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滅びの神託
第十章第4話 クリエッリに現れた幽霊
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ヴローラでお世話になった翌日、私たちは馬車を借りてクリエッリへと向かった。道中の町や村でもヴローラと同じように皆さんに大歓迎してもらい、美味しいグルメを堪能することができた。
そうして馬車を走らせること一週間、私たちの目の前にクリエッリの町並みが見えてきた。もし船が魔物に襲われていなければここの港に入港するはずだったので、私はおよそ半年遅れでの到着ということになる。
それからこの町はアルフォンソによる侵略の被害を大きく受けたのだが、どうやら遠目で見る限りかなり復興したようだ。
崩れていた街壁も直っているし、町の外に点在していたあばら家も撤去されている。ここはブラックレインボー帝国のベレナンデウアとを結ぶ海の玄関口でもあるらしいので、きっときちんとお金をかけて修繕したのだろう。
そうこうしているうちに、私たちの馬車はクリエッリの東門に到着した。門は厳重に閉められており、その門の前には門番が二人立っている。
「何者だ! え? クリスティーナ様!? このままザラビアまで行かれるのではなかったのですか?」
門番たちが何やら驚いている。
あれ? ザラビアまでっていうことは、あの半島をぐるっと回る気だったの?
「ああ。だが、その必要はなくなった」
「え? それは一体?」
クリスさんが満面の笑みを浮かべているのが後ろ姿からもよく分かるが、一方で門番たちは困惑している様子だ。
これは……私が顔を出したほうが話が早いかな?
そう考え、私は馬車の中から顔を出して声をかける。
「ええと、こんにちは。フィーネ・アルジェンタータです。その、ご心配をおかけしました」
「ひえぁぅっおっ!?」
あれ? せっかく声をかけたのに何をそんなに怯えているのだろうか?
「で、で、で、出たーーーーーっ!」
え? 出た? 何が?
門番たちは顔を真っ青にし、震えながら手に持った槍をこちらに向けてきている。
「ええと?」
「おい。お前たち。フィーネ様に刃を向けるとはどういう了見だ?」
クリスさんがかなり怒っている。だが門番の二人はパニック状態に陥っているようで、クリスさんのその様子にもまるで気付いていないようだ。
うーん?
なんだかよく分からないけれど、とりあえず落ち着いてもらおう。
私はそっと鎮静魔法をかけてやると二人はすぐに落ち着きを取り戻したが、やはり何かに怯えた様子だ。
「おい。どうしたというのだ!」
「ク、クリスティーナ様! ゆ、幽霊が!」
「何っ!? ――白銀の聖女に捧げし永遠なる浄化の剣」
クリスさんは顔を青くしつつもすぐに剣を抜き、あの恥ずかしい名前の魔法剣を使った。
剣は淡く光っており、浄化の光が宿っている。
「幽霊め! どこだ! 私が退治してやる!」
クリスさんはそういって気炎を上げているのだが……。
「ク、ク、クリスティーナ様! 隣に!」
「何っ!?」
クリスさんは慌てて周りをキョロキョロと見回すが、幽霊は見つけられていない様子だ。もちろん、私も幽霊は見つけられていない。
「あの? クリスさん?」
「フィーネ様! 危険です! どうかお下がりください!」
「はぁ」
そもそも幽霊なんていない気がするし、もしいるのなら私が浄化すればいいんじゃないのかな?
そう思いつつも言われたとおりに馬車の中に引っ込むと、定位置に腰かけた。
そうこうしている間にもよく分からない幽霊騒ぎは続いている。
「クリスティーナ様! 幽霊が馬車の中に!」
「なんだと!? どこだ! 出てこい! 幽霊め!」
どうでもいいが、これだけ大騒ぎをしているのに平然としている馬車馬たちはすごいと思う。ちなみにシズクさんは我関せずといった様子で、ルーちゃんはマシロちゃんを膝の上に乗せて撫でている。
ああ、いいなぁ。私も撫でたい。
とはいえ、これはどういうことなんだろうか?
「ええと、シズクさん?」
我関せずを貫いているシズクさんに話を振ると、呆れ半分で答えてくれた。
「フィーネ殿が、幽霊と間違えられているのでござるよ」
「え? 私がですか?」
「彼らは、フィーネ殿はもう死んだと伝えられているのでござろうな。荒れた海に転落した人間が半年後に生還するなどとは誰も思わないでござるよ。だから、フィーネ殿を見て幽霊が現れたと勘違いしたでござるよ」
「ああ、なるほど。でもクリスさんは?」
「クリス殿は一度思い込むとああでござるからなぁ」
「ええぇ」
それからもすったもんだの大騒ぎをした末、ようやく私が幽霊ではないということを理解してもらい、二人の門番さんから久しぶりのブーンからのジャンピング土下座をされた。
うーん? 久しぶりに見たのだが、彼らの演技にはいまいちキレが足りなかった気がする。ちょっと甘めの採点かもしれないけれど、七点ってところかな?
そうして馬車を走らせること一週間、私たちの目の前にクリエッリの町並みが見えてきた。もし船が魔物に襲われていなければここの港に入港するはずだったので、私はおよそ半年遅れでの到着ということになる。
それからこの町はアルフォンソによる侵略の被害を大きく受けたのだが、どうやら遠目で見る限りかなり復興したようだ。
崩れていた街壁も直っているし、町の外に点在していたあばら家も撤去されている。ここはブラックレインボー帝国のベレナンデウアとを結ぶ海の玄関口でもあるらしいので、きっときちんとお金をかけて修繕したのだろう。
そうこうしているうちに、私たちの馬車はクリエッリの東門に到着した。門は厳重に閉められており、その門の前には門番が二人立っている。
「何者だ! え? クリスティーナ様!? このままザラビアまで行かれるのではなかったのですか?」
門番たちが何やら驚いている。
あれ? ザラビアまでっていうことは、あの半島をぐるっと回る気だったの?
「ああ。だが、その必要はなくなった」
「え? それは一体?」
クリスさんが満面の笑みを浮かべているのが後ろ姿からもよく分かるが、一方で門番たちは困惑している様子だ。
これは……私が顔を出したほうが話が早いかな?
そう考え、私は馬車の中から顔を出して声をかける。
「ええと、こんにちは。フィーネ・アルジェンタータです。その、ご心配をおかけしました」
「ひえぁぅっおっ!?」
あれ? せっかく声をかけたのに何をそんなに怯えているのだろうか?
「で、で、で、出たーーーーーっ!」
え? 出た? 何が?
門番たちは顔を真っ青にし、震えながら手に持った槍をこちらに向けてきている。
「ええと?」
「おい。お前たち。フィーネ様に刃を向けるとはどういう了見だ?」
クリスさんがかなり怒っている。だが門番の二人はパニック状態に陥っているようで、クリスさんのその様子にもまるで気付いていないようだ。
うーん?
なんだかよく分からないけれど、とりあえず落ち着いてもらおう。
私はそっと鎮静魔法をかけてやると二人はすぐに落ち着きを取り戻したが、やはり何かに怯えた様子だ。
「おい。どうしたというのだ!」
「ク、クリスティーナ様! ゆ、幽霊が!」
「何っ!? ――白銀の聖女に捧げし永遠なる浄化の剣」
クリスさんは顔を青くしつつもすぐに剣を抜き、あの恥ずかしい名前の魔法剣を使った。
剣は淡く光っており、浄化の光が宿っている。
「幽霊め! どこだ! 私が退治してやる!」
クリスさんはそういって気炎を上げているのだが……。
「ク、ク、クリスティーナ様! 隣に!」
「何っ!?」
クリスさんは慌てて周りをキョロキョロと見回すが、幽霊は見つけられていない様子だ。もちろん、私も幽霊は見つけられていない。
「あの? クリスさん?」
「フィーネ様! 危険です! どうかお下がりください!」
「はぁ」
そもそも幽霊なんていない気がするし、もしいるのなら私が浄化すればいいんじゃないのかな?
そう思いつつも言われたとおりに馬車の中に引っ込むと、定位置に腰かけた。
そうこうしている間にもよく分からない幽霊騒ぎは続いている。
「クリスティーナ様! 幽霊が馬車の中に!」
「なんだと!? どこだ! 出てこい! 幽霊め!」
どうでもいいが、これだけ大騒ぎをしているのに平然としている馬車馬たちはすごいと思う。ちなみにシズクさんは我関せずといった様子で、ルーちゃんはマシロちゃんを膝の上に乗せて撫でている。
ああ、いいなぁ。私も撫でたい。
とはいえ、これはどういうことなんだろうか?
「ええと、シズクさん?」
我関せずを貫いているシズクさんに話を振ると、呆れ半分で答えてくれた。
「フィーネ殿が、幽霊と間違えられているのでござるよ」
「え? 私がですか?」
「彼らは、フィーネ殿はもう死んだと伝えられているのでござろうな。荒れた海に転落した人間が半年後に生還するなどとは誰も思わないでござるよ。だから、フィーネ殿を見て幽霊が現れたと勘違いしたでござるよ」
「ああ、なるほど。でもクリスさんは?」
「クリス殿は一度思い込むとああでござるからなぁ」
「ええぇ」
それからもすったもんだの大騒ぎをした末、ようやく私が幽霊ではないということを理解してもらい、二人の門番さんから久しぶりのブーンからのジャンピング土下座をされた。
うーん? 久しぶりに見たのだが、彼らの演技にはいまいちキレが足りなかった気がする。ちょっと甘めの採点かもしれないけれど、七点ってところかな?
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