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武を求めし者
第五章第12話 謁見
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2021/10/15 誤字を修正しました
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「ホワイトムーン王国より聖女フィーネ・アルジェンタータ様、聖騎士クリスティーナ様、他 2 名、ご参内!」
私たちはレッドスカイ帝国帝都イェンアンの大宮殿の第一正殿、いわゆる謁見の間にやってきた。もちろん、皇帝陛下にお呼ばれしたので会いに来たわけだが、全くもって呼ばれた理由が分からない。イーフゥアさんも知らされていないようなので内心は不安で一杯だ。
宮殿は広く、帝国の名にふさわしい立派な建物でこの第一正殿もとても広い。それはいいのだが、ちょっと朱色に金にと目に痛いような気がする。ここの人たちはこんな派手な色を毎日見ていて目は疲れないのだろうか? それともこういったものは慣れれば平気なものなのだろうか?
さて、皇帝陛下は厳つい顔をした五十歳くらいに見える男性で私たちに鋭い視線を送ってきている。豪華な衣装と頭に特徴的な、そう、まるで三国志か何かの世界の皇帝が被っているような前後にすだれっぽいものがぶら下がっている帽子 を被っている。私はこの帽子の名前が何なのかは知らないが、なんだかすごく皇帝っぽいなと思った。
いや、まあ、実際皇帝陛下なわけだが。
私はホワイトムーン王国で習った淑女の礼を取り、三人は私の後ろに控える形で礼を取っている。
「「「「「「「皇帝陛下万歳、聖女様万歳、万歳、万々歳!」」」」」」」
私たちが礼を取ると、周りにいた文官と思しき人たちが謎の唱和をはじめた。
この万々歳というのは一体なんなのだろうか? まさか大喝采とか言い出したりはしないよね?
いや、余計なことを考えるのはやめよう。変な事を思い出して腹筋が試されることになってはたまらない。
真面目にやらなきゃ。
「うむ、面を上げよ」
「皇帝陛下は礼を解いてよいと仰っています」
私は許しを得て礼を解く。何故か通訳が入っているがこれは一体何の茶番だろうか?
この人と皇帝、同じ言葉を喋ってるよね?
私が不思議に思っていると、クリスさんが後ろからそっと耳打ちをしてくれた。
「フィーネ様、レッドスカイ帝国ではある程度以上の身分や官職を持たない者は皇帝と直接話すことが許されていないそうです。ですが、フィーネ様は聖女というご身分をお持ちですのであの者を間に挟む必要はございません。これを許すとフィーネ様はレッドスカイ帝国に下ったと受け取られます。どうかあの者は無視して直接お話しください」
おお、そんな意味があるのか。危ない。
私はクリスさんに小声でありがとうと伝えると皇帝陛下に向き直る。
「お招きいただき感謝致します。フィーネ・アルジェンタータでございます」
「陛下、聖女は陛下にお会いできたことを心より感謝しております」
「うむ。噂に名高き聖女殿をこうして迎えられたこと、朕は嬉しく思うぞ」
「陛下は聖女殿に――」
「こちらこそ、陛下にお会いできて光栄でございます」
その瞬間、この第一正殿に緊張が走り伝言係の顔に憤怒の表情が浮かんだ。僅かに周りにいた人たちにも動揺が広がっているようで僅かにざわついている。
「また、ナンハイからイェンアンまでの道中、快適に過ごせましたこと、御礼申し上げます」
私はそれらを全て無視してニッコリ営業スマイルで皇帝陛下にお礼を言った。
「ふむ。良き旅が出来たなら何よりだ。ええい、貴様ら静まれ!」
皇帝陛下がざわついている雰囲気に怒りを露わにし、その瞬間に第一正殿は静まり返った。
「さて、この場に聖女殿を呼んだ理由だがな。聖女殿に二つほど頼みたいことがあるのだ」
「はい。どういったご用件でしょうか?」
「まず一つ目だが、以前聖女殿が退治したというファンリィン山脈に巣食う魔物、これの根絶に協力してほしい」
うん? ファンリィン山脈の魔物? 魔物なんていたっけ?
「詳しくお話をお聞かせ頂きますか?」
「うむ。少し前から何をしても倒せぬ黒き靄を纏った魔物が現れるようになり、イァンシュイとチィーティエンを結ぶ街道が使えなくなってしまったのだ。そんな折、ツィンシャからの報告が入ってな。聖女殿はあの魔物を倒す術を持っていると聞く。礼はするゆえその討伐に協力してもらいたい」
あ、もしかするとあの死なない獣のことかもしれない。
もしそうだとすると、放置していたせいで増えてしまったということな気がする。
うーん、あの時やっぱり無理にでも首を突っ込んでおいた方が良かったかな?
「……わかりました。できる範囲で協力しましょう」
「うむ。そしてもう一つ、我が国の猛者を一名、聖女殿の旅に同行させてほしい」
「同行、ですか?」
「うむ。我が帝国最強の武を持つ男だ。女手のみでは危険なことも多かろう。朕も聖女殿の旅が上手くいくことを願っておるのだ」
うーん、それはどうなんだろう?
良い人なら良いけど、性格も分からないし強さも分からないのにいきなりパーティーに入れるというのは難しい気がする。
せっかくの申し出だけど断るか。
「申し訳ありません。どのような方かもわかりませんし、今回は遠慮させていただきたく思います。それに、こういったものは聖剣の導きにより決まると承知しております」
まあ、その聖剣、意外となまくらだけどね。
「なるほど。ではこうしよう。ファンリィン山脈の魔物退治に候補の男を同道させよう。それでその男の人となりはわかるはずだ。そして我が国にも聖剣、七星宝龍剣が伝わっておる。その男も聖剣の所有者を決める選定の儀に参加させる。そして、その聖剣の主に選ばれた者の同行も認めてもらおう。これなら聖女殿の懸念は全て払拭されたはずだ。それでよいな?」
「え? あ、はい」
ついうっかりはいって言っちゃったけど、まあいいか。お試し期間を貰えたんだし、私たちのうち誰か一人でも気に入らなかったら拒否すればいいよね?
こうしてレッドスカイ帝国皇帝との初対面を終えた私たちは第一正殿を後にしたのだった。
==================
※)皇帝陛下の被っていた帽子は冕冠《べんかん》と呼ばれるものです。
フィーネちゃんはさらっと皇帝陛下に丸め込まれてしまいました。
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「ホワイトムーン王国より聖女フィーネ・アルジェンタータ様、聖騎士クリスティーナ様、他 2 名、ご参内!」
私たちはレッドスカイ帝国帝都イェンアンの大宮殿の第一正殿、いわゆる謁見の間にやってきた。もちろん、皇帝陛下にお呼ばれしたので会いに来たわけだが、全くもって呼ばれた理由が分からない。イーフゥアさんも知らされていないようなので内心は不安で一杯だ。
宮殿は広く、帝国の名にふさわしい立派な建物でこの第一正殿もとても広い。それはいいのだが、ちょっと朱色に金にと目に痛いような気がする。ここの人たちはこんな派手な色を毎日見ていて目は疲れないのだろうか? それともこういったものは慣れれば平気なものなのだろうか?
さて、皇帝陛下は厳つい顔をした五十歳くらいに見える男性で私たちに鋭い視線を送ってきている。豪華な衣装と頭に特徴的な、そう、まるで三国志か何かの世界の皇帝が被っているような前後にすだれっぽいものがぶら下がっている帽子 を被っている。私はこの帽子の名前が何なのかは知らないが、なんだかすごく皇帝っぽいなと思った。
いや、まあ、実際皇帝陛下なわけだが。
私はホワイトムーン王国で習った淑女の礼を取り、三人は私の後ろに控える形で礼を取っている。
「「「「「「「皇帝陛下万歳、聖女様万歳、万歳、万々歳!」」」」」」」
私たちが礼を取ると、周りにいた文官と思しき人たちが謎の唱和をはじめた。
この万々歳というのは一体なんなのだろうか? まさか大喝采とか言い出したりはしないよね?
いや、余計なことを考えるのはやめよう。変な事を思い出して腹筋が試されることになってはたまらない。
真面目にやらなきゃ。
「うむ、面を上げよ」
「皇帝陛下は礼を解いてよいと仰っています」
私は許しを得て礼を解く。何故か通訳が入っているがこれは一体何の茶番だろうか?
この人と皇帝、同じ言葉を喋ってるよね?
私が不思議に思っていると、クリスさんが後ろからそっと耳打ちをしてくれた。
「フィーネ様、レッドスカイ帝国ではある程度以上の身分や官職を持たない者は皇帝と直接話すことが許されていないそうです。ですが、フィーネ様は聖女というご身分をお持ちですのであの者を間に挟む必要はございません。これを許すとフィーネ様はレッドスカイ帝国に下ったと受け取られます。どうかあの者は無視して直接お話しください」
おお、そんな意味があるのか。危ない。
私はクリスさんに小声でありがとうと伝えると皇帝陛下に向き直る。
「お招きいただき感謝致します。フィーネ・アルジェンタータでございます」
「陛下、聖女は陛下にお会いできたことを心より感謝しております」
「うむ。噂に名高き聖女殿をこうして迎えられたこと、朕は嬉しく思うぞ」
「陛下は聖女殿に――」
「こちらこそ、陛下にお会いできて光栄でございます」
その瞬間、この第一正殿に緊張が走り伝言係の顔に憤怒の表情が浮かんだ。僅かに周りにいた人たちにも動揺が広がっているようで僅かにざわついている。
「また、ナンハイからイェンアンまでの道中、快適に過ごせましたこと、御礼申し上げます」
私はそれらを全て無視してニッコリ営業スマイルで皇帝陛下にお礼を言った。
「ふむ。良き旅が出来たなら何よりだ。ええい、貴様ら静まれ!」
皇帝陛下がざわついている雰囲気に怒りを露わにし、その瞬間に第一正殿は静まり返った。
「さて、この場に聖女殿を呼んだ理由だがな。聖女殿に二つほど頼みたいことがあるのだ」
「はい。どういったご用件でしょうか?」
「まず一つ目だが、以前聖女殿が退治したというファンリィン山脈に巣食う魔物、これの根絶に協力してほしい」
うん? ファンリィン山脈の魔物? 魔物なんていたっけ?
「詳しくお話をお聞かせ頂きますか?」
「うむ。少し前から何をしても倒せぬ黒き靄を纏った魔物が現れるようになり、イァンシュイとチィーティエンを結ぶ街道が使えなくなってしまったのだ。そんな折、ツィンシャからの報告が入ってな。聖女殿はあの魔物を倒す術を持っていると聞く。礼はするゆえその討伐に協力してもらいたい」
あ、もしかするとあの死なない獣のことかもしれない。
もしそうだとすると、放置していたせいで増えてしまったということな気がする。
うーん、あの時やっぱり無理にでも首を突っ込んでおいた方が良かったかな?
「……わかりました。できる範囲で協力しましょう」
「うむ。そしてもう一つ、我が国の猛者を一名、聖女殿の旅に同行させてほしい」
「同行、ですか?」
「うむ。我が帝国最強の武を持つ男だ。女手のみでは危険なことも多かろう。朕も聖女殿の旅が上手くいくことを願っておるのだ」
うーん、それはどうなんだろう?
良い人なら良いけど、性格も分からないし強さも分からないのにいきなりパーティーに入れるというのは難しい気がする。
せっかくの申し出だけど断るか。
「申し訳ありません。どのような方かもわかりませんし、今回は遠慮させていただきたく思います。それに、こういったものは聖剣の導きにより決まると承知しております」
まあ、その聖剣、意外となまくらだけどね。
「なるほど。ではこうしよう。ファンリィン山脈の魔物退治に候補の男を同道させよう。それでその男の人となりはわかるはずだ。そして我が国にも聖剣、七星宝龍剣が伝わっておる。その男も聖剣の所有者を決める選定の儀に参加させる。そして、その聖剣の主に選ばれた者の同行も認めてもらおう。これなら聖女殿の懸念は全て払拭されたはずだ。それでよいな?」
「え? あ、はい」
ついうっかりはいって言っちゃったけど、まあいいか。お試し期間を貰えたんだし、私たちのうち誰か一人でも気に入らなかったら拒否すればいいよね?
こうしてレッドスカイ帝国皇帝との初対面を終えた私たちは第一正殿を後にしたのだった。
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