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人と魔物と魔王と聖女
第九章最終話 聖女は誰ぞ救わんや
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圧倒的ではないか、などと死亡フラグを立てたくなるほどの火力でオーガの群れを一蹴したクリスさんは、そのままの勢いで群れの後ろから現れたグレートオーガまでも一瞬で倒してしまった。
私に引っ付いていたルーちゃんも、あまりの圧倒的な火力に口をポカンと開けてその様子を見守っている。
しかもあのシズクさんですら、途中から戦闘に加わるのを止めてクリスさんをじっと見つめていたほどだった。
そうしてオーガの群れを蹴散らしたクリスさんは意気揚々と私のところに戻ってくると再び跪いた。
「フィーネ様。人々を襲うオーガどもを蹴散らして参りました」
「は、はい。お疲れ様でした。その、すごかったですね」
「いえ。フィーネ様のおかげです。私はフィーネ様の聖騎士であることを、心から誇りに思います」
「ええと、はい。これからもよろしくお願いいたしますね」
「はい!」
なんだかよくわからないがクリスさんはずいぶんと満足げな様子だ。その辺は追々聞くとして、今はオーガたちを狂わせた瘴気を浄化してやるのが先だろう。
私はリーチェを召喚し、花びらの雨を辺り一帯に降らせた。
太陽の光を浴びながら、ひらりひらりと花びらが舞い落ちてくる。
オーガたちの流した血に染まった大地が少しずつ、わずかにピンクがかった白い花びらで覆われていき、やがて一面が真っ白となった。
その様子はさながら、瘴気を生み出した人々の罪を覆い隠しているかのようだ。
もちろん、こんなことをしたところで根本的な解決にならないことは分かっている。
でも本当はこの子たちだってヴェラたちと同じように穏やかな暮らしを送ることができたはずなのだ。それがこうして瘴気によって破壊と殺戮の衝動に駆られ、暴れ回ってしまう。
これをきちんと浄化せずに放っておけば、きっとまたどこかで同じような子が生まれてしまうだろう。
それだけはなんとしてでも止めてあげたい。
リーチェにもらった種をオーガたちの死体の山のすぐ近くに植え、一気に浄化する。
やがて浄化が終わるとオーガたちの遺体はきれいな色をした魔石のみを残して消滅し、そして私が種を植えた場所からは小さな芽が出ていた。それはさながら墓標のようでもあり、また人間の生み出した瘴気が招いた悲劇の証のようにも思える。
私は跪いてオーガたちの冥福を祈ると、魔石を全て回収して立ち上がった。
「さあ、戻りましょう」
「はい」
◆◇◆
私たちは村の門の前へとやってきたのだが、なぜか門が開かれない。
「ええと?」
「申し訳ございません。どうやらこの村の者の一部は我々が魔物を連れてきたと責任転嫁しておりまして……」
「はぁ」
何をどうするとそんな話になるのかはわっぱりわからないが、少なくともクリスさんたちが魔物を連れてくるということはあり得ないだろう。
そもそも、魔物たちは瘴気からくる衝動で人間たちを襲わずにはいられないのだ。
「とりあえず、誤解を解きましょう」
私は前に歩み出ると声をかけた。
「こんにちは。私は聖女フィーネ・アルジェンタータです。村を襲う魔物は退治しましたよ」
しかし返ってきたのは言葉でもなければ友好的な態度でもなく、石だった。
「うるせぇ! お前らのせいだ!」
「そうだそうだ! 大体、あんな力があるなら最初からもったいぶらずに魔物を殺せばよかったじゃねぇか!」
「え? それは違います! 私が――」
「黙れ! あ、いや、待てよ? お前、よく見ると美人だな。おい! こっちにきて相手をしろ! 天国に連れてってやるよ」
……は?
ええと? この人たち、頭大丈夫?
「そんなことを言う人に体を預ける女性がいると思いますか?」
「あ? うるせぇ! 女は黙って男に従ってればいいんだ!」
あ……これはもう無理なやつだ。
でも、こういう奴らが瘴気を量産しているんだろうなぁ。
どうしたものか……。
うん。
「クリスさん。行きましょう。言葉が通じない人にいくら話しても無意味ですから」
「……申し訳ございません」
「クリスさんのせいじゃないですよ。こんな人たちでも守ろうと戦ってくれていたんですよね? ありがとうございました」
きっと、クリスさんはそういう人だから。
「でも、クリスさんはあんな人たちでも救いたかったんですよね?」
「え? あ、いえ、その……」
「せめてまともな人だけでも移住できるように、領主の方にお願いしましょう」
「……はい」
クリスさんはそう言って複雑な表情を浮かべた。
「さあ、フィーネ殿。町では待っている者がたくさんいるでござるよ」
「はい」
シズクさんに促され、私たちは歩き始めた。
まずは王都に行って親方と奥さんに会おう。そうしたらあのホワイトシチューを食べたいな。
それから約束をしていたのにずっと会えていないシャルにも会いたい。
ああ、そうだ。教皇様も元気にしているだろうか? またあの華麗なブーンからのジャンピング土下座を見たい。
それに職業が聖女になったことを報告しなきゃ。
うん。私にはやることがたくさんある。こんなところで油を売っている暇などないのだ。
西へ西へと歩く私たちは、やがて海が見える場所にやってきた。
海から吹き寄せる風が私の髪を優しく撫でてくれ、周りを見れば大好きな三人がいてくれる。
アイリスタウンでの日々は穏やかで、本当に素敵な時間だった。
だがあれはやはりバカンスのようなもので、やはり私のいるべき場所はここなのだ。
「ルーちゃん。次の町に着いたらな何を食べましょうね?」
「っ! はいっ! あたしは、美味しいシーフードが食べたいですっ!」
「シーフード。楽しみですね」
「はいっ!」
私の旅はまだまだ終わりそうにないし、この先何が待ち構えているかもわからない。だが精霊神様の言っていたとおり、これから先も私たちらしく自由に旅を続けていけたらと思う。
================
お読みいただきありがとうございました。これにて第九章は完結となります。
全体的に見ると、おそらくこれまでの章のなかでも一二を争うほのぼの章だったのではないでしょうか?
ですがフィーネちゃんはさらりと聖女したうえに存在進化まで果たし、ハゲ神様こと世界の行く末を見守る神様からも自由になれました。
そんなフィーネちゃんですが世界の根幹ともなっている瘴気と魔物の関係性を知り、そして穏やかな魔物たちとの暮らしを通じて価値観が大きく変化したようです。
一方で、勇者の誕生を阻害していたらしい【雷撃】のスキルが返却されたことで、勇者の誕生を阻害する要因は無くなりました。
果たして魔王を目指すベルードの理想に共感したフィーネちゃんの選択や如何に。
さて、この後いつも通りフィーネちゃんたちのステータス紹介と設定のまとめなどを一話挟みまして、第十章を投稿して参ります。
なお、まとめの更新は通常どおりのスケジュール (2021/08/22 (日) 19:00)を、次章の更新再開は九月中もしくは十月の上旬を予定しております。ただ、次章はかなり長くなりそうな雰囲気ですので二つに分割して早くにお届けできるやもしれません。
まだの方はぜひ、ブックマーク登録と筆者の Twitter ( @kotaro_isshiki ) をフォローして頂けますと幸いです。いちはやく更新再開の情報をお届けできるかと思います。
また、もしよろしければ下部の☆より応援して頂けると大変励みになります。
今後ともどうぞお付き合い頂けますようよろしくお願いいたします。
私に引っ付いていたルーちゃんも、あまりの圧倒的な火力に口をポカンと開けてその様子を見守っている。
しかもあのシズクさんですら、途中から戦闘に加わるのを止めてクリスさんをじっと見つめていたほどだった。
そうしてオーガの群れを蹴散らしたクリスさんは意気揚々と私のところに戻ってくると再び跪いた。
「フィーネ様。人々を襲うオーガどもを蹴散らして参りました」
「は、はい。お疲れ様でした。その、すごかったですね」
「いえ。フィーネ様のおかげです。私はフィーネ様の聖騎士であることを、心から誇りに思います」
「ええと、はい。これからもよろしくお願いいたしますね」
「はい!」
なんだかよくわからないがクリスさんはずいぶんと満足げな様子だ。その辺は追々聞くとして、今はオーガたちを狂わせた瘴気を浄化してやるのが先だろう。
私はリーチェを召喚し、花びらの雨を辺り一帯に降らせた。
太陽の光を浴びながら、ひらりひらりと花びらが舞い落ちてくる。
オーガたちの流した血に染まった大地が少しずつ、わずかにピンクがかった白い花びらで覆われていき、やがて一面が真っ白となった。
その様子はさながら、瘴気を生み出した人々の罪を覆い隠しているかのようだ。
もちろん、こんなことをしたところで根本的な解決にならないことは分かっている。
でも本当はこの子たちだってヴェラたちと同じように穏やかな暮らしを送ることができたはずなのだ。それがこうして瘴気によって破壊と殺戮の衝動に駆られ、暴れ回ってしまう。
これをきちんと浄化せずに放っておけば、きっとまたどこかで同じような子が生まれてしまうだろう。
それだけはなんとしてでも止めてあげたい。
リーチェにもらった種をオーガたちの死体の山のすぐ近くに植え、一気に浄化する。
やがて浄化が終わるとオーガたちの遺体はきれいな色をした魔石のみを残して消滅し、そして私が種を植えた場所からは小さな芽が出ていた。それはさながら墓標のようでもあり、また人間の生み出した瘴気が招いた悲劇の証のようにも思える。
私は跪いてオーガたちの冥福を祈ると、魔石を全て回収して立ち上がった。
「さあ、戻りましょう」
「はい」
◆◇◆
私たちは村の門の前へとやってきたのだが、なぜか門が開かれない。
「ええと?」
「申し訳ございません。どうやらこの村の者の一部は我々が魔物を連れてきたと責任転嫁しておりまして……」
「はぁ」
何をどうするとそんな話になるのかはわっぱりわからないが、少なくともクリスさんたちが魔物を連れてくるということはあり得ないだろう。
そもそも、魔物たちは瘴気からくる衝動で人間たちを襲わずにはいられないのだ。
「とりあえず、誤解を解きましょう」
私は前に歩み出ると声をかけた。
「こんにちは。私は聖女フィーネ・アルジェンタータです。村を襲う魔物は退治しましたよ」
しかし返ってきたのは言葉でもなければ友好的な態度でもなく、石だった。
「うるせぇ! お前らのせいだ!」
「そうだそうだ! 大体、あんな力があるなら最初からもったいぶらずに魔物を殺せばよかったじゃねぇか!」
「え? それは違います! 私が――」
「黙れ! あ、いや、待てよ? お前、よく見ると美人だな。おい! こっちにきて相手をしろ! 天国に連れてってやるよ」
……は?
ええと? この人たち、頭大丈夫?
「そんなことを言う人に体を預ける女性がいると思いますか?」
「あ? うるせぇ! 女は黙って男に従ってればいいんだ!」
あ……これはもう無理なやつだ。
でも、こういう奴らが瘴気を量産しているんだろうなぁ。
どうしたものか……。
うん。
「クリスさん。行きましょう。言葉が通じない人にいくら話しても無意味ですから」
「……申し訳ございません」
「クリスさんのせいじゃないですよ。こんな人たちでも守ろうと戦ってくれていたんですよね? ありがとうございました」
きっと、クリスさんはそういう人だから。
「でも、クリスさんはあんな人たちでも救いたかったんですよね?」
「え? あ、いえ、その……」
「せめてまともな人だけでも移住できるように、領主の方にお願いしましょう」
「……はい」
クリスさんはそう言って複雑な表情を浮かべた。
「さあ、フィーネ殿。町では待っている者がたくさんいるでござるよ」
「はい」
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一方で、勇者の誕生を阻害していたらしい【雷撃】のスキルが返却されたことで、勇者の誕生を阻害する要因は無くなりました。
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