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花乙女の旅路

第三章第30話 シルツァの里

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2020/08/28 誤字を修正しました
2020/09/09 誤用を修正しました
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「あ、姉さま。ここから先はエルフ達の領域です。精霊たちの力で人間は外に出ていくようになっているから、あたしか姉さまと手をつないでいないとクリスさんとシズクさんはいなくなっちゃいます」
「おお、これが噂に聞くエルフの里を守る迷いの森でござるか。なんだか、周りの森とあまり変わらないでござるな」
「白銀の里だと人間に見えないようになっていたからわかりやすかったですが、ここの里は区別が付きにくいかもしれませんね」
「あの時は驚きました。フィーネ様の手を握った瞬間に森が現れましたから」

あの時にびっくり体験をできたのはクリスさんだけなのでちょっと羨ましい。

「リーチェも出てきてください。万が一クリスさんかシズクさんがはぐれちゃったらよろしくお願いしますね」

リーチェを召喚して呼び出すと、任せろと力こぶを作るポーズをしている。

もちろん、リーチェの二の腕に力こぶができることなどないのだが、可愛いので全く問題ない。

私はクリスさんと、ルーちゃんはシズクさんとそれぞれ手を繋いで仲良く森へと入っていく。迷いの森の中でもルーちゃんのエルフとしての能力は健在で、勝手に草や枝が避けてくれる。そのおかげで随分と楽に道を進むことができる。

しばらく進むと、二人のエルフの男性がやってきた。

「恵みの花乙女であらせられるフィーネ・アルジェンタータ様とそのご一行でらっしゃいますね。お待ちしておりました」

エルフたちは膝をついて私たちに挨拶をする。相変わらず自分がその名で呼ばれるのは恥ずかしいのだが、肩書が付いただけで白銀の里の時とは随分な待遇の差だ。

あの時は矢を射掛けられたのだが、懐かしい。

「わざわざお出迎え頂きありがとうございます。私がフィーネ・アルジェンタータです」
「恵みの花乙女様を我らがシルツァの里にお迎え出来ること、望外の喜びでございます。さ、どうぞこちらへ」

出迎えの男性二人に先導され、私たちは無事にシルツァの里へと辿りついたのであった。

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「恵みの花乙女にして今代聖女フィーネ・アルジェンタータ様、ようこそシルツァの里においでくださいました。わたくしはこの里を治めておりますシグリーズィアと申します」

シルツァの里に着いた私たちはシグリーズィアさんと名乗るこの女性に挨拶を受けた。ミルキーブルーの長い髪と緑の瞳が特徴的な、彫刻のように美しい女性だ。

この里の他のエルフたちは亜麻色の髪に緑の瞳をしているので、シグリーズィアさんだけハイエルフなのかもしれない。

「はじめまして。私がフィーネ・アルジェンタータです。こちら私の右隣がクリスティーナ、左隣近いほうから順にルミア、シズク・ミエシロです。どうぞよろしくお願いいたします」
「こちらこそ、どうぞよろしくお願い致します。史上初の恵みの花乙女様の奇跡をわたくしどもの森が最初に賜れること、シルツァの里の一同心より光栄に思いますわ」

あ、やっぱりルーちゃんの言う通りに最初のってところを楽しみにしていたようだ。

うーん、でも三日月泉でやっちゃったしなぁ。

あ、そうだ。

「そうですね。エルフの森で力を使うのはこの子も初めてですし、私もとても楽しみです」

こうすれば嘘は言ってないし、いいんじゃないかな?

「まあ、頭の上に乗ってらっしゃるその子が花の精霊様でらっしゃいますのね。なんて可愛らしい。お名前は何ておっしゃいますの?」
「リーチェ、と言います」

私の頭の上にいるリーチェは何か挨拶をしたようだ。シグリーズィアさんが胸に手を当てて微笑んだ。

シグリーズィアさんにもリーチェの可愛らしさが伝わったようで何よりだ。

「さ、皆様。さぞかしお疲れでしょう。これから皆様がたにおくつろぎ頂くお家へとご案内いたしますわ」
「ありがとうございます」

そう言ってシグリーズィアさんは私たちを連れて里の中を歩き、木造平屋建ての家の前へと案内してくれた。

「こちらでございます。それから、側仕えをさせていただく者も紹介いたしますわ」

そしてエルフの女性が一人、私たちの前にやってきた。

「この者はフィーネ様がたがご滞在の間、側仕えをさせていただきますシエラと申すものでございます。隣の家に控えておりますので遠慮なくお申し付けくださいませ」
「シエラと申します。恵みの花乙女様にお仕えできりゅぅっんがっ! お仕えできること大変うれしっんがっ!」

この紹介されたシエラさんという女性が噛みまくっている。

黙って入れば美人なのに、なんだかとっても残念な感じだ。

「シエラさん。フィーネ・アルジェンタータと申します。こちらから順にクリスティーナ、シズク・ミエシロ、ルミアです。それと、私の頭の上にいるこの子が花の精霊のリーチェです。短い間ですがどうぞよろしくお願いします」
「よ、よろしくお願いしまひゅっ」

あ、また噛んだ。

「そんなに緊張しないでください。私は普通ですから。仲良くしてくださいね」
「は、はひいっ! ひっ、は、花の精霊様までっ」

リーチェがひらひらとシエラさんのところに飛んで行って緊張するな、とばかりに頭をいい子いい子と撫でている。

だがそのせいで余計に緊張しているように見えるのは私だけではないだろう。

「ええと、とりあえず、お家の中を見させてくださいね」
「はい。もちろんでございます。フィーネ様。白銀の里よりの長旅、大変お疲れ様でした。歓迎の宴を明日の晩に開かせていただきますので、今晩はどうぞごゆるりとおくつろぎくださいませ」

噛みまくりのシエラの代わりにそう答えたシグリーズィアさんは優雅に礼をすると去っていった。

「えと、ええと、こちらが鍵です。それから、ええと、お部屋の設備は、ええと……」

シエラさんがしどろもどろになりながら部屋や設備について説明をしてくれる。

どうやら一人一部屋を与えてもらえるらしい。

内装はシンプルで、シンプルなダブルベッド、それに机と椅子が設えられており、床には若草色の素敵な絨毯が敷かれている。

部屋の広さにはかなり余裕があるので広々とした感じだ。

「ええと、その、お食事は、その、お運びしましゅっんがっ!」

またシエラさんが噛んだ。あまりいじられたくないだろうし、スルーしてあげよう。

「ありがとうございます。ところで、ここに来る途中にビッグボアーを何頭か狩ったんですが、エルフの皆さんは召し上がりますか?」
「え? ええ? えええ? よろしいんですか? そんな高級食材!」
「もちろんです。私たちだけでは食べきれませんから。それに泊めて頂いているお礼も兼ねて里の皆さんに召し上がって頂きたいんですけど、ええと、そこに出せばよいですか?」
「え? 出す?」
「私の収納の中に入っているんですけど」
「え? ええ? えええ? しゅ、収納?」
「はい。私の収納に入っています」
「じょ、じょおうさま~!」

シエラさんがシグリーズィアさんを呼びに走っていってしまった。

どういうこと? 私何か変なことしたっけ?
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