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巫女の治める国

第四章第18話 シズクを探して(1)

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2021/12/12 ご指摘いただいた誤字を修正しました。ありがとうございました
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「この国の治安はかなり良いみたいですし、手分けして探しましょう」

フィーネ様のこの提案で、私たちは手分けしてシズク殿の手がかりを探すこととなった。

「では、私は剣術道場を中心に聞き込みを行ってまいります」
「じゃあ、あたしは食べ物屋さん♪」
「……では、私はそれ以外を中心に聞き込みをしますね」

ルミアのそれはただの食べ歩きではないかという疑問はあるが、適材適所なのだということにしておこう。

「それでは、夕方にこの宿に集合しましょう」
「はーい」
「かしこまりました」

フィーネ様をお一人にすることに不安がないわけではないが、心配をしすぎても良くないのだろう。私は不安を胸の奥に押し込むと近くの剣術道場へと足を運ぶのだった。

****

私は、『カシマ流剣術道場』と看板の出ている剣術道場の前へとやってきた。

「失礼する! どなたかいらっしゃるか?」

私は剣術道場の扉を叩く。そしてしばらくすると扉が開けられた。そして私の顔を見るなり驚いた顔をされた。

「な? 異国の女性でござるか? 我がカシマ流剣術道場に何の用でござるか?」
「おお! その言葉遣いは! 私はクリスティーナ。ホワイトムーン王国聖騎士にして聖女フィーネ・アルジェンタータ様の盾だ。我々は今人さが――」
「騎士!? ど、道場破りでござるな! よ、よし、入るがよいでござる」
「え? え? は?」
「さあ! こちらへ!」

何を言っているのかよく分からないが、あまり友好的な雰囲気ではないことは確かだ。

そうして私はよく分からないままに道場の中へと案内された。

「儂がカシマ流師範、モリアツ・カシマ、異国の剣士よ。いざ、尋常に勝負でござる」

目の前にはそう名乗りをあげて私に殺気を向ける壮年の剣士がおり、稽古中と思われる生徒たちは板張りの道場の隅に寄って座っている。どうやら、私とこの男性の試合を見ようということのようだ。

手荒な真似はしたくなかったが、仕方がない。

「我が名はクリスティーナ、ホワイトムーン王国聖騎士にして聖女フィーネ・アルジェンタータ様の盾なり。いざ、参られよ」

私はセスルームニルを抜き、正眼に構える。シズク殿とは違いこの男性も正眼に構えている。どうやら、この道場はシズク殿の流派とは違うようだ。

「きえぇぇぇぇぇぇ」

観察しているとこの男性が奇声をあげて打ち込んできたので冷静にいないして剣を弾き飛ばす。

ふむ。シズク殿の足元にも及ばない腕前だ。この程度の男が代表とはな。

どうやらこのカシマ流とかいう剣術の流派はまるで大したことがないようだ。

「これで勝負あり、だな?」

セスルームニルを首筋に当ててそう告げると、この男はがっくりとうな垂れる。

「我々は今人探しをしているのだ。フウザンのミエシロ家長女、シズク殿を探している。とても背の高い長髪の女性で、このゴールデンサン巫国の出身だ。あなた方と同じような口調で喋るのだが、心当たりはないか?」
「……いや、知らない……でござる」

この男は絞り出すように答えた。

「なるほど。では、試合の際に剣を鞘に収めて構える流派に心当たりはないか?」
「……どの流派にも居合は存在するでござる。だが、最初から居合で構える流派と言われて思いつくのはシンエイ流ぐらいでござるな」
「なるほど。そのシンエイ流というのはどの道場だ?」
「儂は知らぬしシンエイ流の剣士には会ったこともないでござるよ。だが、イッテン流の師範なら知っているはずでござる」
「イッテン流?」
「儂の流派であるカシマ流はイッテン流の一派でござる」
「つまり、あなたの師匠の流派ということか?」
「まあ、そのようなものでござる」
「では、そのイッテン流の道場はどこにあるのだ?」
「サンジョウミクラでござる。だが、イッテン流の一派の道場を八つを破らない限り立ち入ることはできないでござるよ」
「……どういうことだ?」
「イッテン流の道場はいわば我々の道場の総本部でござる。実力を示していない者は立ち入りを許されないでござるし、このミヤコの警備も任されているでござる。無理に立ち入るならそのままお尋ね者になるでござるよ」

なるほど。イッテン流というのはこの国の衛兵たちも学ぶ剣術で、そのまま国と結びついているということか。

「では、私がイッテン流の道場で話を聞くにはあと七つの道場を破る必要があるということか」
「左様でござる」
「ここから一番近い道場はどこにあるのだ?」
「う、それは……ここからネギナベ川に向かってまっすぐ歩いていくと四ブロックほどでナカヤマ流の道場があるでござるよ」

少し口ごもったが、私がジッと目を見ていると観念したのか親切にも道場の場所を教えてくれた。

「恩に着る。ところで、お前たちのその『ござる』という口調はなんなのだ? 町の者たちにはない口調のようだが?」
「このミヤコで侍の職を目指す者は皆この口調でしゃべるでござるよ」
「な、なるほど。そういうものなのか」

やたらと胸を張り自信満々に答えている。おそらく、この国には侍風の口調というものがあり、それに影響されているということなのだろう。

「では、私はそのナカヤマ流の道場とやらに行ってみることにする。時間を取らせて済まなかった」
「い、いえ。あ、これを持って行くでござるよ」

そういってこの男は小さな木の札を私に差し出してくる。

「これは?」
「道場を破った証でござる。師範である儂が負けたでござるからな」
「そうか、なるほど。これを八枚集めれば良いと言うことだな。何から何まですまない」

私は礼をいうとこの道場を後にし、教えてもらったナカヤマ流道場を目指して歩き始めたのだった。
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