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滅びの神託
第十章第24話 トゥカットの噂
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ノヴァールブールでも魔物の浄化に協力した後、私たちはサリメジという町へとやってきた。この町はノヴァールブールから南の海沿いを走る街道の途中にある町で、この町から先はイエロープラネット首長国連邦の領域となる。
そのため、ホワイトムーン王国の先遣隊が戻ってくるまで私たちはここで足止めということになる。
ちなみにここから北に行くとあの吸血鬼フェルヒが町を丸ごと占領していたトゥカットがあり、さらに北に行くとレッドスカイ帝国との国境の町であるユルギュがある。
「ようこそおいでくださいました。私はここサリメジの市長をしておりますケナン・クートと申します」
「フィーネ・アルジェンタータです。わざわざお出迎えいただきありがとうございます」
私たちが馬車から降りると、市長さんが出迎えにやってきてくれていた。どうやらここは市長さんのお屋敷らしい。
「ささ、どうぞこちらへ。先遣隊が戻られるまでサリメジにご滞在いただくと聞いておりましたので、お部屋をご用意いたしました。どうぞおくつろぎください」
「え? あ、はい。ありがとうございます」
こうして私たちはケナンさんのお屋敷でお世話になることとなった。ホテルに泊まろう、とは思っているものの、結局町の偉い人のところに泊まってしまっている気がする。
泊めてくれるというのだからそれでいい気もするけれど、こんなにお世話になってばかりでいいんだろうか?
◆◇◆
「ところで聖女様」
「なんでしょうか?」
私は今、ケナンさんと応接室のような場所でお茶をいただきながら情報交換を兼ねてお話をしている。
「ここサリメジより北に三日ほど行った場所にトゥカットという町があるのですが、ご存じでしょうか?」
「あ、はい。ええと、二年半くらい前でしょうか? 行ったことがあります」
「おお。左様でしたか。ではトゥカットの町の吸血鬼を退治なさったのも聖女様なのでしょうか?」
「そうですね。フェルヒという吸血鬼が町長に成り代わっていて、町の人たちは全員眷属にされていました。それで町の人たちを全員、私が浄化してしまいました」
「やはりそうでしたか……」
「あ、あの、もしかしてご家族が?」
「いえいえ。そうではございません。ただ西方の剣士と東方の侍、そしてエルフの弓使いと治癒師というとても珍しい四人組の女性が吸血鬼からトゥカットを救ったという話だけが伝わっておったのです。あまりに突拍子もない話でしたので訝しんでいたのですが、エルフの治癒師というのが聖女様だったのですね。得心いたしました」
私はエルフじゃなくて吸血鬼だけどね。
「あれからトゥカットはどうなったんですか?」
「はい。しばらくの間は完全に無人となっておりました。ですがサリメジとユルギュ、ノヴァールブールから移民が送られまして、今では小さな村程度の人口になっているはずです。ただ、魔物が暴れ出してからはあまり情報が入ってきておりません。物資も滞っているでしょうから、厳しい生活を送っているかもしれません」
「そうですか。支援物資を送ったりしないんですか?」
「そうしたいのは山々なのですが、我々も自分たちの分で手一杯でして……。商人たちも危険を冒してトゥカットに行くくらいであればノヴァールブールへと荷を運びたいようです」
なるほど。それはそうかもしれない。商人たちだって自分の生活で手一杯なのだろう。
あれ? だったら私たちが運んであげればいいのではないだろうか?
どうせ先遣隊が戻ってくるまでは先に進めないのだから、ちょっとくらい寄り道をしていても問題はないだろう。
それに、私としてはトゥカットの人たち全員を浄化してしまったことについて少し負い目を感じている。
だから、せめて今トゥカットに住んでいる人たちに多少の手助けくらいはしてもあげたいと思うのだ。
「あの、ケナンさん。どうせ私たちはしばらく先へ進めませんから、私たちが荷物を運ぶというのはダメでしょうか?」
「なんと! 聖女様が!? いや、しかし町にそんなお金は……」
ケナンさんが難しそうな表情になったが、すぐにハッとしたような表情に変化する。どうやら何か思いついたようだ。
「かしこまりました。聖女様にはトゥカットへ行っていただくとして、そこに同行する商人たちを募集するというのはいかがでしょう?」
「同行?」
「はい。聖女様と行動を共にできるとなれば儲けを度外視してでも行きたいと考える者もいるはずです。そして実際に商人たちがトゥカットで商売ができると考えたならば、今後とも商人たちはトゥカットにも赴くようになるはずです。もともとトゥカットは鉱山の町ですから、輸出する商品はございます。そうして物と金が回り始めれば、我々が何かせずとも自立できるはずです」
な、なるほど。そういうものなのか。
「わかりました。そうしましょう。では、希望する商人さんたちを集めてもらうことはできますか?」
「もちろんでございます! お任せください!」
こうして私たちは、イエロープラネットへと向かう前にトゥカットの様子を見に行くこととなったのだった。
そのため、ホワイトムーン王国の先遣隊が戻ってくるまで私たちはここで足止めということになる。
ちなみにここから北に行くとあの吸血鬼フェルヒが町を丸ごと占領していたトゥカットがあり、さらに北に行くとレッドスカイ帝国との国境の町であるユルギュがある。
「ようこそおいでくださいました。私はここサリメジの市長をしておりますケナン・クートと申します」
「フィーネ・アルジェンタータです。わざわざお出迎えいただきありがとうございます」
私たちが馬車から降りると、市長さんが出迎えにやってきてくれていた。どうやらここは市長さんのお屋敷らしい。
「ささ、どうぞこちらへ。先遣隊が戻られるまでサリメジにご滞在いただくと聞いておりましたので、お部屋をご用意いたしました。どうぞおくつろぎください」
「え? あ、はい。ありがとうございます」
こうして私たちはケナンさんのお屋敷でお世話になることとなった。ホテルに泊まろう、とは思っているものの、結局町の偉い人のところに泊まってしまっている気がする。
泊めてくれるというのだからそれでいい気もするけれど、こんなにお世話になってばかりでいいんだろうか?
◆◇◆
「ところで聖女様」
「なんでしょうか?」
私は今、ケナンさんと応接室のような場所でお茶をいただきながら情報交換を兼ねてお話をしている。
「ここサリメジより北に三日ほど行った場所にトゥカットという町があるのですが、ご存じでしょうか?」
「あ、はい。ええと、二年半くらい前でしょうか? 行ったことがあります」
「おお。左様でしたか。ではトゥカットの町の吸血鬼を退治なさったのも聖女様なのでしょうか?」
「そうですね。フェルヒという吸血鬼が町長に成り代わっていて、町の人たちは全員眷属にされていました。それで町の人たちを全員、私が浄化してしまいました」
「やはりそうでしたか……」
「あ、あの、もしかしてご家族が?」
「いえいえ。そうではございません。ただ西方の剣士と東方の侍、そしてエルフの弓使いと治癒師というとても珍しい四人組の女性が吸血鬼からトゥカットを救ったという話だけが伝わっておったのです。あまりに突拍子もない話でしたので訝しんでいたのですが、エルフの治癒師というのが聖女様だったのですね。得心いたしました」
私はエルフじゃなくて吸血鬼だけどね。
「あれからトゥカットはどうなったんですか?」
「はい。しばらくの間は完全に無人となっておりました。ですがサリメジとユルギュ、ノヴァールブールから移民が送られまして、今では小さな村程度の人口になっているはずです。ただ、魔物が暴れ出してからはあまり情報が入ってきておりません。物資も滞っているでしょうから、厳しい生活を送っているかもしれません」
「そうですか。支援物資を送ったりしないんですか?」
「そうしたいのは山々なのですが、我々も自分たちの分で手一杯でして……。商人たちも危険を冒してトゥカットに行くくらいであればノヴァールブールへと荷を運びたいようです」
なるほど。それはそうかもしれない。商人たちだって自分の生活で手一杯なのだろう。
あれ? だったら私たちが運んであげればいいのではないだろうか?
どうせ先遣隊が戻ってくるまでは先に進めないのだから、ちょっとくらい寄り道をしていても問題はないだろう。
それに、私としてはトゥカットの人たち全員を浄化してしまったことについて少し負い目を感じている。
だから、せめて今トゥカットに住んでいる人たちに多少の手助けくらいはしてもあげたいと思うのだ。
「あの、ケナンさん。どうせ私たちはしばらく先へ進めませんから、私たちが荷物を運ぶというのはダメでしょうか?」
「なんと! 聖女様が!? いや、しかし町にそんなお金は……」
ケナンさんが難しそうな表情になったが、すぐにハッとしたような表情に変化する。どうやら何か思いついたようだ。
「かしこまりました。聖女様にはトゥカットへ行っていただくとして、そこに同行する商人たちを募集するというのはいかがでしょう?」
「同行?」
「はい。聖女様と行動を共にできるとなれば儲けを度外視してでも行きたいと考える者もいるはずです。そして実際に商人たちがトゥカットで商売ができると考えたならば、今後とも商人たちはトゥカットにも赴くようになるはずです。もともとトゥカットは鉱山の町ですから、輸出する商品はございます。そうして物と金が回り始めれば、我々が何かせずとも自立できるはずです」
な、なるほど。そういうものなのか。
「わかりました。そうしましょう。では、希望する商人さんたちを集めてもらうことはできますか?」
「もちろんでございます! お任せください!」
こうして私たちは、イエロープラネットへと向かう前にトゥカットの様子を見に行くこととなったのだった。
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