勘違いから始まる吸血姫と聖騎士の珍道中

一色孝太郎

文字の大きさ
20 / 625
吸血鬼と聖女と聖騎士と

第一章第18話 次のお仕事を考えよう

しおりを挟む
必死に王都中を治療のため奔走して二週間、稼いだ総額はなんと、金貨 1 枚と銀貨 3 枚。だいたい 6 万 5 千円くらい。休みなく働いてこれって、ブラックにも程がある。

ちなみに対して使った MP 回復薬は 145 本、金貨 29 枚の支出だった。

ああ、もう! なんで一切黒字になる見込みのない仕事をしているんだー!

ちなみに、稼げた経験値はたったの 10 。一日で 1 すら稼げない日もあったのだ。

「う~、二週間休みなく頑張ってたったの 10 かぁ。あんなにまずい MP 回復薬をあんなにたくさん飲んで頑張ったのにぃ」
「フィーネ様。はしたないですよ」

ソファーにゴロりと横になり情けない声を上げる私はクリスさんに小言を言われてしまった。
あまりの徒労感に私のクールキャラ設定は崩壊気味だ。

「クリスさん、いつになれば私はレベルアップするんですか?」
「人間だと経験値を 40 獲得すればレベル 2 となります。ですが、フィーネ様の場合はハイエルフの先祖返りだそうですからなんとも言えません。ハイエルフは非常に長い時を生きる種族ですので成長が遅いという噂を聞いたことがあります」
「私、ハイエルフじゃありませんけどね」
「ああ、吸血鬼でしたね。そういえば最近は血をお飲みになってらっしゃいませんね?」
「あれ? そういえば」

クリスさんが、フィーネ様の症状も少し良くなってきているんですね、なんて呟きながら小さくガッツポーズしている。でもそれ、聞こえてますからね?

全く、吸血鬼は耳が良いのだ。

それにしても、今まで忘れていたが王都に来てからは一度も吸血衝動に襲われていない。これは一体どういうことだろうか?

なんとなく渇いているかな、という感覚はあるが、気になるほどでもない。

まあ、別に衝動がないなら今は飲まなくても良いということなのだろう。私は疑問を頭の隅に追いやると、目下の問題について考える。

「どうにか、もう少し経験値を早く大量に稼げる方法はないんですか?」
「そんな方法があればみんなやっていますよ」
「ですよね~」
「やはり地道に治癒活動をなさるのが一番ではありませんか?」
「あれはもうダメ! 一体どれだけの赤字になったと思っているんですか。最低限、MP ポーションを使わずに済むレベルまでにならないと破産してしまいます」

二週間休みなく働いた報酬が 140 万円の支払いって、いくら何でもあり得ないでしょ。どっかでバイトしたほうが遥かにマシだ。

「うん、やっぱり魔物退治にしましょう。ハンターギルドというものがあると確かあのキノ、じゃなかった、子爵様が言っていました。そこに私のレベルアップをお手伝いするという依頼を出すのはどうですか?」
「守られているだけでは経験値が入りませんよ? それに、ハンターギルドはやめておいたほうが良いでしょう。基本的に食詰め者の集まりですので素行があまりよろしくありません」
「えー、じゃあどうすればいいんですか?」
「ですから、修業の道に楽はありません。辛いことを乗り越えてこそ成長があるのです。苦しい時こそ、成長のチャンス、努力は裏切らない、急がば回れ、なのです!」

そうだった。クリスさんは騎士団という体育会系に所属していた脳筋なんだった。

最近はスポーツも科学全盛時代に突入して、休むことも練習の一環と言われるようになっているというのに、ここではまだ脳筋が幅を利かせているらしい。

「わかりました。じゃあ、どこかの幽霊屋敷の除霊とかはどうですか?」
「え?」

クリスさんの表情が固まった。

「ほら、私【聖属性魔法】が使えますし、シュヴァルツを浄化した実績もありますし、向いているんじゃないかと思うんですよ。ゴーストバスター」
「だ、だ、だ、だ、だ、だ、ダメです。ゆ、ゆ、ゆ、ゆ、幽霊なんて……」

おや? クリスさんが顔を青くしている?

「何でですか? 吸血鬼を倒すのも幽霊を除霊するのも大して変わらないのでは?」
「だ、だ、だ、だ、ダメですよ。み、み、見えないんですよ?」
「ええ? そこ?」
「と、と、と、と、とにかく、ゆ、ゆ、ゆ、ゆ、ゆゆうれいは、だだ、だ、ダメです」

あ、この反応はもしや。

「もしかして、クリスさん、幽霊が怖いんですか?」

ビクン、と震えて固まる。

「そ、そ、そ、そ、そんなわけ、なななな、ないじゃないですか。わわわた、わた、私は聖騎士ですなんですよ! ゆ、ゆ、ゆ、ゆ、幽霊ごとき、このせせ聖剣で一刀両断でしゅよ」

分かりやすい。クリスさんの良いところは素直なところ。

「じゃあ、問題ありませんね。この王都で困っている幽霊屋敷の除霊に行きましょう。まずは神殿に行って手が回っていない幽霊屋敷があるか、聞きに行きましょう」
「あ、な、な、な」

よし、はじめて主導権を取れたぞ!

素晴らしい。この調子でレベリングも頑張らねば。

私は意気揚々と神殿へと向かったのであった。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

異世界に落ちたら若返りました。

アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。 夫との2人暮らし。 何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。 そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー 気がついたら知らない場所!? しかもなんかやたらと若返ってない!? なんで!? そんなおばあちゃんのお話です。 更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  ブックマーク・評価、宜しくお願いします。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

処理中です...