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武を求めし者
第五章第26話 経験値の謎
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2020/07/11 ご指摘いただいた誤字を修正しました。ありがとうございました
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私たちはフゥーイエ村の跡地に設営された拠点に戻ってきた。私たち以外の山狩り部隊は既に全員が戻ってきている。どうやら怪我人はいないようで何よりだ。
拠点のほうも少しずつ作業が進んでいて、拠点の柵がしっかりと補強されている。それに村長の家だった場所もすっかり片付いて、家を再建するための基礎工事が始まっているようだ。
私は材木を提供し、山狩りから戻ってきた部隊の武器に魔力の補充を、そして付与の効果が完全に無くなってしまったものについては改めて付与をし直した。そうして全ての仕事を終えた私は少し遅い昼食を取ることになった。
「お疲れ様でした。フィーネ様」
「ありがとうございます。でもお仕事ですからね」
「姉さまーっ! 早く食べましょうよっ!」
ルーちゃんが私の手を引いて食事の場所へと連れていってくれる、というか連行された。
「ルーちゃん、ご飯は逃げませんよ?」
「姉さまはわかっていません! 今食べるご飯は今しか食べられないんですよっ!」
うん? 何を言っているのかよくわからないよ? ルーちゃんは哲学にでも目覚めたのかな?
「はいっ! 姉さまの分です」
「ありがとう、ルーちゃん」
いつもの事だが私が食べたい丁度ぴったりの量をよそってくれたルーちゃんに私はお礼を言う。
ルーちゃんは食堂の女将さんとかが実は天職だったりして……いや、無理か。お客さんに出す前に自分が食べて売る物が無くなりそうだ。
「いただきます」
私は今日のお昼を頂く。今日のメニューは米粉を練って麺よりも薄く平たく伸ばして蒸したものとちょっと苦い名前の分からない葉物野菜を茹でたものにお酢とラー油と胡麻をかけた食べ物、そして豆腐とキノコと香菜のスープだ。ものすごく美味しいというわけではないが、インフラの整っていない場所で食べるご飯としてはまずまずの味だ。特にこの練った米粉のもちもちした食感は病みつきになるかもしれない。
「フィーネ殿、先ほどの話の続きでござるが……」
「はい? さっきの話って何でしたっけ?」
私はこてんと首を傾げ、それをシズクさんが胡乱気な表情で見つめている。
「……あ、もしかして経験値が増えていた話ですか?」
「やはり忘れていたでござるな……」
シズクさんは額の少し上に手を当てて大げさに困ったというポーズを取る。いや、呆れられたのかな?
「はぁ。前々から思っていたでござるが、疑問は後回しにしない方が良いでござるよ?」
「え? あはは、そうですよね。でもつい忘れちゃうんですよ」
「まったく、仕方ないでござるな。で、先ほどの続きでござるが、フィーネ殿の経験値は今も増えているのではござらんか?」
「え? 将軍は気合の入った声は聞こえませんけど?」
私はそう答えて辺りを見回して将軍を探す。どうやら将軍は私たちから少し離れた場所に腰を下ろして一人で食事をしている。そして私の視界の端に建物の影に隠れるイーフゥアさんの姿が映る。どうやら将軍を覗き見しているらしい。
まったく、そんな隅でストーカーみたいなことしないでもっと近寄って話せばいいのに。
「……将軍の声からは離れて欲しいでござるよ」
シズクさんの声に私は引き戻される。
「ええと、将軍の気合の入った声じゃないとすると何で経験値が増えるんですか?」
「それはでござるな――」
「何の話をしているんですかっ? 姉さまっ! シズクさん!」
振り向くとおかわりを持ったルーちゃんと今食事を貰ってきたらしいクリスさんの姿がそこにあった。
「ほら、経験値が勝手に増えていた話ですよ」
「あっ、あの人の掛け声で増えるやつ!」
「あれは衝撃的でしたからね。まさか将軍にそのような力があるとは驚きでした」
ルーちゃんは無邪気に、クリスさんは真面目な顔をしてそう言ったのだが、それを見たシズクさんは頭を抱えている。
その耳が飛行機の翼のように横向きに垂れて広がり、尻尾は力なく垂れ下がっている。
「どうしたんですかっ? あ、お腹が空いたならあたしがおかわり取ってきてあげますよ?」
「シズク殿?」
「……ああ、大丈夫でござるよ。とりあえず、話が進まないので二人とも将軍の声からは離れて欲しいでござる」
「ふうん?」
「どういうことだ?」
二人とも怪訝そうな表情をうかべているが、どうやらやっと話が進むようだ。
「まずフィーネ殿、あれから更に経験値が増えていたりはしないでござるか?」
「ええと、見てみますね」
────
名前:フィーネ・アルジェンタータ
Exp:135,110 → 135,350
────
「あ、何故か 240 も増えてますね。どうなっているんでしょう?」
「えっ? あの人掛け声していないのに?」
「不思議だな。私は将軍が見える位置で行動していたがそんな様子はなかったのに」
「だ・か・ら! そこからは離れるでござる!」
「あ、ああ」
「えぇー? でもぉ?」
「離れられないなら黙っているでござる。これはフィーネ殿に関わることでござる!」
「はーい」
ルーちゃんは不承不承という感じではあるが了承する。そして手元の米粉の食べ物を口に運ぶとあっという間にものすごく幸せそうな顔へと戻った。
クリスさんはというと、よくわからない複雑そうな表情をしている。理解できないことを必死に理解しようとしているというか、そんな感じなのだろうか?
「これは拙者の仮説でござるが、フィーネ殿が祝福を与えた武器で敵が倒されると、その経験値がフィーネ殿にも入っているのではないないかと思うでござるよ」
「うん? ということは私が付与の武器を作りまくってばら撒けば何もしないでも経験値がたくさんもらえるってことですか?」
「……拙者の仮説が正しければ、そうなるでござるな」
「もぐもぐ、ごくん。姉さますごいですねっ! もぐもぐもぐ」
「なるほど。それは一理あるな。経験値とは敵を倒した際に、トドメを刺した者が得られるものだ。であれば、最後の一撃にフィーネ様の浄化の魔法が乗ったと考えれば、フィーネ様が最後の一撃に深く関与したと考えてもおかしくはない。だが、分配されるなどという話は聞いたことが無いぞ?」
なるほど。そういえば治癒師のレベルが上がらない理由も敵にトドメを刺せないというのが理由だったもんね。こういう形でトドメに深く関与していると経験値が貰えるのか。
「とはいえ、これはあくまで仮説でござるゆえ、次に誰かがあの死なない獣を倒す前に経験値を見ておいて欲しいでござるよ」
「わかりました」
丁度その時だった。何とも都合の良いタイミングで兵士たちの声が響いた。
「あの獣が襲ってきたぞー! 手の空いている者は聖女様の祝福を賜った武器を手に戦え!」
「「おう!」」
兵士たちが各々武器を手に門のほうへと走っていく。
「ええと、あの子たちはこの広場にいますし、結界」
私は非戦闘員のチュンリィンちゃんとヂュィンシィーくん、そしてイーフゥアさんを守るために、結界を張って万が一に備える。
「ステータス・オープン」
そして私はステータスを再び開いて経験値を確認する。するともともと 135,350 だった私の経験値は 135,410、135,475、135,550、135,620、135,685 と合計 5 回増加し、その後は増えなくなった。
そしてしばらく待っていると北門の方向から将軍が、南門の方向から兵士たちがそれぞれ戻ってきた。
「将軍、お疲れ様でした。何匹倒しましたか?」
「ふん、雑魚がたった 3 匹しかいなかった。念のために補充をしろ」
「はいはい」
私は将軍の武器に魔力を補充すると今度の南から来た兵士たちに声をかける。
「皆さんお疲れ様でした。何匹倒しましたか?」
「あっ! 聖女様! 聖女様の武器のおかげで狼とクマを 1 匹ずつ倒すことができました! ありがとうございます」
「いえいえ。念のために魔力を補充しておきますね」
「ありがとうございます!」
兵士の皆さんは私に敬礼をしてくれる。
別にここまでしてくれなくても良いんだけどね……。
「フィーネ殿、どうだったでござるか?」
「私の経験値が 5 回増えて、倒された死なない獣の数も 5 匹だったみたいなので、多分シズクさんの言う通りだと思います」
「姉さまっ、あの人の掛け声じゃなかったんですねっ!」
いや、ホントにね。一時はどうなることかと思ったけど違ってよかったよ。
「フィーネ様、新しいレベルアップの方法が見つかりましたね。おめでとうございます」
「そうですね。クリスさん、ありがとうございます」
あ、これはきっと、王都でレベルを上げようと四苦八苦していた事に対するものかな?
本当に、クリスさんは私のことを色々覚えていてくれて、気遣ってくれる。
思い込みが激しくてちょっと人の話を聞かなくて、脳筋だけど。
そう思い返してみると改めてお礼が言いたくなった。
「うん、クリスさん、いつもありがとうございます」
「? どういたしまして?」
少し怪訝そうな顔をしたが、クリスさんはニッコリと笑ってくれたのだった。
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私たちはフゥーイエ村の跡地に設営された拠点に戻ってきた。私たち以外の山狩り部隊は既に全員が戻ってきている。どうやら怪我人はいないようで何よりだ。
拠点のほうも少しずつ作業が進んでいて、拠点の柵がしっかりと補強されている。それに村長の家だった場所もすっかり片付いて、家を再建するための基礎工事が始まっているようだ。
私は材木を提供し、山狩りから戻ってきた部隊の武器に魔力の補充を、そして付与の効果が完全に無くなってしまったものについては改めて付与をし直した。そうして全ての仕事を終えた私は少し遅い昼食を取ることになった。
「お疲れ様でした。フィーネ様」
「ありがとうございます。でもお仕事ですからね」
「姉さまーっ! 早く食べましょうよっ!」
ルーちゃんが私の手を引いて食事の場所へと連れていってくれる、というか連行された。
「ルーちゃん、ご飯は逃げませんよ?」
「姉さまはわかっていません! 今食べるご飯は今しか食べられないんですよっ!」
うん? 何を言っているのかよくわからないよ? ルーちゃんは哲学にでも目覚めたのかな?
「はいっ! 姉さまの分です」
「ありがとう、ルーちゃん」
いつもの事だが私が食べたい丁度ぴったりの量をよそってくれたルーちゃんに私はお礼を言う。
ルーちゃんは食堂の女将さんとかが実は天職だったりして……いや、無理か。お客さんに出す前に自分が食べて売る物が無くなりそうだ。
「いただきます」
私は今日のお昼を頂く。今日のメニューは米粉を練って麺よりも薄く平たく伸ばして蒸したものとちょっと苦い名前の分からない葉物野菜を茹でたものにお酢とラー油と胡麻をかけた食べ物、そして豆腐とキノコと香菜のスープだ。ものすごく美味しいというわけではないが、インフラの整っていない場所で食べるご飯としてはまずまずの味だ。特にこの練った米粉のもちもちした食感は病みつきになるかもしれない。
「フィーネ殿、先ほどの話の続きでござるが……」
「はい? さっきの話って何でしたっけ?」
私はこてんと首を傾げ、それをシズクさんが胡乱気な表情で見つめている。
「……あ、もしかして経験値が増えていた話ですか?」
「やはり忘れていたでござるな……」
シズクさんは額の少し上に手を当てて大げさに困ったというポーズを取る。いや、呆れられたのかな?
「はぁ。前々から思っていたでござるが、疑問は後回しにしない方が良いでござるよ?」
「え? あはは、そうですよね。でもつい忘れちゃうんですよ」
「まったく、仕方ないでござるな。で、先ほどの続きでござるが、フィーネ殿の経験値は今も増えているのではござらんか?」
「え? 将軍は気合の入った声は聞こえませんけど?」
私はそう答えて辺りを見回して将軍を探す。どうやら将軍は私たちから少し離れた場所に腰を下ろして一人で食事をしている。そして私の視界の端に建物の影に隠れるイーフゥアさんの姿が映る。どうやら将軍を覗き見しているらしい。
まったく、そんな隅でストーカーみたいなことしないでもっと近寄って話せばいいのに。
「……将軍の声からは離れて欲しいでござるよ」
シズクさんの声に私は引き戻される。
「ええと、将軍の気合の入った声じゃないとすると何で経験値が増えるんですか?」
「それはでござるな――」
「何の話をしているんですかっ? 姉さまっ! シズクさん!」
振り向くとおかわりを持ったルーちゃんと今食事を貰ってきたらしいクリスさんの姿がそこにあった。
「ほら、経験値が勝手に増えていた話ですよ」
「あっ、あの人の掛け声で増えるやつ!」
「あれは衝撃的でしたからね。まさか将軍にそのような力があるとは驚きでした」
ルーちゃんは無邪気に、クリスさんは真面目な顔をしてそう言ったのだが、それを見たシズクさんは頭を抱えている。
その耳が飛行機の翼のように横向きに垂れて広がり、尻尾は力なく垂れ下がっている。
「どうしたんですかっ? あ、お腹が空いたならあたしがおかわり取ってきてあげますよ?」
「シズク殿?」
「……ああ、大丈夫でござるよ。とりあえず、話が進まないので二人とも将軍の声からは離れて欲しいでござる」
「ふうん?」
「どういうことだ?」
二人とも怪訝そうな表情をうかべているが、どうやらやっと話が進むようだ。
「まずフィーネ殿、あれから更に経験値が増えていたりはしないでござるか?」
「ええと、見てみますね」
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名前:フィーネ・アルジェンタータ
Exp:135,110 → 135,350
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「あ、何故か 240 も増えてますね。どうなっているんでしょう?」
「えっ? あの人掛け声していないのに?」
「不思議だな。私は将軍が見える位置で行動していたがそんな様子はなかったのに」
「だ・か・ら! そこからは離れるでござる!」
「あ、ああ」
「えぇー? でもぉ?」
「離れられないなら黙っているでござる。これはフィーネ殿に関わることでござる!」
「はーい」
ルーちゃんは不承不承という感じではあるが了承する。そして手元の米粉の食べ物を口に運ぶとあっという間にものすごく幸せそうな顔へと戻った。
クリスさんはというと、よくわからない複雑そうな表情をしている。理解できないことを必死に理解しようとしているというか、そんな感じなのだろうか?
「これは拙者の仮説でござるが、フィーネ殿が祝福を与えた武器で敵が倒されると、その経験値がフィーネ殿にも入っているのではないないかと思うでござるよ」
「うん? ということは私が付与の武器を作りまくってばら撒けば何もしないでも経験値がたくさんもらえるってことですか?」
「……拙者の仮説が正しければ、そうなるでござるな」
「もぐもぐ、ごくん。姉さますごいですねっ! もぐもぐもぐ」
「なるほど。それは一理あるな。経験値とは敵を倒した際に、トドメを刺した者が得られるものだ。であれば、最後の一撃にフィーネ様の浄化の魔法が乗ったと考えれば、フィーネ様が最後の一撃に深く関与したと考えてもおかしくはない。だが、分配されるなどという話は聞いたことが無いぞ?」
なるほど。そういえば治癒師のレベルが上がらない理由も敵にトドメを刺せないというのが理由だったもんね。こういう形でトドメに深く関与していると経験値が貰えるのか。
「とはいえ、これはあくまで仮説でござるゆえ、次に誰かがあの死なない獣を倒す前に経験値を見ておいて欲しいでござるよ」
「わかりました」
丁度その時だった。何とも都合の良いタイミングで兵士たちの声が響いた。
「あの獣が襲ってきたぞー! 手の空いている者は聖女様の祝福を賜った武器を手に戦え!」
「「おう!」」
兵士たちが各々武器を手に門のほうへと走っていく。
「ええと、あの子たちはこの広場にいますし、結界」
私は非戦闘員のチュンリィンちゃんとヂュィンシィーくん、そしてイーフゥアさんを守るために、結界を張って万が一に備える。
「ステータス・オープン」
そして私はステータスを再び開いて経験値を確認する。するともともと 135,350 だった私の経験値は 135,410、135,475、135,550、135,620、135,685 と合計 5 回増加し、その後は増えなくなった。
そしてしばらく待っていると北門の方向から将軍が、南門の方向から兵士たちがそれぞれ戻ってきた。
「将軍、お疲れ様でした。何匹倒しましたか?」
「ふん、雑魚がたった 3 匹しかいなかった。念のために補充をしろ」
「はいはい」
私は将軍の武器に魔力を補充すると今度の南から来た兵士たちに声をかける。
「皆さんお疲れ様でした。何匹倒しましたか?」
「あっ! 聖女様! 聖女様の武器のおかげで狼とクマを 1 匹ずつ倒すことができました! ありがとうございます」
「いえいえ。念のために魔力を補充しておきますね」
「ありがとうございます!」
兵士の皆さんは私に敬礼をしてくれる。
別にここまでしてくれなくても良いんだけどね……。
「フィーネ殿、どうだったでござるか?」
「私の経験値が 5 回増えて、倒された死なない獣の数も 5 匹だったみたいなので、多分シズクさんの言う通りだと思います」
「姉さまっ、あの人の掛け声じゃなかったんですねっ!」
いや、ホントにね。一時はどうなることかと思ったけど違ってよかったよ。
「フィーネ様、新しいレベルアップの方法が見つかりましたね。おめでとうございます」
「そうですね。クリスさん、ありがとうございます」
あ、これはきっと、王都でレベルを上げようと四苦八苦していた事に対するものかな?
本当に、クリスさんは私のことを色々覚えていてくれて、気遣ってくれる。
思い込みが激しくてちょっと人の話を聞かなくて、脳筋だけど。
そう思い返してみると改めてお礼が言いたくなった。
「うん、クリスさん、いつもありがとうございます」
「? どういたしまして?」
少し怪訝そうな顔をしたが、クリスさんはニッコリと笑ってくれたのだった。
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