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花乙女の旅路
第三章第24話 死なない獣
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2020/09/23 人物の取り違えを修正しました
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「来た、でござるな」
シズクさんがするりと立ち上がると刀を腰に佩いて外へと向かう。それにクリスさんが続き、ルーちゃん、私と続いていく。
ここフゥーイエ村にも夜が訪れ、月明かりが静かに村を照らし出す。獣害騒動が発生して以降、夜に家を出る村人が全くいなくなったそうで村は静まり返っている。
そんな村の中を一頭の大きな狼が徘徊している。
「確かに、黒い靄を身に纏った灰色の狼でござるな」
「体は大きいが、それ以外は普通の狼とかわらないな」
「え? 狼ってあんなに大きいんですか? あれってルーちゃんの背の高さと同じぐらいありません?」
「むぅ、姉さまだってそんなに身長変わらないじゃないですかっ」
「ふふっ。でも私のほうが背が高いですからね」
シズクさんとクリスさんは背が高いので私は見上げる形になるが、ルーちゃんは私のおでこくらいの背の高さなのだ。
「フィーネ様、ルミア。来ますよ」
そんな風にじゃれていた私たちはクリスさんに注意されてしまう。
「拙者が出るでござる」
そう言って飛び込んだシズクさんは狼の首を一撃で斬り飛ばした。そのまま狼はその場に倒れる。
「シズクさん。お見事です」
そのまま残心をとり、刀を鞘にしまう。
「グルルルル」
「え?」
生首となった狼が唸り声をあげると、首のない胴体が歩き出す。そして生首に胴体が触れると黒い靄につつまれ、そして次の瞬間に何事もなかったかのように元に戻ったのだった。
「な!?」
「シズクさん! 危ない」
狼が猛スピードでシズクさんに突っ込んでいく。
「ならば頭を潰してやるでござる」
狼の突進に合わせ、抜刀術から目にも止まらぬ速さの斬撃を狼に浴びせる。次の瞬間、狼の頭部がバラバラになって崩れ落ちた。
一体何合の斬撃を当てたらあそこまでバラバラになるのだろうか?
頭部を失った狼の体はそのまま目標を見失ったらしく近くの民家の柵に激突して停止した。
「やったか?」
ああ、クリスさんが言ってはならないセリフを言ってしまった。
「クリスさん、そのセリフを言うとやっていないという法則があるんですよ?」
「そ、そうなのですか?」
そして案の定、頭部を失った狼が立ち上がった。そして血を流す首筋が黒い靄に包まれ、そして、頭部がぐちゅぐちゅと気持ち悪い音を立てて再生した。
「グルルルル」
「な? フィーネ様、あれは一体?」
「私が知っているわけないじゃないですか」
「ええい、再生するなら再生できぬほどに傷つければ良いでござる。クリス殿!」
「わかった。フィーネ様!」
「はい。自分の身は自分で守りますよ」
クリスさんは狼に飛びかかっていった。
そしてシズクさんと二人がかりで一方的に攻撃を加え、この不気味な狼をぐちゃぐちゃの肉塊へと変えた。
「これだけやればいくら何でも復活できないだろう」
クリスさんがそう呟いた瞬間、肉塊が黒い靄に包まれ、そして次の瞬間には何事もなかったかのように無傷の狼が二人を睨んでいる。
「な、なんだこれは!?」
「浄化!」
私は浄化魔法をとりあえず叩き込んでみる。あの黒い靄のようなものが消せれば御の字だ。
私の浄化魔法を狼をしっかりと捉え、その肢体は浄化の光に包まれる。ほんの僅かに手応えのようなものは感じたが、しっかりと浄化できた時のような感覚はない。
案の定、光の中から出てきた狼はダメージを受けた様子もなくこちらを見て唸っている。
どうやらこいつの今度のターゲットは私のようだ。
そして狼は咆哮を上げながら私のほうに向かって突進してくる。
「防壁!」
私は狼の突進を防壁を使って受け止めた。飛びかかってきたところに、突然目の前に現れた防壁を避けられなかった狼はそのまま私の防壁魔法に突っ込んだ。
そしてキャインと悲鳴をあげておかしな姿勢で地面に落下する。
その右前足と首があらぬ方向に曲がっている。
「グルルルル」
それでもなお立ち向かおうと私を睨みつけている。その瞳にはまるで狂気のような、憎しみのような、何か恐ろしいものが宿っているように感じた。
「このっ!」
ルーちゃんが矢を射掛ける。足を一本折れていると思われる狼は満足に躱すことができず、臀部にその矢が突き刺さる。
すると、その傷口からはしゅーしゅーと白い煙のようなものが上がっている。
「ルミア、フィーネ様の浄化の魔法の込められた矢が効いているぞ! トゥカットの下級吸血鬼どもと同じだ! その矢を打ち込むんだ」
クリスさんからルーちゃんに指示が飛び、それを聞いたルーちゃんが二射目を構える。
嫌な予感がした私はそっと防壁をルーちゃんとの間に作り出す。
ガキンッ
私を目掛けて飛んできた矢が防壁に弾かれる。
ほら、やっぱり誤射が来た。なんとなくタイミングがわかるようになってきたのかもしれない。
「ルーちゃん、こっちは気にせずに射って下さい」
「は、はいっ!」
ルーちゃんが矢を次々と射掛け、それが次々と命中する。そして狼がハリネズミのような状態になるとそのまま動かなくなった。そしてしばらくすると死骸は徐々に黒く変色していき、そしてそのまま塵となって風に吹かれて消えていった。
「まさか、でござるな」
「どうなっているんでしょうか……」
「フィーネ様の浄化魔法が効かなかったのにルミアの矢に込められた浄化魔法は効いた、ということになりますね……」
「うーん、どうなっているんでしょうね。浄化魔法が効かないってことはアンデッドじゃないはずですし……」
「しかも魔石を残さなかったということは魔物でもないでござるな」
「うーん、よくわかんないですけど、姉さまに付与してもらった武器で戦えばいいんじゃないですか?」
黒い靄を纏った謎の狼は一体何だったのか。答えの出ぬまま夜は更けていくのであった。
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「来た、でござるな」
シズクさんがするりと立ち上がると刀を腰に佩いて外へと向かう。それにクリスさんが続き、ルーちゃん、私と続いていく。
ここフゥーイエ村にも夜が訪れ、月明かりが静かに村を照らし出す。獣害騒動が発生して以降、夜に家を出る村人が全くいなくなったそうで村は静まり返っている。
そんな村の中を一頭の大きな狼が徘徊している。
「確かに、黒い靄を身に纏った灰色の狼でござるな」
「体は大きいが、それ以外は普通の狼とかわらないな」
「え? 狼ってあんなに大きいんですか? あれってルーちゃんの背の高さと同じぐらいありません?」
「むぅ、姉さまだってそんなに身長変わらないじゃないですかっ」
「ふふっ。でも私のほうが背が高いですからね」
シズクさんとクリスさんは背が高いので私は見上げる形になるが、ルーちゃんは私のおでこくらいの背の高さなのだ。
「フィーネ様、ルミア。来ますよ」
そんな風にじゃれていた私たちはクリスさんに注意されてしまう。
「拙者が出るでござる」
そう言って飛び込んだシズクさんは狼の首を一撃で斬り飛ばした。そのまま狼はその場に倒れる。
「シズクさん。お見事です」
そのまま残心をとり、刀を鞘にしまう。
「グルルルル」
「え?」
生首となった狼が唸り声をあげると、首のない胴体が歩き出す。そして生首に胴体が触れると黒い靄につつまれ、そして次の瞬間に何事もなかったかのように元に戻ったのだった。
「な!?」
「シズクさん! 危ない」
狼が猛スピードでシズクさんに突っ込んでいく。
「ならば頭を潰してやるでござる」
狼の突進に合わせ、抜刀術から目にも止まらぬ速さの斬撃を狼に浴びせる。次の瞬間、狼の頭部がバラバラになって崩れ落ちた。
一体何合の斬撃を当てたらあそこまでバラバラになるのだろうか?
頭部を失った狼の体はそのまま目標を見失ったらしく近くの民家の柵に激突して停止した。
「やったか?」
ああ、クリスさんが言ってはならないセリフを言ってしまった。
「クリスさん、そのセリフを言うとやっていないという法則があるんですよ?」
「そ、そうなのですか?」
そして案の定、頭部を失った狼が立ち上がった。そして血を流す首筋が黒い靄に包まれ、そして、頭部がぐちゅぐちゅと気持ち悪い音を立てて再生した。
「グルルルル」
「な? フィーネ様、あれは一体?」
「私が知っているわけないじゃないですか」
「ええい、再生するなら再生できぬほどに傷つければ良いでござる。クリス殿!」
「わかった。フィーネ様!」
「はい。自分の身は自分で守りますよ」
クリスさんは狼に飛びかかっていった。
そしてシズクさんと二人がかりで一方的に攻撃を加え、この不気味な狼をぐちゃぐちゃの肉塊へと変えた。
「これだけやればいくら何でも復活できないだろう」
クリスさんがそう呟いた瞬間、肉塊が黒い靄に包まれ、そして次の瞬間には何事もなかったかのように無傷の狼が二人を睨んでいる。
「な、なんだこれは!?」
「浄化!」
私は浄化魔法をとりあえず叩き込んでみる。あの黒い靄のようなものが消せれば御の字だ。
私の浄化魔法を狼をしっかりと捉え、その肢体は浄化の光に包まれる。ほんの僅かに手応えのようなものは感じたが、しっかりと浄化できた時のような感覚はない。
案の定、光の中から出てきた狼はダメージを受けた様子もなくこちらを見て唸っている。
どうやらこいつの今度のターゲットは私のようだ。
そして狼は咆哮を上げながら私のほうに向かって突進してくる。
「防壁!」
私は狼の突進を防壁を使って受け止めた。飛びかかってきたところに、突然目の前に現れた防壁を避けられなかった狼はそのまま私の防壁魔法に突っ込んだ。
そしてキャインと悲鳴をあげておかしな姿勢で地面に落下する。
その右前足と首があらぬ方向に曲がっている。
「グルルルル」
それでもなお立ち向かおうと私を睨みつけている。その瞳にはまるで狂気のような、憎しみのような、何か恐ろしいものが宿っているように感じた。
「このっ!」
ルーちゃんが矢を射掛ける。足を一本折れていると思われる狼は満足に躱すことができず、臀部にその矢が突き刺さる。
すると、その傷口からはしゅーしゅーと白い煙のようなものが上がっている。
「ルミア、フィーネ様の浄化の魔法の込められた矢が効いているぞ! トゥカットの下級吸血鬼どもと同じだ! その矢を打ち込むんだ」
クリスさんからルーちゃんに指示が飛び、それを聞いたルーちゃんが二射目を構える。
嫌な予感がした私はそっと防壁をルーちゃんとの間に作り出す。
ガキンッ
私を目掛けて飛んできた矢が防壁に弾かれる。
ほら、やっぱり誤射が来た。なんとなくタイミングがわかるようになってきたのかもしれない。
「ルーちゃん、こっちは気にせずに射って下さい」
「は、はいっ!」
ルーちゃんが矢を次々と射掛け、それが次々と命中する。そして狼がハリネズミのような状態になるとそのまま動かなくなった。そしてしばらくすると死骸は徐々に黒く変色していき、そしてそのまま塵となって風に吹かれて消えていった。
「まさか、でござるな」
「どうなっているんでしょうか……」
「フィーネ様の浄化魔法が効かなかったのにルミアの矢に込められた浄化魔法は効いた、ということになりますね……」
「うーん、どうなっているんでしょうね。浄化魔法が効かないってことはアンデッドじゃないはずですし……」
「しかも魔石を残さなかったということは魔物でもないでござるな」
「うーん、よくわかんないですけど、姉さまに付与してもらった武器で戦えばいいんじゃないですか?」
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