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滅びの神託
第十章第5話 第四騎士団本部へ
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2022/07/16 誤字を修正しました
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なんとか門を通過し、クリエッリの町に入った私たちを迎えてくれたのはどことなく陰鬱な空気を漂わせた町並みだった。
侵略を受けただけでもクリエッリの人々は辛い思いをしたはずなのに、その上さらに魔物の影に怯えながら暮らさなければならなくなったのだ。元を正せば人間の欲望が原因であるとはいえ、理不尽に魔物に襲われるという状況に人々の気持ちは沈む一方だろう。
そんな活気のない町中を進み、第四騎士団の本部へと私たちはやってきた。
「失礼する! 聖騎士のクリスティーナだ。マチアス団長に至急、取次ぎを願いたい!」
「これは、クリスティーナ様!? ザラビアへと向かわれたのではなかったのですか?」
「いや、ついにフィーネ様が見つかったのだ」
「なんですと!? 亡くなら……いえ、おめでとうございます!」
ううん。どうやら本当に私は死んだものとして扱われていたようだ。
「さ、どうぞお通りください! ご用件はエントランスの受付にお申し付けください」
「ああ、わかった」
門が開かれ、私たちを乗せた馬車は本部の敷地内へと進入する。そのまま長いアプローチを進み、大きな建物のエントランスに横付けされた。
「さあ、フィーネ様」
「ありがとうございます」
クリスさんのエスコートで私は馬車を降りる。すると、ドアマンらしき男性が腰を抜かして尻もちをついている。
……まさか?
「ゆ、ゆ、ゆ、幽霊!?」
「違いますからね!」
クリスさんが反応する前に私は先にツッコミを入れた。そしてちらりとクリスさんを見ると、やはり剣に手をかけていた。
「私、生きてますから。勝手に幽霊にしないでください。大体、昼間から幽霊が出るわけないじゃないですか」
「し、失礼いたしました」
ドアマンの彼はそう言われて納得したのか、すっと立ち上がった。
クリスさんがそれをさも当然と言わんばかりの表情で見ているが、門の前でも慌ててたし今だって私が先に言わなかったら大騒ぎしていたよね?
まったく。幽霊に関することになるといつも過敏なんだから。
あの魔法剣があるんだし、そんなに怖がらなくても良いと思うのは私だけだろうか?
そんなことを思いつつも建物の中に入る。クリスさんが受付に向かって歩いていったので、私たちは設えられたソファーに座って待つことにした。
クリスさんが私を見つけたと話している嬉しそうな会話が聞こえてくる。
それからすぐに受付の人が大慌てで奥に向かって走っていき、そのまましばらく待っているといつぞやの会議室で見た人が走ってやってきた。
ええと、名前が思い出せない。誰だっけな?
ん? そういえばステータスを確認したときに【人物鑑定】というスキルがあったような?
今がその効果を知るチャンスかもしれない。
私は走ってくる人に向かって【人物鑑定】を使おうと念じてみる。すると私の脳裏のその人についての情報が浮かんできた。
ええと、なになに? この人はマチアス・ド・オラルデーニさんで、ホワイトムーン王国の第四騎士団団長。最後に会ったのはブラックレインボー帝国に出発する直前の会議室での作戦会議のときだそうだ。
おお! これはすごい! このスキルがあれば会った人を忘れずに済みそうだ。
そういえば初対面の人にするとどうなんだろう?
そう思った私は受付の男性に向かって【人物鑑定】をかけてみる。
ええと? この人は男性で、受付業務をしている模様。初対面だそうだ。
な、なるほど。どうやら知らない人についてはわからないらしい。
「聖女様! よくぞご無事で!」
そう言ってマチアスさんはブーンからのジャンピング土下座を決めてみせた。
うん。マチアスさんのそれはフォームこそ乱れていたが、ジャンプと着地に迫力があった。でもやはりフォームの乱れというのはいただけない。これは門番の人と同じで七点かな。次回はもう少し高得点の演技を期待したいものだ。
「神の御心のままに」
そんなことを考えているとはおくびも出さず、私はいつもの便利フレーズでマチアスさんを起こす。
「マチアスさん。またお会いできて嬉しいです」
「おお! 聖女様!」
マチアスさんは随分と感動している様子だ。
「フィーネ様。マチアス殿の率いる第四騎士団は海でのフィーネ様の捜索に当たってくれていたのです」
「あ、そうだったんですか。ありがとうございます。なんとか無事に戻ってくることができました」
「滅相もございません! 我々としても海で聖女様をお見つけいたすことができず、申し訳ございませんでした! しかしながら海にも魔物が多く出るようになり、我々としてもこれ以上は捜索を続けることができず……!」
マチアスさんは心底悔やんでいるといった表情でそう言った。
なるほど。そういう事情ならやむを得ない気がする。
それに捜索を打ち切ったなら、死亡したとものとして処理するのが普通だろう。それでみんな私を見て幽霊だと思ったわけだ。
うん。まあ、仕方ないね。
「気にしないでください。私はこうして無事でしたから。探してくれて、ありがとうございます」
「聖女様!」
そう言ってマチアスさんはまたもやブーンからのジャンピング土下座を決めた。
今回は先ほどよりもフォームが乱れていた。感極まっているのだろうが、これでは得点を伸ばすことは難しいだろう。六点だ。
「神の御心のままに」
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なんとか門を通過し、クリエッリの町に入った私たちを迎えてくれたのはどことなく陰鬱な空気を漂わせた町並みだった。
侵略を受けただけでもクリエッリの人々は辛い思いをしたはずなのに、その上さらに魔物の影に怯えながら暮らさなければならなくなったのだ。元を正せば人間の欲望が原因であるとはいえ、理不尽に魔物に襲われるという状況に人々の気持ちは沈む一方だろう。
そんな活気のない町中を進み、第四騎士団の本部へと私たちはやってきた。
「失礼する! 聖騎士のクリスティーナだ。マチアス団長に至急、取次ぎを願いたい!」
「これは、クリスティーナ様!? ザラビアへと向かわれたのではなかったのですか?」
「いや、ついにフィーネ様が見つかったのだ」
「なんですと!? 亡くなら……いえ、おめでとうございます!」
ううん。どうやら本当に私は死んだものとして扱われていたようだ。
「さ、どうぞお通りください! ご用件はエントランスの受付にお申し付けください」
「ああ、わかった」
門が開かれ、私たちを乗せた馬車は本部の敷地内へと進入する。そのまま長いアプローチを進み、大きな建物のエントランスに横付けされた。
「さあ、フィーネ様」
「ありがとうございます」
クリスさんのエスコートで私は馬車を降りる。すると、ドアマンらしき男性が腰を抜かして尻もちをついている。
……まさか?
「ゆ、ゆ、ゆ、幽霊!?」
「違いますからね!」
クリスさんが反応する前に私は先にツッコミを入れた。そしてちらりとクリスさんを見ると、やはり剣に手をかけていた。
「私、生きてますから。勝手に幽霊にしないでください。大体、昼間から幽霊が出るわけないじゃないですか」
「し、失礼いたしました」
ドアマンの彼はそう言われて納得したのか、すっと立ち上がった。
クリスさんがそれをさも当然と言わんばかりの表情で見ているが、門の前でも慌ててたし今だって私が先に言わなかったら大騒ぎしていたよね?
まったく。幽霊に関することになるといつも過敏なんだから。
あの魔法剣があるんだし、そんなに怖がらなくても良いと思うのは私だけだろうか?
そんなことを思いつつも建物の中に入る。クリスさんが受付に向かって歩いていったので、私たちは設えられたソファーに座って待つことにした。
クリスさんが私を見つけたと話している嬉しそうな会話が聞こえてくる。
それからすぐに受付の人が大慌てで奥に向かって走っていき、そのまましばらく待っているといつぞやの会議室で見た人が走ってやってきた。
ええと、名前が思い出せない。誰だっけな?
ん? そういえばステータスを確認したときに【人物鑑定】というスキルがあったような?
今がその効果を知るチャンスかもしれない。
私は走ってくる人に向かって【人物鑑定】を使おうと念じてみる。すると私の脳裏のその人についての情報が浮かんできた。
ええと、なになに? この人はマチアス・ド・オラルデーニさんで、ホワイトムーン王国の第四騎士団団長。最後に会ったのはブラックレインボー帝国に出発する直前の会議室での作戦会議のときだそうだ。
おお! これはすごい! このスキルがあれば会った人を忘れずに済みそうだ。
そういえば初対面の人にするとどうなんだろう?
そう思った私は受付の男性に向かって【人物鑑定】をかけてみる。
ええと? この人は男性で、受付業務をしている模様。初対面だそうだ。
な、なるほど。どうやら知らない人についてはわからないらしい。
「聖女様! よくぞご無事で!」
そう言ってマチアスさんはブーンからのジャンピング土下座を決めてみせた。
うん。マチアスさんのそれはフォームこそ乱れていたが、ジャンプと着地に迫力があった。でもやはりフォームの乱れというのはいただけない。これは門番の人と同じで七点かな。次回はもう少し高得点の演技を期待したいものだ。
「神の御心のままに」
そんなことを考えているとはおくびも出さず、私はいつもの便利フレーズでマチアスさんを起こす。
「マチアスさん。またお会いできて嬉しいです」
「おお! 聖女様!」
マチアスさんは随分と感動している様子だ。
「フィーネ様。マチアス殿の率いる第四騎士団は海でのフィーネ様の捜索に当たってくれていたのです」
「あ、そうだったんですか。ありがとうございます。なんとか無事に戻ってくることができました」
「滅相もございません! 我々としても海で聖女様をお見つけいたすことができず、申し訳ございませんでした! しかしながら海にも魔物が多く出るようになり、我々としてもこれ以上は捜索を続けることができず……!」
マチアスさんは心底悔やんでいるといった表情でそう言った。
なるほど。そういう事情ならやむを得ない気がする。
それに捜索を打ち切ったなら、死亡したとものとして処理するのが普通だろう。それでみんな私を見て幽霊だと思ったわけだ。
うん。まあ、仕方ないね。
「気にしないでください。私はこうして無事でしたから。探してくれて、ありがとうございます」
「聖女様!」
そう言ってマチアスさんはまたもやブーンからのジャンピング土下座を決めた。
今回は先ほどよりもフォームが乱れていた。感極まっているのだろうが、これでは得点を伸ばすことは難しいだろう。六点だ。
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