勘違いから始まる吸血姫と聖騎士の珍道中

一色孝太郎

文字の大きさ
203 / 625
武を求めし者

第五章第25話 山狩り

しおりを挟む
2020/07/08 ご指摘いただいた誤字を修正しました。ありがとうございました
2020/09/24 誤字を修正しました
================

「ふんっ、ふんっ、ふんっ!」

相も変わらずに将軍が一人でずんずんと前を歩いていき、次々と襲ってくる死なない獣を全て一撃のものとに蒸発させていっている。

「はあ、やっぱり私たちはやることがありませんね」
「そうでござるな」
「おい、聖女!」
「ああ、ハイハイ。補充ですね」

私が斧槍に魔力を補充するとそのまま将軍は前線へと復帰した。

まあ、将軍のいる場所が前線なわけだが……。

ちなみに、イーフゥアさんは残念ながらフゥーイエ村跡地でお留守番だ。さすがに道のない場所に文官の彼女を連れてくることはできない。

そしてそれはつまり将軍を止められる人が誰もいないという事を意味している。

「暇なのはいいですが、これだとシズクさんが経験値を稼げませんね」
「そうでござるな。ただ、これでも少しは成長したでござるよ。この通りでござる」

そう言ってシズクさんは少し嬉しそうにステータスを見せてくれた。

──── 
名前:シズク・ミエシロ
種族:半黒狐
性別:女性
職業:剣聖、商人
レベル:1 → 6
HP:202 → 288
MP:70 → 145
STR:240 → 366
INT:120 → 210
AGI:363 → 558
DEX:384 → 583
VIT:165 → 226
MND:187 → 322
LUC:145 → 226

Exp:2 → 2,153
SP:50

ユニークスキル(1):▼
スキル(6):▼
──── 

「うわっ、シズクさんすごいステータスが上がっていますね」
「あと 3 くらいレベルが上がれば元のステータスに戻りそうでござるよ」

そういうシズクさんの声はやはり弾んでいる。

「それは良かったですね。でも、レベルが 5 上がっただけでステータスってこんなに上がりましたっけ? レベルが 1 上がるごとに多くても 20 くらいだった気がしますけど……」

AGI や DEX なんかは 5 で 200 くらい上がってるよ?

「人間を辞めたせいかもしれないでござるし、この『剣聖』という聞きなれない職業のおかげかもしれないでござるよ」
「あれ?シズクさん、 最初からその職業じゃなかったんですか? あ、でも私としてはシズクさんにぴったりな気はしますよ?」

するとシズクさんは少しジト目になる。

「……フィーネ殿は気付いていなかったのでござるな。どのタイミングで勝手に変わったのかは拙者にも分からないでござるが、ネギナベ川の土手でフィーネ殿にお見せしたあの時に変わっていたのでござるよ?」
「え? あはは、全然気付いてませんでした。それにしても、職業が勝手に変わるなんてことあるんですね」
「拙者も聞いたことがないでござるが、現にこうして勝手に変わっていたでござるよ」

うーん、不思議なこともあるものだ。これもスイキョウのせいなのだろうか?

「でも剣聖って、かっこいいですよね?」
「……悪い気はしないでござるな。だが拙者の実力が名前に追いついていないでござるよ」
「まあ、今はレベルが下がっちゃいましたしね」

私がそう言うとシズクさんは少し微妙そうな顔をしてこういった。

「レベルは上げれば良いでござる。だが拙者はまだあの将軍の域には達していないでござるよ」
「そうなんですかね」

シズクさんはそう言っているが、私にはどのくらいの差があるのかはさっぱり分からない。でもシズクさんがそういうならきっとそうなのだろう。

「私は何もしていないですしレベルが上がるのはまだまだ先になりそうです。ゾンビや幽霊でも出てくれば経験値を稼ぐチャンスなんですけどね……」
「はは、フィーネ殿は聖女でござるからな。ああやって将軍のように殴ったり斬ったりするのは、ちょっとイメージと違うでござるな」
「あはは、それもそうですね」

そんな話をしつつ、私は何の気なしにステータスを開いてみた。

──── 
名前:フィーネ・アルジェンタータ
種族:吸血鬼(笑)
性別:女性
職業:治癒師、付与師
レベル:15 → 16
HP:355 → 378
MP:305 → 325
STR:365 → 389
INT:290 → 309
AGI:275 → 293
DEX:320 → 341
VIT:335 → 357
MND:305 → 325
LUC:305 → 325

Exp:110,087 → 134,980
SP:30 → 40

ユニークスキル(13):▼
スキル(23):▼
──── 

「はぁっ?」

私は思わず間の抜けた声を出してしまった。

一体何が起きているの?

「フィーネ様、どうしましたか?」

私の様子を訝しんだクリスさんが声をやや心配そうな表情で声をかけてきた。

「いえ、何故かレベルが上がっています。しかも、ものすごい量の経験値が……」
「ん? フィーネ殿、どういうことでござるか?」
「私も何が何だかさっぱり……」

そう答えつつも私の視線は自分のステータスに釘づけだ。すると今度は私が見ている目の前でまた経験値が増えた。

「経験値が……また……増えました……」
「今ですか?」
「はい。今です……」

私がそう答えるとクリスさんとシズクさんが絶句している。

「どうしたんですか? 姉さまっ」

そう言いながらルーちゃんは私のステータスを覗きこんできた。

「あれー? 経験値が増えましたっ! なんで何もしていないのに経験値が増えてるんですかっ?」
「いえ、それが私にもさっぱり」

──── 
名前:フィーネ・アルジェンタータ
Exp:110,087 → 135,110
──── 

私とルーちゃんは顔を見合わせる。

「ふんっ! ふんっ!」

私たち四人が沈黙したため、将軍の声だけが山の中に響く。

「あの……姉さま……なんか……あの人が声を出すと、姉さまの経験値が増えてる気がするんでけど……」
「……本当ですね」
「……不思議でござるな」
「ええぇ」

確かにルーちゃんに指摘された通り、将軍の掛け声と私の経験値増加がリンクしている。

「フィーネ殿、もしかするとでござるが……」
「え? 私、将軍の掛け声で経験値が増えるとか嫌なんですけど……」
「いや、そうでは――」
「おい、聖女! この辺りは片付いた。一度拠点に戻るぞ!」
「あ、はい」

私たちの会話は将軍の怒声によって強引に打ち切られた。そして将軍が獣のついでに切り倒した木々を収納した私たちはフゥーイエ村の跡地の拠点へと戻るのだった。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

異世界に落ちたら若返りました。

アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。 夫との2人暮らし。 何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。 そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー 気がついたら知らない場所!? しかもなんかやたらと若返ってない!? なんで!? そんなおばあちゃんのお話です。 更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  ブックマーク・評価、宜しくお願いします。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

処理中です...