19 / 625
吸血鬼と聖女と聖騎士と
第一章第17話 吸血鬼はお金を稼ぎたい
しおりを挟む
「お仕事ですか?」
「はい。魔導書を読んで勉強もしたいのですが、このままだと破産してしまいそうなのでお金を稼ぎたいのです」
「え? でもフィーネ様であればお金ぐらいすぐに――」
「そんなことないですから」
あれから更に話を聞いてみたのだが、どうもクリスさんはお金というものは勝手に湧いてくるものだと思っている節があるようだ。クリスさんは平民の生まれだったため、あまり教育をうけていないらしい。だが、剣の才能はあったため幼いうちから仕官し、実力で騎士となり、そしてあっという間に聖騎士にまで登りつめた。そうして、お金を使うことを覚えたころにはお金に困ることが無くなっていた。そして、それから見てきた相手は王侯貴族の大金持ちばかりであったため、こんなにも歪んだ金銭感覚の持ち主になったらしい。
「なるほど。ということは、早速お勉強の成果をお見せになられるのですね? さすがです」
「いえ、そうではないんです」
「え? あれほど熱心に学ばれていたのに? まさか! 中途半端なカリキュラムのせいで使えないものを勉強させられたのですか? なんということでしょう。今すぐ叩き斬っ――」
「わわわ、待ってください。そういうことではないんです。ちゃんと、使えるものを学べましたし、薬草も医学も魔法薬もちゃんと理解できました。有意義な勉強ができてとても感謝しています」
そう、内容自体はすごく有用なものだったし、勉強にはなったのだ。
「では、何故?」
「勉強をしたからと言って、ポーションを作れるようになったわけではないんです」
「そうなのですか?」
「はい。ポーションを作るには勉強した知識のほかに、【調合】【薬効付与】という二つのスキルが少なくとも必要なんです。そして、治癒のポーションを作るなら【回復魔法】も必要です」
クリスさんが初耳だ、という顔をしている。これは勉強したから得られた知識で、ちゃんと身についてはいるのだ。
「【調合】は薬師の職業に就くことで得られ、【薬効付与】は上級職である魔法薬師の職業が必要です。なので、私は薬を使う知識はあっても作ることができません。これでは、商売としては不十分です」
ついでに言っておくと、魔法薬師になるには付与師の【付与】というスキルレベルもあげる必要があるのだそうで、ポーション作りは当分先の話になるだろう。
「なるほど。フィーネ様。それでは、一体何をなさるおつもりでしょうか?」
「やはり、商売というのは在庫がなく元手のいらないものからスタートしたほうが良いと思いますので、まずは流れの治癒師でもやろうと思います」
そう、手っ取り早く稼ぐには結局これが一番のように思える。
「やはり、フィーネ様はそういうお方ですよね。お任せください! 許可など、必要なものはすぐに手配いたしますので、本日はこの部屋でお待ちください」
そう言うとクリスさんは部屋を飛び出していった。
なんだかやたらと既視感のある光景に漠然とした不安を覚えつつ、私はクリスさん見送ったのだった。
****
か、ら、の、これである。はぁ。
さて、何が起きたのかを説明しよう。
クリスさんは確かにあっという間に独立した治癒師としての営業許可証を王宮からとってきた。そして治癒師として回る場所まで段取りをつけてきた。それも二週間分。一体どうやったらこれほどの短時間でここまでの仕事ができるのだろうか?
そう、クリスさんは、有能なのだ。
ちょっと思い込みが激しくて、計算ができなくて、金銭感覚が壊滅的におかしくて、肝心なことを見落とすのを除けば、ではあるのだが。
で、今回は確かに治癒師を必要としている場所に連れていってもらえた。許可証も普通に申請すれば一週間はかかるところを即日発行させた。
ここまでは申し分ない。
でもね。クリスさん。
なんで、一日に三か所も走り回るルートを設定したんだ!
私、まだレベル 1 なんだよ。MP 22 しかないんだよ!
どんなに消費 MP の少ない治癒魔法を使っても 22 人で打ち止めだ。
それなのに、だ。なんで私の MP が切れたら MP 回復薬をニコニコの笑顔で渡してくるんだよ! どうしてこんなところだけ有能なんだよ!
何ドヤ顔してるんだよ! やめてくれ!
これ、めっちゃ苦くてまずいんだよ!
しかも、一本買うのに銀貨 2 枚だよ?
それを一か所で大体 3 ~ 4 本使うって分かってる?
一日回るだけで金貨 2 枚くらいなくなってるんだよ?
それに、報酬は気持ちでいいって事前に言っちゃうとか、バカなの死ぬの?
おかげでほとんどお金もらえないじゃないか。
回れば回るだけ大赤字じゃないか!
うん? 今日のラストは孤児院? え? それ絶対お金取れないやつじゃん!
うわぁ、みんなボロボロだ。膝擦り剥いてる子から明らかに顔色悪い子まで!
そんなの見たら治してあげるしかないじゃん。
はあ、ここだけで MP 回復薬が 4 本も飛んで行ったよ。
え? 報酬は銅貨 3 枚? ああ、もう! それしか余裕ないのにお金なんて貰えるわけないじゃないか!
「いえ、報酬は結構です。ここの子供たちが元気になってくれただけで胸がいっぱいですから」
ああ、もう。次からは孤児院はなしね!
「フィーネ様!」「ああっ! 聖女様っ!」
クリスさんと孤児院のシスターさんが感激したような表情を浮かべている。すると、最後に治してあげた女の子がトコトコと走り寄ってきた。
「おねぇちゃん、どうもありがとう!」
「はい。どういたしまして」
ああ、なんだか、すごく報われた気がした。
本日の獲得経験値: 1
……あれ?
「はい。魔導書を読んで勉強もしたいのですが、このままだと破産してしまいそうなのでお金を稼ぎたいのです」
「え? でもフィーネ様であればお金ぐらいすぐに――」
「そんなことないですから」
あれから更に話を聞いてみたのだが、どうもクリスさんはお金というものは勝手に湧いてくるものだと思っている節があるようだ。クリスさんは平民の生まれだったため、あまり教育をうけていないらしい。だが、剣の才能はあったため幼いうちから仕官し、実力で騎士となり、そしてあっという間に聖騎士にまで登りつめた。そうして、お金を使うことを覚えたころにはお金に困ることが無くなっていた。そして、それから見てきた相手は王侯貴族の大金持ちばかりであったため、こんなにも歪んだ金銭感覚の持ち主になったらしい。
「なるほど。ということは、早速お勉強の成果をお見せになられるのですね? さすがです」
「いえ、そうではないんです」
「え? あれほど熱心に学ばれていたのに? まさか! 中途半端なカリキュラムのせいで使えないものを勉強させられたのですか? なんということでしょう。今すぐ叩き斬っ――」
「わわわ、待ってください。そういうことではないんです。ちゃんと、使えるものを学べましたし、薬草も医学も魔法薬もちゃんと理解できました。有意義な勉強ができてとても感謝しています」
そう、内容自体はすごく有用なものだったし、勉強にはなったのだ。
「では、何故?」
「勉強をしたからと言って、ポーションを作れるようになったわけではないんです」
「そうなのですか?」
「はい。ポーションを作るには勉強した知識のほかに、【調合】【薬効付与】という二つのスキルが少なくとも必要なんです。そして、治癒のポーションを作るなら【回復魔法】も必要です」
クリスさんが初耳だ、という顔をしている。これは勉強したから得られた知識で、ちゃんと身についてはいるのだ。
「【調合】は薬師の職業に就くことで得られ、【薬効付与】は上級職である魔法薬師の職業が必要です。なので、私は薬を使う知識はあっても作ることができません。これでは、商売としては不十分です」
ついでに言っておくと、魔法薬師になるには付与師の【付与】というスキルレベルもあげる必要があるのだそうで、ポーション作りは当分先の話になるだろう。
「なるほど。フィーネ様。それでは、一体何をなさるおつもりでしょうか?」
「やはり、商売というのは在庫がなく元手のいらないものからスタートしたほうが良いと思いますので、まずは流れの治癒師でもやろうと思います」
そう、手っ取り早く稼ぐには結局これが一番のように思える。
「やはり、フィーネ様はそういうお方ですよね。お任せください! 許可など、必要なものはすぐに手配いたしますので、本日はこの部屋でお待ちください」
そう言うとクリスさんは部屋を飛び出していった。
なんだかやたらと既視感のある光景に漠然とした不安を覚えつつ、私はクリスさん見送ったのだった。
****
か、ら、の、これである。はぁ。
さて、何が起きたのかを説明しよう。
クリスさんは確かにあっという間に独立した治癒師としての営業許可証を王宮からとってきた。そして治癒師として回る場所まで段取りをつけてきた。それも二週間分。一体どうやったらこれほどの短時間でここまでの仕事ができるのだろうか?
そう、クリスさんは、有能なのだ。
ちょっと思い込みが激しくて、計算ができなくて、金銭感覚が壊滅的におかしくて、肝心なことを見落とすのを除けば、ではあるのだが。
で、今回は確かに治癒師を必要としている場所に連れていってもらえた。許可証も普通に申請すれば一週間はかかるところを即日発行させた。
ここまでは申し分ない。
でもね。クリスさん。
なんで、一日に三か所も走り回るルートを設定したんだ!
私、まだレベル 1 なんだよ。MP 22 しかないんだよ!
どんなに消費 MP の少ない治癒魔法を使っても 22 人で打ち止めだ。
それなのに、だ。なんで私の MP が切れたら MP 回復薬をニコニコの笑顔で渡してくるんだよ! どうしてこんなところだけ有能なんだよ!
何ドヤ顔してるんだよ! やめてくれ!
これ、めっちゃ苦くてまずいんだよ!
しかも、一本買うのに銀貨 2 枚だよ?
それを一か所で大体 3 ~ 4 本使うって分かってる?
一日回るだけで金貨 2 枚くらいなくなってるんだよ?
それに、報酬は気持ちでいいって事前に言っちゃうとか、バカなの死ぬの?
おかげでほとんどお金もらえないじゃないか。
回れば回るだけ大赤字じゃないか!
うん? 今日のラストは孤児院? え? それ絶対お金取れないやつじゃん!
うわぁ、みんなボロボロだ。膝擦り剥いてる子から明らかに顔色悪い子まで!
そんなの見たら治してあげるしかないじゃん。
はあ、ここだけで MP 回復薬が 4 本も飛んで行ったよ。
え? 報酬は銅貨 3 枚? ああ、もう! それしか余裕ないのにお金なんて貰えるわけないじゃないか!
「いえ、報酬は結構です。ここの子供たちが元気になってくれただけで胸がいっぱいですから」
ああ、もう。次からは孤児院はなしね!
「フィーネ様!」「ああっ! 聖女様っ!」
クリスさんと孤児院のシスターさんが感激したような表情を浮かべている。すると、最後に治してあげた女の子がトコトコと走り寄ってきた。
「おねぇちゃん、どうもありがとう!」
「はい。どういたしまして」
ああ、なんだか、すごく報われた気がした。
本日の獲得経験値: 1
……あれ?
21
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
冤罪で殺された聖女、生まれ変わって自由に生きる
みおな
恋愛
聖女。
女神から選ばれし、世界にたった一人の存在。
本来なら、誰からも尊ばれ大切に扱われる存在である聖女ルディアは、婚約者である王太子から冤罪をかけられ処刑されてしまう。
愛し子の死に、女神はルディアの時間を巻き戻す。
記憶を持ったまま聖女認定の前に戻ったルディアは、聖女にならず自由に生きる道を選択する。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる