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巫女の治める国
第四章第13話 月下の密会(前編)
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「あ、あ、あ、アーデ? どうしてここに?」
「あら、大切なあなたに会いに来るのに理由なんているのかしら?」
アーデはその真っ白な肌を僅かに桜色に染めながらそう言った。
これは温泉で温まったから、だよね?
「あら? あまり嬉しそうじゃないわね? せっかく婚約者のわたしが尋ねてきたというのに」
「あの、その話はお断りしたはずなんですが……」
「いいじゃない。減るものじゃないでしょう?」
いや、減るとか減らないとかそういう問題なのだろうか?
「それにしても、やっぱりあなたは素敵だわ。空に浮かぶ月は、そうね。さしずめあなたのその美しさを際立たせるためのスポットライトね。月光に輝くあなたのその白銀の髪もとてもキレイよ」
いつの間にか息がかかるくらい近くにやってきたアーデが私の髪をそっと撫でる。アーデは柔らかく目を細めている。吸血鬼特有の縦長の瞳は愛おしいものを見つめるかのような優し気な光を宿している。
「そ、そ、それで私に何の用ですか?」
私がしどろもどろになりながらもなんとか言葉を返すと、アーデは微笑みながら髪を撫でていた手を私の背に回し、そのままそっと私を抱きしめてきた。
あ、やわらかい。
彼女の巨大な双丘が私のささやかな膨らみにあたり柔らかく形を変え、その感触が伝わってくる。
「さっきも言ったでしょう? 愛しいあなたに会いに来たのよ。それじゃあダメかしら?」
面と向かってこんな恥ずかしいセリフを、よくもまあ素面で吐けるものだ。
「せっかくこんなに素敵な旅館に泊まっているんだもの。わたしも一緒に温泉に入ってあなたと仲良くなりたいのよ」
「はあ、そうですか。わかりましたからもう少し離れてください。温泉の中なのでちょっと暑いです」
そもそもアーデは泊まってないよね? 無賃入浴はまずいんじゃないかな?
「あら、そう? 仕方ないわね」
そういうとアーデは私の頬に軽くキスをしてからするりと離れていった。
ん?
キスされた?
「あら、可愛いわ。顔が真っ赤よ? もしかして初めてだったのかしら?」
「え? あ? いや、え? あ、その?」
「本当に可愛いわね。このまま唇にもキスしてもいいかしら?」
「え? だ、だ、ダメです。だめです!」
「ふふ。じゃあそれはまた今度ね」
そういってアーデは楽しそうに笑っている。
「それにしても、あなたは本当に覚醒しないでいられるのね」
アーデは私の頬を両手で優しく挟むと私の目を見つめてくる。その縦長の瞳とどこまでも穏やかな光を湛えている。
「どうして、ですか?」
私はなんとか言葉絞り出す。
「何が?」
「どうして、そんなに私のことを?」
「前に会った時に言った通り、あなたに一目惚れしたからよ。誰かを好きになることに理由がいるのかしら?」
「それは……」
あまりにも人間らしい答えに私は二の句が継げなくなってしまった。フェルヒのような吸血鬼だったら何の戸惑いもなく消せるのに。アーデだったら……。
「ああ、あなたのその瞳も本当に素敵だわ。ねぇ、フィーネ。あなた絶対に覚醒なんてしないで頂戴ね?」
「え?」
私はアーデのその言葉に驚いた。
それはまるでアーデのこれまでの人生を否定するかのような発言で、吸血鬼そのものを否定する発言でもあるのだから。
「ね、フィーネ」
アーデは真剣な表情で私の目を見つめてくる。そんな彼女の美しい顔を見て頬が少し熱くなるのを感じる。
「わたし、悪いけどあなたのことを少し調べさせてもらったわ。吸血鬼でありながら吸血衝動を克服し、聖女として食べ物であるはずの人間と共に生きる道を選んだのよね。さらに人間によって被害を受ける立場のエルフとも共に生きていて、精霊まで従えて美しい森を守るために闘っているそうじゃない」
アーデは一気にそう私に告げると、再び優しく目を細めた。
「それを知って、わたしはますますあなたが好きになったわ。気高く生きる美しいその心、決して折れたり汚されたりして欲しくないの。でも、あなたが覚醒してしまったらきっと、それは汚れてしまうわ。わたしはね。あなたにあなたのままでいて欲しいの」
アーデはそうして言葉を一度切った。そんなアーデの表情を見つめていると、アーデは再び真剣な表情に戻り口を開く。
「だからフィーネ、あなたには吸血貴族ではない別の種族への存在進化をしてほしいの」
「吸血貴族へではない存在進化? そんなことができるんですか?」
「そんな例は過去に一つもないわ。でもね、あなたならきっとできると思うの」
アーデは真剣な表情のまま少し弾んだような声で語る。
「だって、人間と共存しようとする吸血鬼も、聖女に選ばれる吸血鬼も、聖衣を纏って聖水を飲む吸血鬼も、【聖属性魔法】や【回復魔法】を使う吸血鬼も、太陽の下でお昼寝する吸血鬼も、精霊と契約する吸血鬼も、何もかもが異例よ? そんなあなたなら、吸血貴族でない別の存在に進化することだってできるんじゃないかしら?」
「それは……」
そう、なのだろうか? 確かに今の時点で可能性がゼロだとは断言できないだろう。
もしかしたらエルフのようにリーチェを上級精霊にできれば存在進化できるのだろうか?
「あなただって、存在進化はしたいのでしょう?」
「どうなんでしょうか。私自身、存在進化というものがあまりよく分かっていなくて……」
そうするとアーデは少し驚いたような表情を見せる。
「あら。じゃあ知りたい?」
そうしてアーデはいたずらっ子のような笑みを浮かべている。
「はい、教えてください」
私は迷わずそう答えた。
それを聞いたアーデは、それはそれは嬉しそうに微笑んだのだった。
「あら、大切なあなたに会いに来るのに理由なんているのかしら?」
アーデはその真っ白な肌を僅かに桜色に染めながらそう言った。
これは温泉で温まったから、だよね?
「あら? あまり嬉しそうじゃないわね? せっかく婚約者のわたしが尋ねてきたというのに」
「あの、その話はお断りしたはずなんですが……」
「いいじゃない。減るものじゃないでしょう?」
いや、減るとか減らないとかそういう問題なのだろうか?
「それにしても、やっぱりあなたは素敵だわ。空に浮かぶ月は、そうね。さしずめあなたのその美しさを際立たせるためのスポットライトね。月光に輝くあなたのその白銀の髪もとてもキレイよ」
いつの間にか息がかかるくらい近くにやってきたアーデが私の髪をそっと撫でる。アーデは柔らかく目を細めている。吸血鬼特有の縦長の瞳は愛おしいものを見つめるかのような優し気な光を宿している。
「そ、そ、それで私に何の用ですか?」
私がしどろもどろになりながらもなんとか言葉を返すと、アーデは微笑みながら髪を撫でていた手を私の背に回し、そのままそっと私を抱きしめてきた。
あ、やわらかい。
彼女の巨大な双丘が私のささやかな膨らみにあたり柔らかく形を変え、その感触が伝わってくる。
「さっきも言ったでしょう? 愛しいあなたに会いに来たのよ。それじゃあダメかしら?」
面と向かってこんな恥ずかしいセリフを、よくもまあ素面で吐けるものだ。
「せっかくこんなに素敵な旅館に泊まっているんだもの。わたしも一緒に温泉に入ってあなたと仲良くなりたいのよ」
「はあ、そうですか。わかりましたからもう少し離れてください。温泉の中なのでちょっと暑いです」
そもそもアーデは泊まってないよね? 無賃入浴はまずいんじゃないかな?
「あら、そう? 仕方ないわね」
そういうとアーデは私の頬に軽くキスをしてからするりと離れていった。
ん?
キスされた?
「あら、可愛いわ。顔が真っ赤よ? もしかして初めてだったのかしら?」
「え? あ? いや、え? あ、その?」
「本当に可愛いわね。このまま唇にもキスしてもいいかしら?」
「え? だ、だ、ダメです。だめです!」
「ふふ。じゃあそれはまた今度ね」
そういってアーデは楽しそうに笑っている。
「それにしても、あなたは本当に覚醒しないでいられるのね」
アーデは私の頬を両手で優しく挟むと私の目を見つめてくる。その縦長の瞳とどこまでも穏やかな光を湛えている。
「どうして、ですか?」
私はなんとか言葉絞り出す。
「何が?」
「どうして、そんなに私のことを?」
「前に会った時に言った通り、あなたに一目惚れしたからよ。誰かを好きになることに理由がいるのかしら?」
「それは……」
あまりにも人間らしい答えに私は二の句が継げなくなってしまった。フェルヒのような吸血鬼だったら何の戸惑いもなく消せるのに。アーデだったら……。
「ああ、あなたのその瞳も本当に素敵だわ。ねぇ、フィーネ。あなた絶対に覚醒なんてしないで頂戴ね?」
「え?」
私はアーデのその言葉に驚いた。
それはまるでアーデのこれまでの人生を否定するかのような発言で、吸血鬼そのものを否定する発言でもあるのだから。
「ね、フィーネ」
アーデは真剣な表情で私の目を見つめてくる。そんな彼女の美しい顔を見て頬が少し熱くなるのを感じる。
「わたし、悪いけどあなたのことを少し調べさせてもらったわ。吸血鬼でありながら吸血衝動を克服し、聖女として食べ物であるはずの人間と共に生きる道を選んだのよね。さらに人間によって被害を受ける立場のエルフとも共に生きていて、精霊まで従えて美しい森を守るために闘っているそうじゃない」
アーデは一気にそう私に告げると、再び優しく目を細めた。
「それを知って、わたしはますますあなたが好きになったわ。気高く生きる美しいその心、決して折れたり汚されたりして欲しくないの。でも、あなたが覚醒してしまったらきっと、それは汚れてしまうわ。わたしはね。あなたにあなたのままでいて欲しいの」
アーデはそうして言葉を一度切った。そんなアーデの表情を見つめていると、アーデは再び真剣な表情に戻り口を開く。
「だからフィーネ、あなたには吸血貴族ではない別の種族への存在進化をしてほしいの」
「吸血貴族へではない存在進化? そんなことができるんですか?」
「そんな例は過去に一つもないわ。でもね、あなたならきっとできると思うの」
アーデは真剣な表情のまま少し弾んだような声で語る。
「だって、人間と共存しようとする吸血鬼も、聖女に選ばれる吸血鬼も、聖衣を纏って聖水を飲む吸血鬼も、【聖属性魔法】や【回復魔法】を使う吸血鬼も、太陽の下でお昼寝する吸血鬼も、精霊と契約する吸血鬼も、何もかもが異例よ? そんなあなたなら、吸血貴族でない別の存在に進化することだってできるんじゃないかしら?」
「それは……」
そう、なのだろうか? 確かに今の時点で可能性がゼロだとは断言できないだろう。
もしかしたらエルフのようにリーチェを上級精霊にできれば存在進化できるのだろうか?
「あなただって、存在進化はしたいのでしょう?」
「どうなんでしょうか。私自身、存在進化というものがあまりよく分かっていなくて……」
そうするとアーデは少し驚いたような表情を見せる。
「あら。じゃあ知りたい?」
そうしてアーデはいたずらっ子のような笑みを浮かべている。
「はい、教えてください」
私は迷わずそう答えた。
それを聞いたアーデは、それはそれは嬉しそうに微笑んだのだった。
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