31 / 625
吸血鬼と聖女と聖騎士と
第一章第29話 看板吸血鬼
しおりを挟む
私がジェズ薬草店に弟子入りしてから一週間が経った。そして、ようやくお客さんたちの不思議そうな顔の意味が分かった。まず一つは、日本式の営業スマイル接客が原因だ。どうやら、きっちりと営業スマイルで丁寧に接客するのは高級店だけなのだそうだ。なので、丁寧な接客に慣れていないお客さんが戸惑った、ということらしい。今まで高級店ばかりに連れていかれていたため、こういうのが普通なんだと思っていたが、そうではなかったようだ。
そして、もう一つ、あの頑固で堅物のジェズさんが、とんでもない美少女を弟子にとって、接客させているということに対するショックが大きいらしい。
うん、まあ、そうだね。たしかに、冷静に考えれば想定しうる事態だった。
そして、さらに一週間ほど経過すると、ジェズ薬草店に長い行列ができるようになった。別にけがをしているわけでもない人たちが傷薬(小)を買いに来るのだ。目的は、私に接客してもらうためらしい。
こいつら、いい加減にしろ!
怪我してないやつになんでカウンセリングしなきゃいけないんだ。ここはメイド喫茶でも執事喫茶でもない。真面目に薬を売っている薬草店なんだぞ!
それを毎度毎度、鼻の下伸ばしてやってきやがって。
一度、傷薬をお求めの方はこちら、とやって奥さんにお願いしたことがあったのだが、効果がなかった。
こいつらの執念はヤバい。一度それで奥さんから傷薬を買ったやつは、その次からは学習して「相談してから必要な薬を買いたいから話を聞いてほしい」などと言ってくる様になった。
そしてそんな奴らが開口一番「やあ、フィーネちゃん、今日も可愛いね」とか言い出すのだ。気持ち悪い! そしてそこから私の容姿を褒め、服を褒め、趣味を聞き、昼食に誘い、休日の予定を聞いてくるのだ。げんなりとしながら受け流していると最終的に、指を切った時用の常備薬を少し買いたい、などと言い出すので、傷薬(小)を売りつけてお引き取り頂く。
まあ、閑古鳥が鳴いているよりはマシなのかもしれないが、傷薬(小)で売り上げに貢献しているとは思えない。
だって、銅貨 5 枚なんだもの。大体 500 円くらい。
いっそ、傷薬(小)を販売停止にしてやろうか? いや、ダメか。買うのが他の安い商品になるだけだ。
ぐぬぬぬぬ。
****
「親方。おかしな人たちが行列を作るせいで傷薬(小)しか売れないうえに、私を口説こうとする人達をあしらうだけで営業時間が終わってしまうんです。どうにかなりませんか?」
私は夜、思い切って親方に相談してみた。ちなみに、クリスさんは自室に戻っている。だって、クリスさんがこの話を聞いたら切り捨ててやる、とか言い出しそうだし。
「あん? じゃあ、あの並んでる連中は必要もないのにフィーネと話したいだけで薬を買ってるってことか? だったら相手しなければいいんじゃねぇのか?」
「一応、お客さんですのでそういうわけには……」
「ほら、あんた。弟子が困ってるんだからちゃんと助けてやんなよ。あいつらフィーネちゃんと話すことだけが目的だからね。フィーネちゃんが店番に出てれば必ずフィーネちゃんに声をかけるんだよ。あたしが一緒に居たって無視してフィーネちゃんのところに並ぶんだよ? まったく、困ったもんだよ」
「じゃあ、高い薬を売ってみたらどうだ? それなら毎日は来ないだろう」
「それが、小銀貨になると別のものを、って言われるんです」
「おおう……」
まったく、一体どこからあんな執念が湧いてくるのか。一人二人ならストーカーになる人もいるかもしれないが、あの人数が毎日くるって、王都は大丈夫なのか?
「だが俺が店番をすると仕事がなぁ」
「そうですよね……」
「よし、わかった。あたしとフィーネちゃんで交代で店番したらどうだい? 行列ができ始めたらフィーネちゃんはあんたのところに行って手伝いをするってのでどう?」
私としてはありがたいのだが、それだとずっと奥さんが店番をすることになる気がするのは私だけだろうか?
そう思っていると親方が何か思いつたといった表情で口を開く。
「いや、それじゃダメだ。そういった連中にはだな……」
****
そして、その結果がこれである。
「いらっしゃいませ~♪ ご相談は一分につき小銀貨 1 枚で承っております♪」
にっこり営業スマイル♪
っていうか、こいつら、バカだろ? なんでこれでも並んでるんだよ?一分で小銀貨 1 枚って、敏腕弁護士の法律相談か? 一時間相談するだけで 6 万円相当って、ヤバすぎだろ?
しかも、なんかこいつら、お金を払えばタダでいくらでも話せて最高、とか話してるんですけど。いやいや、どう考えてもおかしいだろ!
それに、だ。親方、なんでこんなかわいい豚さん貯金箱なんて持ってるんだよ!
しかも料金はこれに入れろって、あざとすぎだろ!
ああ、なんか疲労感が普段よりもヤバい。
っていうか、これ、薬師の修業じゃないよね? 接客業、下手したら地下アイドルとかだよね?
ちなみに、通常営業の分は奥さんが全部引き受けてくれたし、そもそも普通の客はほとんど来ないので特に問題はなかった。
****
「……まさかな」
たしかにまさかだ。多分、一時間で金貨 1 枚分くらいは稼いでいた気がする。
「ええ、いつもの倍くらい疲れましたけど」
「……そのうちあいつらもバカバカしくなって並ばなくなるだろ」
「だといいんですが……」
ちなみに、この時の私の予感は的中することになる。一週間も経つと、客が客を呼んでいるのか新しいお客さんがひっきりなしにやってくるようになったのだ。
あれ? これ町を歩けなくなるパターンじゃね?
ちなみに、この行列を見たクリスさんが親方に薬師としての修業をしているのに何故接客ばかりやらせているのか、と苦情を入れてくれたのだが、
「ん? 民衆に慕われる聖女様っていうのは正しい姿なんじゃないのか?」
「む? それもそうか」
とあっさり納得してしまった。
おい、そこの脳筋くっころお姉さん、ちょいとチョロすぎやしませんか?
そして、もう一つ、あの頑固で堅物のジェズさんが、とんでもない美少女を弟子にとって、接客させているということに対するショックが大きいらしい。
うん、まあ、そうだね。たしかに、冷静に考えれば想定しうる事態だった。
そして、さらに一週間ほど経過すると、ジェズ薬草店に長い行列ができるようになった。別にけがをしているわけでもない人たちが傷薬(小)を買いに来るのだ。目的は、私に接客してもらうためらしい。
こいつら、いい加減にしろ!
怪我してないやつになんでカウンセリングしなきゃいけないんだ。ここはメイド喫茶でも執事喫茶でもない。真面目に薬を売っている薬草店なんだぞ!
それを毎度毎度、鼻の下伸ばしてやってきやがって。
一度、傷薬をお求めの方はこちら、とやって奥さんにお願いしたことがあったのだが、効果がなかった。
こいつらの執念はヤバい。一度それで奥さんから傷薬を買ったやつは、その次からは学習して「相談してから必要な薬を買いたいから話を聞いてほしい」などと言ってくる様になった。
そしてそんな奴らが開口一番「やあ、フィーネちゃん、今日も可愛いね」とか言い出すのだ。気持ち悪い! そしてそこから私の容姿を褒め、服を褒め、趣味を聞き、昼食に誘い、休日の予定を聞いてくるのだ。げんなりとしながら受け流していると最終的に、指を切った時用の常備薬を少し買いたい、などと言い出すので、傷薬(小)を売りつけてお引き取り頂く。
まあ、閑古鳥が鳴いているよりはマシなのかもしれないが、傷薬(小)で売り上げに貢献しているとは思えない。
だって、銅貨 5 枚なんだもの。大体 500 円くらい。
いっそ、傷薬(小)を販売停止にしてやろうか? いや、ダメか。買うのが他の安い商品になるだけだ。
ぐぬぬぬぬ。
****
「親方。おかしな人たちが行列を作るせいで傷薬(小)しか売れないうえに、私を口説こうとする人達をあしらうだけで営業時間が終わってしまうんです。どうにかなりませんか?」
私は夜、思い切って親方に相談してみた。ちなみに、クリスさんは自室に戻っている。だって、クリスさんがこの話を聞いたら切り捨ててやる、とか言い出しそうだし。
「あん? じゃあ、あの並んでる連中は必要もないのにフィーネと話したいだけで薬を買ってるってことか? だったら相手しなければいいんじゃねぇのか?」
「一応、お客さんですのでそういうわけには……」
「ほら、あんた。弟子が困ってるんだからちゃんと助けてやんなよ。あいつらフィーネちゃんと話すことだけが目的だからね。フィーネちゃんが店番に出てれば必ずフィーネちゃんに声をかけるんだよ。あたしが一緒に居たって無視してフィーネちゃんのところに並ぶんだよ? まったく、困ったもんだよ」
「じゃあ、高い薬を売ってみたらどうだ? それなら毎日は来ないだろう」
「それが、小銀貨になると別のものを、って言われるんです」
「おおう……」
まったく、一体どこからあんな執念が湧いてくるのか。一人二人ならストーカーになる人もいるかもしれないが、あの人数が毎日くるって、王都は大丈夫なのか?
「だが俺が店番をすると仕事がなぁ」
「そうですよね……」
「よし、わかった。あたしとフィーネちゃんで交代で店番したらどうだい? 行列ができ始めたらフィーネちゃんはあんたのところに行って手伝いをするってのでどう?」
私としてはありがたいのだが、それだとずっと奥さんが店番をすることになる気がするのは私だけだろうか?
そう思っていると親方が何か思いつたといった表情で口を開く。
「いや、それじゃダメだ。そういった連中にはだな……」
****
そして、その結果がこれである。
「いらっしゃいませ~♪ ご相談は一分につき小銀貨 1 枚で承っております♪」
にっこり営業スマイル♪
っていうか、こいつら、バカだろ? なんでこれでも並んでるんだよ?一分で小銀貨 1 枚って、敏腕弁護士の法律相談か? 一時間相談するだけで 6 万円相当って、ヤバすぎだろ?
しかも、なんかこいつら、お金を払えばタダでいくらでも話せて最高、とか話してるんですけど。いやいや、どう考えてもおかしいだろ!
それに、だ。親方、なんでこんなかわいい豚さん貯金箱なんて持ってるんだよ!
しかも料金はこれに入れろって、あざとすぎだろ!
ああ、なんか疲労感が普段よりもヤバい。
っていうか、これ、薬師の修業じゃないよね? 接客業、下手したら地下アイドルとかだよね?
ちなみに、通常営業の分は奥さんが全部引き受けてくれたし、そもそも普通の客はほとんど来ないので特に問題はなかった。
****
「……まさかな」
たしかにまさかだ。多分、一時間で金貨 1 枚分くらいは稼いでいた気がする。
「ええ、いつもの倍くらい疲れましたけど」
「……そのうちあいつらもバカバカしくなって並ばなくなるだろ」
「だといいんですが……」
ちなみに、この時の私の予感は的中することになる。一週間も経つと、客が客を呼んでいるのか新しいお客さんがひっきりなしにやってくるようになったのだ。
あれ? これ町を歩けなくなるパターンじゃね?
ちなみに、この行列を見たクリスさんが親方に薬師としての修業をしているのに何故接客ばかりやらせているのか、と苦情を入れてくれたのだが、
「ん? 民衆に慕われる聖女様っていうのは正しい姿なんじゃないのか?」
「む? それもそうか」
とあっさり納得してしまった。
おい、そこの脳筋くっころお姉さん、ちょいとチョロすぎやしませんか?
10
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
冤罪で殺された聖女、生まれ変わって自由に生きる
みおな
恋愛
聖女。
女神から選ばれし、世界にたった一人の存在。
本来なら、誰からも尊ばれ大切に扱われる存在である聖女ルディアは、婚約者である王太子から冤罪をかけられ処刑されてしまう。
愛し子の死に、女神はルディアの時間を巻き戻す。
記憶を持ったまま聖女認定の前に戻ったルディアは、聖女にならず自由に生きる道を選択する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる