どこぞのドアと澄香とすみか 〜妹と同じくらい好きな彼女が出来たら神と喧嘩する羽目になったのは一体どういう了見だ〜

板坂佑顕

文字の大きさ
29 / 59

#8 Nothing compares 2 U 〜あなたと比べられるものなど何もないなんて一度は言ってみたかった(1)

しおりを挟む
 昂りが治まらないのか、澄香はいつになく甘えた様子でくっついてくる。貴明は離れたがらない妹を寮まで送り届けるが、別れ際、澄香は切なげな表情で、

「お兄ちゃん、あの…新潟に帰るのって明後日だよね」

「うん。明日お前は俺の部屋に泊まって、明後日の朝一緒に新幹線だ」

「じゃ明日行くね」


 やはり、澄香が思いを伝えようと貴明の袖を引っ張る。

「ね!お兄ちゃん、偉かったと思う。紗英さんにちゃんと向き合ってた」

「何言ってんだ、俺は最悪だ。また自分が嫌になった」

「ううん、そんなことないよ。紗英さんはわかってると思う」

「わかんないのはこっちだ。紗英はなんで俺なんかを…ほら風邪引くから早く行け」

「はーい。お休みお兄ちゃん」


 盛りだくさんの年明けの数時間。だが今、心が一番会いたがっている人に関しては何一つ満たされていない。


「すみかちゃん、どうしてるかな」

 元日深夜1時半。すみかも初詣をしているかもしれない。ただしアザーサイドのどこかで。どんなに好きになっても、簡単に声さえ聞けない寂しさに潰されそうだ。仕方なく部屋に帰ろうと、初詣客で混み合う東上線に乗り込んだ。


 …乗り込んだ…はずが、電車のドアをくぐった瞬間に白い光に包まれた。そしていつもの目が廻る感覚。気がついたら神社の境内にいた。
 

 さっきの神社ではない。でもゲートで飛ばされたからには理由が、と辺りを見るが誰もいない。だがおみくじを売る声には聞き覚えがあった。


「こちらの札を引いてください…何番ですか?はいどうぞ」

 なんと、社務所に巫女姿のすみかがいた。白い装束に赤い袴が眩しい。貴明はダウンした気分が一転、おみくじを買うためにいそいそと列に並ぶ。神になど任せないと大言していたポリシーはどうした、ポリシーは。


「おお、おみくじを1杯、いや1本?」

「はいこちら…たたたた貴明さん⁉︎」

 しばし見つめ合い固まる2人。その時社務所の奥から「高嶺さーん、キリのいいとこで休憩入ってね」という声がナイスなタイミングで聞こえた。2人は裏手に移動する。うっそうとした鎮守の森が、そよそよと穏やかで心地よい葉音を立てている。


「貴明さんって、いつも私をドキドキさせるタイミングで現れますよね」

「ご、ごめん、なんでかな、あはは」


 貴明は緊張でしどろもどろになるが、視線はすみかの巫女姿に釘付けだ。赤い袴に合わせたのか、髪を片側で結っている赤いリボンが破壊力満点。いつもの赤いメガネも巫女装束に相応しく、「可憐」「清純」という要素を完璧に具現化している。

「すみかちゃん、巫女さん…可愛いね。驚いた」

「恥ずかしいです…母がここの職員さんと同級生で、中学の頃から巫女のアルバイトさせられてるんです」

「噂には聞いたけどほんとにバイトなんだね巫女って」

「あは、そうですよ。最初は嫌々だったけど慣れました。でも装束が可愛くて、私なんかが着ても…」

「何言ってんのー!むしろ『す巫女』さんと呼ばせてください。いやー、西洋の神はアレだけど、日本の神の美意識は素晴らしい!」


 梨杏の風体や用語からして、ドアを操るのは西洋の神に違いない。神前でどさくさ紛れに和洋の神を比較する、罰当たりな男がここにいた。

「やだもう恥ずかしいよー…」


 貴明はすみかとの再会に舞い上がっていたが、晴らすべき疑念を思い出した。

「すみかちゃん。あのさ、ドアのことなんだけど」

「はい、ゲートのことですよね」

「あまり驚かないんだね」

「だって、貴明さんもエクスペリエンストなんでしょ」

「そこまでわかってたの!」

「はい。あなたが私と同じ能力を持っていることも嬉しくて。だから貴明さんは私の特別なの」

「…いつから知ってたの?」

 すみかはさほど驚かない様子で続ける。


「たぶん、最初に会ったときから」

「まじか…そうだ、ずっと引っかかってたんだ。池袋のホテルで助けてくれたのって」

 すみかは微笑みながら、

「そう、私です」


 殺されかかった池袋の森村ホテル。窮地を救うヒントをくれたのは、目の前にいるこの女の子だ。そう思うとさらに特別な感情が込み上げる。

「やっぱりそうか。君がいなかったら俺は今頃東京湾の底で、江戸前の魚の餌だよ。つまり俺が江戸前だよ」

「そうですよ。せっかく出会えたのに江戸前になったら困るもの。くすくすっ」

 すみかは少し大人っぽい表情で笑い、話を続ける。


「私はエクスペリエンストとしての能力が少し強いらしいの。貴明さんが来る時は何となくわかるんです」

「それで俺が飛ばされた時にはよく君がいるのか」

「そうかもしれないけど、必ずしもそうじゃないです。ゲートは開ける人の望みが形になるものだから」


 すみかは、胸の前でもじもじと指をクロスさせる。

「つまり…ですね。貴明さんが私の前に現れるのは、きっと私のことを強く想ってくれた時…だと思います」

 2人とも鳥居のようにカーッと顔が赤くなる。相変わらず中学生レベルである。


「ははは…でも来るのがわかるのに、俺が現れるとすごい勢いで驚くのはなぜ?」

 貴明に少し余裕が戻り、いつもの意地悪心が顔を出す。

「そ、それはあの…来る場所はおぼろげにわかるけど、タイミングは正確にはわからないし、それに…あうあう…」

「それに?」


「あなたのことを考えている時を狙ったように現れるから、驚いちゃうんです!もーー!」


 そうまくし立て、すみかは軽く逆ギレしてみせる。プンッと膨らませて赤く染まる柔らかそうな頬の質感に、貴明は悶絶する。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。

四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……? どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、 「私と同棲してください!」 「要求が増えてますよ!」 意味のわからない同棲宣言をされてしまう。 とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。 中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。 無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

処理中です...