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黒き野望
第八章第40話 帝都奪還
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2021/12/12 誤字を修正しました
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アルフォンソを倒した後、黒兵の軍団は完全なる烏合の衆と化した。これをあっさりと殲滅し、私たちのアルフォンソとの戦いは幕を下ろした。
ユーグさんは魔石を埋め込まれたはずなのに、魔石を残さずに消滅してしまったらしい。助かったと思ったユーグさんが結局天に召されてしまったのは残念でならないが、シャルは最後にユーグさんと言葉を交わすことができたらしい。
未練が無いなんてことは絶対にないだろうし、きっと心にぽっかりと穴が開いてしまっているに違いない。だが気丈に振る舞っているシャルを見ると何と声をかけたら良いのかわからなくなってしまい、結局はその話題に触れないようにしている。
それに今振り返って考えてみても、あの状況でどうやって助けたら良かったのかは分からない。恐らくだが、元に戻す方法は存在しなかったような気もしている。
というのも、あの後私たちは色々と考えたのだ。その結果、あの『進化の秘術』とは瘴気の力を使って無理矢理存在進化を起こさせているのではないか、という仮説に至ったのだ。
その理由は、スイキョウがシズクさんに対してやったことと似ていると思ったからだ。あの時はユニークスキルで降ろした黒狐とシズクさんを混ぜて別の存在とすることでシズクさんを人間から半黒狐へと存在進化をさせていた。
それを瘴気の力を使っていわば半魔物のような何かに存在進化させているのだとしたら、確かに『進化の秘術』という呼び名はある意味的を射ていると言えるのではないだろうか?
そうそう。それとユーグさんが天に召された場所にはリーチェに分けてもらった種を植えておいた。本国で葬儀を執り行うことにになるのだろうが、肉体は塵となって消えてしまったのだ。
だからせめて墓標の代わりになってくれれば、と思ったのだが……。
まあ、これは私の単なる自己満足かもしれない。
さて、私たちは今帝都アリケプラへと入った。それなりの抵抗はあるかと思われたが、ほとんど抵抗らしい抵抗もなく私たちは受け入れられた。
恐怖で支配した皇帝亡き今、先帝の血を引くサラさんが唯一の皇位継承者なのだ。しかも民に人気のあるサラさんが後継者となることに異を唱えるものなど誰もいないようだ。
それと港町のベレナンデウアだが、そこもホワイトムーン王国の部隊が制圧したという報告が届いている。
これで、ブラックレインボー帝国の主要都市は全てサラさんの手中に収められたと言って良いだろう。
私たちの誰もが望んだ結果を得られたわけではないが、アルフォンソが魔の者と手を結んだことで始まったこの戦争はこうして決着を見ることとなった。
これからホワイトムーン王国とブラックレインボー帝国がどのような関係を築くのかはわからないが、それこそ私が口出しすることではないだろう。
願わくば平等で友好的な関係であらんことを、というのは私の身内びいきなのだろか。
◆◇◆
アリケプラの城内に入った私たちは真っ先に地下室へと向かった。やはりこのアリケプラでも若い男性を中心に連れ去れていたらしく、彼らは皆地下へと連れていかれたという証言を得たからだ。
城の地下にもマライの町にあったものと同じような地下牢が存在しており、マライの町同様にひどい状況となっていた。そのため、急いで浄化をすることで数十人の若い男性を救出することに成功した。
それから研究施設があるのではないかと思って探したのだが、そういった物は一切見つからなかった。
いや、正確に言えばあの地下牢が研究施設だったようで、ローブ姿の男がよく出入りをしていたという証言は得られた。だがそのローブ姿の男が誰のなのかは誰も知らず、その行方も分かっていない。
そいつがアルフォンソに『進化の秘術』を吹き込んだ魔の者なのではないかと疑っているのだが……。
疑いは疑いの域を出ない。
◆◇◆
お城を制圧した私たちはそのままお城の一室を与えらえて過ごすこととなった。そしてその夜、食事を終えた私は風に当たろうとバルコニーに出て外の様子を眺めていた。五階という高い場所にあるここからはほとんど灯りは灯っていないが帝都の夜景がよく見える。
ふと右を見ると、隣のバルコニーにシャルが出てきているのを見かけた。
「シャル」
「フィーネ。あなたも寝られないんですの?」
「はい。ちょっと、色々とありすぎましたから……」
「そう、ですわね」
シャルはそう言うと私のバルコニーの方へと歩いてきた。床は繋がっていないが手を伸ばせば触れられそうな距離ではある。
「わたくし……結局聖女にはなれませんでしたわ」
「え?」
そう寂しそうに言ったシャルに私は思わず聞き返してしまい、そして自分がまずいことを言ってしまったことに気が付く。
「あ、ええと……」
「いいんですわよ。フィーネがわたくしの事を聖女に相応しいと心の底から思ってくれていたことに感謝していますわ」
「シャル……」
「わたくしが分不相応にも聖女になりたいだなんて無茶なことを願ってしまったから……。フィーネのように強力な【聖属性魔法】も【回復魔法】も使えないから。だからユーグ様が……」
シャルの瞳からは涙がポロポロと零れ落ちる。
「シャル。……あの、そっちに行きますね?」
私はジャンプするとシャルのバルコニーに着地した。そしてシャルの体をぎゅっと抱きしめる。
「ねぇ、フィーネ。……もしユーグ様がわたくしではなくフィーネの聖騎士だったなら……わたくしのようなお荷物がいなければ……ユーグ様はまだきっと!」
「シャル。きっとユーグさんは何度やり直してもきっとシャルの事を選ぶと思います。私一人できることなんて限られていて、色んな人の助けを借りているのにそれでもできなくて。でも、一人じゃできないことをしてしまうのがシャルのすごいところじゃないですか。そんなシャルを、私は、その、尊敬しているんです」
「でも! ユーグ様は! う、あ、あぁぁぁぁぁぁぁ」
シャルは私に縋りつくと大声で泣きだした。そんなシャルを私はそっと抱きしめ、落ち着くまで優しく背中をさすってあげる。
私がどんな言葉をかけたところで、シャルの大切なユーグさんは帰ってこない。
それに私だって後悔はある。知らなかったとはいえ、もし私がアイロールではなくアルフォンソの侵略に対して立ち向かいたいから一緒に行きたいと強く主張していたならばきっと結果は違っていたはずだ。
だが今さらそんなことを言ったところで、たとえどんなに後悔したとしても! 何かが変わることはないのだ。
こうして起こってしまった結果を変えることなどできない。それこそ神様でもないない限り、ユーグさんをシャルのところに帰してあげることなどできはしないのだ。
だから、だから……!
私は泣きじゃくるシャルをそっと抱きしめ続けたのだった。
◆◇◆
それからしばらくして泣き疲れたシャルが小さく可愛らしいくしゃみをした。
「シャル? その格好じゃ冷えちゃいますよ?」
今さらになって気付いたのだが、シャルはいつもの優れモノのローブを着ていなければあのロザリオも身につけていない。
「……そう、ですわね。でも、わたくしにはもう聖衣を着る資格はないのですわ」
「……」
「ねぇ、フィーネ」
「何ですか?」
「フィーネは、わたくしの、お友達ですわよね?」
「はい。もちろんです。シャルは私の大切なお友達です」
「フィーネは、これからきっと聖女の職業を神様から授かりますわ」
「……」
「そうなったとしても、わたくしのお友達でいてくれますか?」
「もちろんです。職業なんて関係ありません」
「絶対に、わたくしの元からいなくならないでくださいまし」
「……もちろんですよ。シャルはずっと、ずっと、私の大切なお友達です」
「フィーネ……」
冷たい風が吹きすさぶ中、私たちはぎゅっと抱きしめ合う。お互いの想いを確かめ合う様に。そして不安を覆い隠すように。
そんな私たちを月明かりだけが照らしていたのだった。
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アルフォンソを倒した後、黒兵の軍団は完全なる烏合の衆と化した。これをあっさりと殲滅し、私たちのアルフォンソとの戦いは幕を下ろした。
ユーグさんは魔石を埋め込まれたはずなのに、魔石を残さずに消滅してしまったらしい。助かったと思ったユーグさんが結局天に召されてしまったのは残念でならないが、シャルは最後にユーグさんと言葉を交わすことができたらしい。
未練が無いなんてことは絶対にないだろうし、きっと心にぽっかりと穴が開いてしまっているに違いない。だが気丈に振る舞っているシャルを見ると何と声をかけたら良いのかわからなくなってしまい、結局はその話題に触れないようにしている。
それに今振り返って考えてみても、あの状況でどうやって助けたら良かったのかは分からない。恐らくだが、元に戻す方法は存在しなかったような気もしている。
というのも、あの後私たちは色々と考えたのだ。その結果、あの『進化の秘術』とは瘴気の力を使って無理矢理存在進化を起こさせているのではないか、という仮説に至ったのだ。
その理由は、スイキョウがシズクさんに対してやったことと似ていると思ったからだ。あの時はユニークスキルで降ろした黒狐とシズクさんを混ぜて別の存在とすることでシズクさんを人間から半黒狐へと存在進化をさせていた。
それを瘴気の力を使っていわば半魔物のような何かに存在進化させているのだとしたら、確かに『進化の秘術』という呼び名はある意味的を射ていると言えるのではないだろうか?
そうそう。それとユーグさんが天に召された場所にはリーチェに分けてもらった種を植えておいた。本国で葬儀を執り行うことにになるのだろうが、肉体は塵となって消えてしまったのだ。
だからせめて墓標の代わりになってくれれば、と思ったのだが……。
まあ、これは私の単なる自己満足かもしれない。
さて、私たちは今帝都アリケプラへと入った。それなりの抵抗はあるかと思われたが、ほとんど抵抗らしい抵抗もなく私たちは受け入れられた。
恐怖で支配した皇帝亡き今、先帝の血を引くサラさんが唯一の皇位継承者なのだ。しかも民に人気のあるサラさんが後継者となることに異を唱えるものなど誰もいないようだ。
それと港町のベレナンデウアだが、そこもホワイトムーン王国の部隊が制圧したという報告が届いている。
これで、ブラックレインボー帝国の主要都市は全てサラさんの手中に収められたと言って良いだろう。
私たちの誰もが望んだ結果を得られたわけではないが、アルフォンソが魔の者と手を結んだことで始まったこの戦争はこうして決着を見ることとなった。
これからホワイトムーン王国とブラックレインボー帝国がどのような関係を築くのかはわからないが、それこそ私が口出しすることではないだろう。
願わくば平等で友好的な関係であらんことを、というのは私の身内びいきなのだろか。
◆◇◆
アリケプラの城内に入った私たちは真っ先に地下室へと向かった。やはりこのアリケプラでも若い男性を中心に連れ去れていたらしく、彼らは皆地下へと連れていかれたという証言を得たからだ。
城の地下にもマライの町にあったものと同じような地下牢が存在しており、マライの町同様にひどい状況となっていた。そのため、急いで浄化をすることで数十人の若い男性を救出することに成功した。
それから研究施設があるのではないかと思って探したのだが、そういった物は一切見つからなかった。
いや、正確に言えばあの地下牢が研究施設だったようで、ローブ姿の男がよく出入りをしていたという証言は得られた。だがそのローブ姿の男が誰のなのかは誰も知らず、その行方も分かっていない。
そいつがアルフォンソに『進化の秘術』を吹き込んだ魔の者なのではないかと疑っているのだが……。
疑いは疑いの域を出ない。
◆◇◆
お城を制圧した私たちはそのままお城の一室を与えらえて過ごすこととなった。そしてその夜、食事を終えた私は風に当たろうとバルコニーに出て外の様子を眺めていた。五階という高い場所にあるここからはほとんど灯りは灯っていないが帝都の夜景がよく見える。
ふと右を見ると、隣のバルコニーにシャルが出てきているのを見かけた。
「シャル」
「フィーネ。あなたも寝られないんですの?」
「はい。ちょっと、色々とありすぎましたから……」
「そう、ですわね」
シャルはそう言うと私のバルコニーの方へと歩いてきた。床は繋がっていないが手を伸ばせば触れられそうな距離ではある。
「わたくし……結局聖女にはなれませんでしたわ」
「え?」
そう寂しそうに言ったシャルに私は思わず聞き返してしまい、そして自分がまずいことを言ってしまったことに気が付く。
「あ、ええと……」
「いいんですわよ。フィーネがわたくしの事を聖女に相応しいと心の底から思ってくれていたことに感謝していますわ」
「シャル……」
「わたくしが分不相応にも聖女になりたいだなんて無茶なことを願ってしまったから……。フィーネのように強力な【聖属性魔法】も【回復魔法】も使えないから。だからユーグ様が……」
シャルの瞳からは涙がポロポロと零れ落ちる。
「シャル。……あの、そっちに行きますね?」
私はジャンプするとシャルのバルコニーに着地した。そしてシャルの体をぎゅっと抱きしめる。
「ねぇ、フィーネ。……もしユーグ様がわたくしではなくフィーネの聖騎士だったなら……わたくしのようなお荷物がいなければ……ユーグ様はまだきっと!」
「シャル。きっとユーグさんは何度やり直してもきっとシャルの事を選ぶと思います。私一人できることなんて限られていて、色んな人の助けを借りているのにそれでもできなくて。でも、一人じゃできないことをしてしまうのがシャルのすごいところじゃないですか。そんなシャルを、私は、その、尊敬しているんです」
「でも! ユーグ様は! う、あ、あぁぁぁぁぁぁぁ」
シャルは私に縋りつくと大声で泣きだした。そんなシャルを私はそっと抱きしめ、落ち着くまで優しく背中をさすってあげる。
私がどんな言葉をかけたところで、シャルの大切なユーグさんは帰ってこない。
それに私だって後悔はある。知らなかったとはいえ、もし私がアイロールではなくアルフォンソの侵略に対して立ち向かいたいから一緒に行きたいと強く主張していたならばきっと結果は違っていたはずだ。
だが今さらそんなことを言ったところで、たとえどんなに後悔したとしても! 何かが変わることはないのだ。
こうして起こってしまった結果を変えることなどできない。それこそ神様でもないない限り、ユーグさんをシャルのところに帰してあげることなどできはしないのだ。
だから、だから……!
私は泣きじゃくるシャルをそっと抱きしめ続けたのだった。
◆◇◆
それからしばらくして泣き疲れたシャルが小さく可愛らしいくしゃみをした。
「シャル? その格好じゃ冷えちゃいますよ?」
今さらになって気付いたのだが、シャルはいつもの優れモノのローブを着ていなければあのロザリオも身につけていない。
「……そう、ですわね。でも、わたくしにはもう聖衣を着る資格はないのですわ」
「……」
「ねぇ、フィーネ」
「何ですか?」
「フィーネは、わたくしの、お友達ですわよね?」
「はい。もちろんです。シャルは私の大切なお友達です」
「フィーネは、これからきっと聖女の職業を神様から授かりますわ」
「……」
「そうなったとしても、わたくしのお友達でいてくれますか?」
「もちろんです。職業なんて関係ありません」
「絶対に、わたくしの元からいなくならないでくださいまし」
「……もちろんですよ。シャルはずっと、ずっと、私の大切なお友達です」
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