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動乱の故郷
第六章第31話 傷痕
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「え……? めが、み……さま? ここ、は?」
マリーさんが呆けたような表情で私を見つめている。だが、女神さまとは一体どういうことだろうか?
ん? ああ、そうか。私太陽を背にしているから、文字通り後光が差しているんだ。
「こんにちは、マリーさん、でお名前は合っていますか?」
「は、はい」
マリーさんがものすごくおどおどした様子で答える。
「はじめまして、私はフィーネ・アルジェンタータといいます。そしてここはホワイトムーン王国第二騎士団の野戦病院です。マリーさんは森でオーガに襲われていましたので、治療されてここに搬送されました」
するとマリーさんは辺りをキョロキョロと見回し、そして何となく納得したような表情を浮かべると、何故か「すみません」と謝ってきた。
謝られた理由がよく分からない私は場を繋ぐため、運んでくれたアロイスさんを紹介する。
「あ、運んでくれたのはあちらの騎士、アロイスさんですよ」
「はじめまして、マリー嬢。第二騎士団所属の騎士アロイス・バルディリビアと申します」
するとマリーさんはちらりとアロイスさんの方を見遣った。すると彼女の顔には朱が差し、そして慌てたように顔を隠す。そしてそのまま毛布を被ってしまった。
「す、すみません。わたしなんかの汚い顔をお見せして。すみません。すみません」
毛布越しにマリーさんのくぐもった声が聞こえてくる。
「マリー嬢、そのような事はありませんよ。マリー嬢はとてもお美しいです。その瞳も、美しい亜麻色の髪も、その艶のあるお肌も、私はとてもお美しいと思いますよ」
うわっ。アロイスさんがナチュラルにマリーさんを口説き始めた!
「ひっ、あっ、わたしなんか……すみません。すみません……」
「いえ、私は本心でそう申し上げています、マリー嬢。今までお辛かったでしょうが、これからは私がマリー嬢をお支え致します」
うわぁ、この口説き文句ってまさかのプロポーズ?
いきなりそれって、ちょっとぶっ飛びすぎじゃないの?
そんなことを思っていると、クリスさんは私の表情を察して小声でそう説明をしてくれる。
「フィーネ様、騎士というのは本来は彼のようにあるべきなのです。我が国の騎士は剣を王に捧げ、そして弱き民を助け施しを行うことで王への忠義を示すのです。彼にはまだ新たな守るべき民を持つ余裕があるという事なのでしょう」
そして「今となってはそんなことをする騎士はほとんどおりませんがね」とクリスさんは寂しそうに付け加えた。
な、なるほど? 私にはプロポーズにしか聞こえなかったけど、そういう意味じゃないのね?
「フィーネ様がマリーさんを支えるためにこの町に留まることは難しいでしょうから、ここはアロイス殿に任せるのが良いでしょう。それに、アロイス殿がマリーさんを妾や使用人として扱うつもりだったとしても、今の不安定な状況よりは大分マシなのではないでしょうか」
なるほど。確かにまともな扱いをされているようには見えなかったしね。
ただ、まずはあの毛布の中から出てきてもらわないと話にならない。
「マリーさん?」
「ひっ」
私の声にも怯えた様子で毛布の中から出て来ようとしない。
「マリー嬢、聖女様がお呼びですよ?」
「え? ……せい……じょ? フィーネ……さま?」
しばらく毛布の塊が動きを停止した。そしてそのまま謝罪を始めた。
「すみません。すみません。ですが、このような醜い顔をお見せするわけには! それに足も……あ、くわ……れて……いやぁぁぁぁぁ」
マリーさんがパニックを起こして悲鳴を上げてしまった。
「鎮静」
暴れて怪我をしないように私は鎮静魔法でマリーさんを落ち着かせる。
「あ、あ、わ、わた、わたし……その、ええと……すみません……」
「大丈夫ですよ。それと、左足はちゃんと生えていますし、怪我も傷痕も、全部綺麗に治療しておきましたから安心してください」
「……え?」
固まったマリーさんの左足を優しく触ってあげる。
「あ、足が……」
「それにほら、素顔のマリーさんはとっても綺麗ですよ? だから毛布から出てきてください」
私がそう言うと、マリーさんはおずおずと毛布から顔を出してくれた。私はマリーさんの顔をシャルからもらった大切な手鏡に映して見せてあげる。
「え? これが? わたし……?」
なんともテンプレのような台詞を吐いたマリーさんは呆けたように鏡を見つめている。
「はい。そういうわけですので、マリーさんの傷は全て綺麗になりました。もうそんな風に自分を卑下する必要はありませんよ」
「せ、聖女様っ」
そう言ったきり、マリーさんはぽろぽろと大粒の涙を流し始めたのだった。
「さて、聖女様。そろそろお時間ですぞ」
私にメルヴェイク先生がそう声をかけてきた。どうやら騎士団の皆さんが森から戻ってくる時間のようだ。
「では、マリーさん。私は他の患者さんを治療しなければいけませんので今日は失礼しますね」
そうして私はマリーさんの病室を後にしたのだった。部屋からはマリーさんの嗚咽とそんな彼女を励ますアロイスさんの声が僅かに漏れ聞こえてきたのだった。
マリーさんが呆けたような表情で私を見つめている。だが、女神さまとは一体どういうことだろうか?
ん? ああ、そうか。私太陽を背にしているから、文字通り後光が差しているんだ。
「こんにちは、マリーさん、でお名前は合っていますか?」
「は、はい」
マリーさんがものすごくおどおどした様子で答える。
「はじめまして、私はフィーネ・アルジェンタータといいます。そしてここはホワイトムーン王国第二騎士団の野戦病院です。マリーさんは森でオーガに襲われていましたので、治療されてここに搬送されました」
するとマリーさんは辺りをキョロキョロと見回し、そして何となく納得したような表情を浮かべると、何故か「すみません」と謝ってきた。
謝られた理由がよく分からない私は場を繋ぐため、運んでくれたアロイスさんを紹介する。
「あ、運んでくれたのはあちらの騎士、アロイスさんですよ」
「はじめまして、マリー嬢。第二騎士団所属の騎士アロイス・バルディリビアと申します」
するとマリーさんはちらりとアロイスさんの方を見遣った。すると彼女の顔には朱が差し、そして慌てたように顔を隠す。そしてそのまま毛布を被ってしまった。
「す、すみません。わたしなんかの汚い顔をお見せして。すみません。すみません」
毛布越しにマリーさんのくぐもった声が聞こえてくる。
「マリー嬢、そのような事はありませんよ。マリー嬢はとてもお美しいです。その瞳も、美しい亜麻色の髪も、その艶のあるお肌も、私はとてもお美しいと思いますよ」
うわっ。アロイスさんがナチュラルにマリーさんを口説き始めた!
「ひっ、あっ、わたしなんか……すみません。すみません……」
「いえ、私は本心でそう申し上げています、マリー嬢。今までお辛かったでしょうが、これからは私がマリー嬢をお支え致します」
うわぁ、この口説き文句ってまさかのプロポーズ?
いきなりそれって、ちょっとぶっ飛びすぎじゃないの?
そんなことを思っていると、クリスさんは私の表情を察して小声でそう説明をしてくれる。
「フィーネ様、騎士というのは本来は彼のようにあるべきなのです。我が国の騎士は剣を王に捧げ、そして弱き民を助け施しを行うことで王への忠義を示すのです。彼にはまだ新たな守るべき民を持つ余裕があるという事なのでしょう」
そして「今となってはそんなことをする騎士はほとんどおりませんがね」とクリスさんは寂しそうに付け加えた。
な、なるほど? 私にはプロポーズにしか聞こえなかったけど、そういう意味じゃないのね?
「フィーネ様がマリーさんを支えるためにこの町に留まることは難しいでしょうから、ここはアロイス殿に任せるのが良いでしょう。それに、アロイス殿がマリーさんを妾や使用人として扱うつもりだったとしても、今の不安定な状況よりは大分マシなのではないでしょうか」
なるほど。確かにまともな扱いをされているようには見えなかったしね。
ただ、まずはあの毛布の中から出てきてもらわないと話にならない。
「マリーさん?」
「ひっ」
私の声にも怯えた様子で毛布の中から出て来ようとしない。
「マリー嬢、聖女様がお呼びですよ?」
「え? ……せい……じょ? フィーネ……さま?」
しばらく毛布の塊が動きを停止した。そしてそのまま謝罪を始めた。
「すみません。すみません。ですが、このような醜い顔をお見せするわけには! それに足も……あ、くわ……れて……いやぁぁぁぁぁ」
マリーさんがパニックを起こして悲鳴を上げてしまった。
「鎮静」
暴れて怪我をしないように私は鎮静魔法でマリーさんを落ち着かせる。
「あ、あ、わ、わた、わたし……その、ええと……すみません……」
「大丈夫ですよ。それと、左足はちゃんと生えていますし、怪我も傷痕も、全部綺麗に治療しておきましたから安心してください」
「……え?」
固まったマリーさんの左足を優しく触ってあげる。
「あ、足が……」
「それにほら、素顔のマリーさんはとっても綺麗ですよ? だから毛布から出てきてください」
私がそう言うと、マリーさんはおずおずと毛布から顔を出してくれた。私はマリーさんの顔をシャルからもらった大切な手鏡に映して見せてあげる。
「え? これが? わたし……?」
なんともテンプレのような台詞を吐いたマリーさんは呆けたように鏡を見つめている。
「はい。そういうわけですので、マリーさんの傷は全て綺麗になりました。もうそんな風に自分を卑下する必要はありませんよ」
「せ、聖女様っ」
そう言ったきり、マリーさんはぽろぽろと大粒の涙を流し始めたのだった。
「さて、聖女様。そろそろお時間ですぞ」
私にメルヴェイク先生がそう声をかけてきた。どうやら騎士団の皆さんが森から戻ってくる時間のようだ。
「では、マリーさん。私は他の患者さんを治療しなければいけませんので今日は失礼しますね」
そうして私はマリーさんの病室を後にしたのだった。部屋からはマリーさんの嗚咽とそんな彼女を励ますアロイスさんの声が僅かに漏れ聞こえてきたのだった。
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