452 / 625
滅びの神託
第十章第33話 ゲルゼク首長国
しおりを挟む
先遣隊の人が目を覚ましたとの報告を受けた私たちは、再び彼の病室を訪れた。
「せ、聖女様! この度は――」
「そのままベッドに寝ていてください。怪我は治りましたが体力は戻っていないはずですから」
「っ! はは。ありがとうございます」
この状況でブーンからのジャンピング土下座を決められても困るだけだからね。
「カルロ。エイブラが壊滅したとのことだが、詳しい状況を教えてくれるか?」
ランベルトさんが先遣隊の人に尋ねた。どうやらこの人はカルロさんという名前のようだ。
「ははっ! 我々が特使としてエイブラに到着し、大統領との面会を待っていたときのことでした。南の空より山のように巨大な赤い竜が飛んできたのです。それと共に大量の魔物どもが押し寄せ、エイブラを攻撃し始めたのです」
「竜、だと?」
「はい。竜は巨大な火の玉を吐き、一撃でエイブラの城壁は破壊されました。破壊された城壁では魔物どもが侵入は防げず、また竜の炎によって家々は焼かれました。我々は急ぎ脱出をしましたのでその後どうなったのかまではわかりません。ですがあの状況では間違いなく……」
「……よくぞ、生きて戻ってくれた。それがおそらく神託にあった『滅びをもたらす災厄』なのだろう」
なるほど? 神託にあった古の炎っていうのは、竜が火を吹く的な話なのかな?
あれ? うーん? 何か忘れているような?
「……その竜は南から来たと言ったでござるな?」
「え? は、はい」
「では、南にあるはずの町はどうなっているでござるか?」
「……そこまでは」
あ! そうか! エイブラの南にはシャリクラとダルハという二つの町がある。
「とりあえず、行ってみるべきではござらんか? その竜が南からやってきたというのであれば、南に何か手掛かりが残っているかもしれないでござる」
「なっ! 聖女様をそのような危険な場所へは!」
「ならば拙者たちだけで行くでござるよ」
「そうですね」
「聖女様まで!? どうかお考え直しを! クリスティーナ殿!」
「すまない。私もフィーネ様やシズク殿と同じ考えだ。それにもしその竜が『滅びをもたらす災厄』なのであれば、我々をおいて他に止められる者はいないだろう。何しろ、勇者がまだ誕生していないのだからな」
「そんな! クリスティーナ殿まで……」
ランベルトさんががっくりとうなだれる。
「じゃあ、決まりですね。食堂にいるルーちゃんにも知らせに行きましょう」
「はい!」
こうして私たちはエイブラへと向かうことを決めたのだった。
◆◇◆
ランベルトさんには散々反対されたものの、私たちが徒歩でも向かうと主張すると最終的には折れてくれた。そうしてこれまでどおりの体制でイエロープラネットの玄関口であるゲルゼクへと向けて出発した。
国境線でサリメジとノヴァールブールからの護衛の兵士たちは撤退し、そこからは私たちとホワイトムーン王国の騎士たちのみでの旅路となった。
そうしてそのまま三日ほどかけ、私たちはゲルゼクへと到着した。
門で私が顔を出して名乗ると、久しぶりにあの地面にビタンのお祈りをされた。ホワイトムーン王国とイエロープラネット首長国連邦は私のせいで関係がぎくしゃくしているのでもう少しトラブルになるかと覚悟していたが、想像以上にあっさりと入国できてしまった。
町の中はというと、特段変わった様子はない。以前訪れたイザールと同じような町並みが続いている。
そうして私たちはなんの問題もなく、そのまま町の中心にある豪華なホテルへチェックインしたのだった。
◆◇◆
私たちが部屋でくつろいでいると、このゲルゼクの首長さんなる人物が訪ねてきた。一連のビタンからの流れをやった後、私は彼との会談に臨む。
「聖女フィーネ・アルジェンタータ様。ようこそ我がゲルゼク首長国へとお越し下さいました。私は首長のガラムと申します」
「フィーネ・アルジェンタータです。こちらから順にクリスティーナ、シズク・ミエシロ、ルミアです」
「これはご丁寧にありがとうございます。神に感謝いたします」
自己紹介をしたところで疑問に思ったことを率直に尋ねてみる。
「あの」
「なんでしょうか? 聖女様」
「ゲルゼク首長国、というのはなんでしょうか? イエロープラネット首長国連邦ではないのですか?」
するとガラムさんはよくぞ聞いてくれたと言わんばかりの表情を浮かべる。
「はい。仰るとおりでございます。つい先日までここゲルゼクはイエロープラネット首長国連邦の一部でした。ですが、我々もエイブラの馬鹿者どもが聖女様に対して行った蛮行を許せないと感じておりました。そこで我々はエイブラに謝罪と賠償を求めたものの交渉がまとまらず、我々はゲルゼク首長国として独立する運びとなりました」
「はぁ」
「まだ承認されてはおりませんが、我々は世界聖女保護協定にも加盟するつもりでおります。エイブラの馬鹿者どものようなことはいたしませんので、どうかご安心ください」
「そうですか」
そういえば王都を出発するときにそんなような計画があるという話は聞いていたが、まさか本当に独立してしまうとは。
まあ、経済制裁されていたって聞いていたしね。住民の暮らしを守るには仕方のないことだったのかもしれない。
「ところでそのエイブラなのですが」
「はい」
「竜と魔物の大群に襲われて壊滅したという話を聞いたのですが……」
「壊滅、ですか? いえ、我々のところにはそのような情報は届いておりませんな。一体どこからそのような情報を?」
「ホワイトムーン王国の先遣隊の人からです」
「ああ、少し前にここを通った方々ですな。我々も彼らから聖女様がいらっしゃると聞けたおかげでこうしてスムーズにお迎えすることができました。はて? そういえば彼らはこのゲルゼクを通過していないはずですが……」
「エイブラが魔物たちによって襲われた日に、そのエイブラにいたそうです。そして命からがら、一人だけサリメジまで情報を伝えてくれました」
「なんと! ということはあの険しい道を踏破していったのですか。それはまた……」
なるほど。どうやらここを通らずにエイブラへと通じる道があるらしい。
「ですが、そういうことでしたら事実なのかもしれませんな。ただ、我々としてはその話は初耳です。それに、仰るようなレベルで魔物の数が増えたというようなこともございません。エイブラが滅ぶほどのスタンピードであれば、こちらにその余波が来てもおかしくはなさそうですが……」
なるほど。それはそうかもしれない。だが、カルロさんが命がけで運んでくれた情報が間違っているということも考えにくい。
「もしかすると、イザールに行けば何かわかるかもしれません。イザールも我々と同時にイエロープラネット首長国連邦からの独立を宣言しました。今はイザール首長国を名乗っております」
「わかりました。ありがとうございます」
こうして私たちはイザールを目指すこととなったのだった。
================
次回更新は通常どおり、2021/12/09 19:00 を予定しております。
「せ、聖女様! この度は――」
「そのままベッドに寝ていてください。怪我は治りましたが体力は戻っていないはずですから」
「っ! はは。ありがとうございます」
この状況でブーンからのジャンピング土下座を決められても困るだけだからね。
「カルロ。エイブラが壊滅したとのことだが、詳しい状況を教えてくれるか?」
ランベルトさんが先遣隊の人に尋ねた。どうやらこの人はカルロさんという名前のようだ。
「ははっ! 我々が特使としてエイブラに到着し、大統領との面会を待っていたときのことでした。南の空より山のように巨大な赤い竜が飛んできたのです。それと共に大量の魔物どもが押し寄せ、エイブラを攻撃し始めたのです」
「竜、だと?」
「はい。竜は巨大な火の玉を吐き、一撃でエイブラの城壁は破壊されました。破壊された城壁では魔物どもが侵入は防げず、また竜の炎によって家々は焼かれました。我々は急ぎ脱出をしましたのでその後どうなったのかまではわかりません。ですがあの状況では間違いなく……」
「……よくぞ、生きて戻ってくれた。それがおそらく神託にあった『滅びをもたらす災厄』なのだろう」
なるほど? 神託にあった古の炎っていうのは、竜が火を吹く的な話なのかな?
あれ? うーん? 何か忘れているような?
「……その竜は南から来たと言ったでござるな?」
「え? は、はい」
「では、南にあるはずの町はどうなっているでござるか?」
「……そこまでは」
あ! そうか! エイブラの南にはシャリクラとダルハという二つの町がある。
「とりあえず、行ってみるべきではござらんか? その竜が南からやってきたというのであれば、南に何か手掛かりが残っているかもしれないでござる」
「なっ! 聖女様をそのような危険な場所へは!」
「ならば拙者たちだけで行くでござるよ」
「そうですね」
「聖女様まで!? どうかお考え直しを! クリスティーナ殿!」
「すまない。私もフィーネ様やシズク殿と同じ考えだ。それにもしその竜が『滅びをもたらす災厄』なのであれば、我々をおいて他に止められる者はいないだろう。何しろ、勇者がまだ誕生していないのだからな」
「そんな! クリスティーナ殿まで……」
ランベルトさんががっくりとうなだれる。
「じゃあ、決まりですね。食堂にいるルーちゃんにも知らせに行きましょう」
「はい!」
こうして私たちはエイブラへと向かうことを決めたのだった。
◆◇◆
ランベルトさんには散々反対されたものの、私たちが徒歩でも向かうと主張すると最終的には折れてくれた。そうしてこれまでどおりの体制でイエロープラネットの玄関口であるゲルゼクへと向けて出発した。
国境線でサリメジとノヴァールブールからの護衛の兵士たちは撤退し、そこからは私たちとホワイトムーン王国の騎士たちのみでの旅路となった。
そうしてそのまま三日ほどかけ、私たちはゲルゼクへと到着した。
門で私が顔を出して名乗ると、久しぶりにあの地面にビタンのお祈りをされた。ホワイトムーン王国とイエロープラネット首長国連邦は私のせいで関係がぎくしゃくしているのでもう少しトラブルになるかと覚悟していたが、想像以上にあっさりと入国できてしまった。
町の中はというと、特段変わった様子はない。以前訪れたイザールと同じような町並みが続いている。
そうして私たちはなんの問題もなく、そのまま町の中心にある豪華なホテルへチェックインしたのだった。
◆◇◆
私たちが部屋でくつろいでいると、このゲルゼクの首長さんなる人物が訪ねてきた。一連のビタンからの流れをやった後、私は彼との会談に臨む。
「聖女フィーネ・アルジェンタータ様。ようこそ我がゲルゼク首長国へとお越し下さいました。私は首長のガラムと申します」
「フィーネ・アルジェンタータです。こちらから順にクリスティーナ、シズク・ミエシロ、ルミアです」
「これはご丁寧にありがとうございます。神に感謝いたします」
自己紹介をしたところで疑問に思ったことを率直に尋ねてみる。
「あの」
「なんでしょうか? 聖女様」
「ゲルゼク首長国、というのはなんでしょうか? イエロープラネット首長国連邦ではないのですか?」
するとガラムさんはよくぞ聞いてくれたと言わんばかりの表情を浮かべる。
「はい。仰るとおりでございます。つい先日までここゲルゼクはイエロープラネット首長国連邦の一部でした。ですが、我々もエイブラの馬鹿者どもが聖女様に対して行った蛮行を許せないと感じておりました。そこで我々はエイブラに謝罪と賠償を求めたものの交渉がまとまらず、我々はゲルゼク首長国として独立する運びとなりました」
「はぁ」
「まだ承認されてはおりませんが、我々は世界聖女保護協定にも加盟するつもりでおります。エイブラの馬鹿者どものようなことはいたしませんので、どうかご安心ください」
「そうですか」
そういえば王都を出発するときにそんなような計画があるという話は聞いていたが、まさか本当に独立してしまうとは。
まあ、経済制裁されていたって聞いていたしね。住民の暮らしを守るには仕方のないことだったのかもしれない。
「ところでそのエイブラなのですが」
「はい」
「竜と魔物の大群に襲われて壊滅したという話を聞いたのですが……」
「壊滅、ですか? いえ、我々のところにはそのような情報は届いておりませんな。一体どこからそのような情報を?」
「ホワイトムーン王国の先遣隊の人からです」
「ああ、少し前にここを通った方々ですな。我々も彼らから聖女様がいらっしゃると聞けたおかげでこうしてスムーズにお迎えすることができました。はて? そういえば彼らはこのゲルゼクを通過していないはずですが……」
「エイブラが魔物たちによって襲われた日に、そのエイブラにいたそうです。そして命からがら、一人だけサリメジまで情報を伝えてくれました」
「なんと! ということはあの険しい道を踏破していったのですか。それはまた……」
なるほど。どうやらここを通らずにエイブラへと通じる道があるらしい。
「ですが、そういうことでしたら事実なのかもしれませんな。ただ、我々としてはその話は初耳です。それに、仰るようなレベルで魔物の数が増えたというようなこともございません。エイブラが滅ぶほどのスタンピードであれば、こちらにその余波が来てもおかしくはなさそうですが……」
なるほど。それはそうかもしれない。だが、カルロさんが命がけで運んでくれた情報が間違っているということも考えにくい。
「もしかすると、イザールに行けば何かわかるかもしれません。イザールも我々と同時にイエロープラネット首長国連邦からの独立を宣言しました。今はイザール首長国を名乗っております」
「わかりました。ありがとうございます」
こうして私たちはイザールを目指すこととなったのだった。
================
次回更新は通常どおり、2021/12/09 19:00 を予定しております。
0
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
冤罪で殺された聖女、生まれ変わって自由に生きる
みおな
恋愛
聖女。
女神から選ばれし、世界にたった一人の存在。
本来なら、誰からも尊ばれ大切に扱われる存在である聖女ルディアは、婚約者である王太子から冤罪をかけられ処刑されてしまう。
愛し子の死に、女神はルディアの時間を巻き戻す。
記憶を持ったまま聖女認定の前に戻ったルディアは、聖女にならず自由に生きる道を選択する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる