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人と魔物と魔王と聖女
第九章第43話 聖女の帰還
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2021/12/13 誤字を修正しました
================
「クリス殿! 何をボーっとしているでござるか! 大量に来るでござるよ!」
ルミアの矢の飛んだ先を眺めていたクリスティーナはシズクの一声に反応し、すぐに森のほうへと視線を向けた。
その視線の先では、今までとは比べ物にならないほど大量のオーガが森からあふれでてきているのだ。
「これは……もはや魔物暴走ではないか!」
「クリス殿。もはやこれまででござる」
「……ああ。いくらなんでもあの量を守り切ることは不可能だ。クリエッリに向けて撤退する」
「はいっ」
三人がそう腹を決めた次の瞬間だった。
オーガの目の前に光の壁が突如現れ、三人に向かってきていたオーガたちの突進がその壁にことごとく阻まれる。
「なっ!? あれは……あの防壁はまさか!」
「フィーネ殿?」
「姉さまっ!?」
三人は周囲をきょろきょろと見回すが、再会を願い続けた人物の姿はどこにもない。
「フィーネ様。一体どちらに……」
クリスティーナがそう呟いた瞬間、今度は三人の体が優しい光に包まれた。
「な、こ、これは?」
「力が……湧いてくるでござるな」
「すごい。暖かいです」
何が起きているのかわからない三人はお互いに顔を見合わせ、不思議そうな表情を浮かべている。
「ああ、やっと会えました。クリスさんも、ルーちゃんも、シズクさんも。元気そうでよかったです」
「「「!?」」」
その声を聞いた三人は一瞬ピクリと身を震わせ、そのまましばらく固まった。それからギギギと音がしそうなほどのぎこちない動きで後ろを振り向いた。
するとなんと! 二十メートルほど離れた場所に探し求めた聖女フィーネ・アルジェンタータの姿があったのだ。
「姉さま?」
「はい。ルーちゃん。久しぶりですね」
「姉さまーっ!」
ルミアは一目散に駆け出すとフィーネの胸に飛び込んでいった。フィーネはそれを優しく抱きとめる。
「フィーネ殿? 本当にフィーネ殿でござるか?」
「はい。ちゃんと足も生えているので生きていますよ」
「フィーネ殿……! ああ! その少しズレた物言いは、やはりフィーネ殿でござるな!」
「ええぇ」
フィーネは困ったような表情で曖昧な笑みを浮かべた。
「その反応も! やはりフィーネ殿でござる。よくぞご無事で」
シズクは目に涙を溜めて再会を喜ぶ。
「クリスさん……」
「フィーネ様……」
フィーネの呼びかけにクリスティーナは瞳を潤ませながらも近づき、そして跪いた。
「フィーネ様。ああ、よくぞご無事で!」
「クリスさん。私もまた会えてうれしいです。でも、まずはあのオーガたちなんとかしてあげませんか?」
「はい! はい! お任せください!」
◆◇◆
ひとしきり再会を喜びあった私たちだが、防壁の向こう側では多くのオーガたちがひしめき合っている。
あのオーガたちも、衝動が抑えられないのだろう。
早く解放してあげたいが、あれだけの数がいれば村にも被害が及んでしまいそうだ。
よし。ここはひとつ。
「クリスさん。もう一度、私の前で跪いてくれませんか?」
「? かしこまりました」
クリスさんは不思議そうな顔をしながらも素直に跪いてくれた。
私はクリスさんの頭に両手を添えると額に唇を落として【聖女の口付】を発動させた。
うまく発動できたような感覚はあるのだが……。
「さあ、クリスさん。あのオーガたちを倒し、救ってあげましょう」
「は、はいっ! もちろんです! お任せください!」
クリスさんはなぜか少し顔を赤くしているが、気合は十分な様子だ。
「フィーネ殿。今のは?」
「ええと、その。おまじない? のようなものです」
「……そうでござるか。きっと何か考えがあるでござるな」
うっ。シズクさんは何かを感づいている様子だ。
「まあ、良いでござる。拙者はいつでも戦えるでござるよ」
「わかりました。クリスさん、シズクさん、ルーちゃん、防壁を解除しますよ。準備は良いですか?」
「はい」
「もちろんでござる」
「……」
ルーちゃんの返事はない。きっと、よほど辛い目にあってきたのだろう。いだに私に引っ付いて離れようとしない。
うん。今は戦力に数えないでおいてあげよう。
どうせ私たちは結界の中なのだ。ルーちゃんを守るくらいは容易いだろう。
私が防壁を解除すると、押し留められていたオーガたちが堰を切ったかのようにこちらへと向かってきた。
さて。先ほどみんなに掛けた【聖女の祝福】とクリスさんに掛けた【聖女の口付】の効果はどんなものだろうか?
シズクさんは……うーん? シズクさんの動きは相変わらずまったく見えない。
でもこれは前からだしなぁ。
それに私のステータスはかなり低下しているため、以前よりもその動きを追えなくなっているだろうからなんとも言えない。
一方のクリスさんは……おや? 前よりも突進するスピードが早くなっているような?
そう思って見ている私の視線の先で信じられないことが起こった。クリスさんの聖剣が光に包まれ、オーガに一太刀を加えるに強烈な光の斬撃が放たれる。その斬撃はそのまま数十メートルの距離を飛んでいき、その軌道上にいたオーガをまとめて斬り飛ばす。
え? え? え? クリスさん、いつの間にあんな技を?
もしかしてクリスさんは離れ離れになっている間にものすごい修業をしたのではないだろうか?
一瞬そう考えたのだが、どうやらクリスさんも今のは想定外だったようだ。
クリスさんは一瞬ポカンとした表情になったが、すぐに真顔に戻り斬撃を連発し始める。
いやいやいや。もう、無双なんてレベルじゃない。一方的な蹂躙だ。
ええと?
もしかして、これが【聖女の口付】の効果だったりする?
いや、ちょっとこれは予想外だ。
さすがにこれは強力すぎるんじゃないかな?
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「クリス殿! 何をボーっとしているでござるか! 大量に来るでござるよ!」
ルミアの矢の飛んだ先を眺めていたクリスティーナはシズクの一声に反応し、すぐに森のほうへと視線を向けた。
その視線の先では、今までとは比べ物にならないほど大量のオーガが森からあふれでてきているのだ。
「これは……もはや魔物暴走ではないか!」
「クリス殿。もはやこれまででござる」
「……ああ。いくらなんでもあの量を守り切ることは不可能だ。クリエッリに向けて撤退する」
「はいっ」
三人がそう腹を決めた次の瞬間だった。
オーガの目の前に光の壁が突如現れ、三人に向かってきていたオーガたちの突進がその壁にことごとく阻まれる。
「なっ!? あれは……あの防壁はまさか!」
「フィーネ殿?」
「姉さまっ!?」
三人は周囲をきょろきょろと見回すが、再会を願い続けた人物の姿はどこにもない。
「フィーネ様。一体どちらに……」
クリスティーナがそう呟いた瞬間、今度は三人の体が優しい光に包まれた。
「な、こ、これは?」
「力が……湧いてくるでござるな」
「すごい。暖かいです」
何が起きているのかわからない三人はお互いに顔を見合わせ、不思議そうな表情を浮かべている。
「ああ、やっと会えました。クリスさんも、ルーちゃんも、シズクさんも。元気そうでよかったです」
「「「!?」」」
その声を聞いた三人は一瞬ピクリと身を震わせ、そのまましばらく固まった。それからギギギと音がしそうなほどのぎこちない動きで後ろを振り向いた。
するとなんと! 二十メートルほど離れた場所に探し求めた聖女フィーネ・アルジェンタータの姿があったのだ。
「姉さま?」
「はい。ルーちゃん。久しぶりですね」
「姉さまーっ!」
ルミアは一目散に駆け出すとフィーネの胸に飛び込んでいった。フィーネはそれを優しく抱きとめる。
「フィーネ殿? 本当にフィーネ殿でござるか?」
「はい。ちゃんと足も生えているので生きていますよ」
「フィーネ殿……! ああ! その少しズレた物言いは、やはりフィーネ殿でござるな!」
「ええぇ」
フィーネは困ったような表情で曖昧な笑みを浮かべた。
「その反応も! やはりフィーネ殿でござる。よくぞご無事で」
シズクは目に涙を溜めて再会を喜ぶ。
「クリスさん……」
「フィーネ様……」
フィーネの呼びかけにクリスティーナは瞳を潤ませながらも近づき、そして跪いた。
「フィーネ様。ああ、よくぞご無事で!」
「クリスさん。私もまた会えてうれしいです。でも、まずはあのオーガたちなんとかしてあげませんか?」
「はい! はい! お任せください!」
◆◇◆
ひとしきり再会を喜びあった私たちだが、防壁の向こう側では多くのオーガたちがひしめき合っている。
あのオーガたちも、衝動が抑えられないのだろう。
早く解放してあげたいが、あれだけの数がいれば村にも被害が及んでしまいそうだ。
よし。ここはひとつ。
「クリスさん。もう一度、私の前で跪いてくれませんか?」
「? かしこまりました」
クリスさんは不思議そうな顔をしながらも素直に跪いてくれた。
私はクリスさんの頭に両手を添えると額に唇を落として【聖女の口付】を発動させた。
うまく発動できたような感覚はあるのだが……。
「さあ、クリスさん。あのオーガたちを倒し、救ってあげましょう」
「は、はいっ! もちろんです! お任せください!」
クリスさんはなぜか少し顔を赤くしているが、気合は十分な様子だ。
「フィーネ殿。今のは?」
「ええと、その。おまじない? のようなものです」
「……そうでござるか。きっと何か考えがあるでござるな」
うっ。シズクさんは何かを感づいている様子だ。
「まあ、良いでござる。拙者はいつでも戦えるでござるよ」
「わかりました。クリスさん、シズクさん、ルーちゃん、防壁を解除しますよ。準備は良いですか?」
「はい」
「もちろんでござる」
「……」
ルーちゃんの返事はない。きっと、よほど辛い目にあってきたのだろう。いだに私に引っ付いて離れようとしない。
うん。今は戦力に数えないでおいてあげよう。
どうせ私たちは結界の中なのだ。ルーちゃんを守るくらいは容易いだろう。
私が防壁を解除すると、押し留められていたオーガたちが堰を切ったかのようにこちらへと向かってきた。
さて。先ほどみんなに掛けた【聖女の祝福】とクリスさんに掛けた【聖女の口付】の効果はどんなものだろうか?
シズクさんは……うーん? シズクさんの動きは相変わらずまったく見えない。
でもこれは前からだしなぁ。
それに私のステータスはかなり低下しているため、以前よりもその動きを追えなくなっているだろうからなんとも言えない。
一方のクリスさんは……おや? 前よりも突進するスピードが早くなっているような?
そう思って見ている私の視線の先で信じられないことが起こった。クリスさんの聖剣が光に包まれ、オーガに一太刀を加えるに強烈な光の斬撃が放たれる。その斬撃はそのまま数十メートルの距離を飛んでいき、その軌道上にいたオーガをまとめて斬り飛ばす。
え? え? え? クリスさん、いつの間にあんな技を?
もしかしてクリスさんは離れ離れになっている間にものすごい修業をしたのではないだろうか?
一瞬そう考えたのだが、どうやらクリスさんも今のは想定外だったようだ。
クリスさんは一瞬ポカンとした表情になったが、すぐに真顔に戻り斬撃を連発し始める。
いやいやいや。もう、無双なんてレベルじゃない。一方的な蹂躙だ。
ええと?
もしかして、これが【聖女の口付】の効果だったりする?
いや、ちょっとこれは予想外だ。
さすがにこれは強力すぎるんじゃないかな?
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