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滅びの神託
第十章第29話 解き放たれた炎龍王
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「二人とも、喧嘩をするなら帰ってもらうぞ」
「申し訳ございません」
「ちっ。悪かったよ」
「まったく。お前らはいつも――」
「ベルード様。そんなことよりも封印を」
「ああ、そうだったな」
ベルードが説教を始めそうになったところをすかさずヘルマンが止め、本来の目的を思い出したベルードは祭壇の前へと歩いていった。
「いいか。こいつは進化の秘術と同じ大魔王がいた時代の産物だ。そして魔術に関してはあの時代は今よりもはるかに進んでいた。ならば、その時代の魔術を使って破壊すればいい」
そう言ってベルードは祭壇に手をかざして何かの魔法を発動した。するとベルードの手元に黒い靄のようなものが集り、やがてその靄は拳大の漆黒の球へと姿を変える。
ベルードがその球を押すように手を動かすと祭壇の上数十センチの場所に移動し、ゆっくりと着地した。
次の瞬間、祭壇は音もなく崩れ落ちる。
「おおお、すげぇ」
「さすがベルード様です」
「二人とも、感心している場合ではないぞ。すぐに古の炎龍王とご対面だ」
ベルードのその言葉に呼応するかのように祭壇の向こうの側の空間が歪む。その歪みは徐々に大きなり、やがて一対の翼を持つ巨大な竜が姿を現した。その竜はまるで燃えているかのように赤い鱗をその身にまとっている。
「これが、炎龍王か……。どうやら眠っているようだな」
「そのようですな。早速起こしてみましょう」
「おう! 任せろ!」
「あっ!」
「おい! 待て!」
ベルードは慌てて制止したが、そのときにはすでにゲンデオルグが炎龍王の顔面に思い切り拳をめり込ませていた。
ドンというすさまじい衝撃音とともに、地下空間全体が揺れる。
「うおぉ、マジかよ。かってぇ……」
ゲンデオルグは痛そうに手のひらを振りながら飛び退った。炎龍王は何事もなかったかのように眠り続けている。
「ゲンデオルグ。下がれ」
「あ、ああ。くっそう」
ベルードの命令に素直に従ったものの、ゲンデオルグはいかにももう一度試したそうな様子だ。
「ヘルマン。これは進化の秘術を使っているのか?」
「……私にはそのように見えますな」
「これは、どう起こす?」
「やはり進化の秘術を使っていじってやるのが良いでしょうな」
「それもそうか。よし」
ベルードはつかつかと炎龍王に近づいてその鼻先に手をかざし、また何かの呪文を唱えて魔法を発動させた。すると黒い靄が炎龍王の体に吸い込まれていく。
「なっ!?」
次の瞬間、ベルードの体からも黒い靄が噴き出して炎龍王に吸い込まれていく。
「ぐっ! こいつは私のものだ!」
そう叫んだベルードは何かの魔法を発動し、黒い靄の噴出を止めた。だが次の瞬間、眠っていたはずの炎龍王が唸り声を上げる。
「グルルルルル」
「ぐ……起きたか。私はベルード。今代の魔王となるものだ。炎龍王よ! 話を聞かせてほしい」
「GRYUAAAAAA!!!」
ベルードの呼び掛けに炎龍王は雄たけびを上げて返事をし、すぐさま炎のブレスを吐き出した。
「くそっ! 炎龍王よ! 話を聞け!」
しかし炎龍王は尻尾を振り回してベルードを攻撃することで返事をした。炎龍王の瞳は真っ赤に染まっており、そこからは理性など全く感じられない。
「く、無理か。あの瞳には狂気しかなさそうだ。どうやら理性は残っていないようだな」
ベルードはそう呟いた。
「ならば、貴様にはもう一度ここで眠ってもらおう!」
ベルードが剣を抜いたその瞬間だった。
「GRWReeeeeeeee!!!」
炎龍王が真っ黒なブレスを吐き出した。ベルードはすんでのところでそれを躱したが、炎龍王に殴りかかろうとしていたゲンデオルグがその直撃を喰らってしまう。
「ゲンデオルグ!」
「がっ!?」
ゲンデオルグはその場に膝を突き、そしてぶるぶると震えだす。
「な、こ、これは!? ゲンデオルグの瘴気が!? し、沈まれ! ゲンデオルグ!」
「グガァァァァァァァァァァ」
ゲンデオルグは雄たけびを上げるとベルードに向き直る。
「グルルルル」
ゲンデオルグの瞳からも理性の光が失われており、まるで魔物のような狂気が宿っている。
「おい。ヘルマン。これは一体?」
「炎龍王は瘴気そのものをブレスとして吐き出した様に見えますな」
「そうか……。あんなものを喰らえばひとたまりもないな」
「はい」
冷静に分析しているベルードとヘルマンをよそに炎龍王は再び行動を起こした。
炎龍王はその全身から黒い波動を迸らせ、その波動の通過した場所には次々と魔物が生まれていく。
「なんだ? これは? まさか、魔物を生み出しているのか?」
「私にはそのように見えますな」
「グガァァァァァァァァァァ!」
ベルードとヘルマンの観察はゲンデオルグの咆哮によって中断される。
「おい! ゲンデオルグ! 落ち着け! 衝動に呑まれるな!」
「グ? グガァァァァ!」
だがゲンデオルグは声を掛けたベルードに向かって突っ込んできた。その突進をノーラがいなして横へと逸らす。
「何をしている! この馬鹿者が! 主君を忘れるなど!」
「グルルルル」
するとゲンデオルグは攻撃の対象をノーラへと変更した。
「ええい! 落ち着け! この馬鹿者!」
「ノーラ。無駄だ。ゲンデオルグは炎龍王の瘴気を浴びてしまった。今やこいつはかつての暴れていただけの魔物に戻ってしまったのだ。こいつとの主従は継続しているが、瘴気が多すぎて引き受けるのが追いつかん」
「ではどうすれば!」
「私が炎龍王を黙らせる。それまでの間、ゲンデオルグの衝動を発散させてやれ」
「この馬鹿の衝動を……かしこまりました!」
ノーラは一瞬心底嫌そうな声でぼそりと呟いたが、すぐに了承の旨を伝える。
「任せたぞ。ヘルマン。貴様は生み出された魔物を頼んだぞ」
「ははっ」
「申し訳ございません」
「ちっ。悪かったよ」
「まったく。お前らはいつも――」
「ベルード様。そんなことよりも封印を」
「ああ、そうだったな」
ベルードが説教を始めそうになったところをすかさずヘルマンが止め、本来の目的を思い出したベルードは祭壇の前へと歩いていった。
「いいか。こいつは進化の秘術と同じ大魔王がいた時代の産物だ。そして魔術に関してはあの時代は今よりもはるかに進んでいた。ならば、その時代の魔術を使って破壊すればいい」
そう言ってベルードは祭壇に手をかざして何かの魔法を発動した。するとベルードの手元に黒い靄のようなものが集り、やがてその靄は拳大の漆黒の球へと姿を変える。
ベルードがその球を押すように手を動かすと祭壇の上数十センチの場所に移動し、ゆっくりと着地した。
次の瞬間、祭壇は音もなく崩れ落ちる。
「おおお、すげぇ」
「さすがベルード様です」
「二人とも、感心している場合ではないぞ。すぐに古の炎龍王とご対面だ」
ベルードのその言葉に呼応するかのように祭壇の向こうの側の空間が歪む。その歪みは徐々に大きなり、やがて一対の翼を持つ巨大な竜が姿を現した。その竜はまるで燃えているかのように赤い鱗をその身にまとっている。
「これが、炎龍王か……。どうやら眠っているようだな」
「そのようですな。早速起こしてみましょう」
「おう! 任せろ!」
「あっ!」
「おい! 待て!」
ベルードは慌てて制止したが、そのときにはすでにゲンデオルグが炎龍王の顔面に思い切り拳をめり込ませていた。
ドンというすさまじい衝撃音とともに、地下空間全体が揺れる。
「うおぉ、マジかよ。かってぇ……」
ゲンデオルグは痛そうに手のひらを振りながら飛び退った。炎龍王は何事もなかったかのように眠り続けている。
「ゲンデオルグ。下がれ」
「あ、ああ。くっそう」
ベルードの命令に素直に従ったものの、ゲンデオルグはいかにももう一度試したそうな様子だ。
「ヘルマン。これは進化の秘術を使っているのか?」
「……私にはそのように見えますな」
「これは、どう起こす?」
「やはり進化の秘術を使っていじってやるのが良いでしょうな」
「それもそうか。よし」
ベルードはつかつかと炎龍王に近づいてその鼻先に手をかざし、また何かの呪文を唱えて魔法を発動させた。すると黒い靄が炎龍王の体に吸い込まれていく。
「なっ!?」
次の瞬間、ベルードの体からも黒い靄が噴き出して炎龍王に吸い込まれていく。
「ぐっ! こいつは私のものだ!」
そう叫んだベルードは何かの魔法を発動し、黒い靄の噴出を止めた。だが次の瞬間、眠っていたはずの炎龍王が唸り声を上げる。
「グルルルルル」
「ぐ……起きたか。私はベルード。今代の魔王となるものだ。炎龍王よ! 話を聞かせてほしい」
「GRYUAAAAAA!!!」
ベルードの呼び掛けに炎龍王は雄たけびを上げて返事をし、すぐさま炎のブレスを吐き出した。
「くそっ! 炎龍王よ! 話を聞け!」
しかし炎龍王は尻尾を振り回してベルードを攻撃することで返事をした。炎龍王の瞳は真っ赤に染まっており、そこからは理性など全く感じられない。
「く、無理か。あの瞳には狂気しかなさそうだ。どうやら理性は残っていないようだな」
ベルードはそう呟いた。
「ならば、貴様にはもう一度ここで眠ってもらおう!」
ベルードが剣を抜いたその瞬間だった。
「GRWReeeeeeeee!!!」
炎龍王が真っ黒なブレスを吐き出した。ベルードはすんでのところでそれを躱したが、炎龍王に殴りかかろうとしていたゲンデオルグがその直撃を喰らってしまう。
「ゲンデオルグ!」
「がっ!?」
ゲンデオルグはその場に膝を突き、そしてぶるぶると震えだす。
「な、こ、これは!? ゲンデオルグの瘴気が!? し、沈まれ! ゲンデオルグ!」
「グガァァァァァァァァァァ」
ゲンデオルグは雄たけびを上げるとベルードに向き直る。
「グルルルル」
ゲンデオルグの瞳からも理性の光が失われており、まるで魔物のような狂気が宿っている。
「おい。ヘルマン。これは一体?」
「炎龍王は瘴気そのものをブレスとして吐き出した様に見えますな」
「そうか……。あんなものを喰らえばひとたまりもないな」
「はい」
冷静に分析しているベルードとヘルマンをよそに炎龍王は再び行動を起こした。
炎龍王はその全身から黒い波動を迸らせ、その波動の通過した場所には次々と魔物が生まれていく。
「なんだ? これは? まさか、魔物を生み出しているのか?」
「私にはそのように見えますな」
「グガァァァァァァァァァァ!」
ベルードとヘルマンの観察はゲンデオルグの咆哮によって中断される。
「おい! ゲンデオルグ! 落ち着け! 衝動に呑まれるな!」
「グ? グガァァァァ!」
だがゲンデオルグは声を掛けたベルードに向かって突っ込んできた。その突進をノーラがいなして横へと逸らす。
「何をしている! この馬鹿者が! 主君を忘れるなど!」
「グルルルル」
するとゲンデオルグは攻撃の対象をノーラへと変更した。
「ええい! 落ち着け! この馬鹿者!」
「ノーラ。無駄だ。ゲンデオルグは炎龍王の瘴気を浴びてしまった。今やこいつはかつての暴れていただけの魔物に戻ってしまったのだ。こいつとの主従は継続しているが、瘴気が多すぎて引き受けるのが追いつかん」
「ではどうすれば!」
「私が炎龍王を黙らせる。それまでの間、ゲンデオルグの衝動を発散させてやれ」
「この馬鹿の衝動を……かしこまりました!」
ノーラは一瞬心底嫌そうな声でぼそりと呟いたが、すぐに了承の旨を伝える。
「任せたぞ。ヘルマン。貴様は生み出された魔物を頼んだぞ」
「ははっ」
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