勘違いから始まる吸血姫と聖騎士の珍道中

一色孝太郎

文字の大きさ
359 / 625
黒き野望

第八章第28話 領主邸の闇

しおりを挟む
2021/12/12 誤字を修正しました
================

「サラ様ばんざーい!」
「ブラックレインボー帝国万歳!」
「聖女様万歳!」

敵兵を一掃して町へと入った私たちは住民たちの熱烈な歓迎を受けている。ユスターニと同様に町の人たちの暮らしはそれなりに維持されてはいるようだが、やはり若い男性の姿は見当たらない。

「本当に若い男性を全員、実験に使ってしまったんですね……」
「その成れの果てがあの黒兵とは……」

私の何気ない呟きにクリスさんがそう応じ、サラさんは悔しそうに唇を噛んだ。

こんな滅茶苦茶なことをしてしまって、ブラックレインボー帝国の人たちが普通の暮らしに戻るには一体どれだけの時間が必要になるのだろうか?

いや、アルフォンソは人々の暮らしなんて考えてすらいないのだろう。

だがこんなことをしてまで皇帝になって、そしてホワイトムーン王国に侵略戦争まで仕掛け、その先に一体何が得られるというのだろうか?

そんなことを考えているうちに私たちは領主邸へと到着した。いや、正確には元領主邸で、捕虜の話によると今は兵舎として使われているらしい。

兵舎として使われているならばそれなりに設備が整っているはず、ということで私たちが接収して拠点として利用することにしたというわけだ。

元領主邸の門を開いて中へと入ると、私たちの目に飛び込んできたのは目を覆いたくなるような惨状だった。

「う、これは……」

草木は枯れ果てており、池の水はいかにも毒です、と主張しているかのような紫色をしている。

「何なんですの? これは?」
「なぜ、このようなことに……」

そして次の瞬間、元領主邸の建物から十人ほどの黒兵たちが飛び出してきた。

「え?」
「フィーネ様。お下がりください」
「出るでござる!」

即座に反応したクリスさんが私を守る様に前に出て、シズクさんは黒兵たちを斬り捨てていく。

「ありがとうございます」

私は二人にお礼を言いながら黒兵たちを浄化した。

「いえ。当然のことです」
「それよりも、黒兵たちが多くいるようでござるからな。制圧するでござるよ」
「はい」

そう言ったそばから再び黒兵たちが建物の中から飛び出してきた。今度はその数が増えて数十人はいるようだ。

だがもちろん私たちはそれをあっさりと退けた。この程度の数の黒兵に負けるようなことはありえない。

だがその様子を見ていたサラさんがポロリとそう呟いた。

「これは、もしかしたらこの建物の警備を命令されているのかもしれませんね」
「あの敵将がここの責任者だと思っていたでござるが……」

シズクさんが困惑した様子でそう答えた。

「もしかすると、もっと上の者、それこそアルフォンソからの指示を受けているのかもしれませんわ」
「となると、ここには何か重要な設備があるのかもしれません」

そんなシャルの言葉にリシャールさんがそう返す。

なるほど。確かにそうかもしれない。

外ではシズクさんが敵将を討ったら黒兵たちは統率を失ったし、町の門もあっさりと開いたのだから、あの敵将がこの町の防衛の責任者だったことは間違いないだろう。

だがここにいる黒兵は侵入者を排除するという役目をしっかりと果たそうとしている。

つまりここの黒兵が受けている命令は「あの敵将に従え」というものではないということは間違いない。

「やるしかないですわね」
「はい。ですが何があるかわかりません。慎重に行きましょう」

こうして私たちは建物の中へと足を踏み入れたのだった。

◆◇◆

元領主邸に残っている黒兵たちを制圧していった私たちは今、地下に向かって伸びる階段の前に立っている。

「あとはこの階段の下だけですね」
「はい。早く制圧してしまいましょう」
「そうでござるな」

そうして一歩ずつ階段を降りていくが、明かりがほとんどないため私は視界確保のために浄化魔法を使って灯りを作り出した。

それを見たシャルが目を丸くしているが、とりあえず今は黒兵を排除することのほうが先決だ。

そうして階段を降りきって扉を開けた私たちの目に飛び込んできたのは黒兵ではなくずらりと並んだ鉄格子だった。

「これは地下牢、のようですわね」

私は牢屋の前に立つとその中へ灯りを差し入れた。そうして照らし出されたその光景に思わず息を呑む。

「これはっ!」
「なんですの!? これは!」

何人もの男性が鎖でつながれており、その体に黒いもやのようなものがまとわりついている。

「浄化!」

反射的に放った浄化魔法が男性の体に纏わりつた靄を浄化して消し去る。

「うあ、あ、が、が」

彼らは苦しそうなうめき声を上げ、そしてそのままがくりと頭を垂れた。

「……これは一体?」
「入ってみるでござるか?」
「はい」
「承知でござる」

そう言ってシズクさんは牢屋の鉄格子を斬って穴をあけてくれたので私たちはその中に入って男性たちの様子を確認する。

「……一応、生きてはいるようですわね」
「そう、ですね……」

確かに生きてはいる様子だがその表情はとても苦しそうだ。

「治癒」

一応治癒魔法をかけてみるがあまり効果を発揮している様子はない。

「うーん? 解呪」

するとかなり強烈な手応えと共に呪いが解除された。

「どうやら呪いだったみたいですね」
「それでしたらわたくしも!」

シャルが詠唱をしてから解呪魔法を発動させる。

「え? くぅ」

シャルの魔法と呪いがどうやら拮抗しているらしい。そしてしばらく時間をかけて何とか解呪に成功した。

「こんな強力な呪いを……」

シャルが呆然としながら私と助けた男性を交互に見てきたが、私はそれに気付かないフリをしてそのまま牢屋から出る。

「他にも助けられる人がいるかもしれません。見てみましょう」
「はい」

こうしていくつかの牢屋で同じような状態になっていた男性の浄化と解呪を行い、そして次の牢屋の中を覗いた瞬間に事件は起きた。

「ぐあぁぁぁぁぁぁぁ!」

繋がれていた男性が叫び声を上げるとその男性を包んでいた黒い靄が一気に濃くなりその姿を覆い隠した。

そしてやがてその靄が消えると、その中からあの黒兵が姿を現したのだ。

黒兵はブチリ、と音を立てて自分を拘束している鎖から腕を引きちぎって抜け出す。

引きちぎれた腕は今まで見てきた黒兵たちと同じように再生し、そしてすぐに私たちを攻撃しようとこちらへと突撃してきた。

もちろんその突撃は鉄格子に阻まれるわけだが、黒兵の激突した衝撃音が地下牢に響き渡る。

黒兵はそれでもなお構わずに鉄格子へ突撃を続けており、その様はまるで統制を失った黒兵のそれを見ているようだった。

「……この地下牢で人を黒兵にしていた、ということですか」
「その様ですね。私がやります。すまない」

そう言ってクリスさんはエタなんとかでこの新しく生まれた黒兵の胸を突き、塵へと変える。

あ、ということは!

「浄化!」

私は慌ててこの地下牢全体に浄化魔法を放った。隅々にまで広がった浄化魔法は大量の手応えと共に黒い靄を浄化していく。

「早く解呪してあげましょう」

こうして私たちは順番に地下牢へ繋がれた人たちを解呪して回り、最終的に百人以上の若い男性を助けることに成功したのだった。

◆◇◆

「あとは、これだけですね」

地下牢の男性たちを救出した後、私たちは建物の庭へとやってきた。木々は枯れ果て、水は毒々しい紫色をしている。

「リーチェ、お願いします」

私はかわいいリーチェを呼び出すと花乙女の杖を介して聖属性の魔力を渡した。するとリーチェは花乙女の杖から力を受けながら空に舞い上がり、花びらのシャワーを降らしていく。

だが、魔力の消費が思った以上に激しい。

「う、く……」

今回は範囲がこの広い領主邸の全てなのでかなりの魔力が必要になることは予想していたが、どうやらここの汚染は想像以上にひどいようだ。

今までリーチェとやってきた浄化とは比べ物にならないほどの魔力を持っていかれる。

私は魔力が切れそうになったので慌てて MP ポーションを飲み干した。

そしてかなりの長時間リーチェに魔力を渡し続け、ポーションを十本飲み干したところでようやくリーチェが私のところに戻ってきた。

「はぁ、はぁ、はぁ」

息を切らす私を心配そうにリーチェが覗き込んでくれている。

「あ、リーチェ。ありがとうございます。大丈夫ですよ」

そう返事をした私にリーチェは種を渡してくれたので、それを花びらがびっしりと浮かんでいる池に投げ込んだ。

そして私は最後の力を振り絞ってリーチェに再び魔力を渡してあげる。

すると花びらは眩い光を放ち、領主邸全体が光に包まれた。

やがてその光が消えると池は清浄な水を満々と湛え、枯れ果てていた庭には緑が戻ってきたのだった。

ああ、疲れた。

そうして MP を使い切った私はそのままその場にへたり込んだのだった。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

捨てた騎士と拾った魔術師

吉野屋
恋愛
 貴族の庶子であるミリアムは、前世持ちである。冷遇されていたが政略でおっさん貴族の後妻落ちになる事を懸念して逃げ出した。実家では隠していたが、魔力にギフトと生活能力はあるので、王都に行き暮らす。優しくて美しい夫も出来て幸せな生活をしていたが、夫の兄の死で伯爵家を継いだ夫に捨てられてしまう。その後、王都に来る前に出会った男(その時は鳥だった)に再会して国を左右する陰謀に巻き込まれていく。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

帰国した王子の受難

ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。 取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。

転生したけど平民でした!もふもふ達と楽しく暮らす予定です。

まゆら
ファンタジー
回収が出来ていないフラグがある中、一応完結しているというツッコミどころ満載な初めて書いたファンタジー小説です。 温かい気持ちでお読み頂けたら幸い至極であります。 異世界に転生したのはいいけど悪役令嬢とかヒロインとかになれなかった私。平民でチートもないらしい‥どうやったら楽しく異世界で暮らせますか? 魔力があるかはわかりませんが何故か神様から守護獣が遣わされたようです。 平民なんですがもしかして私って聖女候補? 脳筋美女と愛猫が繰り広げる行きあたりばったりファンタジー!なのか? 常に何処かで大食いバトルが開催中! 登場人物ほぼ甘党! ファンタジー要素薄め!?かもしれない? 母ミレディアが実は隣国出身の聖女だとわかったので、私も聖女にならないか?とお誘いがくるとか、こないとか‥ ◇◇◇◇ 現在、ジュビア王国とアーライ神国のお話を見やすくなるよう改稿しております。 しばらくは、桜庵のお話が中心となりますが影の薄いヒロインを忘れないで下さい! 転生もふもふのスピンオフ! アーライ神国のお話は、国外に追放された聖女は隣国で… 母ミレディアの娘時代のお話は、婚約破棄され国外追放になった姫は最強冒険者になり転生者の嫁になり溺愛される こちらもよろしくお願いします。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

モブでいたはずの私が、ただひとりに溺愛されるまで

ChaCha
恋愛
乙女ゲームの世界に転生したことに気づいたアイナ・ネルケ。 だが彼女はヒロインではない――ただの“モブ令嬢”。 「私は観る側。恋はヒロインのもの」 そう決めて、治癒魔術科で必死に学び、気合いと根性で仲間を癒し続けていた。 筋肉とビンタと回復の日々。 それなのに―― 「大丈夫だ。俺が必ず君を守る」 野外訓練で命を救った騎士、エルンスト・トゥルぺ。 彼の瞳と声が、治癒と共に魂に触れた瞬間から、世界が静かに変わり始める。 幼馴染ヴィルの揺れる視線。 家族の温かな歓迎。 辺境伯領と学園という“日常の戦場”。 「……好き」 「これは恋だ。もう、モブではいたくない」 守られるだけの存在ではなく、選ばれる覚悟を決めたモブ令嬢と、 現実しか知らない騎士の、静かで激しい溺愛の始まり。 これは―― モブでいたはずの私が、ただひとりに溺愛されるまでの物語。 ※溺愛表現は後半からです。のんびり更新します。 ※作者の好みにより筋肉と気合い…ヤンデレ落ち掛けが踊りながらやって来ます。 ※これは恋愛ファンタジーです。ヒロインと違ってモブは本当に大変なんです。みんなアイナを応援してあげて下さい!!

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

処理中です...