勘違いから始まる吸血姫と聖騎士の珍道中

一色孝太郎

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滅びの神託

第十章第28話 炎龍王の神殿

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「あれか」

 飛竜にまたがり、編隊を組んで飛行しているベルードたちは炎龍王が封印されているとされる神殿の上空へとやってきた。彼らの眼下には一対の尖塔がそびえ、真ん中にはドームのある巨大な白と青のコントラストの美しい建物が黄色い砂漠の中にぽつんと建っていている。

「おお! あそこに炎龍王の奴がいるんだな! なぁ、ベルード。早く行こうぜ!」
「ゲンデオルグ! 貴様、ベルード様になんという口の利き方を!」
「なんだと? 炎龍王とやる前にお前からやってやろうか?」
「貴様……」

 ゲンデオルグとノーラの間に一触即発の緊張感が漂う。そしてゲンデオルグがノーラに攻撃を仕掛けようとした次の瞬間、すさまじいスピードの火球がゲンデオルグの頬をかすめた。

「ゲンデオルグよ。我々が何をしにきたか忘れたわけではあるまいな」

 冷たい声でベルードがそういうと、ゲンデオルグは慌てて取り繕う。

「あ、い、いや。まあ、なんだ。今のはちょっとじゃれていただけだよ。な?」
「……」

 そんなゲンデオルグにノーラが冷たい視線を送る。

「ちっ。わかったよ。まずはあの邪魔な結界をなんとかするんだよな。任せろ!」

 そう宣言してゲンデオルグは飛竜から飛び降りた。

「おい! やめろ! 貴様では!」

 しかしベルードの制止は時すでに遅く、ゲンデオルグは神殿に向かって自由落下を始めていた。

 ゲンデオルグの姿はてみるみるうちに小さくなっていき……。

「ぴぎゃっ!?」

 ピシィ、という音がしたかと思うとその大柄な体格には似合わない可愛らしい悲鳴をあげたゲンデオルグは結界に弾かれる。それからきれいな放物線を描いて落下していき、頭から砂漠に突き刺さった。

 それを上空から見ていたベルードたちは一様になんとも言えない微妙な表情を浮かべている。

「ベルード様。あの馬鹿を回収しましょう」
「……仕方ないな。ヘルマン。治してやれ」

 ノーラからの提案をベルードは面倒くさそうにヘルマンへと振った。

「私がですか?」

 突如降られたヘルマンは露骨に嫌そうな表情を浮かべる。

「仕方ありませんな」

 ヘルマンは飛竜に命令を出して砂漠に突き刺さっているゲンデオルグのもとへと向かった。

「ベルード様。我々も参りましょう」
「ああ」

 ベルードとノーラもその後に続き、神殿の前に降り立ったのだった。

◆◇◆

 神殿の前に立ったベルードたちは、扉のない門らしき場所にやってきた。

「深淵の話ではこのあたりに結界の綻びがあるはずだが……ん? これか?」

 ベルードは一対の門柱らしきものの間をじっと見つめる。

「なんだこれは? なぜ人が手を突っ込んだような形で結界が薄くなっているのだ? 見たところかなり小柄な人物のようだが……」

 その言葉にヘルマンたちも結界を覗き込み、一様に首をかしげる。

「……不思議ですな。ですがこの状態ならば、ベルード様のお力で破れるかと」
「そうだな。下がっていろ」

 ベルードは剣を抜くと、そこに黒いオーラのようなものをまとわせる。そしてそれをすさまじい速さで結界の薄い部分に突き立てた。

 ピシィィィィィィィ!

 甲高い音と共に結界が剣を受け止めた。

「そんな! ベルード様の一撃で破れないとは!」
「いや、成功だ。崩れるぞ」

 ベルードがそう言った次の瞬間、結界に小さな亀裂が生じた。そしてその亀裂はみるみるうちに結界全体へと広がっていく。

 やがて結界はパリン、という音とともに崩れ去ったのだった。

「ああ! さすがはベルード様です。素晴らしいです!」
「……先を急ぐぞ」
「ははっ!」

 ノーラの称賛には目もくれずにベルードはすたすたと歩きだし、ノーラたちはその後を追うのだった。

◆◇◆

 ベルードたちは神殿の最奥部にあるホールへと到達した。そこは地下に広がる巨大なドーム状の空間で、その中心には祭壇のようなものが設えられている。

「おいおい。炎龍王はどこだ? 何もいねぇじゃねぇか」
「封印されているのだろう。そんなこともわからないのか?」

 悪態をつくゲンデオルグに対し、ノーラは小馬鹿にしたような口調でそう言った。

「なんだと? やるか? このクソ女が!」
「いい加減にしろ! 炎龍王はあの祭壇に封じられているのだろう」

 再び喧嘩を始めそうになったゲンデオルグとノーラをベルードが一喝する。

「も、申し訳ございません」
「ちっ。で、どうやって封印を解くんだ?」
「簡単だ。あの祭壇を破壊すればいい」
「おお! そうか! なら俺に任せろ!」

 ゲンデオルグはそう言って嬉しそうに祭壇へと走っていくと、思い切り拳を叩き込んだ。

 ドンというすさまじい衝撃音とともに、地下空間全体が揺れる。

「……かってぇな、コレ」

 しかし祭壇は全くの無傷であった。

「やはりか」
「あん? ベルード。やはりってどういうことだ?」
「おそらくだがこの祭壇は、普通の方法では破壊することはできないのだろう」
「どういうことだ?」
「ここには炎龍王が封印されている。ということは、その時代の技術で作られたものだということだ」
「ああ? だからどういうことだよ? わかりやすく説明しろよ」
「ゲンデオルグ! 今ベルード様が説明してくださる! 黙って聞け!」
「あんだと? だったらお前は分かるっていうのかよ!」
「分からないからベルード様のご説明を待っているのだ!」
「はっ! なら偉そうにしているお前も大したことねぇな」
「何っ!? 言うに事欠いて馬鹿が私を馬鹿と言ったか!?」
「なんだと!? 俺が馬鹿だと!?」
「馬鹿だろうが! 先ほども一人で結界に突っ込んでベルード様とヘルマン殿の手を煩わせたではないか!」
「このクソ女が! てめぇ!」
「いい加減にしろ! 二人とも!」

 本来の目的を忘れて喧嘩を始めた二人をベルードが再び一喝したのだった。
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