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黒き野望
第八章第8話 上陸
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2022/05/21 誤字を修正しました
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「んーっ! 揺れませんっ!」
ルーちゃんがそう言いながら嬉しそうに砂浜を踏みしめている。私たちを乗せてきた小舟は既にこの浜辺を離れており、これで私たちには引き返すという選択肢は無くなった。
この場に立っているのは私たち 8 人の他に 2 人の伝令役の兵士だけだ。この 2 人には私たちが港を確保した時にホワイトムーン王国へと戻ってもらい、艦隊を派遣してもらう手筈になっている。
「やっと、やっとです」
サラさんが誰にともなくそう小さく呟いた。
魔の者と手を組んだ実の兄に国を追われ、乗っていた船を撃沈されて漂流して。
それでもこうして再び母国の大地を踏みしめているのだからやはり感慨も一入なのだろう。
「まずは、ええと何とかの町ですね」
「フィーネ様。キトスの町です」
「そう、それです。ここからはどうやって行くんですか?」
「はい。ここからの道がはっきりと分かるわけではないのですが、この辺りの地形からある程度の場所は分かります。遠回りにはなりますが、このまままっすぐ南へと向かい山を目指します。そこから東に向かえば街道に出られるはずです」
なるほど。でも完全に地理が分かっているわけではないのか。ということは、後は占いで何とかするのかな?
あれ? 待てよ? そもそもそんなことをしなくても?
「人の手の入っていない熱帯雨林を進むのはとても大変ですが、頑張りましょう」
サラさんは私たちをそうやって鼓舞してくれる。
「あの、サラさん。ちょっと待ってくださいね。ルーちゃん」
「はーい。何ですか? 姉さま」
一人で波と戯れていたルーちゃんが駆け寄ってくる。
「この森の中に人間の町があるはずなんですが、案内してもらえませんか?」
「えーと、ちょっと待ってくださいね……はい。大丈夫ですっ!」
「じゃあ、お願いします」
「任せてくださいっ!」
そう言って胸を張ったルーちゃんはいつものように森の中へと歩き出し、私たちはその後に続いて歩き出した。そんな私たちをサラさんとシャル達が慌てて追いかけてきたのだった。
****
「な、何なんですの? これは?」
「藪が自ら避けて道を作ってくれるなんて」
シャルとサラさんが驚愕の声を上げている。シャルの護衛騎士のリシャールさんとエミリエンヌさん、それから連絡役としてついて来ている二人の騎士も目を丸くして驚いている。
そうだろうそうだろう。森でのルーちゃんは最強のチートなのだ。
そういえば、ルーちゃんたちを捕まえたやつらは一体どうやってこんなことをできるエルフを森で捕らえたのだろうか?
うーん。やっぱり食べ物かな?
「聖女フィーネ様。これがエルフの力なのですね」
「うーん? どうなんでしょうね。森の精霊たちにお願いしていると言っていましたから、森の精霊の力なんじゃないでしょうか」
私に質問してきたリシャールさんに私はそう返事をした。
「そうですよっ。姉さまの言う通りです。あたしがすごいんじゃなくて森にいる精霊のみんながすごいんですっ」
「なるほど。左様ですか」
リシャールさんは感心したように頷いている。
「あっ。マシロっ!」
ルーちゃんがマシロちゃんを召喚するとすぐに風の刃が飛んでいった。
「どうしたんですか?」
「あっちに変な模様の猫の魔物がいました」
「変な模様?」
リシャールさんがそう聞き返してきた。
「らしいですよ。行っていますか?」
「フィーネ様、行ってみましょう。それに浄化しておかないとゾンビになるかもしれません」
「あっと、そうでした」
そうしてルーちゃんの先導で茂みが勝手にかき分けられて進んだ先に 5 メートルくらいの巨大なジャガーの魔物の死体が転がっていた。
一撃で見事に首が切り落とされてる。
「こ、これはジャイアントジャガーですね。音もなく接近してきて人を殺していくためアサシンジャガーとも呼ばれています。本来は死をも覚悟するレベルの強力な魔物なのですが……」
サラさんの驚きようを見るとどうやらかなり強力な魔物だったらしい。でも硬いわけでもないし再生能力も無いんだからそんなに厄介でもないような気もするけど、これは私たちの感覚が麻痺してきているのだろうか?
「じゃあ、さっさと浄化しちゃいましょう」
「フィーネ。どうして浄化するんですの?」
そうか。シャルは魔物ゾンビの話を知らないのか。
「アイロールとイエロープラネットのダルハで魔物のゾンビと戦った事があるんですよ。なので、ゾンビになる前に浄化しておこうと思いまして」
「葬送魔法ではないんですの?」
「あれ? そういえば? でも魔物は殺されたら罪から解放されて神様のところに行くんじゃなかったでしたっけ? とすると私がやっているのは瘴気の浄化という事になるんでしょうかねぇ?」
「それでどうしてゾンビ化が防げるんですの?」
「うーん、でも浄化魔法と葬送魔法って使っている感じはほとんど同じようなものな気がするんですよね」
「え?」
シャルがそれを聞いて固まった。
あれ? そういう感覚ないの?
「あ、いえ。違いがあるのは分かるんですけど、何と言うか葬送を使った後に浄化を使っても何かが起きた記憶が無いんですよね」
「詠唱が全く違うから別の魔法ですわよ?」
「そうなんですか? あ、でもそういえば私はそもそもの正しい詠唱がどういうものなのか知らないんでした」
「はぇっ!?」
シャルが素っ頓狂な声を上げた。
「フィーネ様。我々はもうフィーネ様が魔法の名前だけで発動されたりオリジナルの詠唱をなさる事に慣れていますが、それは一般的なことではありません。正しい詠唱を覚えて魔法を行使するのが一般的なのです」
ああ、そう言えば昔そんなことを言われた気がするような?
「フィーネ、詠唱もなしにどうやって魔法を覚えたんですの?」
「ええと、やろうと思ったらできちゃった感じです」
私はなるべく明るくそう答えてみたのだが、その答えを聞いたシャルは深いため息を吐いた。
「本当に。あなたはつくづく規格外ですわね」
ええと、はい。本当に、何だかごめんなさい。
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「んーっ! 揺れませんっ!」
ルーちゃんがそう言いながら嬉しそうに砂浜を踏みしめている。私たちを乗せてきた小舟は既にこの浜辺を離れており、これで私たちには引き返すという選択肢は無くなった。
この場に立っているのは私たち 8 人の他に 2 人の伝令役の兵士だけだ。この 2 人には私たちが港を確保した時にホワイトムーン王国へと戻ってもらい、艦隊を派遣してもらう手筈になっている。
「やっと、やっとです」
サラさんが誰にともなくそう小さく呟いた。
魔の者と手を組んだ実の兄に国を追われ、乗っていた船を撃沈されて漂流して。
それでもこうして再び母国の大地を踏みしめているのだからやはり感慨も一入なのだろう。
「まずは、ええと何とかの町ですね」
「フィーネ様。キトスの町です」
「そう、それです。ここからはどうやって行くんですか?」
「はい。ここからの道がはっきりと分かるわけではないのですが、この辺りの地形からある程度の場所は分かります。遠回りにはなりますが、このまままっすぐ南へと向かい山を目指します。そこから東に向かえば街道に出られるはずです」
なるほど。でも完全に地理が分かっているわけではないのか。ということは、後は占いで何とかするのかな?
あれ? 待てよ? そもそもそんなことをしなくても?
「人の手の入っていない熱帯雨林を進むのはとても大変ですが、頑張りましょう」
サラさんは私たちをそうやって鼓舞してくれる。
「あの、サラさん。ちょっと待ってくださいね。ルーちゃん」
「はーい。何ですか? 姉さま」
一人で波と戯れていたルーちゃんが駆け寄ってくる。
「この森の中に人間の町があるはずなんですが、案内してもらえませんか?」
「えーと、ちょっと待ってくださいね……はい。大丈夫ですっ!」
「じゃあ、お願いします」
「任せてくださいっ!」
そう言って胸を張ったルーちゃんはいつものように森の中へと歩き出し、私たちはその後に続いて歩き出した。そんな私たちをサラさんとシャル達が慌てて追いかけてきたのだった。
****
「な、何なんですの? これは?」
「藪が自ら避けて道を作ってくれるなんて」
シャルとサラさんが驚愕の声を上げている。シャルの護衛騎士のリシャールさんとエミリエンヌさん、それから連絡役としてついて来ている二人の騎士も目を丸くして驚いている。
そうだろうそうだろう。森でのルーちゃんは最強のチートなのだ。
そういえば、ルーちゃんたちを捕まえたやつらは一体どうやってこんなことをできるエルフを森で捕らえたのだろうか?
うーん。やっぱり食べ物かな?
「聖女フィーネ様。これがエルフの力なのですね」
「うーん? どうなんでしょうね。森の精霊たちにお願いしていると言っていましたから、森の精霊の力なんじゃないでしょうか」
私に質問してきたリシャールさんに私はそう返事をした。
「そうですよっ。姉さまの言う通りです。あたしがすごいんじゃなくて森にいる精霊のみんながすごいんですっ」
「なるほど。左様ですか」
リシャールさんは感心したように頷いている。
「あっ。マシロっ!」
ルーちゃんがマシロちゃんを召喚するとすぐに風の刃が飛んでいった。
「どうしたんですか?」
「あっちに変な模様の猫の魔物がいました」
「変な模様?」
リシャールさんがそう聞き返してきた。
「らしいですよ。行っていますか?」
「フィーネ様、行ってみましょう。それに浄化しておかないとゾンビになるかもしれません」
「あっと、そうでした」
そうしてルーちゃんの先導で茂みが勝手にかき分けられて進んだ先に 5 メートルくらいの巨大なジャガーの魔物の死体が転がっていた。
一撃で見事に首が切り落とされてる。
「こ、これはジャイアントジャガーですね。音もなく接近してきて人を殺していくためアサシンジャガーとも呼ばれています。本来は死をも覚悟するレベルの強力な魔物なのですが……」
サラさんの驚きようを見るとどうやらかなり強力な魔物だったらしい。でも硬いわけでもないし再生能力も無いんだからそんなに厄介でもないような気もするけど、これは私たちの感覚が麻痺してきているのだろうか?
「じゃあ、さっさと浄化しちゃいましょう」
「フィーネ。どうして浄化するんですの?」
そうか。シャルは魔物ゾンビの話を知らないのか。
「アイロールとイエロープラネットのダルハで魔物のゾンビと戦った事があるんですよ。なので、ゾンビになる前に浄化しておこうと思いまして」
「葬送魔法ではないんですの?」
「あれ? そういえば? でも魔物は殺されたら罪から解放されて神様のところに行くんじゃなかったでしたっけ? とすると私がやっているのは瘴気の浄化という事になるんでしょうかねぇ?」
「それでどうしてゾンビ化が防げるんですの?」
「うーん、でも浄化魔法と葬送魔法って使っている感じはほとんど同じようなものな気がするんですよね」
「え?」
シャルがそれを聞いて固まった。
あれ? そういう感覚ないの?
「あ、いえ。違いがあるのは分かるんですけど、何と言うか葬送を使った後に浄化を使っても何かが起きた記憶が無いんですよね」
「詠唱が全く違うから別の魔法ですわよ?」
「そうなんですか? あ、でもそういえば私はそもそもの正しい詠唱がどういうものなのか知らないんでした」
「はぇっ!?」
シャルが素っ頓狂な声を上げた。
「フィーネ様。我々はもうフィーネ様が魔法の名前だけで発動されたりオリジナルの詠唱をなさる事に慣れていますが、それは一般的なことではありません。正しい詠唱を覚えて魔法を行使するのが一般的なのです」
ああ、そう言えば昔そんなことを言われた気がするような?
「フィーネ、詠唱もなしにどうやって魔法を覚えたんですの?」
「ええと、やろうと思ったらできちゃった感じです」
私はなるべく明るくそう答えてみたのだが、その答えを聞いたシャルは深いため息を吐いた。
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ええと、はい。本当に、何だかごめんなさい。
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