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滅びの神託
第十章第23話 ノヴァールブールの夕餉
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そのまま夕方までしっかりと休んだ私たちは、市長さん夫妻とのささやかな夕食会に臨んだ。挨拶もそこそこに着席した私たちの前に早速料理が運ばれてきた。
「本日のスープはノヴァールブールの海で獲れた魚のスープでございます」
「ありがとうございます」
スープの色はクリアな黄金色で、何かの香草が浮かんでいる。サマルカで食べたあのスープによく似ているが、魚の欠片とお米は入っていない。
「メストさん。このあたりの海はまだ漁に出られるんですね」
「はい。まだ船を出すことはできます。ですが、比較的近い海のみです。外洋に出た船は戻ってきておりませんので、おそらく海の魔物の影響ではないかと思われます」
「そうですか……」
「はい。魔王警報がもう一段階上がれば、しばらくは安全になりますので……」
「そうですね。そういえば、何年くらい安全になるんでしょう?」
「そうですね。毎回異なるそうですが、短ければ一年、長くても十年ほどと言われております」
「そうですか……」
魔王が狂うまでの猶予はそれしかないということのようだ。
「ですがきっと神が勇者をお選びになり、遣わしてくださいます」
「そうですね……」
勇者は一体誰になるのだろうか?
それともう一つ気になるのは、相手があのベルードだということだ。
いくら勇者が【雷撃】のスキルをで瘴気を浄化できるとはいえ、果たしてあのベルードに勝てるのだろうか?
そんなことを考えつつ、スープを掬って口に運ぶ。
うん。安定の優しい味だ。サマルカでいただいたスープと同じで、しっかりとしたお魚のうま味がたっぷりと溶けだした塩味のスープだ。それに、香草の利かせ方もとても良く似ている。もしかしたら、このスープはホワイトムーン王国から伝わった料理なのかもしれない。
「本日の前菜はひよこ豆のペースト、山羊ミルクのチーズ、ナスの野菜詰めでございます」
続いて前菜が運ばれてきた。ナスの野菜詰めは小ぶりのナスにトマトと玉ねぎが詰め込まれており、その上にパセリが振りかけられている。同じ皿にクリーム色をしたひよこ豆のペーストに白いチーズが美しく盛り付けられており、見ているだけでなんとも食欲が湧いてきそうだ。
よし、まずはひよこ豆のペーストからにしょう。豆のペーストであればきっとあっさりしているだろうから、最初の一口にはいいかもしれない。
そう考えた私はクリーム色のペーストをスプーンで口に運ぶ。
だがしかし!
素朴な豆の味を想定していた私の予想は大きく裏切られた。
滑らかな口当たりの豆のペーストと共に最初に感じたのはニンニクの香りとレモンの酸味だ。そしてこれはバターだろうか? 濃厚なコクが口の中を満たしていく。それからわずかに胡椒の香りもする。
いやはや、これは予想外だった。これだったらお肉と一緒に食べても負けずに美味しいのではないだろうか?
続いて山羊ミルクのチーズをいただく。
おや? これは? ほのかに酸味があるぞ?
チーズと聞いて濃厚なコクのある味を想像していたが、これはヨーグルトのような柔らかな香りとわずかな酸味が特徴のあっさりしたチーズだ。なるほど。どうやら山羊のチーズというのはこういう味のようだ。
続いてナスの野菜詰めをいただく。きっと丁寧に火を通したのだろう。形は保っているものの柔らかなナスには複雑な味のスープが染み込んでおり、トマトの酸味と玉ねぎの甘みが口いっぱいに広がる。さらにニンニクとパセリの香りがそれらをきゅっと引き締めてまとめてくれている。
うん。これは美味しいね。
「季節の野菜サラダとタラマでございます」
「タラマ?」
聞いた事の無い食べ物だ。
「タラマというのは、魚卵の塩漬けを加工して作ったソースでございます」
「へぇ。そんな食べ物があるんですね」
運ばれてきたサラダの上には淡いピンク色のペーストが乗っている。どうやらこれがタラマのようだ。
私はそれを口に運んでみた。すると塩味とやや酸味のある不思議な味だ。これは、もしかするとサラダよりもパンに付けて食べたほうが美味しいかもしれない。だがこの辺りではこれがドレッシングとして用いられているのだろう。
うん。これはこれで美味しいね。
「マントゥのノヴァールブール風ハーブヨーグルトソースでございます」
そう言われて出てきたのはどう見ても水餃子だ。お皿に盛り付けられて、そのうえに白いヨーグルトソースがかかっている。
前に露店で食べたときは肉まんだった気がするのだが……。
そう思いつつも水餃子を口に運ぶ。
あ! これは美味しい。水餃子にヨーグルトソースはどうかと思ったが、これはものすごく良く合っている。もちもちの甘い皮に閉じ込められた餡は肉汁たっぷりで、それをヨーグルトソースの酸味が見事に引き立ててくれている。そしてこの餡はどうやら豚肉ではなく羊肉のようだ。だが羊肉独特の臭みが気になるということはない。ハーブが見事に臭みを消してくれているのだ。
個人的には水餃子と言えばお酢と醤油が定番だと思っていたが、ヨーグルトソースもまた素晴らしい。
「トマトソースのキョフテと薄焼きパンでございます」
今度はハンバーグが出てきた。トマトソースのかかったハンバーグが薄焼きパンの上に置かれている。
私はハンバーグをナイフで一口サイズに切ると口に運んだ。
んんっ? なんだか、ものすごくスパイシーだ。お肉も羊肉のようで独特の匂いはあるものの、このスパイシーさのおかげか全く気にならない。じゅわりとあふれる肉汁が酸味のあるトマトソースと相まって絶妙なハーモニーを奏でている。さらにしっとりとした薄焼きパンを口に含めば、その甘みと酸味が絡まり合ってより複雑な味へと変化していく。
うん。これも美味しいね。
「聖女様。いかがでしたかな?」
「はい。どれもとても美味しかったです」
「それは何よりです」
そう言ってメストさんとその奥さんはにこりと笑い、それに私も微笑み返す。
こうして私たちは美味しいノヴァールブール料理を堪能したのだった。
「本日のスープはノヴァールブールの海で獲れた魚のスープでございます」
「ありがとうございます」
スープの色はクリアな黄金色で、何かの香草が浮かんでいる。サマルカで食べたあのスープによく似ているが、魚の欠片とお米は入っていない。
「メストさん。このあたりの海はまだ漁に出られるんですね」
「はい。まだ船を出すことはできます。ですが、比較的近い海のみです。外洋に出た船は戻ってきておりませんので、おそらく海の魔物の影響ではないかと思われます」
「そうですか……」
「はい。魔王警報がもう一段階上がれば、しばらくは安全になりますので……」
「そうですね。そういえば、何年くらい安全になるんでしょう?」
「そうですね。毎回異なるそうですが、短ければ一年、長くても十年ほどと言われております」
「そうですか……」
魔王が狂うまでの猶予はそれしかないということのようだ。
「ですがきっと神が勇者をお選びになり、遣わしてくださいます」
「そうですね……」
勇者は一体誰になるのだろうか?
それともう一つ気になるのは、相手があのベルードだということだ。
いくら勇者が【雷撃】のスキルをで瘴気を浄化できるとはいえ、果たしてあのベルードに勝てるのだろうか?
そんなことを考えつつ、スープを掬って口に運ぶ。
うん。安定の優しい味だ。サマルカでいただいたスープと同じで、しっかりとしたお魚のうま味がたっぷりと溶けだした塩味のスープだ。それに、香草の利かせ方もとても良く似ている。もしかしたら、このスープはホワイトムーン王国から伝わった料理なのかもしれない。
「本日の前菜はひよこ豆のペースト、山羊ミルクのチーズ、ナスの野菜詰めでございます」
続いて前菜が運ばれてきた。ナスの野菜詰めは小ぶりのナスにトマトと玉ねぎが詰め込まれており、その上にパセリが振りかけられている。同じ皿にクリーム色をしたひよこ豆のペーストに白いチーズが美しく盛り付けられており、見ているだけでなんとも食欲が湧いてきそうだ。
よし、まずはひよこ豆のペーストからにしょう。豆のペーストであればきっとあっさりしているだろうから、最初の一口にはいいかもしれない。
そう考えた私はクリーム色のペーストをスプーンで口に運ぶ。
だがしかし!
素朴な豆の味を想定していた私の予想は大きく裏切られた。
滑らかな口当たりの豆のペーストと共に最初に感じたのはニンニクの香りとレモンの酸味だ。そしてこれはバターだろうか? 濃厚なコクが口の中を満たしていく。それからわずかに胡椒の香りもする。
いやはや、これは予想外だった。これだったらお肉と一緒に食べても負けずに美味しいのではないだろうか?
続いて山羊ミルクのチーズをいただく。
おや? これは? ほのかに酸味があるぞ?
チーズと聞いて濃厚なコクのある味を想像していたが、これはヨーグルトのような柔らかな香りとわずかな酸味が特徴のあっさりしたチーズだ。なるほど。どうやら山羊のチーズというのはこういう味のようだ。
続いてナスの野菜詰めをいただく。きっと丁寧に火を通したのだろう。形は保っているものの柔らかなナスには複雑な味のスープが染み込んでおり、トマトの酸味と玉ねぎの甘みが口いっぱいに広がる。さらにニンニクとパセリの香りがそれらをきゅっと引き締めてまとめてくれている。
うん。これは美味しいね。
「季節の野菜サラダとタラマでございます」
「タラマ?」
聞いた事の無い食べ物だ。
「タラマというのは、魚卵の塩漬けを加工して作ったソースでございます」
「へぇ。そんな食べ物があるんですね」
運ばれてきたサラダの上には淡いピンク色のペーストが乗っている。どうやらこれがタラマのようだ。
私はそれを口に運んでみた。すると塩味とやや酸味のある不思議な味だ。これは、もしかするとサラダよりもパンに付けて食べたほうが美味しいかもしれない。だがこの辺りではこれがドレッシングとして用いられているのだろう。
うん。これはこれで美味しいね。
「マントゥのノヴァールブール風ハーブヨーグルトソースでございます」
そう言われて出てきたのはどう見ても水餃子だ。お皿に盛り付けられて、そのうえに白いヨーグルトソースがかかっている。
前に露店で食べたときは肉まんだった気がするのだが……。
そう思いつつも水餃子を口に運ぶ。
あ! これは美味しい。水餃子にヨーグルトソースはどうかと思ったが、これはものすごく良く合っている。もちもちの甘い皮に閉じ込められた餡は肉汁たっぷりで、それをヨーグルトソースの酸味が見事に引き立ててくれている。そしてこの餡はどうやら豚肉ではなく羊肉のようだ。だが羊肉独特の臭みが気になるということはない。ハーブが見事に臭みを消してくれているのだ。
個人的には水餃子と言えばお酢と醤油が定番だと思っていたが、ヨーグルトソースもまた素晴らしい。
「トマトソースのキョフテと薄焼きパンでございます」
今度はハンバーグが出てきた。トマトソースのかかったハンバーグが薄焼きパンの上に置かれている。
私はハンバーグをナイフで一口サイズに切ると口に運んだ。
んんっ? なんだか、ものすごくスパイシーだ。お肉も羊肉のようで独特の匂いはあるものの、このスパイシーさのおかげか全く気にならない。じゅわりとあふれる肉汁が酸味のあるトマトソースと相まって絶妙なハーモニーを奏でている。さらにしっとりとした薄焼きパンを口に含めば、その甘みと酸味が絡まり合ってより複雑な味へと変化していく。
うん。これも美味しいね。
「聖女様。いかがでしたかな?」
「はい。どれもとても美味しかったです」
「それは何よりです」
そう言ってメストさんとその奥さんはにこりと笑い、それに私も微笑み返す。
こうして私たちは美味しいノヴァールブール料理を堪能したのだった。
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