行け。そいつを取り囲め」

「え?」

「いや、こっちの話だ。気にするな、ゼフィ」

 俺が命令を下すと、秩序なく彷徨っていたスケルトンとゾンビがくるりと向きを変え、仮面の男の方へと進軍を始めた。

「あいつら、急に向きを変えたわ……?」

「皆、俺たちに協力してくれているんだ。さあ、俺たちも彼らが進む方角へ行こう」

 カラカラ、グシャグシャという不気味な音を立て、時折「ウゥ」と唸り声を上げながら、死霊たちは歩みを進める。

「わ、わかったわ……」

 俺たちは再び駆けだした。
 目指すは中心部の慰霊碑だ。

「ほ、本当に……攻撃してこないわね……」

 ゼフィは俺たちに見向きもしないスケルトンたちを不思議がって周りを見渡している。

「彼らは俺たちの味方だからな」

 スケルトンやゾンビの群れを掻き分けながら、俺たちは走る。

 走りながら目を閉じ、再び慰霊碑付近の死霊の視界に接続してみる。
 どうやら死霊たちは無事に仮面の男を取り囲んだようだ。
 仮面の男は手に持ったナイフでスケルトンとゾンビに応戦している。 
 一体一体のスケルトンたちは呆気なくやられてはいるが、そのあまりの数の凄まじさに仮面の男は手こずっているようだ。

「……居たわ! 慰霊碑のそばよ!」

「よし――このまま奴を生け捕りにするぞ!」

「了解!」

 正面に慰霊碑があり、その傍らで仮面の男が応戦しているのが確認できた。
 慰霊碑は、ちょうど大人の男三人分くらいの高さと幅だろうか。

「奴はまだこちらに気づいていない。今から俺が跳んで奇襲をかける。ゼフィは援護を頼む」

「それは良いけど……跳ぶって、まだ距離があるし……周りは骸骨だらけじゃない!?」

「大丈夫だ。とにかく、援護は任せたぞ」

 俺はその場で跳躍した。

「道を作れ!」

 俺の命令で、周辺のスケルトンとゾンビは掌が上になるように両腕を掲げた。
 その掌を足場にし、俺はスケルトンとゾンビの群れを跳躍しながら進む。

 絶え間なく襲ってくる死霊たちを、ナイフと魔法で必死に撃退する仮面の男がはっきりと見えた。

 よし、射程圏内に入った。もう目と鼻の先だ。
 ここから一跳びで、奴のところまで届くはず。

 俺は脚に力を込め、勢いづけて大きく跳んだ。もちろん右手にはナイフを構えてある。

 仮面の男はようやく俺の存在に気がついたのだろうか、表情の見えない仮面をこちらに向けて俺を見上げた。
 だがもう遅い。

「ウラァッ!」

 落下しながら、俺は仮面の男の顔面を蹴りつけた。蹴りの衝撃で男がナイフを落とす。
 その勢いのまま転倒した男にのしかかり、マウントポジションを取った。
 間髪入れずにナイフを男の太股に突き立てると、痛みからか仮面の男は身体をのけぞらせた。
 両脚の腱を切り裂いて移動を封じた後、俺は男の右腕を取って両脚で挟み、折った。以前、雑談しているときにリリスに教わった腕ひしぎ十字固めとかいう関節技だ。右肘を反対側に曲げたまま、仮面の男は「うぅっ」と呻いた。想像していたより高い声だ。
 左腕にも同じ技を極めると、男はとうとう四肢の自由が利かなくなった。もっとも、切断した足が治癒するくらいだからこれもそう長くは保たないだろうが。

 傍らに落ちている、仮面の男が使用していた二本のナイフを手に取ってみた。黒い刃身の珍しいナイフだ。ざらざらしたようなつるつるしたような、どちらともつかない不思議な肌触りをしている。
 取り返されてはまずいので、俺はそれを遠くへ投げた。

 ちらっとゼフィが居た方を見ると、スケルトンたちの脚の向こうにゼフィの黒いブーツが見えた。すぐ近くだ。

「クラウス! 大丈夫!?」

「ゼフィ! ここだ! 後は頼む!」

「任せて!」

 ゼフィがスケルトンの群れを掻き分けて、慰霊碑の前に現れた。

「バインド!」

 ゼフィがそう唱えると、杖の先から紫色の奇妙なロープのような物が現れて、俺の下で呻いている仮面の男の胴体をぐるぐる巻きにした。
 これが捕縛魔法か。聞いたことはあったが、実際に見るのは初めてだ。
 一度この魔法で縛られると、滅多なことが無い限り外れないらしい。もっとも、縛るには対象をかなり弱らせる必要があるようだが。

「はぁ、はぁ……これなら、もう逃げられないでしょ……」

 膝に手をつき、肩で息をしながらゼフィは言う。

「あぁ……骨が折れたが、何とか捕まえられたな」

 骨が折れた……といえば、周りのスケルトンとゾンビたちだ。
 もう彼らは必要ない。あるべき場所に還ってもらおう。

「彷徨う霊魂よ。迷える霊魂よ。我が汝に道を示さん」

 スケルトンとゾンビはピタリと動きを止め、この場から散開した。
 自らが眠っていた元の墓穴へと戻っているのだ。
 仮面の男の攻撃によって地面に散らばっていた骨や肉片も、地面を這ったり宙をゆらゆらと浮いて元の場所へと還っていった。

 死霊たちで賑やかだった霊園は、あっという間に静かになった。

「な、何だったのよ、今の……」

「説明は後だ。それより――」

 俺の下で、両腕をあらぬ方向へ曲げ、脚から血を流して呻いている仮面の男。

「あんたは、いつまで仮面を着けているんだ? 行儀がなってないんじゃないか?」

 俺は男の顔面から仮面を剥ぎ取った。

「――なっ!?」

「う、嘘でしょ!?」

 仮面の下に隠されていた顔が目に入ったとき、俺はその視覚情報をすぐには処理できなかった。
 俺が抱いていた多くの思い違いと、目の前にある現実とのギャップを容易に埋められなかったのだ。

 そう、俺たちは思い違いをしていた。

 仮面の下にあった顔は、凶悪な魔族の顔なんかではなく、そもそもですらなかった。
 そこには苦悶に歪んだ人間の女性の顔があったのだ。

 黒い頭巾の下からは、見覚えのある若葉色の髪の毛が覗いている。
 そっと頭巾を外すと、長い髪がふわりと舞った。

 まさか、彼女が――。

「ナディア……さん?」

 そう、仮面の男――いや、仮面の女の正体は、ナディアさんだった。
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