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滅びの神託
第十章第17話 再びのサマルカ
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「聖女様。ようこそいらっしゃいました」
サマルカに到着した私を出迎えてくれたのはカポトリアス辺境伯爵のグウェナエルさんとその五男であるニコラくんだ。最初に会った当時は九歳だったわけだが、あれからおよそ一年半が経ち、つい先日十一歳になったのだそうだ。
私よりも背の低かった少年もこの一年半の間にずいぶんと成長していて、なんと私よりも背が高くなっていたのだ。子供の成長とはなんと早いことか!
……どうして私は背が伸びないのだろうか?
ルーちゃんにも身長で抜かされ、可愛い少年だったはずのニコラくんにまで抜かされてしまった。
ニコラくんぐらいの年齢なら女子のほうが平均身長は高いはずなのに!
ぐぬぬ。どうしてこうなった。
「さあ、聖女様。ご案内いたします」
私の前に歩み出て跪いたニコラくんが以前と変わらない天使のような声と笑顔で私を案内してくれる。
どうやら声変わりもまだのようだ。
それなのにもう身長で抜かされるなんて!
と、そんなことを嘆いていても始まらないため、素直にニコラくんのエスコートでグウェナエルさんのお屋敷を案内される。
拒否しないのか、と疑問に思われるかもしれないがさすがに私もそこまで鬼ではない。一度エスコートを許したのだから、理由もなしに拒否するなんてことはさすがに申し訳なくてできない。
なんとかパーティーみたいな、面倒くさそうなところに行かなければいいだけだろう。
そんなことを考えつつも当たり障りのない会話をしているうちに、前回泊めてもらったお部屋に案内された。どうやら私たちがここを通ることは周知の事実のようで、このお部屋はしっかりと入念に準備をしてくれていたらしい。それに、サマルカの町に着いたときも熱烈に歓迎してもらった。
まあ、そのあたりは聖女候補だったときと変わらないかもしれない。
「聖女様。本日は聖女様の再臨をお祝いしまして、ダンスパーティーを開催いたします」
「え?」
今、なんと? だんすぱーてぃー?
「ダンスパーティーです。その際にぜひ、聖女様をエスコートする栄誉を賜れませんでしょうか?」
そう言ってニコラくんは私の前で跪いた。
ええと? 私、ダンスなんて踊れないんだけど?
助けを求めてクリスさんに向かって視線を送ると、クリスさんはそっと耳打ちをしてくれた。
「参加なさるかどうかはご自由にお決めください。こういった事情ですので参加されるほうが望ましいとは言えますが、パーティーの当日に招待するということもかなり失礼な行為です。ですから参加されなくても問題はないでしょう。ですが、参加なさらなければカポトリアス辺境伯との関係はややぎくしゃくしてしまうかもしれません。また、エスコートはご結婚なさるおつもりがなければ、お受けしないほうがよろしいでしょう」
「ありがとうございます」
うん。やっぱりこういうときのクリスさんは頼りになるね。
「すみません。私、ダンスパーティーには興味がありませんのでエスコートはご遠慮いたします。パーティーも、最初に少しだけ顔を出すだけにさせてください」
「あ……はい」
断られるなどとは思っていなかったのだろう。ニコラくんはしゅんとなってしまった。
だが、私は結婚するつもりもないし恋人を作るつもりもない。変に気を持たせるよりは、こうしてきっぱりと断っておいたほうがお互いに良いと思う。
「……そ、それではどうぞごゆっくりおくつろぎください」
目に少し涙を溜めながらも笑顔でそう言ったニコラくんは、しょんぼりした様子で私の部屋から出ていったのだった。だが、普通の人間であれば聞き取れなかったであろうニコラくんの小さな呟きがしっかりと聞こえてきた。
「父上。お役目を果たせずに申し訳ございません」
はぁ。なんだかなぁ。きっと九歳だったあの頃も同じように父親に言われての行動だったのだろう。あんな年齢の子供が父親に言われたら逆らえるはずもない。
そもそもグウェナエルさんは自分の息子を次々と私のところに送り込んできたくらいだしね。
ああ、でも貴族ってそういうものなのかもしれないね。
よし。次回からはきちんとホテルに泊まろう。
そう決意した私は、その日の夜に開催された晩餐会とダンスパーティーをなんとか無事に乗り切ったのだった。
え? 踊らなかったのかって? いやいや、踊るわけないじゃない。貴族のするようなダンスなんてやったことないし、そもそも親しくもない人うえに下心丸見えな人と密着して踊るなんて拷問じゃないかな?
そんなわけで私は営業スマイルを貼り付けて皆さんが踊るのを見学し、三十分くらいで中座させてもらった。もちろんエスコートはクリスさんにしてもらったし、ダンスのお誘いもクリスさんのおかげでゼロだった。
よくは知らないけれど、エスコートしてきた人と踊ってからでないと他の人がダンスを申し込んではいけないという謎ルールがあるそうなのだ。だからそれを逆手にとり、クリスさんはダンスを踊らないことで私が踊らずに済むようにしてくれたのだと思う。
それにそもそも、私たちは明日から騎士たちと魔物退治へと出かけることになっている。
つまり今もあそこで踊っている貴族たちとは違って朝が早い。いつまでもどんちゃん騒ぎをしている暇などないのだ。
本音を言うならばもう少しくらい気にかけてくれてもいいのにな、とは思う。
「フィーネ様。お疲れ様でした」
部屋のベッドに腰かけている私にクリスさんが労いの言葉を掛けてくれた。
「クリスさんこそ、ありがとうございました」
「いえ。当然のことをしたまでです」
「それでも、ありがとうございました。次からは、ホテルに泊まりましょう」
「……そうですね。もう休まれますか?」
「はい。おやすみなさい」
「お休みなさいませ。フィーネ様。どうぞ良い夢を」
「クリスさんこそ。いい夢を」
「はい。失礼いたします」
クリスさんはそう言って部屋から退出し、自室へと戻っていった。それを見送った私はすぐにベッドへと潜り込み、そのまま夢の世界へと旅立ったのだった。
===============
次回更新は通常どおり、2021/11/02 (火) 19:00 を予定しております。
サマルカに到着した私を出迎えてくれたのはカポトリアス辺境伯爵のグウェナエルさんとその五男であるニコラくんだ。最初に会った当時は九歳だったわけだが、あれからおよそ一年半が経ち、つい先日十一歳になったのだそうだ。
私よりも背の低かった少年もこの一年半の間にずいぶんと成長していて、なんと私よりも背が高くなっていたのだ。子供の成長とはなんと早いことか!
……どうして私は背が伸びないのだろうか?
ルーちゃんにも身長で抜かされ、可愛い少年だったはずのニコラくんにまで抜かされてしまった。
ニコラくんぐらいの年齢なら女子のほうが平均身長は高いはずなのに!
ぐぬぬ。どうしてこうなった。
「さあ、聖女様。ご案内いたします」
私の前に歩み出て跪いたニコラくんが以前と変わらない天使のような声と笑顔で私を案内してくれる。
どうやら声変わりもまだのようだ。
それなのにもう身長で抜かされるなんて!
と、そんなことを嘆いていても始まらないため、素直にニコラくんのエスコートでグウェナエルさんのお屋敷を案内される。
拒否しないのか、と疑問に思われるかもしれないがさすがに私もそこまで鬼ではない。一度エスコートを許したのだから、理由もなしに拒否するなんてことはさすがに申し訳なくてできない。
なんとかパーティーみたいな、面倒くさそうなところに行かなければいいだけだろう。
そんなことを考えつつも当たり障りのない会話をしているうちに、前回泊めてもらったお部屋に案内された。どうやら私たちがここを通ることは周知の事実のようで、このお部屋はしっかりと入念に準備をしてくれていたらしい。それに、サマルカの町に着いたときも熱烈に歓迎してもらった。
まあ、そのあたりは聖女候補だったときと変わらないかもしれない。
「聖女様。本日は聖女様の再臨をお祝いしまして、ダンスパーティーを開催いたします」
「え?」
今、なんと? だんすぱーてぃー?
「ダンスパーティーです。その際にぜひ、聖女様をエスコートする栄誉を賜れませんでしょうか?」
そう言ってニコラくんは私の前で跪いた。
ええと? 私、ダンスなんて踊れないんだけど?
助けを求めてクリスさんに向かって視線を送ると、クリスさんはそっと耳打ちをしてくれた。
「参加なさるかどうかはご自由にお決めください。こういった事情ですので参加されるほうが望ましいとは言えますが、パーティーの当日に招待するということもかなり失礼な行為です。ですから参加されなくても問題はないでしょう。ですが、参加なさらなければカポトリアス辺境伯との関係はややぎくしゃくしてしまうかもしれません。また、エスコートはご結婚なさるおつもりがなければ、お受けしないほうがよろしいでしょう」
「ありがとうございます」
うん。やっぱりこういうときのクリスさんは頼りになるね。
「すみません。私、ダンスパーティーには興味がありませんのでエスコートはご遠慮いたします。パーティーも、最初に少しだけ顔を出すだけにさせてください」
「あ……はい」
断られるなどとは思っていなかったのだろう。ニコラくんはしゅんとなってしまった。
だが、私は結婚するつもりもないし恋人を作るつもりもない。変に気を持たせるよりは、こうしてきっぱりと断っておいたほうがお互いに良いと思う。
「……そ、それではどうぞごゆっくりおくつろぎください」
目に少し涙を溜めながらも笑顔でそう言ったニコラくんは、しょんぼりした様子で私の部屋から出ていったのだった。だが、普通の人間であれば聞き取れなかったであろうニコラくんの小さな呟きがしっかりと聞こえてきた。
「父上。お役目を果たせずに申し訳ございません」
はぁ。なんだかなぁ。きっと九歳だったあの頃も同じように父親に言われての行動だったのだろう。あんな年齢の子供が父親に言われたら逆らえるはずもない。
そもそもグウェナエルさんは自分の息子を次々と私のところに送り込んできたくらいだしね。
ああ、でも貴族ってそういうものなのかもしれないね。
よし。次回からはきちんとホテルに泊まろう。
そう決意した私は、その日の夜に開催された晩餐会とダンスパーティーをなんとか無事に乗り切ったのだった。
え? 踊らなかったのかって? いやいや、踊るわけないじゃない。貴族のするようなダンスなんてやったことないし、そもそも親しくもない人うえに下心丸見えな人と密着して踊るなんて拷問じゃないかな?
そんなわけで私は営業スマイルを貼り付けて皆さんが踊るのを見学し、三十分くらいで中座させてもらった。もちろんエスコートはクリスさんにしてもらったし、ダンスのお誘いもクリスさんのおかげでゼロだった。
よくは知らないけれど、エスコートしてきた人と踊ってからでないと他の人がダンスを申し込んではいけないという謎ルールがあるそうなのだ。だからそれを逆手にとり、クリスさんはダンスを踊らないことで私が踊らずに済むようにしてくれたのだと思う。
それにそもそも、私たちは明日から騎士たちと魔物退治へと出かけることになっている。
つまり今もあそこで踊っている貴族たちとは違って朝が早い。いつまでもどんちゃん騒ぎをしている暇などないのだ。
本音を言うならばもう少しくらい気にかけてくれてもいいのにな、とは思う。
「フィーネ様。お疲れ様でした」
部屋のベッドに腰かけている私にクリスさんが労いの言葉を掛けてくれた。
「クリスさんこそ、ありがとうございました」
「いえ。当然のことをしたまでです」
「それでも、ありがとうございました。次からは、ホテルに泊まりましょう」
「……そうですね。もう休まれますか?」
「はい。おやすみなさい」
「お休みなさいませ。フィーネ様。どうぞ良い夢を」
「クリスさんこそ。いい夢を」
「はい。失礼いたします」
クリスさんはそう言って部屋から退出し、自室へと戻っていった。それを見送った私はすぐにベッドへと潜り込み、そのまま夢の世界へと旅立ったのだった。
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次回更新は通常どおり、2021/11/02 (火) 19:00 を予定しております。
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