勘違いから始まる吸血姫と聖騎士の珍道中

一色孝太郎

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滅びの神託

第十章第32話 急報

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2021/12/09 10:37 公開設定をミスしており、予定した日時に更新されておりませんでした。申し訳ございません。
2021/12/14 誤字を修正しました
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 何日かかけて種を配り終え、サリメジへと戻ってきた私たちはそのまま市長のケナンさんのところへと向かった。

「よくぞ戻られました。トゥカットのことについてはお伺いしております。まさかそれほど発展しているとは思いもよりませんでした」
「はい。どうやら私の契約精霊が生み出した種のおかげのようなんです」

 私は瘴気と種のことについて説明をした。

「なんと。そのようなことが……」
「ですから、ここサリメジの町のどこかにも植えさせて貰えないでしょうか?」
「もちろんです。聖女様に手ずから植えていただけるなど、サリメジ市民の誉れにございます」
「では、どこに植えたら良いでしょうか?」
「そうですね。知らずに悪戯する者もいるでしょうから、この屋敷の中庭などはいかがでしょう?」
「わかりました。そうしましょう」
「ありがとうございます。それではどうぞこちらへ」

 そうして案内された中庭は日当たりも良く、池まで備えた立派な中庭だった。乾燥地帯であるこの町でこれほどの中庭を整備するのはきっとすごいと思うし、植物を育てるには良い環境なのだろう。

 とはいえ誰もいなかったトゥカットの広場でも立派に成長していたので、リーチェの種が育つのにこういった環境が必要なのかは不明ではあるのだが……。

 ともあれ種はちゃんと植えたことだし、これでこのあたりの瘴気も少し落ち着くのではないだろうか。ただ、セムノスでの例を見るに芽が出るだけでもかなりの時間がかかるようだ。だから何年後になるかは分からないけれど、立派な花を咲かせてくれることを願うばかりだ。

 こうして一仕事を終えた私たちは用意された部屋へと向かうのだった。

◆◇◆

 陽だまりに設置されたソファーでうとうとしていると、突然扉が叩かれた。

「聖女様! お休みのところ失礼いたします。先遣隊が戻って参りましたが、緊急事態でございます」

 何やら切羽詰まった様子だ。何かあったのだろうか?

「はい。どうぞ開けて入ってきてください」
「失礼いたします!」

 そう言って勢いよく入ってきたのは、ここまで私たちと一緒にきてくれているホワイトムーン王国のランベルトさんという名前の騎士さんだ。思い思いに休んでいたクリスさんたちも何事かと私の周りに集まってくる。

 ランベルトさんは私の前に跪く。

「聖女様。緊急事態です。エイブラが壊滅しました」
「え?」

 ええと? エイブラって、イエロープラネット首長国連邦の首都だよね?

「エイブラが壊滅した、というのはどういうことですか?」
「文字通りの意味でございます。エイブラは壊滅したのです」
「ええと?」
「理由につきましては、先遣隊の者は大怪我していることもあり満足に話は聞けておりません。ですが、取り急ぎご報告に参りました」
「……怪我をしているなら治療が先じゃないですか。早く案内してください!」
「で、ですが……」
「いいから早く。私なら大抵の傷は治せますから!」
「かしこまりました! ではご案内いたします!」

 そう言って歩きだしたランベルトさんの後ろについて私は大怪我をしているという先遣隊の人のところへと向かったのだった。

◆◇◆

 案内された先の部屋では一人の男性がベッドに横たわっていた。彼がどうやらその先遣隊の人のようだ。しかしその全身には火傷があり、無数に傷もある。これは生きているのが不思議なくらいの大怪我だ。

「この者はこれほどの大怪我をしている中でも、エイブラからここまで戻ってきてこの情報を伝えてくれました」

 これだけの大怪我だったら歩くだけでも辛かっただろう。それなのにここまでやってきてくれたのは、きっと使命を果たそうという強い意志があったからに違いない。

「どのような治療をしたとしてももはや助からないとは理解しておりますが、せめてねぎらいの言葉をかけてはくださらないでしょうか」

 ランベルトさんは辛そうにそう言った。

「わかりました。じゃあ、治療しますね。解毒! 浄化! 治癒!」

 私はサクッといつもの魔法を発動した。すると瞬く間に大怪我をしている彼の傷がきれいになった。

 うん。【魔力操作】もカンストしたおかげで【回復魔法】も以前より大幅にパワーアップしている。

「はい。治りました。もう大丈夫です。それから、大変な思いをしてまで情報を持ち帰ってくれてありがとうございます」

 私は言われたとおりに労いの言葉をかける。といってもこの人は意識を失っているので聞こえてはいないと思うけれど。

「あ、な、な、な」

 後ろを振り返ると、ランベルトさんが腰を抜かしていた。

「あの? 治しましたよ? あとはきちんと食事を食べさせてあげてください」

 私は営業スマイルでそう伝えた。

「か、神に感謝を」

 ランベルトさんは慌てて立ち上がるとなんとも不格好なブーンからのジャンピング土下座を決めた。土下座の着地の際におでこをゴチンと地面に打ちつけていたようだが大丈夫だろうか?

 ええと、この失敗はきっと気が動転していたせいだよね?

 うん。可哀想だから今回は採点しないでおいてあげよう。

 ああ、それにしても痛そうだ。こっそり治癒魔法をかけておいてあげよう。

「神の御心のままに」

 私は魔法の言葉をランベルトさんに掛けながら、そっと治癒魔法をかけたのだった。
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