258 / 625
動乱の故郷
第六章第31話 傷痕
しおりを挟む
「え……? めが、み……さま? ここ、は?」
マリーさんが呆けたような表情で私を見つめている。だが、女神さまとは一体どういうことだろうか?
ん? ああ、そうか。私太陽を背にしているから、文字通り後光が差しているんだ。
「こんにちは、マリーさん、でお名前は合っていますか?」
「は、はい」
マリーさんがものすごくおどおどした様子で答える。
「はじめまして、私はフィーネ・アルジェンタータといいます。そしてここはホワイトムーン王国第二騎士団の野戦病院です。マリーさんは森でオーガに襲われていましたので、治療されてここに搬送されました」
するとマリーさんは辺りをキョロキョロと見回し、そして何となく納得したような表情を浮かべると、何故か「すみません」と謝ってきた。
謝られた理由がよく分からない私は場を繋ぐため、運んでくれたアロイスさんを紹介する。
「あ、運んでくれたのはあちらの騎士、アロイスさんですよ」
「はじめまして、マリー嬢。第二騎士団所属の騎士アロイス・バルディリビアと申します」
するとマリーさんはちらりとアロイスさんの方を見遣った。すると彼女の顔には朱が差し、そして慌てたように顔を隠す。そしてそのまま毛布を被ってしまった。
「す、すみません。わたしなんかの汚い顔をお見せして。すみません。すみません」
毛布越しにマリーさんのくぐもった声が聞こえてくる。
「マリー嬢、そのような事はありませんよ。マリー嬢はとてもお美しいです。その瞳も、美しい亜麻色の髪も、その艶のあるお肌も、私はとてもお美しいと思いますよ」
うわっ。アロイスさんがナチュラルにマリーさんを口説き始めた!
「ひっ、あっ、わたしなんか……すみません。すみません……」
「いえ、私は本心でそう申し上げています、マリー嬢。今までお辛かったでしょうが、これからは私がマリー嬢をお支え致します」
うわぁ、この口説き文句ってまさかのプロポーズ?
いきなりそれって、ちょっとぶっ飛びすぎじゃないの?
そんなことを思っていると、クリスさんは私の表情を察して小声でそう説明をしてくれる。
「フィーネ様、騎士というのは本来は彼のようにあるべきなのです。我が国の騎士は剣を王に捧げ、そして弱き民を助け施しを行うことで王への忠義を示すのです。彼にはまだ新たな守るべき民を持つ余裕があるという事なのでしょう」
そして「今となってはそんなことをする騎士はほとんどおりませんがね」とクリスさんは寂しそうに付け加えた。
な、なるほど? 私にはプロポーズにしか聞こえなかったけど、そういう意味じゃないのね?
「フィーネ様がマリーさんを支えるためにこの町に留まることは難しいでしょうから、ここはアロイス殿に任せるのが良いでしょう。それに、アロイス殿がマリーさんを妾や使用人として扱うつもりだったとしても、今の不安定な状況よりは大分マシなのではないでしょうか」
なるほど。確かにまともな扱いをされているようには見えなかったしね。
ただ、まずはあの毛布の中から出てきてもらわないと話にならない。
「マリーさん?」
「ひっ」
私の声にも怯えた様子で毛布の中から出て来ようとしない。
「マリー嬢、聖女様がお呼びですよ?」
「え? ……せい……じょ? フィーネ……さま?」
しばらく毛布の塊が動きを停止した。そしてそのまま謝罪を始めた。
「すみません。すみません。ですが、このような醜い顔をお見せするわけには! それに足も……あ、くわ……れて……いやぁぁぁぁぁ」
マリーさんがパニックを起こして悲鳴を上げてしまった。
「鎮静」
暴れて怪我をしないように私は鎮静魔法でマリーさんを落ち着かせる。
「あ、あ、わ、わた、わたし……その、ええと……すみません……」
「大丈夫ですよ。それと、左足はちゃんと生えていますし、怪我も傷痕も、全部綺麗に治療しておきましたから安心してください」
「……え?」
固まったマリーさんの左足を優しく触ってあげる。
「あ、足が……」
「それにほら、素顔のマリーさんはとっても綺麗ですよ? だから毛布から出てきてください」
私がそう言うと、マリーさんはおずおずと毛布から顔を出してくれた。私はマリーさんの顔をシャルからもらった大切な手鏡に映して見せてあげる。
「え? これが? わたし……?」
なんともテンプレのような台詞を吐いたマリーさんは呆けたように鏡を見つめている。
「はい。そういうわけですので、マリーさんの傷は全て綺麗になりました。もうそんな風に自分を卑下する必要はありませんよ」
「せ、聖女様っ」
そう言ったきり、マリーさんはぽろぽろと大粒の涙を流し始めたのだった。
「さて、聖女様。そろそろお時間ですぞ」
私にメルヴェイク先生がそう声をかけてきた。どうやら騎士団の皆さんが森から戻ってくる時間のようだ。
「では、マリーさん。私は他の患者さんを治療しなければいけませんので今日は失礼しますね」
そうして私はマリーさんの病室を後にしたのだった。部屋からはマリーさんの嗚咽とそんな彼女を励ますアロイスさんの声が僅かに漏れ聞こえてきたのだった。
マリーさんが呆けたような表情で私を見つめている。だが、女神さまとは一体どういうことだろうか?
ん? ああ、そうか。私太陽を背にしているから、文字通り後光が差しているんだ。
「こんにちは、マリーさん、でお名前は合っていますか?」
「は、はい」
マリーさんがものすごくおどおどした様子で答える。
「はじめまして、私はフィーネ・アルジェンタータといいます。そしてここはホワイトムーン王国第二騎士団の野戦病院です。マリーさんは森でオーガに襲われていましたので、治療されてここに搬送されました」
するとマリーさんは辺りをキョロキョロと見回し、そして何となく納得したような表情を浮かべると、何故か「すみません」と謝ってきた。
謝られた理由がよく分からない私は場を繋ぐため、運んでくれたアロイスさんを紹介する。
「あ、運んでくれたのはあちらの騎士、アロイスさんですよ」
「はじめまして、マリー嬢。第二騎士団所属の騎士アロイス・バルディリビアと申します」
するとマリーさんはちらりとアロイスさんの方を見遣った。すると彼女の顔には朱が差し、そして慌てたように顔を隠す。そしてそのまま毛布を被ってしまった。
「す、すみません。わたしなんかの汚い顔をお見せして。すみません。すみません」
毛布越しにマリーさんのくぐもった声が聞こえてくる。
「マリー嬢、そのような事はありませんよ。マリー嬢はとてもお美しいです。その瞳も、美しい亜麻色の髪も、その艶のあるお肌も、私はとてもお美しいと思いますよ」
うわっ。アロイスさんがナチュラルにマリーさんを口説き始めた!
「ひっ、あっ、わたしなんか……すみません。すみません……」
「いえ、私は本心でそう申し上げています、マリー嬢。今までお辛かったでしょうが、これからは私がマリー嬢をお支え致します」
うわぁ、この口説き文句ってまさかのプロポーズ?
いきなりそれって、ちょっとぶっ飛びすぎじゃないの?
そんなことを思っていると、クリスさんは私の表情を察して小声でそう説明をしてくれる。
「フィーネ様、騎士というのは本来は彼のようにあるべきなのです。我が国の騎士は剣を王に捧げ、そして弱き民を助け施しを行うことで王への忠義を示すのです。彼にはまだ新たな守るべき民を持つ余裕があるという事なのでしょう」
そして「今となってはそんなことをする騎士はほとんどおりませんがね」とクリスさんは寂しそうに付け加えた。
な、なるほど? 私にはプロポーズにしか聞こえなかったけど、そういう意味じゃないのね?
「フィーネ様がマリーさんを支えるためにこの町に留まることは難しいでしょうから、ここはアロイス殿に任せるのが良いでしょう。それに、アロイス殿がマリーさんを妾や使用人として扱うつもりだったとしても、今の不安定な状況よりは大分マシなのではないでしょうか」
なるほど。確かにまともな扱いをされているようには見えなかったしね。
ただ、まずはあの毛布の中から出てきてもらわないと話にならない。
「マリーさん?」
「ひっ」
私の声にも怯えた様子で毛布の中から出て来ようとしない。
「マリー嬢、聖女様がお呼びですよ?」
「え? ……せい……じょ? フィーネ……さま?」
しばらく毛布の塊が動きを停止した。そしてそのまま謝罪を始めた。
「すみません。すみません。ですが、このような醜い顔をお見せするわけには! それに足も……あ、くわ……れて……いやぁぁぁぁぁ」
マリーさんがパニックを起こして悲鳴を上げてしまった。
「鎮静」
暴れて怪我をしないように私は鎮静魔法でマリーさんを落ち着かせる。
「あ、あ、わ、わた、わたし……その、ええと……すみません……」
「大丈夫ですよ。それと、左足はちゃんと生えていますし、怪我も傷痕も、全部綺麗に治療しておきましたから安心してください」
「……え?」
固まったマリーさんの左足を優しく触ってあげる。
「あ、足が……」
「それにほら、素顔のマリーさんはとっても綺麗ですよ? だから毛布から出てきてください」
私がそう言うと、マリーさんはおずおずと毛布から顔を出してくれた。私はマリーさんの顔をシャルからもらった大切な手鏡に映して見せてあげる。
「え? これが? わたし……?」
なんともテンプレのような台詞を吐いたマリーさんは呆けたように鏡を見つめている。
「はい。そういうわけですので、マリーさんの傷は全て綺麗になりました。もうそんな風に自分を卑下する必要はありませんよ」
「せ、聖女様っ」
そう言ったきり、マリーさんはぽろぽろと大粒の涙を流し始めたのだった。
「さて、聖女様。そろそろお時間ですぞ」
私にメルヴェイク先生がそう声をかけてきた。どうやら騎士団の皆さんが森から戻ってくる時間のようだ。
「では、マリーさん。私は他の患者さんを治療しなければいけませんので今日は失礼しますね」
そうして私はマリーさんの病室を後にしたのだった。部屋からはマリーさんの嗚咽とそんな彼女を励ますアロイスさんの声が僅かに漏れ聞こえてきたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
氷河期世代のおじさん異世界に降り立つ!
本条蒼依
ファンタジー
氷河期世代の大野将臣(おおのまさおみ)は昭和から令和の時代を細々と生きていた。しかし、工場でいつも一人残業を頑張っていたがとうとう過労死でこの世を去る。
死んだ大野将臣は、真っ白な空間を彷徨い神様と会い、その神様の世界に誘われ色々なチート能力を貰い異世界に降り立つ。
大野将臣は異世界シンアースで将臣の将の字を取りショウと名乗る。そして、その能力の錬金術を使い今度の人生は組織や権力者の言いなりにならず、ある時は権力者に立ち向かい、又ある時は闇ギルド五竜(ウーロン)に立ち向かい、そして、神様が護衛としてつけてくれたホムンクルスを最強の戦士に成長させ、昭和の堅物オジサンが自分の人生を楽しむ物語。
強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる