勘違いから始まる吸血姫と聖騎士の珍道中

一色孝太郎

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黒き野望

第八章第29話 秘術と瘴気

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2021/04/14 誤字を修正しました
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サラさんの計らいによって私たちは領主邸の一室を与えてもらい、そこで休息を取っていた。

「すみません。もう大丈夫です」

私はベッドから体を起こしてずっと傍にいてくれたクリスさんに微笑みかけると、クリスさんも微笑み返してくれる。

「お元気になられて何よりです」
「心配をおかけしました。でもちょっと MP を使いすぎただけですから」
「……はい」

しかし、この領主邸はどうしてあんな事になっていたのだろうか?

何も考えずにああいう場面であればリーチェの出番と思って浄化したわけだが、そもそもこんな場所にこれほどの量の瘴気が溜まっていること自体が不自然なのではないだろうか?

それに今まで見てきた瘴気の溜まった場所はどこも人里離れた場所にあったはずだ。

いや、でもベルードの村は瘴気のせいで滅んだのだろうからそうというわけではないか。

あ、でもベルードの村には人間はいなかったんだっけ?

うーん?

ともかく、人間が住んでいる場所にはこんな風に瘴気の溜まった場所は無かったはずだ。

うん? いや、待てよ? むしろ瘴気の溜まらない場所だからこそ人が住んでいるという説もあり得るのではないだろうか?

「フィーネ様。難しい顔をして、どうなさったのですか?」
「え? ああ。ええと、どうしてここにあれだけの瘴気が溜まっていたのかを考えていたんです。今まで人間の住んでいる場所に瘴気が溜まっていたことなんて無かったと思いますから」
「……それは、そうですね」

そう言ってクリスさんも腕組みをして考えるそぶりをする。

「お、フィーネ殿。もう起き上がって大丈夫でござるか?」

扉を開けてシズクさんが部屋の中に入ってきた。

「はい。おかげさまでもう大丈夫です。ちょっと MP を使いすぎただけですから」
「そうでござるか。ん? クリス殿は何を悩んでいるでござるか?」
「ああ。フィーネ様がこのような町中に瘴気が溜まっていたのはおかしいと仰られてな」
「なるほど。その事でござるか。どうやらそれは地下で見たあれが原因のようでござるよ?」

ん? どういう事?

「先ほど救出した者の中に運よく最初のころに連れてこられた者がいて話を聞けたでござるよ。それによると、元々彼が連れてこられたときは池の水も普通で、草木も普通の状態だったらしいでござる。そして最初のころはあれを庭でやっていたらしく、人が変えられる度に少しずつ草木は枯れ、池の水は毒々しくなっていったそうでござる」
「それで地下室でやるようになったんですか?」
「おそらくはそうでござるな」
「なるほど。つまりアルフォンソが使っている『進化の秘術』とやらは、瘴気を操って人間を黒兵という別の存在に変えてしまう術ということですよね?」
「そうですね。ただ、アルフォンソが自分自身に使ってもあのような木偶人形になっていないことを考えると、何かコントロールする方法があるような気もします」
「だが、瘴気が絡んでいるという事は間違いなさそうでござるな」
「なるほど。だから黒兵も死なない獣も浄化魔法で倒せるんですね」

そこまで喋って私はふと気が付いた。

「あの、今気づいたんですけどね。もしかしてシルツァの里の近くに瘴気の溜まった場所がたくさんあったのって、あの死なない獣の研究施設が近くにあったからなんじゃないですか?」
「「!」」

私の言葉にクリスさんとシズクさんが顔を見合わせる。

「繋がった、でござるな」
「ああ。あの死なない獣と黒兵は同じ『進化の秘術』を利用していて、レッドスカイ帝国での獣で実験をしていた魔の者がブラックレインボー帝国の皇子であったアルフォンソにその術を提供して人体実験をした、ということだろうな」

どうやらシズクさんとクリスさんも私と同じ結論に至ったようだ。

ううん。どうも似ているとは思っていたが、やはりそうか。

もちろんまだ状況証拠でしかないが、こんなおぞましい方法が同じ時期にあちこちで発明されるとはとても考えにくい。

「やっぱり、アルフォンソを倒しただけでは終わらなそうですね」
「はい。その黒幕を倒さなければ今度は同じことが別の国で行われることになるでしょう」

ああ、やっぱりそうだよね。はぁ。

「そう簡単にはいきませんね」
「はい……」

重苦しい空気が流れ始めたところで今度はルーちゃんが戻ってきた。

「あっ! 姉さまっ! もう起きても大丈夫なんですか?」
「はい。ただの MP 切れですからね」
「じゃあ、食べに行きましょう! 美味しい料理を教えてもらったんですっ!」
「美味しい料理?」
「はいっ! 早く早くっ」
「ああ、もう。そんなに引っ張らなくてもすぐに行きますよ」

こうして私たちは日の傾きかける中、町へと繰り出すことにしたのだった。
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