430 / 625
滅びの神託
第十章第11話 滅びの神託
しおりを挟む
「さて、フィーネ嬢。せっかく帰ってきてもらったにもかかわらず急で申し訳ないが、神殿へ行ってはくれぬか? つい先ほど、新たなご神託が下ったそうでな。それで教皇殿は慌てて神殿へと戻ったのだ」
「はあ」
なるほど。本当は教皇様も一緒にお出迎えをしてくれる予定だったのか。
一体どうして私が行かなければならないのかはよく分からないが、きっと何か理由があるのだろう。
「わかりました。では、すぐに向かいます」
「うむ。頼むぞ」
「はい」
こうして私たちは神殿へと向かうこととなったのだった。
◆◇◆
「聖女様。ご無事で何よりでした」
神殿に着いた私たちを教皇様は優し気な表情で迎えてくれた。だが王様と同じように言葉遣いが今までとは微妙に違っており、微妙な距離感を感じてしまう。
「教皇様。ご心配をおかけしました。それで、その、教皇様。あの、今までどおりに接して頂けませんか?」
「……左様ですか。それではフィーネ嬢、そのようにさせていただきましょう」
教皇様はそういって再び優し気に微笑みかけてくれた。
うん。私は偉そうにしたいわけじゃないし、このくらいでちょうどいいのだ。
「ところで、神託が下ったと聞いたのですが……」
「はい。そのとおりです。ですがまたしても我々では読むことができず……」
「読めないんですか?」
「はい。実はフィーネ嬢が行方不明の間に下ったご神託も我々では読むことができず、ルミア嬢のおかげでどうにか部分的に解読することができたのです」
「ルーちゃんが?」
そういったことはシズクさんかクリスさんががんばるイメージだったので、ルーちゃんががんばってくれたというのは意外だった。
「むうっ。あたしだってやればできるんですっ」
「あ、すみません。ルーちゃんはあまりそういったことに興味がないと思っていましたので」
「それはそうですけど……」
「その神託は古いエルフの文字で書かれていたのでござるよ」
「エルフの文字ですか? あ、もしかしてそのご神託は精霊神様からだったりするのでは?」
「あっ! そっか! 姉さま、精霊神様の信徒になったんですもんね」
「はい」
「なんと!? それはまことですかな?」
教皇様が驚いた様子で私にその真偽を尋ねてくる。
「はい。こうして生きて戻ってこられたのは精霊神様のおかげです。それに、私には契約精霊もいますから」
「……そう、でしたな。よく考えればフィーネ嬢は白銀の里のハイエルフの末裔なのですから、きっとそれが自然なことなのでしょう」
そう言いつつも、教皇様はどこか落胆しているような気がする。もしかすると教皇様も私にあのハゲ神様を信仰していて欲しかったんだろうか?
うーん。でもあの本性を知ったら教皇様も嫌だってなりそうな気はするけどなぁ。
「フィーネ嬢。よろしければご神託を授かった聖なる水鏡を見てはもらえませんかな?」
「あ、はい。それはぜひ」
「はい。ではこちらへ」
こうして私たちは教皇様に連れられて神殿の奥へと向かい、ミイラ病の騒動のときに詰めていた区画を通り抜ける。そうしてしばらく歩いていくと、厳重に鍵の掛けられた扉の前へと案内された。
その扉を教皇様が開けて中へと入った私たちはさらに奥へ奥へと進み、ようやく広い地下室へと到着した。
「ここが神託の間。つまり神よりご神託を授かる場所です。さ、フィーネ嬢。こちらへ」
「はい」
そうして部屋の奥にある祭壇の中央に設えられた大きなお皿の前へと案内された。
なるほど。どうやらこのお皿が聖なる水鏡のようだ。
水鏡というだけあってそのお皿には水が張られている。そしてその水面にはなんとも不思議なことに、長々と文章が書かれているのだ。
ううん。たしかに神託っぽい感じだ。しかし、その内容がどうにも……。
「フィーネ嬢。こちらが下ったご神託です」
「はい。ずいぶんと不吉なことが書いてありますね」
「おお! やはりフィーネ嬢はこの文字が読めるのですね!」
ん? あ、そうか。そういえばさっき読めないって言っていたもんね。
「はい。じゃあ、読みますね。『封じられし古の炎、黄砂の地より解き放たれん。其は滅びをもたらす災厄なり』というのが、一行目ですね。その次の行には『空よりもなお高き地、水底よりもなお深き地、闇よりもなお昏き地に眠りし三つの災厄が動き出す。雪よりもなお白き地にて冥府の門が開かれしとき、すべての災厄は解き放たれん』と書いてあります。これってどういう意味なんでしょうね?」
「「「……」」」
あれ? みんな唖然としているぞ?
「どうしましたか?」
「い、いえ」
「姉さま、すごいですっ! あたしも全部は読めませんでした」
ん? ああ、そうか。多分これは【言語能力】のスキルレベルが最大だからだろう。私はこんな文字を勉強したことはない。
「これもきっと精霊神様のおかげです」
「さ、左様でしたか。フィーネ嬢は精霊神様のご寵愛を受けているのですな」
適当に言ってみたがどうやら納得してもらえたようだ。
よし。次からは全部精霊神様のおかげということにしておこう。
「それで、これはどういう意味なんですか?」
「……そうですな。ご神託というのはいつもこのように婉曲的に表現されるのです。分かるのは世界のどこかで災厄が蘇ろうとしていること。それから『災厄』はおそらく全部で五つあるということですな」
「最初の『災厄』とやらは、イエロープラネットにあるのではござらんか?」
「イエロープラネットですか?」
「そうでござる。黄砂の地というのは、拙者が今まで訪れた場所の中ではあの国のプラネタ砂漠以外には思い浮かばないでござるよ」
「……たしかに。レッドスカイ帝国もブラックレインボー帝国も違いましたもんね」
「フィーネ様。行ってみるべきなのではないでしょうか?」
うーん。イエロープラネットかぁ。あの国では酷い目に遭ったしな。いや、でも『滅びをもたらす災厄』なんてものが蘇るならさすがに放っておくわけには行かなそうな気がする。
あれ? でもちょっと待って。私たちってそもそも、イエロープラネットに入国できるんだろうか?
「はあ」
なるほど。本当は教皇様も一緒にお出迎えをしてくれる予定だったのか。
一体どうして私が行かなければならないのかはよく分からないが、きっと何か理由があるのだろう。
「わかりました。では、すぐに向かいます」
「うむ。頼むぞ」
「はい」
こうして私たちは神殿へと向かうこととなったのだった。
◆◇◆
「聖女様。ご無事で何よりでした」
神殿に着いた私たちを教皇様は優し気な表情で迎えてくれた。だが王様と同じように言葉遣いが今までとは微妙に違っており、微妙な距離感を感じてしまう。
「教皇様。ご心配をおかけしました。それで、その、教皇様。あの、今までどおりに接して頂けませんか?」
「……左様ですか。それではフィーネ嬢、そのようにさせていただきましょう」
教皇様はそういって再び優し気に微笑みかけてくれた。
うん。私は偉そうにしたいわけじゃないし、このくらいでちょうどいいのだ。
「ところで、神託が下ったと聞いたのですが……」
「はい。そのとおりです。ですがまたしても我々では読むことができず……」
「読めないんですか?」
「はい。実はフィーネ嬢が行方不明の間に下ったご神託も我々では読むことができず、ルミア嬢のおかげでどうにか部分的に解読することができたのです」
「ルーちゃんが?」
そういったことはシズクさんかクリスさんががんばるイメージだったので、ルーちゃんががんばってくれたというのは意外だった。
「むうっ。あたしだってやればできるんですっ」
「あ、すみません。ルーちゃんはあまりそういったことに興味がないと思っていましたので」
「それはそうですけど……」
「その神託は古いエルフの文字で書かれていたのでござるよ」
「エルフの文字ですか? あ、もしかしてそのご神託は精霊神様からだったりするのでは?」
「あっ! そっか! 姉さま、精霊神様の信徒になったんですもんね」
「はい」
「なんと!? それはまことですかな?」
教皇様が驚いた様子で私にその真偽を尋ねてくる。
「はい。こうして生きて戻ってこられたのは精霊神様のおかげです。それに、私には契約精霊もいますから」
「……そう、でしたな。よく考えればフィーネ嬢は白銀の里のハイエルフの末裔なのですから、きっとそれが自然なことなのでしょう」
そう言いつつも、教皇様はどこか落胆しているような気がする。もしかすると教皇様も私にあのハゲ神様を信仰していて欲しかったんだろうか?
うーん。でもあの本性を知ったら教皇様も嫌だってなりそうな気はするけどなぁ。
「フィーネ嬢。よろしければご神託を授かった聖なる水鏡を見てはもらえませんかな?」
「あ、はい。それはぜひ」
「はい。ではこちらへ」
こうして私たちは教皇様に連れられて神殿の奥へと向かい、ミイラ病の騒動のときに詰めていた区画を通り抜ける。そうしてしばらく歩いていくと、厳重に鍵の掛けられた扉の前へと案内された。
その扉を教皇様が開けて中へと入った私たちはさらに奥へ奥へと進み、ようやく広い地下室へと到着した。
「ここが神託の間。つまり神よりご神託を授かる場所です。さ、フィーネ嬢。こちらへ」
「はい」
そうして部屋の奥にある祭壇の中央に設えられた大きなお皿の前へと案内された。
なるほど。どうやらこのお皿が聖なる水鏡のようだ。
水鏡というだけあってそのお皿には水が張られている。そしてその水面にはなんとも不思議なことに、長々と文章が書かれているのだ。
ううん。たしかに神託っぽい感じだ。しかし、その内容がどうにも……。
「フィーネ嬢。こちらが下ったご神託です」
「はい。ずいぶんと不吉なことが書いてありますね」
「おお! やはりフィーネ嬢はこの文字が読めるのですね!」
ん? あ、そうか。そういえばさっき読めないって言っていたもんね。
「はい。じゃあ、読みますね。『封じられし古の炎、黄砂の地より解き放たれん。其は滅びをもたらす災厄なり』というのが、一行目ですね。その次の行には『空よりもなお高き地、水底よりもなお深き地、闇よりもなお昏き地に眠りし三つの災厄が動き出す。雪よりもなお白き地にて冥府の門が開かれしとき、すべての災厄は解き放たれん』と書いてあります。これってどういう意味なんでしょうね?」
「「「……」」」
あれ? みんな唖然としているぞ?
「どうしましたか?」
「い、いえ」
「姉さま、すごいですっ! あたしも全部は読めませんでした」
ん? ああ、そうか。多分これは【言語能力】のスキルレベルが最大だからだろう。私はこんな文字を勉強したことはない。
「これもきっと精霊神様のおかげです」
「さ、左様でしたか。フィーネ嬢は精霊神様のご寵愛を受けているのですな」
適当に言ってみたがどうやら納得してもらえたようだ。
よし。次からは全部精霊神様のおかげということにしておこう。
「それで、これはどういう意味なんですか?」
「……そうですな。ご神託というのはいつもこのように婉曲的に表現されるのです。分かるのは世界のどこかで災厄が蘇ろうとしていること。それから『災厄』はおそらく全部で五つあるということですな」
「最初の『災厄』とやらは、イエロープラネットにあるのではござらんか?」
「イエロープラネットですか?」
「そうでござる。黄砂の地というのは、拙者が今まで訪れた場所の中ではあの国のプラネタ砂漠以外には思い浮かばないでござるよ」
「……たしかに。レッドスカイ帝国もブラックレインボー帝国も違いましたもんね」
「フィーネ様。行ってみるべきなのではないでしょうか?」
うーん。イエロープラネットかぁ。あの国では酷い目に遭ったしな。いや、でも『滅びをもたらす災厄』なんてものが蘇るならさすがに放っておくわけには行かなそうな気がする。
あれ? でもちょっと待って。私たちってそもそも、イエロープラネットに入国できるんだろうか?
0
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
冤罪で殺された聖女、生まれ変わって自由に生きる
みおな
恋愛
聖女。
女神から選ばれし、世界にたった一人の存在。
本来なら、誰からも尊ばれ大切に扱われる存在である聖女ルディアは、婚約者である王太子から冤罪をかけられ処刑されてしまう。
愛し子の死に、女神はルディアの時間を巻き戻す。
記憶を持ったまま聖女認定の前に戻ったルディアは、聖女にならず自由に生きる道を選択する。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる