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黒き野望
第八章第27話 マライ奪還戦(後編)
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「あの? どうしてそんなところに?」
「ああ。それは、どうも魔物どもはサラ殿だけを狙っている様子だったゆえ、隠れてもらったのでござる」
「え?」
そんなので隠れられるものなの?
「あの魔物は目と鼻で追いかけている様子だったでござるからな。あの布の匂いに紛れて上手く誤魔化せたでござるよ」
「はぁ……」
まあ、たしかにちょっと饐えたような匂いはするけれど……。
でも上手くいったようだし、気にしないでおくとしよう。
「聖女様。今の戦況はどうなっているのですか?」
「武器への付与はできました。しばらくは何とかなると思いますよ」
「それは何よりです」
そう言って安堵した表情になるとサラさんは立ち上がって戦況を確認したので私も視線を戦場へと向ける。
どうやら私たちの兵士は黒兵の大部分を蹴散らしたようで、かなり押し込んでいるように見える。
「敵の黒兵があれで全てならこのままマライの町まで行けそうですね」
「はい。ですが、先ほどわたしのいる本陣を急襲してきた部隊もいたことですし、油断は禁物です」
それは確かにそうだ。するとシズクさんが大胆な提案をしてくる。
「そろそろ、大将が動いても良いころではござらんか?」
「え?」
私は思わず聞き返してしまった。大丈夫なのだろうか?
「いや、どうやら敵の狙いはサラ殿ただ一人のようでござるからな。であれば、こちらから前に出てしまえば敵はそこに攻撃を集中せざるを得なくなるでござる。そうなると、拙者たちの兵は敵の隊列が乱れたところを攻撃できるでござるよ」
いや、それはそうだろうけれど……。
「そしてこちらにはフィーネ殿の結界があるでござるゆえ、その中にいればサラ殿は安全でござる」
「わかりました。そうしましょう」
それを聞いたサラさんはあっさりと決断を下した。
「ルミア様。わたし達をまた森の中に隠して進ませてください。そしてあの敵の横から奇襲をしかけましょう」
ルーちゃんが私の方をちらりと見てきたので頷くと、ルーちゃんも頷き返したのだった。
◆◇◆
ルーちゃんが森の精霊の助けを借り、私たちは森の中の道なき道を進んで山を下っていく。道中では伏兵に出会うようなこともなく、驚くほど順調に坂を下りきった。
「では、参りましょう」
「任せるでござるよ。敵の総大将は拙者が倒してみせるでござるよ」
シズクさんがウキウキした様子でそう答えた。
あ、もしかしてシズクさんは一騎打ちがしたかっただけだったりするのかな?
とはいえ、ここまで来て引き下がるわけにもいかない。
「では、結界!」
私は少し広めに結界を張るとルーちゃんがマシロちゃんを呼んで風の刃を飛ばす。
「任せるでござるよ!」
シズクさんがものすごいスピードで突っ込んでいき、風の刃を受けて混乱する敵部隊に斬りこんだ。
「サラ・ブラックレインボーはここにいます! さあ! わたしを討ち取れるものなら討ち取って見せなさい!」
サラさんは前に出ると良く通る声でそう宣言した。
すると敵兵たちの視線が一気にサラさんに向く。そして我先にとサラさんに攻撃をするため黒兵たちが突撃してきた。
しかしシズクさんはすぐそばで自分から目を離すなどという愚かなことをした敵を見逃すはずもない。
シズクさんはサラさんに気を取られて背を向けた黒兵たちを一瞬でバラバラにした。
「浄化」
そしてシズクさんの斬ったそいつらを浄化するのは私の役目だ。
こうして突然の奇襲に混乱した敵部隊はサラさんの登場と名乗りによってさらに混乱した。そんな状態の敵兵をシズクさんが次々と切り伏せては単身で敵陣の奥へ奥へと突き進んでいく。
そして結界に群がってきた敵を倒すのはクリスさんとルーちゃんの役目だ。
「白銀の聖女に捧げし永遠なる浄化の剣!」
「マシロッ!」
クリスさんはエタなんとかを発動し、ルーちゃんはマシロちゃんの風の刃で攻撃し、たまに弓矢で攻撃しては黒兵を次々と斬り捨ては塵へと変えていく。
「あ、防壁」
ガシン。
私の防壁がルーちゃんの矢を防ぐ。ルーちゃんの誤射も今では慣れっこだ。飛んでくるタイミングが感覚的にほぼわかるようになっているあたり、私とルーちゃんの連携もかなり深まってきているのではないだろうか?
やがて、敵陣深くに斬り込んだシズクさんの大きな声が聞こえた。
「敵将! 討ち取ったでござる!」
その声が聞こえた瞬間黒兵たちは統率を失い、敵味方の区別なく人間を襲い始めた。こうなればもはや勝敗は決したも同然だ。
それからすぐに坂の上で戦っていた私たちの兵士も統率を失った黒兵たちを蹴散らし、この平地まで前線を押し上げてきた。
こうしてマライの町の奪還戦は私たちの完全勝利で幕を閉じたのだった。
===============
次回更新は通常通り、2021/04/03 (土) 19:00 を予定しております。
「ああ。それは、どうも魔物どもはサラ殿だけを狙っている様子だったゆえ、隠れてもらったのでござる」
「え?」
そんなので隠れられるものなの?
「あの魔物は目と鼻で追いかけている様子だったでござるからな。あの布の匂いに紛れて上手く誤魔化せたでござるよ」
「はぁ……」
まあ、たしかにちょっと饐えたような匂いはするけれど……。
でも上手くいったようだし、気にしないでおくとしよう。
「聖女様。今の戦況はどうなっているのですか?」
「武器への付与はできました。しばらくは何とかなると思いますよ」
「それは何よりです」
そう言って安堵した表情になるとサラさんは立ち上がって戦況を確認したので私も視線を戦場へと向ける。
どうやら私たちの兵士は黒兵の大部分を蹴散らしたようで、かなり押し込んでいるように見える。
「敵の黒兵があれで全てならこのままマライの町まで行けそうですね」
「はい。ですが、先ほどわたしのいる本陣を急襲してきた部隊もいたことですし、油断は禁物です」
それは確かにそうだ。するとシズクさんが大胆な提案をしてくる。
「そろそろ、大将が動いても良いころではござらんか?」
「え?」
私は思わず聞き返してしまった。大丈夫なのだろうか?
「いや、どうやら敵の狙いはサラ殿ただ一人のようでござるからな。であれば、こちらから前に出てしまえば敵はそこに攻撃を集中せざるを得なくなるでござる。そうなると、拙者たちの兵は敵の隊列が乱れたところを攻撃できるでござるよ」
いや、それはそうだろうけれど……。
「そしてこちらにはフィーネ殿の結界があるでござるゆえ、その中にいればサラ殿は安全でござる」
「わかりました。そうしましょう」
それを聞いたサラさんはあっさりと決断を下した。
「ルミア様。わたし達をまた森の中に隠して進ませてください。そしてあの敵の横から奇襲をしかけましょう」
ルーちゃんが私の方をちらりと見てきたので頷くと、ルーちゃんも頷き返したのだった。
◆◇◆
ルーちゃんが森の精霊の助けを借り、私たちは森の中の道なき道を進んで山を下っていく。道中では伏兵に出会うようなこともなく、驚くほど順調に坂を下りきった。
「では、参りましょう」
「任せるでござるよ。敵の総大将は拙者が倒してみせるでござるよ」
シズクさんがウキウキした様子でそう答えた。
あ、もしかしてシズクさんは一騎打ちがしたかっただけだったりするのかな?
とはいえ、ここまで来て引き下がるわけにもいかない。
「では、結界!」
私は少し広めに結界を張るとルーちゃんがマシロちゃんを呼んで風の刃を飛ばす。
「任せるでござるよ!」
シズクさんがものすごいスピードで突っ込んでいき、風の刃を受けて混乱する敵部隊に斬りこんだ。
「サラ・ブラックレインボーはここにいます! さあ! わたしを討ち取れるものなら討ち取って見せなさい!」
サラさんは前に出ると良く通る声でそう宣言した。
すると敵兵たちの視線が一気にサラさんに向く。そして我先にとサラさんに攻撃をするため黒兵たちが突撃してきた。
しかしシズクさんはすぐそばで自分から目を離すなどという愚かなことをした敵を見逃すはずもない。
シズクさんはサラさんに気を取られて背を向けた黒兵たちを一瞬でバラバラにした。
「浄化」
そしてシズクさんの斬ったそいつらを浄化するのは私の役目だ。
こうして突然の奇襲に混乱した敵部隊はサラさんの登場と名乗りによってさらに混乱した。そんな状態の敵兵をシズクさんが次々と切り伏せては単身で敵陣の奥へ奥へと突き進んでいく。
そして結界に群がってきた敵を倒すのはクリスさんとルーちゃんの役目だ。
「白銀の聖女に捧げし永遠なる浄化の剣!」
「マシロッ!」
クリスさんはエタなんとかを発動し、ルーちゃんはマシロちゃんの風の刃で攻撃し、たまに弓矢で攻撃しては黒兵を次々と斬り捨ては塵へと変えていく。
「あ、防壁」
ガシン。
私の防壁がルーちゃんの矢を防ぐ。ルーちゃんの誤射も今では慣れっこだ。飛んでくるタイミングが感覚的にほぼわかるようになっているあたり、私とルーちゃんの連携もかなり深まってきているのではないだろうか?
やがて、敵陣深くに斬り込んだシズクさんの大きな声が聞こえた。
「敵将! 討ち取ったでござる!」
その声が聞こえた瞬間黒兵たちは統率を失い、敵味方の区別なく人間を襲い始めた。こうなればもはや勝敗は決したも同然だ。
それからすぐに坂の上で戦っていた私たちの兵士も統率を失った黒兵たちを蹴散らし、この平地まで前線を押し上げてきた。
こうしてマライの町の奪還戦は私たちの完全勝利で幕を閉じたのだった。
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