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黒き野望
第八章第9話 リベンジマッチ
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それから十日間、私たちはジャングルの中を歩き続けた。ルーちゃんと精霊たちの力を借りているにもかかわらず、ジャングルでの行軍は困難を極めた。
突然の豪雨や増水した川に度々進路を遮られたのだ。
もちろん、防壁を使って橋を架けて渡るなどの工夫はしたが、それでもぬかるんだ地面や前を見ることすら困難になるほどの雨によって私たちの歩みをゆっくりなものに変えられてしまった。
そうして苦労しつつも進む私たちの目の前にまた湖が現れた。だが、その水は黒ずんでおり今までのものと比べて明らかにおかしな色をしている。
「これは、毒の湖ですの?」
「このあたりでそういったものが見つかった記録は無かったはずですが……」
サラさんがそう言うという事は本当に未発見だったのだろう。
「む、これは」
シズクさんが警戒態勢を取った。それに続いてクリスさんも聖剣を抜いて戦いの準備を始める。
ああ、なるほど。どこかで見た水の色だと思っていたが、そういうことか。
まさかこんなところでまた戦うことになるとはね。
「浄化する前にあいつを倒さなきゃいけませんね」
「え? フィーネ? 何を言っているんですの?」
「来るでござるよ」
シズクさんの警告とほぼ同時に池の中から巨大な蛇が現れ、目にも止まらぬ速さで私たちに向かって突進してきた。
「防壁」
私は冷静に防壁を展開してその突進を食い止める。いつかと同じようにそいつは轟音と共に防壁にぶつかってその突進は止まり、怒りの形相で鎌首をもたげた。
「あいつはっ!」
ルーちゃんが小さくそう叫んだ。
そう。この姿に私たちは見覚えがある。こいつはシルツァの里の近くのベルードの生まれ故郷の廃村で私たちが殺されそうになったのと同じ魔物だ。
「あれは! ポイズンティタニコンダ!」
サラさんがそう叫ぶと恐怖に顔を歪ませた。
なるほど。あの魔物はポイズンティタニコンダというのか。
だがその大さはあの時のものと比べてこちらの方が一回りも二回りも大きいようだ。
「今度は負けないでござるよ!」
私の内心を代弁するかのようなセリフを発したシズクさんが猛スピードで突っ込み、そして神速の抜刀からの一撃を加える。
もはや私の目で追うことすらできないその一撃は深々とポイズンティタニコンダの鱗を切り裂き、傷口からは鮮血が噴き出す。
怒りの形相を浮かべたポイズンティタニコンダはシズクさんを捕らえようと尻尾を大きく振り抜くが、その場所にシズクさんの姿はもうなかった。
シズクさんは猛スピードで移動するとポイズンティタニコンダにもう一太刀を浴びせる。その一撃は尻尾を斬り飛ばした。
キシェェェェェェ。
怒りの形相で雄たけびを上げたポイズンティタニコンダは口元を大きく膨らませた。
だが私たちはその後に何が起きるのかを知っている。知っているなら対処は簡単だ。
「防壁」
ポイズンティタニコンダが口を大きく開けたその瞬間、口の中に私は防壁を作り出す。するとビシャッという水音と共に吐き出されようとしていた毒液が防壁によってそのまま口の中に押し留められた。
さらに私の防壁が大きく開いた口の中に作り出されたことでポイズンティタニコンダは口を閉じることはおろか頭を移動させることすらできなくなっている。
「マシロ!」
ルーちゃんがマシロちゃんを呼び出して風の刃を撃ち込んだ。その刃はシズクさんがつけた胴体の傷に寸分たがわず命中し、さらにその傷を深く抉る。
大口を開けたまま苦しそうにもがくポイズンティタニコンダは視線をルーちゃんへと移した。そして防壁が口に引っかかって大口を開けたまま無理矢理私の防壁を支点にして体を捩ると私たちに向けてその長くて太い胴体を叩きつけてきた。
「結界」
私が結界で防ぐのと同時にクリスさんが飛び出していく。そして大きく跳躍すると私の防壁によって閉じることができなくなっている顎に思い切り聖剣を突き上げるような形で下から突き刺した。
それほど強い力が込められていたわけではないだろうが、それでも不自然な体勢で受けた攻撃はかなり痛かったらしく、ポイズンティタニコンダの体が一瞬硬直する。
そしてあいつがギロリとクリスさんを睨んだその瞬間、シズクさんの一撃がポイズンティタニコンダの首を斬り飛ばした。
ドシン、という音と共にポイズンティタニコンダの胴体は力無く地面に横たわり、そして空中には私の防壁で顎が閉じられなくなった巨大な頭だけが残されている。
うん。空中に口を大きく開いた巨大な蛇の頭だけ浮いているというのは中々にシュールな光景だ。
「やったでござるな」
「だが、あの男には……」
確かにベルードには及ばないだろう。何しろ、ベルードは今回の奴よりは小さいとはいえポイズンティタニコンダを一瞬でバラバラにしてしまったのだから。
だが、前回はあれほど苦戦した相手にこうもあっさりと勝てたというのは大きい。
ルーちゃんもきっちりと風の刃でダメージを与えられていたし、クリスさんもきっちりとシズクさんのアシストができた。私もきちんと後手に回らず対応できていたし、何よりシズクさんの一撃はかなり強力になっていた。
「ですが、私たちはしっかり成長していますよ。シズクさん」
「そうですよっ。今回はちゃんと勝ちましたっ!」
ルーちゃんも満足そうだ。
「な、な、な、何ですの? これは!」
「ん? どうかしましたか?」
「どうもこうもありませんわ! ポイズンティタニコンダなどという恐ろしい災厄級の魔物をこうもあっさりと!」
「え? でもほら、私たちグレートオーガやゴブリンキングなんかにも勝っていますから」
「ポイズンティタニコンダはグレートオーガやゴブリンキングなどとは比べ物にならない程の恐ろしい魔物ですわ」
「そうなんですか?」
「そうですわ。あの硬い鱗は剣を通さず、魔法も効きにくいんですのよ? しかも毒のブレスによって広範囲に毒をまき散らすんですわ!」
「確かに、言われてみればそうですね。でも、シズクさんの刀で斬れましたから。それに戦うのは二度目ですからね」
「に、二度目ですの?」
「まあ、最初の時は負けそうになったところを助けてもらったんですけどね」
「そ、そう、なんですの……」
シャルは何ともいえない微妙な表情を浮かべたのだった。
====
おかげさまで3/15発売の拙作「町人Aは悪役令嬢をどうしても救いたい」の書籍化作業は一段落しました。ご理解、ご協力いただきありがとうございました。
本作は平常運転に戻り当面の間、隔日更新となります。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
なお、次回の更新日は 2/26(金) 19:00 を予定しております。
突然の豪雨や増水した川に度々進路を遮られたのだ。
もちろん、防壁を使って橋を架けて渡るなどの工夫はしたが、それでもぬかるんだ地面や前を見ることすら困難になるほどの雨によって私たちの歩みをゆっくりなものに変えられてしまった。
そうして苦労しつつも進む私たちの目の前にまた湖が現れた。だが、その水は黒ずんでおり今までのものと比べて明らかにおかしな色をしている。
「これは、毒の湖ですの?」
「このあたりでそういったものが見つかった記録は無かったはずですが……」
サラさんがそう言うという事は本当に未発見だったのだろう。
「む、これは」
シズクさんが警戒態勢を取った。それに続いてクリスさんも聖剣を抜いて戦いの準備を始める。
ああ、なるほど。どこかで見た水の色だと思っていたが、そういうことか。
まさかこんなところでまた戦うことになるとはね。
「浄化する前にあいつを倒さなきゃいけませんね」
「え? フィーネ? 何を言っているんですの?」
「来るでござるよ」
シズクさんの警告とほぼ同時に池の中から巨大な蛇が現れ、目にも止まらぬ速さで私たちに向かって突進してきた。
「防壁」
私は冷静に防壁を展開してその突進を食い止める。いつかと同じようにそいつは轟音と共に防壁にぶつかってその突進は止まり、怒りの形相で鎌首をもたげた。
「あいつはっ!」
ルーちゃんが小さくそう叫んだ。
そう。この姿に私たちは見覚えがある。こいつはシルツァの里の近くのベルードの生まれ故郷の廃村で私たちが殺されそうになったのと同じ魔物だ。
「あれは! ポイズンティタニコンダ!」
サラさんがそう叫ぶと恐怖に顔を歪ませた。
なるほど。あの魔物はポイズンティタニコンダというのか。
だがその大さはあの時のものと比べてこちらの方が一回りも二回りも大きいようだ。
「今度は負けないでござるよ!」
私の内心を代弁するかのようなセリフを発したシズクさんが猛スピードで突っ込み、そして神速の抜刀からの一撃を加える。
もはや私の目で追うことすらできないその一撃は深々とポイズンティタニコンダの鱗を切り裂き、傷口からは鮮血が噴き出す。
怒りの形相を浮かべたポイズンティタニコンダはシズクさんを捕らえようと尻尾を大きく振り抜くが、その場所にシズクさんの姿はもうなかった。
シズクさんは猛スピードで移動するとポイズンティタニコンダにもう一太刀を浴びせる。その一撃は尻尾を斬り飛ばした。
キシェェェェェェ。
怒りの形相で雄たけびを上げたポイズンティタニコンダは口元を大きく膨らませた。
だが私たちはその後に何が起きるのかを知っている。知っているなら対処は簡単だ。
「防壁」
ポイズンティタニコンダが口を大きく開けたその瞬間、口の中に私は防壁を作り出す。するとビシャッという水音と共に吐き出されようとしていた毒液が防壁によってそのまま口の中に押し留められた。
さらに私の防壁が大きく開いた口の中に作り出されたことでポイズンティタニコンダは口を閉じることはおろか頭を移動させることすらできなくなっている。
「マシロ!」
ルーちゃんがマシロちゃんを呼び出して風の刃を撃ち込んだ。その刃はシズクさんがつけた胴体の傷に寸分たがわず命中し、さらにその傷を深く抉る。
大口を開けたまま苦しそうにもがくポイズンティタニコンダは視線をルーちゃんへと移した。そして防壁が口に引っかかって大口を開けたまま無理矢理私の防壁を支点にして体を捩ると私たちに向けてその長くて太い胴体を叩きつけてきた。
「結界」
私が結界で防ぐのと同時にクリスさんが飛び出していく。そして大きく跳躍すると私の防壁によって閉じることができなくなっている顎に思い切り聖剣を突き上げるような形で下から突き刺した。
それほど強い力が込められていたわけではないだろうが、それでも不自然な体勢で受けた攻撃はかなり痛かったらしく、ポイズンティタニコンダの体が一瞬硬直する。
そしてあいつがギロリとクリスさんを睨んだその瞬間、シズクさんの一撃がポイズンティタニコンダの首を斬り飛ばした。
ドシン、という音と共にポイズンティタニコンダの胴体は力無く地面に横たわり、そして空中には私の防壁で顎が閉じられなくなった巨大な頭だけが残されている。
うん。空中に口を大きく開いた巨大な蛇の頭だけ浮いているというのは中々にシュールな光景だ。
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確かにベルードには及ばないだろう。何しろ、ベルードは今回の奴よりは小さいとはいえポイズンティタニコンダを一瞬でバラバラにしてしまったのだから。
だが、前回はあれほど苦戦した相手にこうもあっさりと勝てたというのは大きい。
ルーちゃんもきっちりと風の刃でダメージを与えられていたし、クリスさんもきっちりとシズクさんのアシストができた。私もきちんと後手に回らず対応できていたし、何よりシズクさんの一撃はかなり強力になっていた。
「ですが、私たちはしっかり成長していますよ。シズクさん」
「そうですよっ。今回はちゃんと勝ちましたっ!」
ルーちゃんも満足そうだ。
「な、な、な、何ですの? これは!」
「ん? どうかしましたか?」
「どうもこうもありませんわ! ポイズンティタニコンダなどという恐ろしい災厄級の魔物をこうもあっさりと!」
「え? でもほら、私たちグレートオーガやゴブリンキングなんかにも勝っていますから」
「ポイズンティタニコンダはグレートオーガやゴブリンキングなどとは比べ物にならない程の恐ろしい魔物ですわ」
「そうなんですか?」
「そうですわ。あの硬い鱗は剣を通さず、魔法も効きにくいんですのよ? しかも毒のブレスによって広範囲に毒をまき散らすんですわ!」
「確かに、言われてみればそうですね。でも、シズクさんの刀で斬れましたから。それに戦うのは二度目ですからね」
「に、二度目ですの?」
「まあ、最初の時は負けそうになったところを助けてもらったんですけどね」
「そ、そう、なんですの……」
シャルは何ともいえない微妙な表情を浮かべたのだった。
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