パーティーを追放された落ちこぼれ死霊術士だけど、五百年前に死んだ最強の女勇者(18)に憑依されて最強になった件

九葉ユーキ

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第二章

第45話 美人薬師、正体を明かす

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「えぇっ!? な、ナディア様が魔族と……?」

 エレナは俺の質問自体に驚いている。ゼフィの言っていたとおり、やはり彼女は今回のクエストのことを知らなかったようだな。

「もちろん、そんなのはデタラメだ。流言デマだよ」

 ナディアさんははっきりと言い切った。

 信じたいのはやまやまなのだが、そうあっさりと彼女の言葉を鵜呑みにすることもできない。

「暗黒街の情報屋が、あなたが危険な薬物を捌いているのではないかと言っていました。魔族との特別なルートで素材を仕入れ、その素材で作った薬を売って魔族と連携していると」

「それもデタラメだ。しかし、以前からそういう噂があったのは事実だ。私の薬の効き目が凄すぎたんだろうな。ヤバいもんが入ってるんじゃねぇかとか、魔族と組んでるんじゃねぇかとか、そういうあることないこと言う連中は居た。だが、私は危ねぇ薬なんて作ってもいないし、売ってもいない。これだけは薬師として、誓って言える」

「でも、暗黒街の情報屋を利用していましたよね? 彼らは魔族と繋がっているあなたを恐れていたから従っていたのでは?」

 情報屋は、ナディアさんのことを探る俺たちを見つけたことを葉巻で合図を出してナディアさんに教えていた。彼女が情報屋と組んでいなければ説明がつかない。

「噂を利用させてもらったのさ。暗黒街の奴らは、私が魔族とグルになってるヤバい奴だと勝手に思い込んでやがるからな。私が命令すれば大抵のことは聞くんだよ。いずれ、私を捜している奴らが暗黒街に来ることはわかっていたから、情報屋を買収して味方につけておいたのさ」

「あなたを襲った暗黒街の者はすべて消されたと聞きました。情報屋は、魔族の仕業だと言ってましたが……」

「それは私だ。襲ってきた奴らは全員、私自身の手で消した。魔族の手なんて借りちゃいねぇよ」

 魔族の手なんて、と言うときに語気が少し強くなったのは気のせいではないだろう。
 ナディアさんの中にある魔族への憎悪めいたものが垣間見えたような気がした。

「私が戦闘もできるってことを知ってる奴はいなかったからな。まさか薬師の私が一人で返り討ちにしていたとは誰も思わなかったんだろうよ」

 俺は、暗黒街と霊園で見たナディアさんの姿を思い出した。
 俺とは比べものにならないスピードに、ゼフィの魔法を軽々といなした身のこなし。
 紛れもなくS級冒険者レベルの戦闘能力だった。
 確かに、あれだけの強さを持った人であれば暗黒街のゴロツキや暗殺者程度では相手にならないだろう。

「ということは、昨夜と今朝、冒険者を襲ったのは……」

「私だ。悪いとは思ったが、私も捕まるわけにはいかねぇからな。口止めさせてもらったよ」

 疑問が一つ解けた。
 襲われた冒険者が一人も死んでいないことが不思議だったのだが、襲ったのはあくまで口止めをする為だったのか。
 もちろん冒険者を怪我させたこと自体は褒められたことではないが、もしナディアさんが謂われのない罪で追われることになっているのだとしたら、身を守るために自分を狙う冒険者を襲ったことはやむを得ないことかもしれない。

 暗黒街で俺とゼフィから逃げたのは、知人である俺たちと無用な戦闘をしたくなかったからだろう。
 情報屋の合図を受けて襲ったまでは良いものの、そこにいたのが俺たちだと気づいたからその場から去ることにしたのだろう。
 もし彼女が我が身可愛さだけで動いていたなら、俺たちはあのまま戦闘に突入していたはずだ。

「昨日、俺たちはあなたの薬屋に探りを入れに行きました。そのとき俺たちを襲ったのもあなたですか?」

「……あぁ、そうだ」

 一瞬、妙な間があったが、ナディアさんは頷いた。

「あ、ランプの明かりが弱くなってますね。油を足しますわ」

 ナディアさんの視線に気づいたエレナが、立ち上がってランプを手に取った。
 どうやらナディアさんは天井のランプが消えかかっているのが気になっていたようだ。

 手際よくエレナがランプに油を足し、天井にかけた。

「他に聞きたいことはあるか?」

 ナディアさんの主張はこうだ。
 まず、クエスト募集書に記載されていた内容は全てデタラメだということ。
 そして、暗黒街での悪名も、ナディアさんの薬師としての腕や戦闘能力を知らない者たちが流した謂われのない浮説にすぎないということ。

 彼女の主張は辻褄が合っているように思える。
 そもそも彼女が魔族と通じていると思われてしまった原因の一つが、彼女を襲ったものたちがことごとく消されたという点だ。しかし彼女がS級冒険者並みに強いということが判明した以上、それは理由にはならない。彼女自身で刺客を撃退できれば魔族の協力など必要ないからだ。

 だが――何かが引っかかる。

 俺が引っかかりの原因を探していると、黙っていたゼフィが片手を少しだけ挙げて口を開いた。

「あの、ナディアさん。悪いとは思ったんですけど……昨日、あたしたち、ナディアさんのお店の中を調べたんです。そこで、黒い爪を見つけて……」

 相手の出方を窺うようにゼフィは言葉を切ったが、ナディアさんは答えない。

「あの爪、アルマウト族の爪らしいですね」

 そうだ! それだ。
 俺が感じていた引っかかりの正体がわかった。

「……それがどうかしたか? そこまで知ってんなら、あれが薬の材料だってこともわかってんだろ?」

「ええ。ですが……あれは確か物凄く高価なものだったはずです。少なくとも、あたしが読んだ本にはそう書いてありました。アルマウト族は約百年前に絶滅した種族で、現存する爪は限られているから、とても貴重な素材だって……」

 そこだ。
 ナディアさんの部屋の引き出しには、高価で貴重なはずのアルマウト族の爪がたくさん入っていたのだ。
 ナディアさんがとんでもない億万長者でもなければ、あれの説明がつかない。

「あの素材、どうやって手に入れたんですか?」

 ゼフィが核心に迫る質問をぶつけると、ナディアさんは何も言わず、背もたれに体重を預けた。椅子がぎい、と軋む。

「答えてください、ナディアさん」

 ゼフィに続いて俺も問いかけた。
 この質問に答えられないようなら、俺たちの中にあるナディアさんへの疑念が晴れることはない。
 何としても答えてもらわねばならない。

 空気が張り詰める。

 すると――。

「はぁ~……。やっぱりそうなっちまうか……」

 場の緊迫した空気を破るように、ナディアさんは脱力してテーブルに頭を乗せた。
 この場の空気にもナディアさんの端麗な容姿にもそぐわない子供っぽい仕草に、俺は拍子抜けした。

「ナディアさん?」

 俺の問いかけには答えず、ふう、と息を吐いて、ナディアさんは上体を起こした。

「今まで隠してきたんだけどなぁ……やっぱ、話さなきゃ駄目か?」

 そう言って、まるで子供がおどけるときのように首を傾けて苦笑いを浮かべ、俺たちの顔を見るナディアさん。

「そ、そりゃあそうですよ。あの爪のことも、ナディアさんへの疑いの原因の一つなんですから。裏を返せば、爪のことを話して頂ければ俺たちの中にあるあなたへの疑いはほとんど晴れるんです」

「そうか……。なら仕方ねぇか……。このことは私たちだけの秘密だからな?」

 観念したのか、ナディアさんはそう言ってため息をついた。

 一体どんな話が飛び出すんだ?

 俺は生唾を飲み込んだ。

「クラウス。悪いんだが、私の手袋を外してくれねぇか? 身体は縛ったままで良いからよ」

「え? は、はい」

 手袋を外す?
 予想していなかった発言に俺は戸惑ったものの、言うとおりにすることにした。

 ナディアさんは椅子から立ち上がり、テーブルに背中を向けて立った。
 後ろ手になった腕がちょうど俺たちに向くような体勢だ。

「では、失礼します」

 俺はナディアさんの背後に立ち、彼女の左腕に手をかけた。
 彼女が着ている黒装束の袖は手首までを覆っており、手首から先には黒い手袋がつけられていた。
 思えば、一昨日薬屋で彼女に初めて会ったときもこんな手袋をつけていたな。綺麗な容姿とは裏腹に無骨な手袋をつけているなぁと思った記憶がある。

「これを外せば良いんですね?」

「ああ……」

 ナディアさんの返事をする声が少し震えているのが気になったが、俺は彼女の左腕の手袋に手を伸ばした。
 袖と手袋の境目に指を引っかけると、すべすべした地肌に指が触れて少しどきっとした。
 なるべく雑にならないようにゆっくりと手袋を下におろそうとすると、引っかけている指が何かざらざらしたものに触れたことに気がついた。

 何だ? この感触。

「……気づいたか?」

 俺が違和感をおぼえたことを察したのか、ナディアさんが言った。

「いえ、何かが手についているな、と思って……」

「いや、そうじゃない」

「え?」

「とにかく手袋を外してくれ」

「は、はい」

 ええい、もうどうにでもなれ。

 俺は手袋をおろしきった。

「……え?」

 その光景に、俺は自分の目を疑った。

 ナディアさんの手首から先にあるのは、普通の手ではなかったからだ。
 明らかに人間の手ではない。まるでドラゴンの手のようにごつごつしており、ランプの明かりを反射して黒光りしている。
 指先からは、削られたばかりの鉱石のように尖った黒い爪が伸びている。

「……これが私の正体だ。そして……アルマウト族の爪を大量に持っている理由、だな」

 背中をこちらに向けたまま、ナディアさんが言った。抑揚のない、平坦な声だ。

 ゼフィとエレナからもナディアさんの手が見えたのか、二人も言葉を失っている。

「もうわかったろう? 私は――アルマウト族の生き残りなんだよ」
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