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#2 Life is strange 〜そりゃ人生は不思議だがお前に言われたくなかった(3)
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貴明の部屋。一人暮らしの学生の部屋にしては、存外に小綺麗でさっぱりしている。というよりも、そう感じるのはそもそも楽器以外の家具があまりないからだ。壁はキーボードと、ラック入りのミキサーやエフェクター類、カセットMTR、無数のケーブルで埋め尽くされている。生活感の薄い、まったくもってふざけた部屋である。
「うわーオタク感満載。充満する宅録オタクスメル」
最近の貴明は部屋に帰ると意味もなく、最近買ったお気に入りのショルダーキーボードコントローラー・コルグRK-100を抱えている。この時も自然にそれを抱えて話し始めた。
「俺の部屋はいいんだ。まずはあのドアだよ。どこぞのドアを開けたくらいで異世界にぶっ飛ばされるというのなら、俺はこの先まともに暮らせねえじゃねえか」
「どこぞのってお前ね、神のゲートを青猫ロボのパチモンみたいに言うかね」
「俺はそんなの望んでないの。まあでも、初めのうちは楽しかったかな」
「そうでしょ。貴様のごときヘタレはもう一生体験できない、憧れの美女との一夜だよ」
「一貫して扱いが悪いままだが、まあいい。なぜかというと慣れてるからだ。でも、あの時は確かに少し楽しかったけど結局何もなかったし、戻っても紗英はあの通り冷たいままだろ。一体何がしたいんだよ」
「そうね。このバ、いやこの男にはどう言ったらわかるか…、そう、アザーサイドは基本的には寸止めなのよ。エクスペリエンストが本懐を遂げそうになったり、望みが叶いそうになると、ドアからこっちの世界に半強制送還しちゃうの」
「もはや俺の扱いには突っ込んでやらないが、なんだそのいろいろナメた設定は?」
風呂場の安っちいドアがそれか。てか寸止めの神様ってどういうつもりだ、ふざけすぎにも程があるだろう。
「いいかい。例えばあの時、お前と紗英がデキちゃったとするわな」
「エクセレントじゃねえか。何がいけないんだよ。普段はともかく、あんなに素直で可愛い紗英なら俺は何一つ文句ない」
「そうはいかないさ。アザーサイドは異世界なんだよ。都合がいいからって居続けたら、どうなると思う?」
「丸く収まる以外の想像がつかないけど…何か問題でも?」
「ばーーーーか。じゃあこう言えばわかるかな。こっちの世界にお前がいなくなったら?」
「あ…」
貴明は人嫌いの偏屈者だ。そうはいってもいきなり失踪すればタダでは済まない。両親をはじめ、透矢や学校の連中が心配しないはずはないだろう。
そして何よりも妹の澄香だ。自分が突然いなくなることで、澄香を悲しませることになったら?貴明はたぶん、決して自分自身を許さないだろうと直感した。
「なるほどな。俺なんかどうでもいいと思うこともたまにあるけどさ。実際に消えればそれなりに…」
「そう。そこに気づけるかどうかは大事だよ。人生は不思議だね。何事もない方がいいんだろうけど、それじゃ日常の価値に気づけないんだよね。うんうん」
貴明は少しだけ、身勝手な考えを恥じる。だがそれもつかの間…
「おいコラ。一瞬納得しかけたけどよ、なら最初から、どこぞのドアで中途半端な幸せを味わう意味はないんじゃねえか?グダグダでも日常が続けばいいじゃん」
「あれ?気づいちゃった?うはは、うははは」
「ごまかすなー!そもそもお前に人生語られてもな」
「まあそう言うな。事実あれがあったおかげで、周囲の大切さが少しはわかったでしょ?」
「…そりゃそうかもしれんけど」
「けど?」
「あの状況で最後までいけないってのは、いくらなんでもさ」
「そんなに紗英としたかったの?うふ」
梨杏は、会ってから最高に悪く面白そうな笑顔で、貴明に詰め寄る。
「いや別に………。い、いやしたかたですもうしわけござませんうそつきました」
「正直でよろしい。若者はそうでないとな」
若者という言葉を聞いて、貴明は思い出したようにまくし立てる。
「そうだ!あとはお前だよ。使い魔なのはどうにか理解してやるけど、ガキのくせにそんなに偉そうでしゃべりがおばさんくさいのは、一体どういうわけだ?」
「だから使い魔じゃねっつの!それにガキってねえ、まあ…人間基準なら確かに私はまだ子どもかもしれんけどね。年齢など意識したこともないし、この姿も仮の姿だけど、人間の尺度でいえば千年くらい前から私は存在してるらしいから」
「な!おばさんどころか、ば、ば、ばば…いやむしろ木乃伊…」
「あ“あ“あ“ーん?今この場で地獄のロックファイアーなドアにブチ込んで、錯乱のドライブで地獄に道連れにしてやろうか?」
「もういいです。ソー・タイアードでアイム・ダウンです。理解しないと死ねそうなので、私はすべて受け入れます」
「やっと素直になったわね」
ここに至り、心身ともにすり減りまくる貴明であった。
「うわーオタク感満載。充満する宅録オタクスメル」
最近の貴明は部屋に帰ると意味もなく、最近買ったお気に入りのショルダーキーボードコントローラー・コルグRK-100を抱えている。この時も自然にそれを抱えて話し始めた。
「俺の部屋はいいんだ。まずはあのドアだよ。どこぞのドアを開けたくらいで異世界にぶっ飛ばされるというのなら、俺はこの先まともに暮らせねえじゃねえか」
「どこぞのってお前ね、神のゲートを青猫ロボのパチモンみたいに言うかね」
「俺はそんなの望んでないの。まあでも、初めのうちは楽しかったかな」
「そうでしょ。貴様のごときヘタレはもう一生体験できない、憧れの美女との一夜だよ」
「一貫して扱いが悪いままだが、まあいい。なぜかというと慣れてるからだ。でも、あの時は確かに少し楽しかったけど結局何もなかったし、戻っても紗英はあの通り冷たいままだろ。一体何がしたいんだよ」
「そうね。このバ、いやこの男にはどう言ったらわかるか…、そう、アザーサイドは基本的には寸止めなのよ。エクスペリエンストが本懐を遂げそうになったり、望みが叶いそうになると、ドアからこっちの世界に半強制送還しちゃうの」
「もはや俺の扱いには突っ込んでやらないが、なんだそのいろいろナメた設定は?」
風呂場の安っちいドアがそれか。てか寸止めの神様ってどういうつもりだ、ふざけすぎにも程があるだろう。
「いいかい。例えばあの時、お前と紗英がデキちゃったとするわな」
「エクセレントじゃねえか。何がいけないんだよ。普段はともかく、あんなに素直で可愛い紗英なら俺は何一つ文句ない」
「そうはいかないさ。アザーサイドは異世界なんだよ。都合がいいからって居続けたら、どうなると思う?」
「丸く収まる以外の想像がつかないけど…何か問題でも?」
「ばーーーーか。じゃあこう言えばわかるかな。こっちの世界にお前がいなくなったら?」
「あ…」
貴明は人嫌いの偏屈者だ。そうはいってもいきなり失踪すればタダでは済まない。両親をはじめ、透矢や学校の連中が心配しないはずはないだろう。
そして何よりも妹の澄香だ。自分が突然いなくなることで、澄香を悲しませることになったら?貴明はたぶん、決して自分自身を許さないだろうと直感した。
「なるほどな。俺なんかどうでもいいと思うこともたまにあるけどさ。実際に消えればそれなりに…」
「そう。そこに気づけるかどうかは大事だよ。人生は不思議だね。何事もない方がいいんだろうけど、それじゃ日常の価値に気づけないんだよね。うんうん」
貴明は少しだけ、身勝手な考えを恥じる。だがそれもつかの間…
「おいコラ。一瞬納得しかけたけどよ、なら最初から、どこぞのドアで中途半端な幸せを味わう意味はないんじゃねえか?グダグダでも日常が続けばいいじゃん」
「あれ?気づいちゃった?うはは、うははは」
「ごまかすなー!そもそもお前に人生語られてもな」
「まあそう言うな。事実あれがあったおかげで、周囲の大切さが少しはわかったでしょ?」
「…そりゃそうかもしれんけど」
「けど?」
「あの状況で最後までいけないってのは、いくらなんでもさ」
「そんなに紗英としたかったの?うふ」
梨杏は、会ってから最高に悪く面白そうな笑顔で、貴明に詰め寄る。
「いや別に………。い、いやしたかたですもうしわけござませんうそつきました」
「正直でよろしい。若者はそうでないとな」
若者という言葉を聞いて、貴明は思い出したようにまくし立てる。
「そうだ!あとはお前だよ。使い魔なのはどうにか理解してやるけど、ガキのくせにそんなに偉そうでしゃべりがおばさんくさいのは、一体どういうわけだ?」
「だから使い魔じゃねっつの!それにガキってねえ、まあ…人間基準なら確かに私はまだ子どもかもしれんけどね。年齢など意識したこともないし、この姿も仮の姿だけど、人間の尺度でいえば千年くらい前から私は存在してるらしいから」
「な!おばさんどころか、ば、ば、ばば…いやむしろ木乃伊…」
「あ“あ“あ“ーん?今この場で地獄のロックファイアーなドアにブチ込んで、錯乱のドライブで地獄に道連れにしてやろうか?」
「もういいです。ソー・タイアードでアイム・ダウンです。理解しないと死ねそうなので、私はすべて受け入れます」
「やっと素直になったわね」
ここに至り、心身ともにすり減りまくる貴明であった。
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