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滅びの神託
第十章第22話 再びのノヴァールブール
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カルヴァラに三日ほど滞在して魔物の浄化を手伝った私たちは第五騎士団の皆さんに護送される形でノヴァールブールへと向けて出発した。
やがて国境に到着すると護衛の騎士たちは一部を残してノヴァールブールからやってきた兵士たちと護衛を交代し、そのまま彼らに護衛されながらノヴァールブールへと到着した。ノヴァールブールは独立都市であるため、いくら聖女様の護衛という名目があろうともホワイトムーン王国の軍隊である騎士団の人たちが大勢で堂々と通行するのは問題があるらしい。
そうしてノヴァールブールの兵士たちに護衛され、私たちはノヴァールブールへと到着した。
どうやらこれまでの訪問とは違い、聖女様がやってくるということが事前に伝わっていたのだろう。高い城壁に囲まれたノヴァールブールの町へ入ると、沿道には大勢のノヴァールブール市民たちが私たちを一目見ようと集まってくれている。
私は偶像らしく営業スマイルで観衆に手を振っていると、やがて私たちを乗せた馬車は大きな建物の前で停車した。そしてドアが開かれたので、クリスさんのエスコートで私も馬車を降りる。
「聖女様。ようこそノヴァールブールへとお越しくださいました。私はこのノヴァールブールの市長を務めておりますメスト・スレイマンと申す者です」
メストさんはやや緊張した面持ちで自己紹介をしてきた。
「フィーネ・アルジェンタータです。よろしくお願いします」
「聖女様の授かりましたご神託のことは聞き及んでおります。我が町も、総力を挙げて聖女様に協力させていただきます」
「ありがとうございます」
「では、聖女様。どうぞこちらへ。ささ、聖騎士と従者の皆様もこちらへ」
そうしてメストさんの案内で私たちは建物の中へと案内された。なんでも、この建物はノヴァールブールの迎賓館なのだそうだ。迎賓館だけあって内部もとても豪華だ。それこそ、ホワイトムーン王国のお城とそう変わらないレベルなのではないかと思う。
調度品についてもメストさんが歩きながら色々と解説してくれた。説明を聞いても私はいまいちよく分からなかったが、この調度品が貴重だということだけは理解できた。
「聖女様のお部屋はこちら、聖騎士と従者の皆様のお部屋はその隣でございます」
「ありがとうございます」
「夕食は午後六時を予定しております。このような状況ですので少人数での夕食会となりますが、何卒ご容赦頂けますと幸いでございます」
「え? ああ、いえ。ありがとうございます。あまり豪華な晩餐会ですと私も心苦しいですから」
「おお! やはりさすがは聖女様でございますな」
そう言ってメストさんは表情をほんの少しだけ緩めた。緊張していたように見えたのは、もしかすると盛大な歓迎会をしなきゃいけないと思われていたのかもしれない。
ということは、この人はまともないい人なのかもしれないね。
「長旅でお疲れでしょうから、私はこの辺りで失礼いたします。ご用の際はそちらのベルを鳴らしていただきますとスタッフがお伺いいたしますので、お気軽にお申し付けください」
「はい。ありがとうございます」
「それでは失礼いたします」
そう言ってメストさんは足早に私たちの部屋から出ていった。
「……やはり国が変わると対応も変わりますね」
「そう、ですね……。我が国の貴族たちもメスト市長を見習って欲しいものです」
クリスさんはどことなく悔しそうだ。
「でも、ホワイトムーン王国の人たちにだっていいところはたくさんありますよ?」
「もちろんです! ですが……」
「この前まで世話になっていたカポトリアス家一族は少々見栄っ張りのようでござるな。拙者はああいった手合いとはそりが合わないでござるよ」
「シズク殿……」
「あはは。私もです。あの婚約者狙い騒動で一番熱心だったのがカポトリアス家でしたしね」
「そういえば、当時九歳の子供まで送り出してきたでござるからなぁ」
「そうでしたね。子供の頼みは断りづらいと知って……いえ、上から順にでしたから手当たり次第でしたね」
「ははは。フィーネ殿はモテモテでござるからなぁ」
「いやいや。私はそういうのはいいですから。それに万が一そんな話になったらアーデが何をするかわからないですよ」
「それもそうでござるな。やはり、フィーネ殿はモテモテでござるよ」
そう言って笑い飛ばしたシズクさんだったが、ふと遠い目をした。
「シズクさん。ゴールデンサン巫国が懐かしいですか?」
「懐かしくない、と言ったら嘘になるでござるな。しかし帰りたいとは思わないでござるよ」
「そうですか。またいつか道場に顔を出しに行きたいですね」
「そうでござるな。師匠も元気でいてくれれば良いでござるが……」
「そうですね。テッサイさん。元気にしてますかねぇ」
私は桜の舞うミヤコの町並みを思い出しては追想にふける。
うん。まあきっと元気にしていてくれることだろう。いつかはまたミヤコを訪れることもあるだろうし、きっとそのときにまた会えるはずだ。
「今日の夕飯は何かなぁ。ねぇ? マシロ?」
そんなことを考えていると、ルーちゃんが呑気な独り言を呟いた。いつの間にやらマシロちゃんを召喚してその柔らかな毛並みを撫でている。
それはなぜかとても安心できる光景で、私は思わず笑みを浮かべたのだった。
やがて国境に到着すると護衛の騎士たちは一部を残してノヴァールブールからやってきた兵士たちと護衛を交代し、そのまま彼らに護衛されながらノヴァールブールへと到着した。ノヴァールブールは独立都市であるため、いくら聖女様の護衛という名目があろうともホワイトムーン王国の軍隊である騎士団の人たちが大勢で堂々と通行するのは問題があるらしい。
そうしてノヴァールブールの兵士たちに護衛され、私たちはノヴァールブールへと到着した。
どうやらこれまでの訪問とは違い、聖女様がやってくるということが事前に伝わっていたのだろう。高い城壁に囲まれたノヴァールブールの町へ入ると、沿道には大勢のノヴァールブール市民たちが私たちを一目見ようと集まってくれている。
私は偶像らしく営業スマイルで観衆に手を振っていると、やがて私たちを乗せた馬車は大きな建物の前で停車した。そしてドアが開かれたので、クリスさんのエスコートで私も馬車を降りる。
「聖女様。ようこそノヴァールブールへとお越しくださいました。私はこのノヴァールブールの市長を務めておりますメスト・スレイマンと申す者です」
メストさんはやや緊張した面持ちで自己紹介をしてきた。
「フィーネ・アルジェンタータです。よろしくお願いします」
「聖女様の授かりましたご神託のことは聞き及んでおります。我が町も、総力を挙げて聖女様に協力させていただきます」
「ありがとうございます」
「では、聖女様。どうぞこちらへ。ささ、聖騎士と従者の皆様もこちらへ」
そうしてメストさんの案内で私たちは建物の中へと案内された。なんでも、この建物はノヴァールブールの迎賓館なのだそうだ。迎賓館だけあって内部もとても豪華だ。それこそ、ホワイトムーン王国のお城とそう変わらないレベルなのではないかと思う。
調度品についてもメストさんが歩きながら色々と解説してくれた。説明を聞いても私はいまいちよく分からなかったが、この調度品が貴重だということだけは理解できた。
「聖女様のお部屋はこちら、聖騎士と従者の皆様のお部屋はその隣でございます」
「ありがとうございます」
「夕食は午後六時を予定しております。このような状況ですので少人数での夕食会となりますが、何卒ご容赦頂けますと幸いでございます」
「え? ああ、いえ。ありがとうございます。あまり豪華な晩餐会ですと私も心苦しいですから」
「おお! やはりさすがは聖女様でございますな」
そう言ってメストさんは表情をほんの少しだけ緩めた。緊張していたように見えたのは、もしかすると盛大な歓迎会をしなきゃいけないと思われていたのかもしれない。
ということは、この人はまともないい人なのかもしれないね。
「長旅でお疲れでしょうから、私はこの辺りで失礼いたします。ご用の際はそちらのベルを鳴らしていただきますとスタッフがお伺いいたしますので、お気軽にお申し付けください」
「はい。ありがとうございます」
「それでは失礼いたします」
そう言ってメストさんは足早に私たちの部屋から出ていった。
「……やはり国が変わると対応も変わりますね」
「そう、ですね……。我が国の貴族たちもメスト市長を見習って欲しいものです」
クリスさんはどことなく悔しそうだ。
「でも、ホワイトムーン王国の人たちにだっていいところはたくさんありますよ?」
「もちろんです! ですが……」
「この前まで世話になっていたカポトリアス家一族は少々見栄っ張りのようでござるな。拙者はああいった手合いとはそりが合わないでござるよ」
「シズク殿……」
「あはは。私もです。あの婚約者狙い騒動で一番熱心だったのがカポトリアス家でしたしね」
「そういえば、当時九歳の子供まで送り出してきたでござるからなぁ」
「そうでしたね。子供の頼みは断りづらいと知って……いえ、上から順にでしたから手当たり次第でしたね」
「ははは。フィーネ殿はモテモテでござるからなぁ」
「いやいや。私はそういうのはいいですから。それに万が一そんな話になったらアーデが何をするかわからないですよ」
「それもそうでござるな。やはり、フィーネ殿はモテモテでござるよ」
そう言って笑い飛ばしたシズクさんだったが、ふと遠い目をした。
「シズクさん。ゴールデンサン巫国が懐かしいですか?」
「懐かしくない、と言ったら嘘になるでござるな。しかし帰りたいとは思わないでござるよ」
「そうですか。またいつか道場に顔を出しに行きたいですね」
「そうでござるな。師匠も元気でいてくれれば良いでござるが……」
「そうですね。テッサイさん。元気にしてますかねぇ」
私は桜の舞うミヤコの町並みを思い出しては追想にふける。
うん。まあきっと元気にしていてくれることだろう。いつかはまたミヤコを訪れることもあるだろうし、きっとそのときにまた会えるはずだ。
「今日の夕飯は何かなぁ。ねぇ? マシロ?」
そんなことを考えていると、ルーちゃんが呑気な独り言を呟いた。いつの間にやらマシロちゃんを召喚してその柔らかな毛並みを撫でている。
それはなぜかとても安心できる光景で、私は思わず笑みを浮かべたのだった。
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