勘違いから始まる吸血姫と聖騎士の珍道中

一色孝太郎

文字の大きさ
202 / 625
武を求めし者

第五章第24話 テントでおしゃべり(後編)

しおりを挟む
2020/07/07 ご指摘いただいた誤字を修正しました。ありがとうございました
================

なるほど。あの時はシズクさんから無理やり奪い取って主になろうとした形だったからそれだけ犠牲者が出たのか。

そんなことを考えていると、クリスさんが真剣な表情でシズクさんに向けて口を開いた。

「シズク殿、持ち主を選ぶという他にキリナギの伝説はないか?」
「そうでござるな。いつからか分からないくらい昔から存在しているそうでござるよ。あとは……決して折れないと言われているでござるが、その辺りは分からないでござるな」

そりゃあ、今まで折れてないからこうしてここにあるわけで、それが今後も折れないという話にはならないものね。

「なるほど」

そしてクリスさんはしばらく考え、そして真剣な表情でまっすぐ私を見据えてから口を開いた。

「フィーネ様、キリナギをお持ちになった時に何か感じませんでしたか?」
「え? ええと? うーん、どうでしたっけ? あ、シズクさん、ちょっと持たせてもらってもいいですか?」
「構わないでござるよ」

私はキリナギを受け取る。

「暖かくて心地いいですね。聖なる力が流れ込んでくるのを感じます。はい、シズクさん。ありがとうございました」
「ああ、やはりフィーネ殿はキリナギに好かれているようでござるな」
「ふふ、そうですか? それで、クリスさん。これがどうかしたんですか?」
「はい。私のセスルームニルをお持ちになった時はいかがでしたか?」

クリスさんは質問には答えずに私に質問で返してきた。

「え? うーん? ええと、たしか聖なる力がたくさん流れ込んできて気持ち良かったような記憶がありますね。あ、それから見た目と違って羽のように軽かったような?」
「そうでしたか」

私の回答を聞いてクリスさんは納得したような表情を浮かべた。

そしてクリスさんは真剣な表情で私とシズクさんを見据え、そしておもむろに口を開いた。

「フィーネ様、シズク殿、私は、キリナギは聖剣の一振りだと思います」
「へ?」
「聖剣、でござるか? キリナギは刀でござるよ?」
「シズク殿、聖剣というのは全てが私のこのセスルームニルのような剣ではないのだ」

そういってクリスさんは自身の聖剣を私たちに、特にシズクさんが見やすい位置に置いた。

「世界各地に様々な形状の聖剣があり、剣だけでなく槍や弓などもかつては存在していたと聞いている」
「そうなんですか?」

私はクリスさんとシズクさんの会話に割り込む形で質問をする。

「はい。フィーネ様。例えば、かつて聖槍アステロディアという槍がございました。これはおよそ 500 年ほど前ですが、かつてのブルースター王国出身の聖女様を選んだ聖騎士がこれを所持していたそうです。ただ、残念ながら当時の魔王との戦いで失われたと伝えられています」
「ということはブルースター出身の聖女が選ばれていない理由ってもしかして……」
「はい。聖女様を選ぶ聖剣が全て失われたからです」

なるほど。それであの恐ろしいほど熱烈で聖女様万歳な国民性ができあがったわけか。

「だが、拙者はキリナギが聖女を選ぶなどという話は聞いたことがないでござるよ? そもそもゴールデンサン巫国では聖女という存在そのものがほとんど知られていないでござる」

シズクさんが少し慌てたような表情でクリスさんに質問をしている。口調も少し早口になっている。

「私も断言はできない。だが、聖剣、いやキリナギの場合は聖刀と呼ぶべきなのかもしれんが、そうである証拠はいくつもある。まずは一つは持ち主を選び、そして正当な所有者でない者は拒絶し、最悪の場合殺してしまうという点だ。これは私のセスルームニルも、ホワイトムーンにいるもう一人の聖騎士が持つフリングホルニも同じだ」

なるほど。言われてみれば確かにそんなことを言っていた気もする。

「だが、聖女であるフィーネ様はそういったことは関係なく聖剣をお持ちになられた。私のセスルームニルも、そして別の聖女を選んだはずのフリングホルニすらもだ。そして他者を拒むはずのキリナギもだ」

うん? そんな剣、持ったことあったっけ?

私が首を傾げていると、その様子を見たクリスさんが補足をしてくれた。

「フィーネ様、お忘れかもしれませんが悪霊ジョセフの件でシャルロット様とユーグを助けた時です」
「あれ? あ、ああ? えーと、そういえば? そんなこともあったような?」

悪霊ジョセフ! うん、懐かしい。でも私としては大量のフランス人形に追い回された事のほうが印象に残っているからね。そんな剣を触ったくらいのことは忘れていても仕方ないと思うの。

ともあれ、私は思い出していないのだが思い出した風な態度に満足したのかクリスさんは再びシズクさんに話し始めた。

「そして何より、シズク殿は聖女であるフィーネ様と出会い、そして剣を捧げた。そのことこそが何よりの証拠だ」

おい! 最後の証拠がそれかい。

せっかくクリスさんすごいって思って聞いていたのに。

「ですのでフィーネ様、王都に着きましたら一度猊下に見て頂くのが良いでしょう」
「はい。そうですね。私も懐かしい皆さんに会いたいですから」

それに、久しぶりにあのアクロバットお祈りも見たいしね。

「クリスさんっ、あたしの弓はないんですかっ?」

そんなことを考えているとルーちゃんがナチュラルに謎な事を言ってきた。

「……ルミア。ブルースターにかつて伝わっていたとされる聖弓ラオダミアは遥か昔に失われたと聞いているぞ。それに、キリナギのような知られていない聖弓が他にあったとしてもルミアが選ばれるとは限らないのだぞ? 食べてばかりいないできちんと修行をしないと」
「むぅーっ、じゃあ聖フォークとか聖スプーンとか、聖お箸を探しますっ!」

いやいや。流石にそれはないんじゃないかな?

「ルーちゃんは別に聖弓なんてなくても一緒にいてくださいね」
「はいっ! 姉さま大好きー」

ルーちゃんが喜んで私に抱きついてきた。

「ちょっと、ルーちゃん、暑いですよ。くっつかないでください」
「姉さまーっ」

こんなに騒いで他のテントの人たちは眠れたかな? 大丈夫かな?

こうして騒がしくも楽しい夜は更けていくのだった。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

異世界に落ちたら若返りました。

アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。 夫との2人暮らし。 何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。 そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー 気がついたら知らない場所!? しかもなんかやたらと若返ってない!? なんで!? そんなおばあちゃんのお話です。 更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  ブックマーク・評価、宜しくお願いします。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

処理中です...