どこぞのドアと澄香とすみか 〜妹と同じくらい好きな彼女が出来たら神と喧嘩する羽目になったのは一体どういう了見だ〜

板坂佑顕

文字の大きさ
25 / 59

#7 New year’s day 〜年始の凛とした空気の中どこまでも彼女は気高く美しかった(1)

しおりを挟む
 今年の締めくくりとなるクリスマスライブ。澄香はやはり来ないが、紗英や理恵のほか同級生数人が観客として集まった。それが証明するとおり、Back Door Menの実力は学内で一目置かれるようになっており、モチベーションは十分だ。クールな透矢もいつになく乗っているようで、汗だくでソロを弾きまくる。ラスト2曲では相棒RK–100を持って前に出た貴明とベースの達哉を加えた3人が絡み、熱気も最高潮だ。

 前に出たことで客席が見やすくなった貴明は、すみかの姿を探す。だがピンクのキャスケットはどこにも見えなかった。

 やっぱり来てない。こないだも気まずかったし…などと考えつつもここはノリに身を任せ、ライブは大盛り上がりのうちに終了した。


「みんな素敵だったよ!やっぱりすごいわあんたたち」

 理恵が興奮した様子でバックステージに乱入し、メンバーの輪に割って入る。理恵はぐいぐい体を押し付けてもおかまいなしで、4人はそのふわふわした感触を味わい感涙にむせぶ。

「ありがとう!理恵ちゃんが応援してくれたおかげだよ」


 相変わらず調子のいい透矢。貴明はしょうがねえなあと周りを見ると、どうも紗英にいつもの勢いがないようだ。

「どした紗英、おかしげな病気でももらったか?」

「何よ失礼ね。あ、今日も良かったわよ。ふん」

「そりゃどうも。いつもみたく、透矢にくっつきに行けばいいのに」

 貴明は笑いながら紗英をからかう。


「うっさいバカ明!私の勝手でしょ」

「変わらずキツイですねー。でも来てくれてありがとな。紗英が見てくれると嬉しいよ」

「ふ、ふん!」


 少し元気のない紗英を気にしつつも、貴明は透矢に目下の関心事を聞く。

「今日はあの娘、来てなかったか?」

「ああ…いたけどほんの短い間じゃないかな。気づいたらいなくなってた」

「そうか…でも来てたのか」

 会えなかったけど、来てくれた。謎が増大する状況であっても、いやだからこそ、それだけで貴明の心は躍った。



 学校は冬休みに入っており、しばらくはバンド活動もないので、仲間たちとは会う機会が少なくなる。なんだかんだ人とのつながりの大切さを実感する出来事が続いたせいか、貴明は珍しくこんな提案をした。

「なあ、来れる奴だけでいいけどさ、2年参りをしないか?大晦日の夜に集まってさ、明治神宮…は混みすぎるから、も少し静かな神社で。どう?」

 言い終わらないうちに、紗英が今日一番の勢いで入ってくる。

「いい!それいい!あんた珍しくいいこと言った!」

「そうだな、このメンツでは最後かもしれないしな」


 達哉の言葉に、一瞬しんみりとした空気が漂う。

「達哉!何言って…じゃそゆことで、幹事は理恵ちゃんにお願いしていいかな」

 透矢が理恵に大役を依頼する。姉御肌で仕切上手の理恵は人望が厚く、理恵なら大丈夫という信頼感がある。

「いいよ!任せなさい」

 こつんと胸を叩く理恵。その癖をわかっている男子はいつも通り胸の揺れに釘付けだ。ついでに、他の女子の笑顔が引きつるのもいつも通りだった。


 貴明はこんな提案をした自分自身に驚いていた。ドアのおかげかもしれないと考えていると、透矢が無駄にヘッドロックをしながら目を輝かせる。

「おいタカアキ、お前が切り出したからには澄香ちゃんも来るんだろうな」

 全員が期待を込めて貴明を見る。澄香は貴明の同級生と頻繁に会うことはなく、数回遊ん
だ程度だ。なのに、みんなが澄香を好きになっていた。愛くるしいルックスに素直な性格。澄香には人を惹きつける天性の魅力があるのだ。

「ええ…どうしようかな。一応声はかけてみるけど、あいつは実家に帰るんじゃないか」

 妹連れに気乗りしない様子の貴明に非難が殺到する。四面楚歌の貴明は、

「わ、わかったわかりましたよ。本人次第だけどなるべく呼ぶから!」

 本人の同意を待たずに慌てて宣言し、どうにか難を逃れた。


 軽い打ち上げが終わり部屋に帰ると、クリスマスの飾りの中に澄香と梨杏がいた。2人は声を合わせて楽しそうに貴明を迎える。

「お兄ちゃん!」「貴明!」

「メリークリスマス!」

 梨杏がサンタ、澄香がトナカイのコスチューム。共にヘソ出しミニスカで無駄にエロい。


「おわっ、なんだその服」

「えへー、可愛いでしょ」

「どうせ梨杏の悪影響だろ。梨杏!澄香に変な格好は…」

「鼻の下伸ばして何言ってんの、むしろナイスアシストであると称えるが良い」

「へいへい可愛い可愛い。てか澄香!このBGM!やっとわかってくれたか。やっぱりダーレン・ラヴが至高だよな!」

「えへへ、去年はビング・クロスビーで古いとか文句言われたからね。フィル・スペクターだって十分古いのにさ、面倒くさ…」

 
 などとひとしきり騒ぎ、クリスマスケーキを囲む3人。

「なあ澄香、年内に実家に帰るつもりだったか?」

「一緒に帰ろ?お兄ちゃんに合わせるよ」

「そうか。いや、なりゆきでさ、大晦日に学校の連中と2年参りを…」

 言い終わらないうちに澄香と梨杏が同時に手を挙げ、同時に答えた。

「私も行く!」「私も行く!」

「それはよかった…って梨杏、お前はどうかと思いますが?」

「酷い!貴明がいじめるよ澄香ちゃん」

「そうだよお兄ちゃん!いいじゃん梨杏さんも一緒で」


 澄香には、苦し紛れに梨杏は後輩ということにしているが当然大嘘。むしろ学校の誰一人として梨杏を知らないのだから、連れて行けば2年越しに悲惨な状況になるのは確実だ。

「でも梨杏、親戚のとこに行くから年末は外国だって言ってたじゃん」

(お前が来ると面倒なんだよ)と、目配せで伝える貴明。梨杏はハッと気づき、渋々承知したようで、

「そ/そうだったねー/じゃ今年は仕方ないかあ」

「う/うん/また来年な」

「なんで2人で棒読みなのよ。まあしょうがないね」
 
 澄香はあまり納得していないが、梨杏が来るのはどうにか阻止できたようだ。本当に余計なことを言うヨゴレ使い魔である。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。

四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……? どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、 「私と同棲してください!」 「要求が増えてますよ!」 意味のわからない同棲宣言をされてしまう。 とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。 中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。 無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

処理中です...